修学旅行編、いよいよスタートです。
今回はタイトルの通り──「満たされる朝」と「揺れ始める想い」、その対比を意識して描いています。
穏やかな時間の中で、少しずつ動き出す感情。
特に四葉にとっては、ここから先に繋がる大事な“始まり”の回になっています。
日常の空気感も大切にしつつ、次に繋がる変化を感じてもらえたら嬉しいです。
また、(裏)を本編まで追いつかせようと思っておりましたが、少々体調とコンディションが優れないため、本編の更新を再開することにいたしました。
(裏)の更新をお待ちいただいていた皆様には申し訳ありませんが、しばらくは本編を優先して進めていきたいと思います。
本編をお待ちいただいていた皆様には、お待たせいたしました。 今後とも『少女と花嫁』をよろしくお願いいたします。
それでは、本編をどうぞ。
173.満たされる朝、揺れる想い
「はむっ…う~ん、和彦さんのご飯はやっぱり美味しいね♪」
「ただのトーストに大袈裟な…ほら、口元にパンくずついてるよ、ちゅっ…」
修学旅行当日の朝。
僕と五月はいつも通り二人テーブル前に並んで座って朝食を取っていた。
昨日の夜もあれだけ愛し合ったというのに、隣で朝食を食べてる五月は朝から元気いっぱいである。
そんな五月がたまらなく愛しくて──
僕はそっと五月の口元のパンくずをキスするように口で取った。
「んッ…♡ねえ~…和彦さん♡こっちは…?」
右人差し指で、自分の唇を軽く叩く五月。
拒否する理由なんてない。僕はそのまま頬に手を添え、唇を重ねた。
「んッ…♪ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…♡ちゅるッ…ちゅぱッ…♡ちゅるッ…♡れろれろッ…♡かずひこさあぁぁんッ…♡ちゅるちゅるッ…♡」
最初は軽く触れるだけのキス。
けれど──
すぐに五月の手が僕の後頭部に回る。
そしてキスが情熱的になってきた。
「ちゅるッ…♡ちゅっ…すきッ…♡かずひこさんッ…すきッ…すきすきッ…♡れろれろッ…れろッ…れろッ…♡ちゅるッ…ちゅるッ…♡」
『…すき…♡』
その一言とともに、キスはどんどんと熱を帯びていく。
「んむッ…!」
ジッ…
思わず息が混じる。
そのまま流されそうになったところで──
違和感。
そして、聞こえる❘微かな《かすかな》音。
「……」
僕はすぐに五月から離れ、軽く頭にチョップした。
「あいたっ…」
「ったく…食事中は禁止って何度言えば分かるかなぁ~…」
『ぶーーっ…』と頬を膨らませながら、上目遣いで抗議してくる五月。
だが無視して、僕は朝食を再開した。
「だってぇ~…今日から修学旅行の間イチャイチャ出来ないんだよ?このくらいいいじゃん!」
「良くありません」
ぴしゃりと言い切る。
「時間も無いんだから…それに、修学旅行の間に少しでも二人っきりの時間を作れるように、僕が努力するから」
「ホント!?」
ぱっと表情が明るくなる。
単純だけど、それが可愛い。
「うん」
そう答えると、五月は機嫌よく食事を再開した。
僕に寄り添ったまま、鼻歌混じりに。
そんな姿を見て、思わず頭を撫でる。
さらに密着してくる五月。
──まあ、このくらいならいいか。
「だから。五人での最後の修学旅行。思いっきり楽しんできな」
「うん♪」
これから先も五人での旅行はあるだろう。
だが、こんな風に学校行事での五人での旅行は、高校で最後を迎えることになる。出来れば五つ子やことり達が楽しく過ごせる修学旅行にしようと、改めて強く心に刻むのだった。
教師は早めの集合が必要なのだが、一緒に行きたいと言う五月の提案もあり、二人で家を出ることにした。
そして、いざ出発と思っていたところ──
ピンポーン…
「来客?こんな朝早く?」
「私も知らないよ」
二人で不思議に思いインターホンモニターを確認すると、四葉の姿があった。
「四葉!?どうしたこんな朝早く」
『あ、先生!おはようございます!ちょっと五月に相談がありまして。そんなにお時間は取りませんので、家に上げていただきませんか』
余裕がない訳でも無いので、四葉の提案通り四葉をうちに上げた。
家に来た四葉は、僕を玄関で待たせて五月と部屋に向かったのだった。
~五月・四葉Side~
「驚きました。こんなに朝早くから訪ねるとは…」
「あはは!ごめんね、ちょっと荷物を取りに来たんだぁ~」
「荷物?」
部屋に入った五月と四葉であったが、五月が部屋のドアを閉めると、四葉は迷いなくクローゼットの段ボールを物探り始める。
「??何か忘れ物でも?」
「うん。ほら、前に五月に頼んでたでしょ。それを取りに来たの」
「前にって、
四葉の目的の物を理解した五月を尻目に、四葉はすぐに目的の物を見つけてキャリーケースに積めた。
「今回の修学旅行で、どうしても必要なの…」
「それって──」
「ほら、先生待たせてるから早く行こ!」
そのまま部屋を出ていく四葉。
(四葉……あなたは決心がついたのですね)
そう心の中で確信した五月もまた、四葉に続くように部屋を出るのだった。
「それにしても早い時間に来たね。走ってきたの?」
四葉の用事も終わり、三人で修学旅行の集合場所である駅へと向かう。
最初は四葉が遠慮したのだが、僕と五月が問題ないと伝えると笑顔でそれに応じた。
ただ、今は五月が僕の腕に自身の腕を組んでおり、僕達二人の前を四葉が歩いているといったものである。
「いえ。三玖も朝から用事があったようでしたので、迎えに来ていた憂さんの車に乗せてもらいました」
「では、三玖は今別邸に?」
「うん、そうだよ」
三玖まで朝から…
本当にこの五つ子達の行動を読む事が難しい。
「相変わらず朝から元気ですね、四葉は」
「五月だって相変わらずだね」
「何がですか?」
二人は仲良くいつも通りの雰囲気で話し始める。
「距離だよ。外なのにそんなにくっついて」
「それは夫婦ですから♪」
「朝から全開だねぇ……」
四葉の言葉に、五月は上機嫌に更にこちらに身を寄せ、頭も僕の右肩に乗せてくるくらいだ。
四葉は苦笑いしながらも、どこか楽しそうに振り返る。
「でもいいなぁ。そういうの」
「え?」
「なんでもないです!」
いつもの調子で誤魔化す四葉だったが、その一瞬だけ見せた表情は大人びていた。
「四葉も今日から楽しむんだよ」
「はいっ!もちろんです!」
元気よく返事をする四葉。
しかしその声に、どこか“覚悟”のようなものが混ざっている気がして、僕は少しだけ気になった。
駅に着くと既に何人かの生徒が集まっていた。
皆どうやら相当この修学旅行を楽しみにしているようだ。
「お。来た来た♪」
その中からいつものお茶目な声が聞こえてきて、三人の生徒がこちらに向かってくる。
「一花、二乃、ことり。おはよう」
「おはよ~先生。それに五月ちゃんと四葉も」
「おはようございます」
「おはよー!」
「遅いわよあんたたち」
「まあまあ、まだ集合時間まで相当時間があるんだし」
二乃が若干不機嫌そうに話すもそれをことりが抑えている。
「気持ち的な問題なのよ」
「そこは同意」
「さようか」
それだけ僕に会いたがっていたと思えば、このくらいどうという事ではない。
「じゃ、僕は他の先生方との打ち合わせがあるからここで。あまり騒ぎ過ぎて、他の一般の人達に迷惑かけるなよ」
『はーい』
五人から元気な声が返ってきたので、それに満足した僕は、そのままスーツケースを転がしながら教師の集合場所に向かうのだった。
~駅前~
「ああ。もう行っちゃった」
「仕方ないですよ。和彦さんはあくまでも教師なのですから」
残念そうな二乃に対して、仕方がないと五月が諭す。
「わかってるわよ。そりゃ、あんたは昨日はお楽しみだったからいいかもだけどね」
「──っ!!二乃!!」
「どうどう五月ちゃん。他の人から見られてるから」
顔を赤くして二乃に叫び声をあげる五月を何とか一花が静める。
そこに──
「お、憂ちゃんとこの車だ」
駅の近くに黒の高級車が一台停まると、そこから三玖と美優が降りてき、憂と綾那はおじぎを。結愛は手を五人に向かって振ると、車はそのまま発車していった。
よく見ると、助手席には雪斗の姿もあった。
「おはようございます、皆さん」
「おはよう…」
美優は元気よく、三玖は眠そうに挨拶をする
「おはようございます美優さん。三玖は眠そうですね」
「うん…ちょっとね…」
目を擦りながらも、しっかりとした足取りで三玖も五人と合流する。
「五月さんがいらっしゃるという事は、先生は……」
「すみません。既に他の先生方との打ち合わせに行かれてしまいました」
「そうですか。残念ではありますが、新幹線に乗る前にでもご挨拶できるでしょうから良しとします」
「美優ちゃんは前向きだなぁ~」
最初は残念な表情を醸し出していた美優であったが、後で会えるとすぐに上機嫌となった。
「毎日のように勉強や空手の稽古と会えるだけでなく、修学旅行までご一緒できるのですよ。こんな事、前の学校では想像が出来ませんでした♪」
「ま。そりゃそうだ」
ウキウキな美優に一花が笑いながら同意すると、周りからも笑顔が溢れているのであった。
「では、打ち合わせは以上となります。各クラスごとに集合をかけてください。私のほうから注意事項などを伝えますので」
教師の打ち合わせが一区切りしたので、僕は芹菜と共に自分のクラスを集める準備に取りかかる。
「吉浦先生との旅行は楽しみですけど、やはり教師のスケジュールなどはハードですね」
「全くですね。消灯時間後は、部屋の移動をしないかの見張り。寝る時間も限られてますよ。唯一の救いが、今日の京都の見回りくらいでしょうか。ある意味観光ですからね」
「ふふふっ♪見回りは担任と副担任での行動ですからね。今から楽しみです♪」
ご機嫌な芹菜はもう乙女の顔である。
「ああ。勿論、五月さんとの時間も取りますので、ご安心を♪」
「ありがとうございます」
こういう時に事情を知っている人が副担任で助かる。
さて、どんな修学旅行が待っているやら。
それに──
あいつらが、雪斗さんの稽古についていけるかどうか…
僕は二つの事で頭を巡らせていた。
~旭高校・空手道場~
時は過ぎ。
旭高校に残っている一二年生は、道着に着替え各々準備運動を行っていた。
一応、三年生がいない状況での部長代理は昌也が選ばれており、その補佐を直華が任せられている。
事実上の来年の部長と副部長の候補である。
そこに──
「お、やってますねぇ。和彦さんがいないのに、いつものメニューをこなしているとは流石です」
道着に身を包んだ雪斗の姿が現れた。
傍らには、ジャージ姿の結愛と憂の姿もある。
『お願いします!』
道場に現れた雪斗に向かって、準備運動の手を止めた部員一同が気をつけで礼をした。
「よろしく。うんうん。礼儀もバッチリだ。そうだ。先程和彦さんから連絡がありましてね。向こうは
後ろに手を組んだ状態の雪斗が、修学旅行の状況を説明した。
「いいなぁ、今年の三年生は。先生と一緒に旅行なんて」
「直華。別に先生とって訳ではないでしょ。先生と生徒は基本的に別行動のはずよ」
和彦と共に修学旅行に行けている、現三年生を羨む直華であったが、すかさず昌代が情報を正した。
「いや!分かるっすよ、井伊先輩!師匠と共に行動ができる喜び!自分も同じっす!」
「さっすが、本多君だよね~♪」
和彦への尊敬をやまない忠義と直華はお互いに和彦との行動について語り合っていた。
それを憂がクスクスと笑っていると、その横で雪斗が口角をあげていた。
結愛は雪斗の雰囲気が変わっている事に早くにも気づき、緊張した趣でいた。
「はははは!やっぱりいいね!よし、では今から僕と選抜する五人との試合を行おう」
雪斗の言葉に部員全員が注目をする。
「選抜のメンバーは、先鋒馬場!」
「う、うっす!」
「次鋒井伊!」
「は、はい!」
「中堅山県!」
「はい」
「副将木下!」
「はい!」
「そして、大将は本多君だ」
「お、オッス!」
「君達が僕から一点でも取れたら、僕から薫様にお願いして、京都への遠征を提案しよう」
雪斗の言葉に部員の全員の集中力が上がった。
綾那に至っては、既に境地へと入っている。
それを嬉しく笑みを浮かべている雪斗は、更に言葉を続けた。
「ただし、もし君たちが一点も取れなかったら……和彦さんのメニューに、僕の考えたメニューも追加しよう」
その言葉に憂がプリントを何枚か部員全員に見せる。
恐らく全員用に雪斗が考えて作成したのだろう。
「言っておくが、こう見えて僕は和彦さん程甘くない。全力で来ないと、五人で五分もかからないかもだよ」
そこで、雪斗が自身の闘気を一気に開放する。
それは、現在の和彦に匹敵する──いや、多少上を行く程のもので、全員が飲まれそうになっていた。
だが──
「面白れぇ!先生はいつも手加減してきて退屈してたとこなんすよ!」
「太原さんの試合のビデオは何度も観てきた。大丈夫。大丈夫」
「はぁぁ…本当にここは天国なのか地獄なのか」
「ふぅぅ…」
「しゃあー!今の俺達の全力見せてやんぜ!」
選抜に選ばれた五人はそれぞれの想いの中、四角で囲まれた試合場の端に歩み出し、順番に並ぶ。
それに満足した雪斗もまた、五人の向かいに歩み始める。
こちらもこちらで、大きなうねりが起きようとしているのだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回は修学旅行編の導入ということで、それぞれの立場や想いが少しずつ動き始める回になりました。
特に四葉の描写については、この先の展開にしっかり繋がっていきますので、
どう受け取っていただけたか、とても気になっています。
もし少しでも「続きが気になる」と感じていただけたら、
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感想もすべて大切に読ませていただいていますので、
気軽に残していただけると嬉しいです。
それでは、次回もよろしくお願いします。