「ふぅ~…パスタ美味しかったですね」
「ええ。すみません、私の分まで奢っていただいて」
「良いんですよ。誘ったのは僕なんですから」
中間試験の問題作成が終えた後。ことりが中野家で泊まりの勉強会を行うと聞き、夕飯は外食にしようと考えたのだが、一人よりもと思って立川先生を誘ってみたのだ。
行き先は立川先生お勧めのパスタ屋さん。隠れた名店といった感じでお客さんも少なく静かでゆったりと時間を過ごせたと思う。もちろん味も最高だった。
今はその店から出て、近くのケーキ専門の喫茶店に来ている。
「しかし先程のお店と言い、このお店と言い、立川先生は詳しいんですね」
「地元というほどではないですが、友達とよく行っていたので。お口にあったようで良かったです」
僕の言葉が嬉しかったのか、笑みを溢しながらコーヒーを飲んでいる。ちなみに僕はミルクティー。コーヒーは昔からどうも飲めないんだよねぇ。
「ここはケーキの味も良いのですが、店長さんも人当たりが良くって。結構な頻度で来てるんです」
「へぇ~」
先程から客席で立ち話をしているあの人が店長さんだろうか。確かに人が良さそうだ。
それにしても美味しいケーキだ。ことりにも教えてあげようかな。
「……あのっ。一つお聞きしてもいいですか?」
「?どうぞ。僕で答えられるのであれば」
何か意気込むような気さえする勢いで立川先生が質問してきた。
「中野さんたちと仲が良いように見えるのですが、何かコツとかあるのかなと思いまして…」
「え?中野姉妹ですか?何でまた?」
以外な人物の名前が出たので驚きながらも聞き返した。
「ほ、ほら。中間試験が終われば林間学校が控えているじゃないですか。それまでに少しでも仲良くなっておきたいな、と思いまして…」
そういえばもうすぐ林間学校があるんだったな。僕と立川先生はお互いに初参加でもある。
色々と交流する場でもあるからか。立川先生は真面目だなぁ。
そう納得した僕は仲良くなった経緯を話すことにした。
「と言いましても、僕の場合はことりのおかげというのもありますしね」
「ことりさんですか…」
「ええ。実はことりと上杉の二人で今中野姉妹の家庭教師をしてるんです」
「え?家庭教師ですか?しかも上杉君も」
家庭教師という単語に驚きの表情になる立川先生。まあ普通はそうだよね。
「ははは…普通は驚きますよね。同じ年の人間が家庭教師をするのですから」
「そうですね。しかし、お二人であれば納得です。上杉君は五科目で満点以外取っていませんし、ことりさんは数学で満点しか取らないとか」
「ですね。そんな訳であの五人とはよく話すようになったんですよ。上杉ともこれを機に話すようになりましたね」
「なるほど。そんな経緯が…」
三玖に関しては自分のクラスの生徒という事以外に、お互いに歴史好きという理由で仲良くなったのだが、まあ本人の許可なく他人には言えないな。
「なのであまりお役に立てないかと。まあ皆良い子ですので、立川先生でしたら普通に話しかければ仲良くできると思いますよ。特に立川先生のクラスの五月は姉妹で一番真面目な子ですから」
「そうなんですね。じゃあ、ちょっと頑張ってみます。でも、そうですか。家庭教師を……少し安心したかも」
「ん?何かおっしゃっいました?」
「い、いえ!じゃあ、中野さんの事で困ったことがあれば吉浦先生に聞けば安心ですね」
「いやー、どうですかね。僕もそこまで仲が良くないので…さて、そろそろお暇しましょうか」
そう言ってテーブルの上に置かれた伝票を持って席を立った。
「あ、ここは私が…!」
「いえいえ。僕が持ちますよ。男として見栄をはらせてください」
立川先生からの制止を聞かずレジに向かった。
レジ横にはショーケースの中でケーキが並べてある。それを見てふとあることを思いついた。
「すみません。会計と一緒にこのショーケースの…」
「君は彼女の何なんだい?」
レジで伝票を渡すと何故かずいっと男の人がこちらに近づいてきた。
この人ってたしか店長さんだっけ。何事?
「えっと…彼女と言いますと僕が一緒にいた女性ですよね。同僚ですけど…」
「同僚?彼女が男を連れて来たことは一度もない。それが同僚、と?」
「え、ええ」
立川先生が立っている方に目を向けながらそう伝えた。店長さんと二人で見たからか彼女はこちらに笑顔で頭を下げてきた。それを見た店長さんはニッコリとした笑顔で手を振っている。
「彼女はこんな僕にでも優しく声をかけてきてくれるんだよ。いつも美味しいケーキをありがとうございます、とね」
「は、はぁ…」
「あの笑顔はどんなに苦しいことがあっても吹き飛ばしてくれる……それなのに、そんな彼女が男を連れてきてそれが同僚と言われ信じろと?」
「そう言われましても、信じろとしか言えませんよ」
「…………」
じーっと店長さんに見られる。これは立川先生に気があるのだろうか。それで立川先生には人当たりが良い人で通ってるのか。
「まあ今回はそう言うことにしといておこう」
そう言いながら店長さんはレジを打ち出した。
「あーっと、すみません。ショーケースのケーキも一緒に会計いいですか?」
「ん?構わないが、どれにするかい?」
「えっと、そうですねぇ……一つはこれで。後もう一つはこれを。後は店長さんのお勧めで六種類お願いできますか?」
「そんなに買うのかい?」
「ええ。とても美味しかったので知り合いに差し入れしようかと」
「ふむ…君は実は良い男なのかもしれないね」
「ありがとうございます」
店長さんは先程とは打って変わって上機嫌にケーキを選び出した。本当に面白い人だ。
そして会計を済ませた僕は立川先生と合流した。
「お待たせしました」
「いえ、ご馳走さまでした。そちらは?」
立川先生は僕が持っている箱を見ながら聞いてきた。
「ああ。さっき話した家庭教師を実は今日泊まり込みでやってるそうでして。その差し入れですよ」
「そんなことまで…」
「まあ、飴と鞭の飴ですよ。じゃあ帰りましょうか。マンションまで送ります」
「ありがとうございます」
そして僕と立川先生は二人並んで立川先生のマンションに向かうのだった。
立川先生を送った後、僕は中野家があるマンション前まで来ていた。
「しかし高いマンションだなぁ。中野家はここの最上階なんだっけ。中野さんの職業は聞けてないけど、政治家とか大企業の社長とかだろうか…」
そんな考えを口にしながらマンションを見上げていた。
さて、オートロックだから部屋番号を押してと…
『…はい?』
「夜分遅くにすみません。
『ふぇっ…!せ、先生!?』
ん?先生って言ってるってことは五つ子の誰かか。しかし、まだ声だけじゃ判断できないからなぁ。
「夜分にごめん。差し入れを持ってきたんだけど開けてくれるかな?」
『わ、分かった…』
そこでオートロックの扉が開かれた。
オートロックをくぐった僕はそのままエレベーターに乗り30階のボタンを押す。
しかし30階となると結構時間かかるなぁ。
そんな考えがちらつく中、しばらくすると目的のフロアに到着した。そこから部屋に向かいインターホンを押した。
『はーい…』
ガチャ
「やっほー先生。差し入れ持ってきてくれたんだって?」
玄関で出迎えてくれたのは一花だった。
「ああ、これね。ここで渡して良いかな?」
「えー、上がっていきなよ。せっかくなんだしさ。ほらほら」
一花に背中を押されながら部屋の中を進む。するとリビングには四人の姿があった。
「こんばんはー!先生!」
「こんばんは…」
「どもっす」
「兄さん差し入れ持ってきてくれたんだって?」
四葉と三玖、上杉が挨拶をしてくるなかことりは僕に近づいてきた。
「ああ。ケーキを買ってきた。皆で食べてもらおうと思ってね」
「わー!ケーキですか!ありがとうございます!」
ことりにケーキの入った箱を渡しながら伝えると四葉がテンションを上げてこちらに近づいてきた。ケーキの入った箱を受け取ったことりと四葉はそのままテーブルに持っていく。
「しかし、勉強してるのは三人だけか。中間試験が楽しみだね上杉」
「ぐっ…」
「冗談だよ。上杉はしっかり頑張ってるってことりから聞いてるから。これからも頑張りな」
「はい!」
「あれ?先生、ケーキ八個あるけど。先生の分?」
上杉と話していたら箱の中身を確認していた一花が疑問の声をあげた。
「いや、中野さん…つまり一花達のお父さんがいらっしゃると思ってね。その分だよ」
「そっか…それは気を遣わせちゃったね…」
この話題はあまり立ち入らない方がいいのかもしれないな。
「いらっしゃらないのであれば、一人だけになるけど誰かが二個食べると良いさ」
「あれ、兄さんは食べないの?」
「僕はさっき食べたからね。それにあまり長居はしないつもりだよ」
「え、もう帰っちゃうの…?」
驚いた顔で僕を見てくる三玖。そこまで驚くことだろうか。
「まあ、元々部屋に上がるつもりはなかったからね」
「それはいいんだけど、兄さんは一人でこのケーキ買いに行ったの?」
「いや。立川先生と夕飯に行って、その帰りに寄ったケーキ専門の喫茶店で買ったんだよ」
「…っ!」
「いやー、立川先生って色々なお店に詳しくてビックリした…よっ!?」
目の前にはニッコリしたことりがいるのだが、これは怒っている時の顔だな。あー…何だろう。余計な事言ってしまったようだ。
「んーー?どうしたのかな兄さん?」
「ほらっ。本当に美味しかったんだから皆も食べて食べて。四葉、お皿とかどこかな?」
「それくらいでしたら私が出しますよ」
そう言って四葉がキッチンにお皿を取りに行ってくれた。
「ふふん。話をそらしたね、先生?」
「何の事かなぁ…」
ニヤッと笑いながら一花が言ってきたがとぼけることにした。後ろめたい事は何もしてないのだが、何故かこの話はここまでにしておいた方が良いと感じたのだ。
「ほらほら、ことりの好きなロールケーキも買ってきたからさ。食べてみてよ」
「知ってるよ。さっき箱の中身見たんだから…まあいいや。三玖はこの抹茶のケーキなんて良いんじゃない?」
「うん…先生ありがとう…」
「いやー、二人の好みは知ってたんだけど他がねぇ。三人は残りの中から選んでよ。上杉も遠慮しないでね」
「ええ。まあ、俺は何でもいいんですけどね」
女子達がキャッキャと選んでいるところに上杉も勉強の手を止めて向かっていった。
「じゃあ、これで失礼するよ。上杉とことりの言うことをしっかり聞いて勉強するんだよ?」
「は~い」
「任せてください!」
「玄関まで送る…」
三玖がそう言いながらこちらに来た。
「そう?上杉とことりも無理しない程度によろしくね」
「うん!気をつけて帰ってね」
「分かりました。差し入れありがとうございます」
そして三玖を連れて玄関まで来た。
「見送りありがとね」
「ううん。先生こそ差し入れありがとう…その…抹茶が好きなこと覚えててくれて嬉しかった…」
「どういたしまして。じゃ勉強頑張って」
「うん……お…おやすみなさい…」
「ああ…おやすみ」
僕が返事をするとニコッと微笑んできた。そんな三玖に見送られながら中野家を後にした。
あれ、そういえば女子六人に男一人ってまずかったのでは?まあ上杉だったら大丈夫か。
~五月の部屋~
コンコン…
「はい」
『私。ことりだけど入っていいかな?』
「どうぞ」
ガチャ…
「失礼しまーす」
五月からの許可をもらったことりは手にお盆を持って部屋に入った。
「ことりさん、それは?」
「さっき兄さんが差し入れで持ってきてくれたケーキだよ。私はこっちで五月と食べようと思ってさ」
「え?先生が来られてたんですか?」
「うん。ケーキだけ置いてさっさと帰っちゃった。机の上に置くから少しだけ休憩しよっか」
持っていたお盆を机に置こうとすることりの姿を見て、五月は広げていた教科書やノートをしまいだした。
「五月はショートケーキで良かったかな?」
「はい。ありがとうございます」
五月の前にケーキを置きながらことりは確認するも、五月からは問題ないと返事が返ってきた。
「後もう一つあるけどそれも五月が食べてね。一つ余っちゃったんだけど、それを一花が五月にって」
「そうですか。あ、ありがたくいただきます」
「うん、じゃあ食べよっか」
「はい!いただきます……う~ん、美味しいですぅ~」
「五月は本当に美味しそうに食べるよね。うん、美味しい」
幸せそうな顔で食べる五月にそう伝えながら自らもケーキを口にすることり。そんなことりも美味しそうに食べている。
「本当に美味しいのですから仕方がありません。それに勉強で頭を使った後の甘いものは良いものです」
「まあ、兄さんもそれを見越して差し入れしたかもしれないけどね」
「………先生は何か言ってましたか?」
フォークでケーキを一口大に切り分けたところで手を止めて五月が質問した。
「何かって?」
「その…全員が揃って下にいなかったことについてです…」
「特に何も言ってないよ。風太郎君には、今度の中間期待してる、とは言ってたかな」
ことりは笑いながら五月の質問に答えた。そんなことりの態度に五月は少しだけホッとした。
「今回の事は五月だけが頑張ればいい訳じゃないと思うの。風太郎君にもある程度は歩み寄ってもらわないと。だけど今の風太郎君を見るとまだ難しいかなって…」
「ことりさん…」
「だから今は自分のできることに集中しよ。分かんないところ教えていくね」
「はい…」
二人はケーキを食べ終えた後、勉強に勤しむのだった。
ケーキを食べ終わった後もリビングでは勉強が続けられたが、集中力もなくなったことからこの日はここまでということになった。
『お客様をソファーで寝させられません!』
『私のベッド使っていいよ』
三玖の案内もあり風太郎は今三玖の部屋に来ている。
さすがに疲れが溜まっていたのか風太郎はそのままベッドにダイブしてしまった。
「これがベッドってやつか…やるな…」
(二乃、五月、中野父と不安要素は残ったままだが…明日は好転するといいな…)
そんな淡い期待を持ったまま風太郎は眠りにつくのだった。
それから深夜になって…
「どしたー?」
「トイレ」
風太郎にベッドを貸した三玖は一花のところで一緒に寝ていたが、トイレのため目が覚めた。
その足取りはうつろうつろで頭も冴えていないようだ。
そんな三玖はトイレから戻るとそのまま一花の部屋に戻るわけでもなく、自分の部屋に戻ってしまった。
そこには風太郎が寝ていることを、その時の三玖は忘れていたようだ。
前々回であった和彦と立川先生のお食事会を少しだけですが今回書かせていただきました。
そして、ここで早くもREVIVALの店長さん登場です。
本当に好きなキャラなのでもっと出演数を増やせればとは思っております。なので、和彦のお気に入りのお店に登録決定です!
では次回投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。