少女と花嫁   作:吉月和玖

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第四章 林間学校
22.コロッケ


~中野家~

 

「こんにちはー。ごめんね~遅くなって…て、風太郎君はそんなところで寝ころんでどうしたの?」

 

ことりが家庭教師のために中野家に来たのだが、リビングでは風太郎が寝込んでおり、その傍らに四葉が座り込んでいる状況が広がっていた。

 

「あ…ことり、いらっしゃい」

「いらっしゃいませ、ことりさん」

「くっ…せっかくの家庭教師の日だってのに…」

 

笑顔で四葉が出迎えているところに鞄を持った三玖が階段を下りてきた。

 

「実は三玖が作ったコロッケを食べ過ぎたみたいでして…」

 

四葉はそう言いながらテーブルに視線を向けた。

 

「コロッケ?」

 

四葉の向けた視線を追ってテーブルを確認したことりではあるが、そこには黒い物体があった。

 

「えっと…コロッ…ケ…?」

「そうコロッケ。ことりも食べる?」

 

テーブルの上の物体がことりにはコロッケに見えなかった。しかし三玖は自信満々である。

 

「いやー…私はいいかな。というか、風太郎君の体調の悪さって食べ過ぎ以外にもあるような気がする…」

「?」

 

ことりの言葉に三玖は首を傾げている。

 

「まあいっか。鞄を持ってるってことは三玖が風太郎君の薬を買いに行くんだよね?私も付き合うよ」

「わかった。四葉、フータローのことよろしくね…」

「りょーかーい!いってらっしゃい二人とも」

 

元気よく返事をする四葉に見送られながら三玖とことりは出掛けるのだった。

 

・・・・・

 

「それにしても、なんで風太郎君が倒れるまでコロッケを作り続けたの?」

 

薬を買いに行く道すがら、ことりは疑問に思っていたことを三玖に聞いていた。

 

「フータローと四葉に試食してもらったんだけど、二人の意見が違ってて。それで、二人が美味しいって言ってもらえるまで作ってたの」

「えっと…それってどっちかは美味しいって言ったんだよね…?」

「うん。フータローはずっと美味しいって言ってたよ。だけど四葉が中々美味しいって言ってくれなくて…」

 

(うーん…風太郎君って味音痴だったのかなぁ…)

 

四葉が美味しいと言ってくれなかったことに悔しかったのか俯いてしまった三玖。そんな三玖を見ながら風太郎が味音痴だったのかと、ことりは空を見上げながら思っていた。

 

「三玖ってもしかして普段料理してないでしょ?」

「そうだけど…なんでわかったの?」

「まあね…」

 

(あの黒いコロッケを見せられたらなぁ…)

 

「それがなんで急に料理をしようと思ったの?」

「それは……」

 

そこで三玖は中間試験の結果が返却された日のことを思い出していた。

 


 

中間試験の結果が返却され、二乃の機転で無事に上杉の家庭教師の続行が決まった放課後。僕は、五つ子とことり、上杉と一緒に駅前の喫茶店にパフェを食べに来ていた。

僕の奢りということもあり、皆思い思いのパフェを頼んでいた。というか、本当に五月は特盛頼んでるよ。

最初は上杉は遠慮していたが、小さいのでもいいからと伝えると最後は折れて頼んでいた。

 

「う~ん、美味しいぃ。先生ありがとう」

「こういうご褒美があるなら次は少しだけ頑張ろうかしら」

「二乃。今回は特別なんだからね。次があるとしたら全教科赤点回避した時だよ」

「ちぇ~…」

 

一花のお礼の言葉に便乗して何やら言っている二乃に注意をしておいた。

 

「先生は食べないの?」

 

三玖が僕の前にはミルクティーしかないことに疑問をぶつけてきた。

 

「ああ。そこまでパフェは好きじゃないからね」

「甘いものが苦手なんですか?」

「うーん…そうでもないよ。ほらこの間ケーキの差し入れしたじゃない?あの時は店で食べて来てたし。まあでも、和菓子系の方が割りと好きかな。どら焼とかみたらし団子とか」

「そうなのですね」

 

四葉の疑問に答えてあげると、ずっと食べ続けていた五月がスプーンを止めて相槌を打った。

 

「兄さんはコーヒーや紅茶よりも緑茶やほうじ茶などを好むほどの和風ですからね」

「へぇ~、どこか三玖と似てるね。ね?」

「う…うん…」

 

一花が三玖に話を振るが、興味なさそうに三玖は抹茶パフェを食べながら頷いている。

 

「そうだ。好みと言えば、先生って女性のタイプとかあるの?」

「は?いきなりだね」

「そんなことないよ。前から気にはなってたし。それに、ちょっと前にフータロー君とことりがうちに泊まってやった勉強会の時に、フータロー君の好きなタイプは聞けたしね。だから次は先生ってことで」

 

何が『ってことで』なのかは分からないが、一花を始め他の姉妹は興味を持っているようだ。

 

「たしかに!先生の好きなタイプには興味あります」

「四葉まで…」

「女の子なんだもの。恋ばなには興味出てくるわ。私としては、先生の好きなタイプもなんだけど、先生と立川先生の関係に俄然興味湧くわね」

 

またそれですか。この間三玖と五月に軽くだけど説明したばかりなんだけどなぁ。

 

「はぁぁ…立川先生とは同僚であってそれ以上のことはないよ。そもそもお互いの連絡先だって知らないのに」

「え!?連絡先知らないの!?」

 

二乃が驚いた顔で聞いてきた。

 

「そこまで驚くこと?特に交換する理由もなかったからね」

「なぁーんだ、面白くない」

 

興味が失せたのか、二乃は自分のパフェの続きを食べ始めた。本当にハッキリしている子である。

 

「ま、立川先生との仲はそのくらいで。で?先生の好きなタイプはどうなの?」

 

こっちのお嬢さんはまだ諦めていないようだ。一花が同じ質問をしてきた。

 

「はぁぁ…僕なんかの好きなタイプ聞いても何も利が無いでしょうに…」

「気になるものは気になるんだから仕方ないよ」

「まあまあ。好きなタイプくらい話してもいいんじゃない兄さん?」

 

諦めて、と顔に書いてあることりからそう言われたので考えてみることにした。

うーん、好きなタイプねぇ~…

 

「そういえば、上杉はなんて答えたの?」

「俺ですか?俺は…」

「ダメダメ。フータロー君のは回答として参考にならないから」

 

上杉が話そうとしたのを被せるように一花が話した。

 

「本当ですよ。あの時は私たち一生懸命頑張ったのに!」

「なあことり?上杉はいったいなんて答えたんだ?」

「えっと……いつも元気で料理上手でお兄ちゃん想いの子なんだって」

「え、それって…」

 

ことりの言葉を聞いてある人物が頭を過ったが、ことりを見るとブンブンと首を振られた。

 

「そう…らいはちゃん。つまりフータローは最初から言う気がなかった…」

「あ、ああ…らいはさんね。なるほど…」

「?先生は違う人と思ったの?」

「い、いや。お兄ちゃん想いだと妹じゃないと駄目なのかぁって思っただけだよ」

 

三玖の疑問にとぼけたように答えた。

らいはさん以外にも心当たりがあるんだよなぁ。てか、むしろそっちしか頭を過んなかったわ。

 

「それで?先生はどうなの?」

「本当に聞きたいんだね一花は。う~ん、まあありきたりだけど優しい人かな…」

「へぇ~、いいんじゃないかな」

優しい…

 

一花の言葉に被って三玖が何か言ったような気がしたがよく聞き取れなかった。

 

「他にはありますか?」

「他!?そうだなぁ…」

 

今まで黙っていた五月が急に静かに手を挙げて聞いてきた。興味ないと思ってたのに。てか、パフェ食べ終わってるし。

 

「上杉と被るけど、やっぱり料理が出来る人かな」

「料理かぁ…」

「ん?どうかした?」

「ううん。そっかぁ…先生も料理できる人がいいんだね」

「まあ、好きな人の料理を食べてみたいっていうのもあるし、僕も料理するから一緒に料理したいっていうのもあるかな」

「ふむ。ちなみにもう一つありますか?上杉さんも三つ言ってくれましたので」

 

まさか四葉まで聞いてくるとはなぁ。

 

「うーん…これはタイプとかじゃないんだけど、やっぱり一緒にいて楽しい人、かな」

「ふふっ、面白いこと言うね」

「一緒にいて楽しい人、ですか…」

 

笑みを浮かべている一花とは対照的に、五月は何やら考え込んでいる。

 

「まあ僕の好きなタイプなんて聞いて楽しめたならなによりだよ」

「そうねぇ~…立川先生と本当は付き合ってたとかだったらもっと面白かったわ」

「まだ言うかい」

 

そんな感じで喫茶店で過ごしたのだった。

 


 

「ちょっと挑戦してみようと思っただけ」

 

喫茶店での出来事を思い出した三玖は口角を上げながら答えた。

そんな三玖を見てことりは一つの結論を導きだした。

 

(やっぱり三玖はお兄ちゃんのことを……本人がどこまで自覚してるかは分からないけどきっとそう…)

 

今までの三玖の態度を見てきたことりがこの結論を出したのは仕方のないことかもしれない。

 

「……何か手伝えることがあったら言ってね。私も料理はある程度はできるから」

「ありがとう、ことり…」

 

三玖の微笑みを見るだけでことりの心はぐるぐると渦巻いていた。

 

「そ、そうだ。さっきのコロッケなんだけど兄さんに見てもらおうよ。兄さんも料理するし何かアドバイスとかくれるかも。実は写真撮ってたんだ」

「え…?」

「じゃあ、私と三玖と兄さんでグループにして、と。お、割りとすぐに承認が来たね。じゃあ送ってみるね」

 

『三玖が料理に挑戦したんだって。さて、これは何でしょう』

 

メッセージと一緒に三玖特製のコロッケの写真をことりは送った。

その後、無事に薬を買えたので中野家に急いで向かった二人。そんな二人に和彦からのメッセージが届いていたのだが、気付いたのは風太郎に薬を届けた後であった。

和彦からは、『おはぎ?』と一言メッセージが送られていたのだ。

 

「むー…フータローと一緒のこと言ってる」

「まあ、あの見た目だったらねぇ。実際に作ってるところを見てみないと何とも言えないけど、油が少なかったり、適切な温度で揚げてなかったり色々理由があるかな…」

 

三玖に説明をしながらことりは和彦に『コロッケだよ』とメッセージを送る。すると…

 

「あ、メッセージ返ってきた。『ごめん』だってさ。後は、さっき私が言ったアドバイスが書いてるね」

「うん…」

「よし!じゃあ、私が作り方教えるから兄さんを驚かそう!ね?」

「いいの?」

「もちろんだよ」

 

そしてことりに教えてもらいながら作った三玖のコロッケは綺麗に揚げられ、四葉からも美味しいと評価されたのだ。

 

「お、兄さんから返事が来たね」

「……っ!『美味しそうだ。よく頑張りました』だって…!ことりありがとう」

「うん。よかったね」

 

無邪気にはしゃぐ三玖。そんな三玖を複雑な心境でことりは見ているのだった。

 


 

時は少し遡り…

 

「ん?メッセージ?」

 

街中を歩いているとスマホに着信が入った。

なぜことりからグループ招待が来るんだ?まあいいけど。

いささか疑問があったがすぐに承認をした。

グループ名は……二年四組って。てことは…やっぱり三玖もいるのか。何がしたいんだ?

そんな風に思っているとメッセージと写真が送られてきた。

 

『三玖が料理に挑戦したんだって。さて、これは何でしょう』

 

へぇ~三玖が料理を。この書き方だと今まで料理はやってこなかったってことだよな。それで、この写真が三玖の作った料理ってことね…………なんだこの黒い物体は。

送られてきた写真には黒い何かが皿の上に置かれているところが写っていた。

う…う~ん?なんだろう…三玖は抹茶好きから和菓子のイメージがあるからおはぎだろうか。しかし、いきなりおはぎを作るだろうか。まあいいか。どちらにしろ分かんないから思った通りの意見を伝えよう。

そして僕は『おはぎ?』とメッセージを送った。その後はまた街中の散策に興じた。特にあてがある訳ではない。そんな風に歩いていると見知った二人組を見つけた。

 

「二乃に五月じゃないか」

「げ!?」

「せ、先生…」

「げ!?とは挨拶だなぁ。何かしたの?」

 

二乃の態度もそうなのだが、五月もどこか申し訳なさそうな雰囲気である。

 

「べ、別に何もしちゃいないわよ」

「ならそこまで嫌がることないだろ。結構傷つくよ……て、あれ?そういえばなんでここに二人がいるんだろ?たしか今日って家庭教師の日だよね?ことりもそれで出掛けた訳だし」

「あーー…」

「うーー…」

「はぁぁ…サボりか」

 

僕の言葉に二人がコクンと頷いた。

どんだけ勉強したくないんだよ。

 

「きょ…今日は仕方がないのです。限定のランチが今日まででしたので」

「ランチねぇ…」

「そうだ!よかったら先生も一緒にどうですか?」

「ちょっと五月!?」

 

突然の五月の申し出に二乃も驚いている。かくいう僕も驚いているのだが。

 

「せっかくのお誘いだけど僕はもうお昼食べたしね」

「そ、そうですよね…」

 

どこからどう見てもショボンとしている五月。どうしたもんかと二乃を見ると仕方ないといった感じで切り出してきた。

 

「今から行くお店はデザートも美味しいのよ。五月がここまで言ってるんだからどう?」

「……分かったよ。そのデザートとお茶だけね」

「~~っ!はい!」

 

その後、三人で二乃と五月が向かう予定だったお店に向かった。そこは普通のレストランより格式が高いようなお店であった。

 

「しかし高級な店だなぁ。いつもこんな店に来てるの?」

「いつもって訳じゃないわ。今回はたまたまここの期間限定のランチを食べてみたかったのよ。ほら、ランチだから他より安いでしょ?」

「おー、本当だ。リーズナブルだね」

「お値段は安くしているのですが、使う食材などはしっかりとしていて味も美味しいと話題に上がっていたんです」

「へぇ~。デザートも豊富だなぁ…じゃあ僕はイチゴのレアチーズに紅茶にするか」

 

三人それぞれ注文したところにスマホに着信が入った。どうやら例のグループメッセージのようだ。中身には一言『コロッケだよ』と書かれていた。

あれコロッケだったんだ。とりあえず謝って、作り方の問題点の例をいくつか書いとくか。

 

「やけに念入りに文字を打ち込んでるわね」

「うん。ことりからなんだけど、三玖が料理したらしくてね。その写真を送ってくれたんだよ」

「料理って…まさかあの黒い物体じゃないでしょうね?」

「そう。まさかコロッケだとは思わなかったなぁ…」

 

そこでメッセージを送り終わったのでスマホをしまった。

 

「それにしても三玖が料理だなんて珍しいですね」

「あー…やっぱり普段はしないんだ」

「まったく。ただでさえ不器用なんだから」

 

そんな話をしていたらどうやら料理が出来たようでテーブルに運ばれてきた。

 

「う~ん、美味しいです~」

「ホントね。話題に上がるだけはあるわ」

 

二人とも美味しそうに食べているが、きちんと味を吟味しているようである。

 

「そういえば普段三玖が料理してないなら、中野家の料理は誰が作ってるの?」

「うちでは二乃が作ってくれています。他の姉妹はからっきしですので」

「へぇ~」

「一花は時間にルーズだし、三玖は不器用。四葉は感覚で作っちゃうし、五月は作る量を自分ベースで作っちゃうしで私が自然と料理担当になったわけ」

「先生の家ではことりさんが作ってますよね」

「まあ基本はね。前に話したけど僕も料理するし、休みの日とか試験期間中でことりが勉強に集中したい時とかは僕が作ってるよ」

 

紅茶を飲みながら吉浦家の料理事情を伝えた。

そんな感じで話をしながら、二人の料理も食べ終わろうとした時またメッセージが来た。

どうやらことりの指導のもと三玖がまたコロッケを作ったようだ。

『どうかな?』というメッセージと共に写真が送られてきた。その写真には黄金色に揚げられたコロッケが写し出されていた。若干焦げてはいるが気にならない程度である。

うん、ことりが付いてるとはいえ良くできたんじゃないかな。

 

『美味しそうだ。よく頑張りました』

 

そんなメッセージを送ると『ありがとう』と返事がすぐに返ってきた。

 

「何よ。スマホ見ながらニヤニヤしちゃって」

「そんな顔してた?いや、三玖がことりの指導のもとまたコロッケ作ったらしいんだけど出来が良かったからさ……ほら」

 

そこで二乃と五月にスマホの画面を見せてあげた。

 

「美味しそうです」

「ふーん…まあ、あの子にしては頑張ったんじゃない」

 

どうやら二人も今回のコロッケの出来は認めているようだ。

その後も、食後のお茶を飲みながら休日の午後を三人で過ごすのだった。

 

 

 




今回は色々な時間軸で書かせていただいたので少し読みにくかったかもしれません。すみません。
三玖が料理を作るようになったきっかけとして、風太郎だけでなく和彦の好きなタイプも書きましたが、料理以外がちょっとだったかもしれません。

さあ、いよいよ次回からは林間学校に向けてのお話になる予定です。また読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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