~中野家・五月の部屋~
「これでよしっと……て、もう返事が返ってきた」
「先生はなんと?」
「うん…了解だってさ。まあ、兄さんは外泊とかそんなに厳しくないし何も言ってこないとは思ってたけどね」
五月の部屋では、先ほど急遽決まった中野家お泊まり勉強会のことをことりが和彦に連絡していたところである。
「すみません。一花の急な提案で…」
「いいよ。どうせ明日も特に予定とかも無かったし。むしろみんなの勉強を延長して見れるんだから。ポジティブにいこう!」
笑いながら答えることり。それでも五月は申し訳なさが残っているようだ。
「それより着替え貸してくれるんでしょ?」
「はい。昨日は私が借りましたから。今日は任せてください」
そう言って五月は、クローゼットからことりのためのパジャマを出そうとしている。
「私はこの後風太郎君の後にお風呂に入って、そのまま下でみんなに勉強教えるけど、五月は来ないんだよね?」
「申し訳ありません。私にはまだちょっと…」
「ううん。いいんだよ。経緯は昨日兄さんから聞いてるからね。徐々に頑張っていこ」
コクンと頷きながらことりの着替えを用意する五月。
「それではこちらを…」
「ありがとう。じゃあ行くね。抜けれそうだったら五月の勉強も見に来るから」
「ありがとうございます」
そしてことりはお風呂のため部屋から出ていった。五月は、ことりが出ていった後もドアをじっと見ていた。
(駄目ですね。頑張ろうとは思っているのですが、いざ本人の前に行くとまた余計なことを言いそうで話すこともできません…)
そこでぶんぶんと頭を振る五月。そして、昼間に和彦に撫でられた事を思い出した。
「よしっ…!」
気合いを入れた五月は勉強のため机に向かうのだった。
場所は変わりリビング。ことりは五月から受け取ったパジャマを手に階段を降りていた。
ダイニングテーブルでは二乃が勉強をせずスマホをいじっており、リビングデーブルでは一花と三玖と四葉がノートを広げて勉強する体勢を取っている。風太郎がそれを立って見ているのでお風呂はもう上がったようだ。
「風太郎君。お風呂はもう終わった?」
「おう。次いいぞ」
「はーい。二乃は勉強しないの?」
「上杉にも言ったけど私には必要ないから」
「必要ないことはないと思うけどなぁもう…それで今は何してるの?」
「ん?色々と聞きたいことを聞いてやっている」
「へぇ~……そうだ!」
そこでことりが一つ案が浮かんだ。
「ただノートを埋めていくっていうのも面白くないし。ここは一つゲームをしない?そうだなぁ、ノートを二ページ埋めていく毎に風太郎君の好きな女子のタイプを発表してもらうとか」
「なっ……!?」
「いいねぇ~。ことりナイス!」
「私も俄然興味あります!」
「ちょっと興味あるかも…」
当人の風太郎をよそに話が進んでいる。
「ふふふ、じゃあ三人だからベスト3を用意お願いね」
「くっ……用意はするがちゃんとノートを埋めろよ!」
そう言った風太郎はどこからともなくフリップボードを取り出しベスト3を書いていく。それを見た三人はノートを埋めるためにペンを走らせた。
「じゃ、私はお風呂に行ってくるね。結果は後で教えてね」
ことりはそんな言葉を残してお風呂に行ってしまった。
「あの子もなかなかやり手ね」
「ああ。たまに掴み所が無いところがあるぜ」
二乃はスマホを手にしたままお風呂に向かったことりに対して言葉を漏らすが、自然にそれに風太郎が答えるのだった。
そして時間は流れ。三人はそれぞれで徐々にノートを埋めてきた。そこで…
「はい、終わった…!」
最初に終わらせた三玖が手を挙げる。風太郎がノートを確認するとしっかりと埋まっていた。
「よし。じゃあ三位は『いつも元気』」
風太郎がフリップのめくりを一つめくると、風太郎の好きな女子のタイプが書かれていた。
「はい!できました!」
次に手を挙げたのは四葉である。風太郎はまたノートが埋められているのを確認したうえでめくりをめくった。
「続きまして第二位は『料理上手』」
「終わったよ」
そして最後の一花が手を挙げたのでノートを確認後、風太郎は最後のめくりに手をかけた。
「よーし、第一位は……『お兄ちゃん想い』だ」
「それあんたの妹ちゃん!!」
風太郎の第一位の発表にすかさず二乃がツッコミを入れた。どうやら気になっていたようでチラ見をしていたようだ。
「な、なんだよ二乃。盗み聞きして…どうせならお前も勉強するか…?」
「聞きたくなくてもここにいれば耳に入るわよ」
「あれ?風太郎君の好きな女子のタイプの発表は終わったの?」
風太郎と二乃が話しているところに、お風呂上がりのことりがリビングに入ってきた。
「聞いてくださいことりさん!上杉さんってばずるいんですよ。私たち頑張ったのにらいはちゃんの発表だったんですよ!」
四葉がフリップボードをことりに見せながら風太郎への苦言を吐いてきた。
「えー…どれどれ…?いつも元気。料理上手。お兄ちゃん想い……っ!」
「?」
四葉にフリップボードを見せられたことりは三項目のタイプを読んだ後、驚き目が見開いてしまった。それを唯一見える場所にいた一花がその表情に疑問を抱いた。
(一瞬だったけどことりが驚いてたような…気のせい?)
「も、もう…風太郎君。さすがに妹さんは無いんじゃないかなぁ」
「ことりは知らんかもしれんが、俺にとって恋愛は学業から最もかけ離れた愚かな行為だと思っている。だから好きなタイプなど無いんだよ」
「重症だぁ…」
風太郎の恋愛に対する拗らせ方に、ことりは呆れながら言葉を漏らした。しかし、そんなことりはおもむろに風太郎に近づくと風太郎の頭を撫でだした。
「まあ、それでもちゃんと私の要望に答えてくれたのはありがとね。偉い偉い」
「「「「!」」」」
そんなことりの行動にその場にいた風太郎以外の者が驚きの表情になった。
「………なんだこれは?」
「え?頑張った人には誉めてあげないと。ね、一花?」
「そ、そうだね。あれぇ~?もしかしてフータロー君てばドキドキしてるのかな?」
急に話しかけられた事に驚きつつも一花はニンマリと笑いながら風太郎に近づいた。
「別に」
しかし風太郎は至って冷静に答えるだけだった。それを面白くないと感じた一花は四葉をけしかけたのだ。
「四葉チェック」
「わーーっ」
近づいてくる四葉から逃げるため風太郎はリビング内をドタバタと逃げ回った。
「なんだ!やめろ!」
「まあまあ、逃げないでください」
「来るな!近づくな!」
「いいじゃないですか!」
逃げる風太郎を追いかける四葉。そんな光景を一花とことりは笑顔で見ていた。
「……ねえ、ことり。いきなりだけど料理したりする?」
「ホントにいきなりだね。うーん…一応うちの料理担当だしね。たまに兄さんも作ってはくれるけどね」
「そっか…」
「?」
「捕まえましたー!」
「くっ…」
突然の質問に意味が分からなかったことりではあったが、四葉の声で二人の方に顔を向けた。四葉はドキドキしているのか確認のため風太郎の胸に耳を当てている。
「上杉さんドキドキしてます!」
「あれだけ走ればな!」
「あはは、四葉は面白いね」
「何やってんだか…」
ガチャ
「騒がしいですよ」
そんな時、二階の部屋から五月が出てきた。
「勉強会とはもう少し静かなものだと思っていましたが」
「ごめんねー」
階段を降りながら指摘してくる五月に対して一花は申し訳なさそうに謝っている。
「さてと、私は部屋に戻らせてもらうわね」
「えー、二乃も勉強しようよ」
「あんたの頼みでも断らせてもらうわ」
ことりの制止を聞かず五月と入れ違うように二乃は階段を上っていった。
「えっと…」
リビングまで来た五月に何か声をかけようとしている風太郎であるが言葉が出てこない。
(直接顔を合わすと言いづらい…)
そんな風太郎の姿にため息をつきながらことりは五月に声をかけた。
「はぁ…どう五月?順調に進んでる?」
「順調…とまではいかないかもしれませんが、以前先生に教えていただいた箇所を復習しています」
「そっか…こっちが一段落したら向かうから、分からなかったところをまとめておいてね」
「分かりました。三玖、ヘッドホンを貸してもらっていいですか?」
「?いいけどなんで?」
疑問に思いながらも自身の首にかけているヘッドホンを外し五月に渡す三玖。
「一人で集中したいので」
そう言い残すとまた階段を上っていこうとする五月。その五月の背中に風太郎はまっすぐと言葉をぶつけた。
「お前のこと信頼していいんだな?」
「足手纏いにはなりたくありません」
「五月…」
風太郎の言葉に振り返ることもなく下を向き答える五月。そんな五月を心配そうにことりは見ることしか出来なかった。
「五月!待てよ!じゃあなんで…!」
五月は最後まで振り返ることなく階段を上っていく。そんな背中に風太郎は必死に言葉をかけるも意味はなかった。そんな風太郎に一花が声をかけた。
「フータロー君。見て、夜空が綺麗に見えるよ。ちょっと休憩しようよ」
風太郎に声をかけた一花はそのままベランダへの扉を開けた。
「一花。また突飛なことを」
「いいんじゃないかな。こっちは私が見てるから、風太郎君も少し休みなよ」
「そうか。じゃあこっちは任せたぞ」
「はーい」
手をヒラヒラと振って風太郎をことりは送り出した。
「じゃあここからは私が教えるね。何しよっか?」
「はい!では社会をお願いします!」
「OK!じゃあ徳川家の将軍の名前を覚えていこうか」
「それなら私は覚えてる」
「なら、三玖が教えるのも良いかもね。人に教えることで復習にもなるし」
「……分かった。じゃあ四葉教えるね」
「お願い三玖」
自分なりに四葉へ教えていく三玖。そんな風景を笑みを浮かべながらことりは眺めていた。
ところ変わってベランダでは一花がフェンスに寄りかかり夜空を見上げていた。
「へぇ、確かに空が広く感じるな」
「最上階も捨てたもんじゃないでしょ」
ベランダに出てきた風太郎は夜空を見上げながら一花に声をかけ近づいた。
「そういえばこの間のオーディション受かったよ」
「そ、そうか…」
「撮影は試験後だから安心して」
「それならいいか」
一瞬ヒヤリとした風太郎ではあったが、女優業の仕事が試験に影響ないことを知って安心した。
「……五月ちゃんと喧嘩でもしちゃった?」
「!…いつものことだ」
急に核心をついたように一花が質問をしたので、風太郎は一花とは逆の方に向きながら答えた。
「だね。フータロー君と五月ちゃんは顔を合わせる度に喧嘩してる。二人は似た者同士だから」
その言葉に反応するかのように一花の方を向く風太郎。
「似た者同士ってお前が言うか…」
「ふふふ…」
風太郎の反応に笑いながらまた夜空を見上げた一花。
「でもさ今回はいつもと違う気がしたんだ。二人には仲良く喧嘩をしてほしいんだよ」
「矛盾してるだろそれ…」
「そう?あの子も意地になってるんだと思うんだ。フータロー君は違う?」
「ぐっ…」
図星をつかれた風太郎は渋い顔をする。
「昔から不器用な子だったから、素直になれないだけじゃないかな。きっと今も一人で苦しんでる」
(まあ、先生に少し頼んでたから多少は立ち直ってるとは思うんだけどね。ことりもいるし)
「私にやれることはやってみるけど、フータロー君にしかできないことがあるからお願いね」
優しい表情で一花は風太郎にお願いした。
「なんだ。ほぼ同時に生まれた五つ子には関係ないと思ってたんだが……ちゃんと長女してんな」
そう言いながら風太郎は一花の頭を撫で始めた。それに対して一花は驚きの顔になるもすぐにジト目になってしまう。
「……何、この手」
「い、いや。ことりが頑張ってる子は誉めてやれって…」
「あはは…そういえばそんなこと言ってたね。それにしても、もう秋なのに暑いねぇ」
「はぁ?もう寒いだろ。中に入ろうぜ」
風太郎はそう言うとベランダから中に入るためにドアに向かう。そんな風太郎を一花は顔を真っ赤にして見送っていた。
「寒い……かなぁ…?」
と、そこで一花は思い出したことがあったので風太郎を追いかけた。
「ねえねえフータロー君」
「なんだよ」
「君ってことりのことどう思ってる?」
「は?急にどうした?」
一花の急な質問に
「ほ、ほら!同じ家庭教師として仲良くできてるのかなって」
「ああ…まあ、たまに突拍子もないことを言ってくる奴ではあるが頼りにはしている」
そう言いながら、笑みを浮かべて勉強をしている三人に風太郎は目を向けた。
「おー、正解だよ四葉。良くできました~、偉い偉い」
「えへへ…」
ちょうど四葉が問題を解けたところだったようで、ことりがそれを誉めていたところだ。
「あいつは俺に無いものを持っている。俺にできないところをしっかりカバーしてくれてるからな。五月のことだってそうだ」
「そっか…」
「……こんなのでいいのか?」
「うん!家庭教師同士、仲良くやれてるようでお姉さんは安心だ」
「なんだそれ……おい四葉!どのくらいできるようになったのか俺が見てやろう」
一花の言葉に呆れ気味に答えると、風太郎は三人のところに向かってしまった。
「……」
一花はそんな四人の光景を眺めていた。
「て、そこはさっき教えただろ!」
「わぁー!すみませ~ん」
「あははは…四葉、しっかりしなよぉ」
(いつも元気…)
『一応うちの料理担当だしね』
(料理上手…それに多分…お兄さん想い………あーもう、なんだか心がむずむずするぅ~)
そんな心が落ち着かない状態で一花は四人と合流するのだった。
今回は和彦の登場が一切ありませんでした。まあこういうこともたまにはあっていいのかなっと思ってます。中野家でのお話ですのでそもそも登場は難しいんですけどね。
さて、中間試験編も佳境に迫ってきました。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。