「中野三玖です…よろしく…」
そんな簡潔な自己紹介をする三玖さん。本当に話すのは苦手のようだ。
「女子だー」
「普通に可愛い…」
「あの制服って黒薔薇女子じゃない?」
「マジかよ。超金持ちじゃん」
「おいおい何者だよ」
三玖さんの挨拶にクラスがざわつく。主に男子が。
まあ、五つ子は皆可愛かったからね。他のクラスも騒いでるだろう。
「はいはい、静かに。気付いてる人もいるけど、彼女は黒薔薇女子からの転入生だ。黒薔薇女子は中高一貫の女子校だから…特に男子。むやみやたらに質問責めしないように」
『はーーい』
「ったく返事は良いんだから…ことり、君の横の席に中野さんを座らせるから面倒見てやってくれ」
「はい!」
「中野さん。彼女は吉浦ことり、僕の妹だよ。何か分かんない事があれば彼女に聞くと良いよ」
「分かりました…」
三玖さんは僕に返事をすると自分の席に向かう。
「よし。それじゃあ授業を始めようか。あ、まだ教科書渡せてないから、ことり見せてあげて」
「はい」
「じゃあ前回の復習も兼ねて早速誰かに問題を解いてもらおうかな」
『げぇーー』
生徒の絶叫する言葉を背中に授業を開始するのだった。
コンコン
「はーい、どうぞ」
数学準備室で作業をしていたところにノックの音が鳴る。
「「失礼します」」
入ってきたのはことりと三玖さんである。
「悪いね。中野さんに渡さなきゃいけないのがあって」
「問題ないです…」
僕の言葉に教室内をキョロキョロしながらも三玖さんは返事をする。
「ことりもありがとね、ここまで案内してもらって。さすがに学内の案内ではここは案内なかったと思ってさ」
「気にしなくて良いよ『兄さん』」
ことりは人前では僕の事を兄さんと呼ぶ。もちろん、他の先生がいたりしたら先生と呼んだり、敬語を使ったりとしている。
お兄ちゃんと言ったり、甘えてくるのは他に誰もいない時だけである。
「一応忠告はしといたけど、質問責めとか大丈夫だった?」
「うーん…三玖さん可愛いから男子からの責めが凄かったね。何とか女子の皆で止めたけど」
「やっぱか…中野さんは大丈夫?」
「はい…みんなに助けてもらったから…」
「そっか……と、はい。これが渡すプリントね。ちょっと多いかもだけど家で確認しといてね」
年間行事や今までクラスで配ったプリント等の束を渡す。
「後、新しい制服や教科書は今日家に届く手配になってるらしいから帰って確かめといて」
「分かりました…」
「それじゃあ、クラスの教室に入る前に言ってたの見せてあげるよ」
「いいもの…?」
「そうそう。この辺の棚を見てみてよ」
「これって、歴史の本。でもここって数学準備室だったんじゃ…」
「兄さんは、この教室を自由に使って良いと言われたのを良いことに、自分の趣味の本を置いているんですよ」
「元々ここにあった本や図書室に入らなくなった本なんかも置いてるから良いでしょこれくらい」
ことりの小言に言い返していると、三玖さんは見せたことないようなキラキラした目で棚を見ていた。
「興味津々の目で見ちゃって…ここには僕達兄妹しかいないから自分をさらけ出して良いんだよ」
「…………だ、誰にも言わないでほしい…好き、なの。戦国武将が」
顔を両手で覆いながらそう伝えてくる三玖さん。
「へぇ~、三玖さん武将が好きなんですね?私も好きですよ戦国史」
「え?」
「私は兄さんがきっかけだったんですが、三玖さんはどうなんですか?」
「え…えっと、きっかけは四葉から借りたゲーム。野心溢れる武将たちに惹かれてたくさん本も読んだ。だけど、何か昔に他のきっかけがあったような気がする」
「四葉さん?」
「ああ、中野さんは五つ子でその姉妹のうちの一人だよ」
「え!?五つ子!?あー…だから全クラスに転入生が来てるんだ」
「そういうこと」
「て、ごめんなさい。話の腰を折っちゃって。三玖さんは周りに、歴史好きなのを知られるのが恥ずかしいってことでしょうか?」
「だってクラスのみんなが好きな人はイケメン俳優や美人なモデル。それに比べて私は髭のおじさん…変だよ」
「どうなんだろ。僕は変とは思わないけど」
男の僕には、しかも歴史好きをオープンにしている僕には変なのかは分からん。
「え?」
「まあ、兄さんならそう言うでしょうね」
「好き嫌いは人それぞれな訳だし、自分が好きになった事を信じてみるのも良いんじゃない?」
「……」
「私も歴史好きを公言はしていませんが、軽く言ってみるのも良いかもしれませんね。こうやって歴史好きの人との繋がりを持てますから」
「あ……」
「人前で話せないならここに来て話せば良い。僕だったら歓迎するよ」
「本当!?」
「朝礼がある朝や会議、職員室での作業がない時は大抵ここにいるから、好きな時に来ると良いさ」
「うん…」
少しは表情が和らいだように感じる。
「では、昼休みにここで一緒に食べましょう三玖さん」
あ、ここに来れる口実を作ったなことりの奴。
「三玖...」
「え?」
「さんはいらない。三玖でいい」
「ふふっ...じゃあ、私の事もことりで構わないよ」
「うん...先生も」
「え、僕も?」
「さん付けはいらない」
「分かったよ。じゃあ、クラスでは中野で、他の姉妹がいる時は三玖って呼ばせてもらうよ」
「うん...!」
始めて見せた笑顔はとても良いものであった。
~ことりside~
数学準備室での用事を終えたことりと三玖は途中まで一緒に帰ることになった。
そんな二人が昇降口まで行くと、三玖以外の中野姉妹が外で待っていたのだ。
「やっほー、三玖」
「遅いわよ」
「あれ三玖以外にもいるよ」
「三玖のクラスメイトでしょうか」
姉妹がそれぞれの言葉を発しているとことりは驚きの表情を見せている。
(お兄ちゃんに五つ子だって前もって聞いていたからこれくらいの驚きでいられるけど...似すぎだよ)
ことりが驚きの顔になるのも無理もない。目の前には同じ顔の女子が五人いるのだから。
「どうかした、ことり?」
「い、いえ...顔がそっくりだったから......兄さんに五つ子の事を聞いてなかったらもっと驚いてたよ」
「ああ...それもそっか」
三玖にとっては日常茶飯事の事だったので気には留めていなかったが、初めての人が五人同時に会うとことりと同じような反応が返ってくる事を忘れていた。
「何々?三玖、もう友達ができたの?」
一花が三玖に駆け寄り、三玖の肩に後ろから自身の両手を置き覗き込むようにことりを見ている。
「初めまして。三玖のクラスメイトで吉浦ことりです」
ことりは四人に向かって軽く自己紹介をする。
「へぇ~三玖の。私は一花だよ」
「二乃よ」
「四葉です!」
「五月といいます。しかし、吉浦というと...」
「そうだよ!三玖の担任の先生と同じ苗字だよね」
ことりの自己紹介で五月と四葉が、ことりの苗字と先程会った教師の苗字が同じ事に気付いた。
「ええ。数学の吉浦先生は私の兄なんです」
「へぇ~、あの先生の妹かぁ」
「てか、三玖と同じクラスってことは、担任が兄ってこと?」
「ええ。そうなりますね」
二乃の質問に対して態度を変えることなく返事をすることり。
そんなことりの態度に四葉はツッコミを入れる。
「クールだ」
「私も教室で聞いた時はビックリした」
「あの。失礼かもしれませんが、ご自身のご家族の方が担任というのはやりにくくないですか?」
「いいえ。むしろ授業などは、家での雰囲気をそのままですからかえってやりやすいですね。それに、遠慮する必要もないので」
「なるほどねぇ」
五月の質問にことりが返すと一花が納得をする。
「ねぇねぇ。ちなみにお兄さんには彼女いるの?」
何の脈略もなく一花がそう質問したので、ことりは内心焦りだしている。
「な、何故そんな質問を?」
「いやぁ~、さっきお兄さんと会った時に五月ちゃんが熱い視線を送ってたからさぁ。これはお姉さんとしても気になるわけなんだよ」
「だ、だからそういうのではないと言ったではないですか一花!」
「いやいや。あの五月ちゃんの目は真剣そのものだったからね。ビビッときたね」
「一花っ!」
「そ、そうなんですね...えっと、私が知る限りではいないと思いますよ」
「おー…フリーなんだぁ。だってさ五月ちゃん」
「もぉいいです」
一花の終わらないからかいに五月は諦めたようだ。
(ちょっとちょっと!お兄ちゃんどういう事っ!?)
ことりはことりで内心穏やかではない様子である。
「まあ、五月の言わんとしてることは分からないでもないわね」
「あ、二乃もなんだ。実は私も気にはなってたんだ」
「え?」
二乃と三玖の発言にまたことりはドキッとする。
(えー!?一人じゃないの!?)
「ん?どうかしたことり?」
「う、ううん。兄さんも人気なんだなぁって思っちゃって」
「?」
ことりの様子が気になった三玖であったが、そのことりから返ってきた言葉が理解出来ず首を傾げてしまった。
「え?」
「ちょっとぉ、勘違いしてんじゃないでしょうね。私が言ってんのは、五月が見たことあるって言う方よ」
「うん、そう。私もどっかで見たことあるなって思ってた」
「あはは、ごめんねぇ。あの時の様子は吉浦さんは知らなかったよね」
「まったく…すみません勘違いさせてしまいまして。吉浦先生が昔会った方に似ていたので見すぎていた、という話です」
「あ、そうだったんですね。それじゃあ、五月さんだけではなく他の姉妹の方も見覚えがあるということですか?」
「そうなのよねぇ…ああ、あと敬語じゃなくて私たちにも三玖と同じ話し方で問題ないわよ。さん付けも要らないわ。逆に私はことりって呼ばせてもらうわね。先生とごっちゃになりそうだし」
「うん、分かったよ」
「じゃあ私も便乗させてもらうね。う~ん、実は私もあるようなないような?」
二乃とことりのやり取りに一花が介入する。
「えー!?一花もなの?あ、私は四葉でいいですけど、ことりさんって呼ばせてもらいますね。う~ん、私には全然記憶に無いんだよねぇ」
「私も五月で構いませんが、四葉同様ことりさんと呼ばせていただきますね。しかし、五人のうち四人が見覚えありということは、やはりどこかでお会いしたのかもしれませんね」
「ま、今考えてもどうしようもないんじゃない?先生本人が覚えてなさそうだし」
「一花の言う通りね」
「と、私は家がこっちだからここで。じゃあ三玖、明日からよろしくね」
「うん…」
ことりが別れ際に三玖に手を上げると、三玖もそれに笑顔で手を上げて応えた。
((((三玖が笑って応えてる!?))))
そんな三玖の行動に他の姉妹は驚きを隠せなかった。
「へぇ~、ことりも五つ子全員と会えたんだ」
仕事が終わり、家に帰ればことりの作ってくれた夕食が待っている。
風呂に入りその夕食を食べながら今日の出来事を聞き入っていた。
ちなみに、ことりはいつも遅くなるから先に食べているように連絡をしない限り自分は食べずに待っている。
だから今も一緒に夕食を食べているのだ。
「もう驚いたよ。三玖と一緒に昇降口を出ると同じ顔の人が四人いるんだから。前もってお兄ちゃんから五つ子だって聞いてなかったら、もっと驚いてたかもね」
「ははは...だろうね。二年生の数学を教えている僕からすれば、全員の特徴を早く覚えなきゃなんだよねぇ。それでどう?三玖以外の姉妹とも仲良くやっていけそう?」
「そうだね。皆良い人そうだったよ」
「そっか。ま、五人とっていう事はそうそうないかもだけど、これからも仲良くやっていってもらえればって思うよ」
「分かってるよ。そうだ、お兄ちゃんはあの五つ子とは会ったことないんだよね?」
「ああ。あんな五つ子を一回でも見たら覚えてるよ」
「だよねぇ」
箸を咥えたまま考え込むことり。
五月さんから昔会った人に似ていると言われた訳だが、五つ子なんて会えば忘れるわけないしなぁ。
「一花に二乃、三玖も見たことあるかもって言ってたから、多分会ってるなら皆一緒だと思うんだよね」
「三人が言ってたの?」
「うん。五月が昔会った人に似ているって言ってた時から気にはなってたんだって」
「そうか...」
てことはやっぱり一緒に会ってるか。もしかして、と思ったけどあの子と会った時は一人だったし。
「ま、なんにせよ。お兄ちゃん、生徒との恋愛はダメだからね?」
「ことりに言われなくても分かってるよ、まったく...そう言えば、三玖の事をダシに使ったね。数学準備室への来る口実の」
「な、何の事かなぁ......?」
目を反らしながらことりは答えるが、どう見ても口実にしてるよね。
まあ、三玖自身が姉妹と一緒に食べるとかだったら毎日来るとかはないでしょ。
そんな考えをしながら残りの夕食を食べるのだった。
今回のお話ではことりと五つ子が出会うお話を書かせていただきました。
いやぁ、風太郎との関わりがないとほぼオリジナルになるのでやっぱり難しいですね。
五等分の花嫁の主人公であるはずの風太郎が、まだ文字しか出てきていませんからね...
めげずにちょっとずつ頑張っていこうと思います。
次回も遅い投稿になると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。