少女と花嫁   作:吉月和玖

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23.キャンプファイヤーの伝説

三玖のコロッケ事件(?)の夜。今日は僕が作った夕飯をことりと二人で食べているのだが、どうもことりの様子がおかしく思える。

どこが、と言われると答えずらいのだが、まあ長年一緒にいるうえでの感覚から来るものである。

 

「……ことり。今日何かあった?」

「え?どうしたの急に」

「いや、なんとなく何かあったんじゃないかなって感じたから」

「ふーん…そっか…えへへ、大丈夫だよ。(なん)にもない。心配してくれてありがとう」

 

心配して声をかけたのだが、なぜかご機嫌になったことり。不思議である。

 

「あー、でも今日の家庭教師は三玖と四葉の二人だけだったのは残念だったなぁ」

「それはそれは…一花は仕事?」

「そうみたい。朝から出掛けたんだって。二乃と五月もいつの間にかいなくなってたし」

「あはは…まあ二乃と五月の勉強会参加はまだまだかな」

 

それにしても一花の仕事が増えてきている事を喜ぶべきか、それによって勉強会に参加できる数が減るのを悲しむべきか悩みどころである。

 

「そういえば、もうすぐだよね林間学校」

「ああ。こっちはようやく中間試験が終わったと思ったら今度は林間学校。会議やらで大変だよ。ことりも準備は早めにするんだよ」

「分かってるよぉ。そうだ!お兄ちゃんは知ってる?キャンプファイヤーの伝説」

「キャンプファイヤーの伝説?」

 

はて?そんな話聞いたことないが。

 

「あれ、知らないんだ。生徒たちの間では結構有名な話なんだよ。林間学校の三日目の夜に行われるキャンプファイヤーでのダンスの話なんだけど、フィナーレの瞬間に踊っていた二人は生涯を添い遂げる縁で結ばれるんだって。ロマンチックだよねぇ~」

「生涯を添い遂げる縁ねぇ…」

 

どこにでもありそうな話だなぁ。

 

「あー、お兄ちゃん信じてないでしょっ」

「まあこの年にもなってくるとねぇ。ただ、そういった話だったら教師の方に回ってこないのかもね。回ってきたとしても共有することでもないし」

「ふーん…じゃあさ、まだお兄ちゃんは誰とも踊る約束してないんだよね?」

「まあそうだけど。むしろ教師が踊ることあるのかって話だよね」

「えー、きっと先生だって踊っていいよ。てことで、私と踊ろ」

「何が、てことでだよ。踊りません」

 

僕の答えにことりは不満そうに頬を膨らませている。

 

「まったく…そういえば、その伝説に関係して告白が増えてたりしてる?」

「あー…まあね…」

 

僕の言葉にことりはげんなりとした顔をしている。

こういったイベントがあると、普段でも告白されることりは、更に告白される機会が増えるのだ。

ことりにどんな考えがあるのかはとりあえず置いておいて、ダンスのお誘いを無くすために僕をカモフラージュに使いたいってことだろう。うん、きっとそうだ。

 

「とは言え、さすがに兄妹でダンスはないでしょ」

「そうかなぁ…学校行事ってことでノリでいけると思うんだけどなぁ」

 

ノリかよ。

 

「だったら上杉と踊るとかは?友達だって言えばそんなに大きな話にならないでしょ」

「風太郎君かぁ…」

 

何か思うところがあるのか、ことりは夕飯のミートソースのスパゲッティ麺をフォークでくるくる巻いている。

 

「上杉じゃ不満?」

「そんなことないよ。風太郎君はいい友達だよ……でもなぁ……うーん…まあいざって時は風太郎君にお願いしてみるよ。て言うか、お兄ちゃんがうんって頷いてくれるだけで解決してるのにぃ」

 

先ほどまでの考える素振りは何処かへいったようで、ことりは不貞腐れたようにミートソースを食べている。

それにしてもキャンプファイヤーの伝説ねぇ。自分には関係ないことだろうけど、頭の片隅にでも入れておこう。

そんな風に考えながら、僕も残りのミートソースを食べるのだった。

 


 

「はぁぁ……」

 

明日を林間学校に控えた今日。最後の林間学校についての職員会議が終わって、職員室の自分の席に戻ると隣の立川先生が大きなため息をついていた。

 

「どうしたんですか?珍しいですね、そんな大きなため息をつくなんて」

「す、すみません」

「全然構いませんよ。気になっただけですので。何かありました?」

「……実は林間学校でのキャンプファイヤーのダンスを何人かの生徒から誘われてまして…」

 

相談相手が欲しかったのか、意外にもすぐに話し出してくれた。

 

「林間学校の?」

「はい…」

「立川先生は人気がありますからね。踊りたいって思う男子生徒も出てきますよ」

「そんなものなんですかね…」

「そりゃあ、先生は美人ですからね。それに人当たりも良くて人気が出るのも頷けますよ」

「そ…そんな!からかわないでくださいよ……というか美人と思ってくれてるなら、もう少しアプローチしてきてもいいんじゃない…?

 

僕の言葉に立川先生は慌て出した。何やら言葉を口にしているようだが聞こえない。怒らせてしまっただろうか。本心なのだが、あまり伝わりにくいものだな。

 

「しかしキャンプファイヤーですか…そういえばことりから生徒間で回ってる伝説があるって聞きましたね」

「伝説ですか?」

 

お互いにプリントの整理などをするために手を動かしながら話を続けた。

 

「ええ。なんでも、ダンスのフィナーレの瞬間に踊っていた二人は生涯を添い遂げる縁で結ばれるとのことです」

「生涯を…」

「凄いですよね。最初に作った人はロマンチストだったんでしょうね。一生に一度のイベントだからこそ出来たのかもしれません」

「……」

 

ことりから聞いていたキャンプファイヤーの伝説の話をしたのだが、なぜか立川先生は手を止め何やら考え込んでいる。

 

「立川先生?」

「あ…ああ。すみません。そんな話があるならなおさら断っていかないとと思いまして」

「ですよねぇ。まあ、最後の瞬間に踊っていなければ意味はないっていう風にも聞こえますけどね」

「また夢のないことを……ち、ちなみに先生は誰かに誘われましたか?」

「僕ですか?僕は妹のことりから。なんでも、告白の頻度が多すぎるからカモフラージュになって欲しいみたいでして。ただ、さすがに兄妹で踊るのは気が引けてしまって断りましたけどね」

「そ…そうですか…他はないんですか?た、例えば中野さんとか…」

「中野姉妹ですか?ないですよ。むしろキャンプファイヤーの事も知らないんじゃないですか」

「そうですか……ほっ

 

まあ二乃辺りは友人が多そうだし知ってそうだけど。だとしても二乃から誘われることは無いだろう。

その後は林間学校の事務的な話をするのだった。

 


 

~二年四組教室~

 

時は少し遡り。帰りのホームルームが終わり(みな)がそれぞれ放課後どうするか話していた。

 

「あ、ことり。それに中野も。ちょっと」

 

そこで和彦はことりと三玖を教壇まで呼び出した。

 

「どうしたんですか、先生?」

 

生徒がまだ何人かいるので畏まった態度でことりは応じた。

 

「今日は職員会議があって数学準備室にはいないから。それを伝えとこうと思ってね」

「分かった…」

「今日は元々図書室での勉強会のつもりだったからちょうど良かったかも」

「そっか。まあ入れ違いにならなければと思っての伝言だから。じゃあ二人とも勉強頑張って。明日は少し早いし、早めに切り上げるように上杉にも伝えといてくれ」

「「はい」」

 

そこまで伝えた和彦はそのまま教室を出ていった。

 

「職員会議か…」

「まあ、林間学校も明日に控えてる訳だし。最後の調整とかあるんだろうね。帰りが遅くなるみたいなことは言ってなかったし、夕飯は普通に作るか。じゃあ図書室行こっか」

「うん…」

 

ことりと三玖の二人も席で自分の荷物を持つと教室を後にした。

 

「今日の夕飯は何作るの?」

「え?あー、どうしよっかなぁ…オムライスとかいいかも」

「オムライス…今度作り方教えてほしい…」

「ふふっ…いいよ。また三玖の家で教える?うちでもいいけど」

「え、でもことりの家だと…」

「ああ、兄さん?なんだったら味見役になってもらうのもいいかもだね」

「か…考えとく…」

 

そんな風に話しながら二人が歩いていると、見知らぬ男子生徒が声をかけてきた。

 

「あの、吉浦さん。少し時間いいかな?」

 

(またか…)

 

「ここで話せないこと?」

「ここではちょっと…」

「はぁ…三玖。悪いんだけど先に行っててくれないかな。風太郎君には遅れるって伝えといて」

「うん…」

 

少しだけ不機嫌そうに三玖に伝えたことりは男子生徒と行ってしまった。

 

(今のなんだったんだろう…クラスメイトじゃなかったよね……ことり、少し機嫌悪かったなぁ。その前まではあんなに楽しそうに話してたのに…)

 

状況がよく分かっていない三玖は色々な考えをしながら図書室に向かった。そしていつもの席に向かったのだが…

 

「よう、三玖」

「……」

 

なぜか金髪のカツラにピエロの仮面をした風太郎が待っていたのだ。

しかし三玖はどう反応をすれば良いのか分からず無反応のまま立っていた。

 

「俺が悪かった。だが、反応もないのも傷つくぞ」

「ごめん…」

 

仮面を外しながら風太郎は恥ずかしそうにしていると三玖が謝ってきた。

 

「でも、なんでそんな格好してるの?脇にある箱は?」

「ああ。クラスで林間学校の肝試しの実行委員になってな。この箱の中身は仮装道具だ」

「ふーん…あ、そうだ。ことりは誰か知らないけど男子生徒に呼び出されて少し遅れるってさ」

 

箱の中身の仮装道具を見ながら風太郎の話を聞いた三玖はことりが遅れて来ること伝えた。

 

「教師じゃなく生徒に呼び出されたのか?」

「うん。私は知らない人だったけど、もしかしたらことりの知り合いかも」

 

そんな話をしているところに、元気がありそうな足音が聞こえてきた。

 

(四葉かな…)

 

すると風太郎はまたピエロの仮面を付けだした。どうやら四葉にも三玖と同様の挨拶をするようだ。

そんな風太郎の行動を、ため息混じりに勉強の用意をしながら三玖は見ていた。

 

「上杉さん、明日から林間学校ですよ」

 

そこに元気よく四葉がやってきたので、風太郎は仮装状態でそちらを向いた。

 

「四葉」

うわああああああああああ

 

今度は三玖とは違い良い反応が返ってきたのに満足したのか、カツラと仮面を付けたり外したりして風太郎は四葉の反応を楽しんでいた。

 

パッ…

 

「俺だ」

「上杉さん!」

 

カポ

 

「誰ーッ!?」

 

パッ…

 

「俺だ」

「よかった~~」

 

カポ

 

「助けて!!」

 

(フータロー。楽しむのはいいけど、ここが図書室ってこと忘れてるよね。あ……)

 

「図書室ではお静かに!」

「「すみません」」

 

三玖の心配していた通り、図書室に駐在していた教師に風太郎と四葉は怒られるのだった。

 

「それにしてもその金髪のカツラ微妙に似合ってますね。どうしたんですか?仮装道具もこんなに揃えて」

 

先生に怒られた後、先ほど三玖が聞いたことを四葉はそのまま聞いた。

 

「肝試しの実行委員になったんだって」

「へぇ~、肝試しって林間学校のですよね?上杉さんにしては珍しく社交的ですね」

「ふん。やりたくてやっている訳じゃない。うちのクラスは肝試しの担当らしいんだが、あいつら俺が自習をしている間に面倒な役を俺に押し付けてやがった」

「お気の毒に...」

「自業自得」

 

哀れんでいる四葉に対して三玖はストレートに伝えた。

 

「とびっきり怖がらせてこの恨み晴らしてやる。忘れられない夜にしてやるぜ」

 

風太郎は風太郎で金髪のカツラとピエロの仮面を付けた状態でクククと笑いながら楽しんでいるように見える。

 

「ノリノリだね。同じクラスなのに五月は手伝ってくれなかったんだ」

「そうです!一人にやらせるなんてあんまりです。ちょっと一組に抗議してきます!」

「やめておけ。三玖の言う通り自業自得だ。それに林間学校自体がどうでもいいしな」

「むぅ...」

 

林間学校がどうでもいい。風太郎のそんな言葉に四葉は面白くないといった顔をした。

 

「では!林間学校が楽しみになるお話をしましょう!クラスの友達に聞いたのですが、この学校の林間学校にはとある伝説があるそうなんです。その伝説というのは、林間学校の最終日に行われるキャンプファイヤーでのダンス。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは生涯を添い遂げる縁で結ばれるというのです。どうです?ロマンチックですよね!」

「非現実的だ。くだらないな」

「うん」

 

四葉の伝説の話に冷めたような反応をする風太郎と三玖。この二人だったらこの反応も仕方ないのかもしれない。だが、そんな反応も面白くないと四葉も思ってしまうのもまた仕方がない。

 

「冷めてる!現代っ子!」

「学生カップルなんてほとんどが別れるんだ。時間の無駄遣いだな」

「それでも好きな人とはお付き合いしたいじゃないですか」

 

いつもの風太郎の理論を伝えるも四葉は諦めることなく風太郎に詰めよっている。

 

「とにかく今日は教科書よりしおりをしっかり読んで気分を高めておくこと!」

「えー…」

「……」

 

そんな二人のやり取りを見ながら三玖はあることを考えていた。

 

「なんで好きな人と付き合うんだろ」

「「え」」

 

三玖のこんな質問に対して四葉はもちろん、風太郎も驚きの声をあげた。

 

「うーん…なんでだろう…」

 

今まで考えたことも無かったのだろう。四葉は困りながら考えている。そこに新たな来訪者が現れ三玖の疑問に答えた。

 

「その人のことが好きで好きで堪らないからだよ」

 

三玖の疑問に答えたのは一花である。一花は自身の手を胸に持ってきて芝居がかって話している。

 

「三玖にも心当たりあるんじゃない?」

「ないよ」

 

一花の言葉に三玖は少し照れながらも否定をした。

 

「一花遅い!もう始めるぞ!」

「えーっと、何が始まるのかなー?」

 

風太郎は普通に勉強を始めると言っているのだが、風太郎は金髪のカツラにピエロの仮面を付けたままなのだ。一花の言葉も無理はない。

 

「でも今日も撮影が入ってるんだ、もう行かなきゃ。今は何よりお仕事優先!ごめんね寂しい思いをさせて」

「寂しくなんかねーよ」

「頑張って」

「一花ファイト!」

 

三玖と四葉の応援の見送りを受けて図書室から出ようとした一花であったが、その一花のスマホに着信が入った。 

 

「……あーやば...」

 

着信があったメッセージを見た一花は一言そう口にすると、三玖に向かって手を合わせながらお願いをしてきた。

 

「クラスの子たちに呼び出されちゃったんだけど、もう仕事に行かないと。林間学校についてまだ決めてなかったことがあったみたい。てことで、三玖いつものお願い」

「分かった。四葉、フータロー先に始めてて。多分、ことりもそろそろ来ると思うから」

 

三玖はそう言いながら自身の鞄の中からあるものを出して一花とそのまま図書室を出ていった。

 

「何なんだ?」

「あはは…まあ五つ子あるあるです。すみません、私もちょっとお手洗いに行ってきますね」

 

そう言った四葉は図書室から出ていった。そして風太郎が一人残された。

 

「まったく。あいつらには自分の成績に対する危機意識的というのはないのか」

 

そんな文句を口にしながら自分の勉強に取りかかるのだった。そこにことりがやってきた。

 

「おまたせー、ってあれ?風太郎君だけ?」

「ああ。一花は仕事だとよ。三玖はその一花に何か頼まれて出ていった。四葉はトイレで、二乃と五月は知らん」

「あはは…みんな自由だねぇ」

 

乾いた笑いを出しながらことりも勉強の用意を始めた。

 

「お前の用事は済んだのか?」

「え?あー…うん。まあ、とりあえずはね…」

「ならいいが。お前のことは頼りにしている。四葉が戻ってきたら頼むぞ」

 

風太郎は自身の勉強の手を止めることなく、ことりに顔も向けないままそう伝えた。

 

「うん……ねえ?風太郎君ってもう誰かとキャンプファイヤーで踊る約束ってした?」

 

ことりの突然の質問に風太郎は勉強の手を止めてことりを見るために顔を上げた。そこには真剣な顔で質問をすることりの顔があった。

 

「俺がそんなものに興味を持ってるように見えるか?」

「あははは、見えないかな」

「ならそう言うことだ」

「…………じゃあさ。私と踊ってくれないかな?」

「は?」

 

ことりの更なるとんでもない言葉に風太郎の頭は停止してしまった。

 

「戻りました!……って、あれ?どうかしましたか?お二人とも何やら雰囲気が…」

 

そこにトイレで席を立っていた四葉が戻ってきた。

 

「ううん、なんでもないよ。風太郎君、今伝えたこと考えといてね」

「あ…ああ」

「よし!じゃあ四葉も戻ってきたことだし、ビシバシいくよ!」

「ほ、ほどほどにお願いします…」

 

先ほどまでの真剣な表情はどこへやら。ことりはいつもの笑顔で四葉の勉強を見ている。一方の風太郎はというと、まだ頭が追いついていなかった。

 

 




話的には中途半端なところかと思いますが、今回はここまでとさせていただきました。
林間学校のキャンプファイヤーの伝説をどうやって和彦に知ってもらうかを悩みましたが、ことりから団欒時に伝える形を取らせていただきました。

いよいよ始まる林間学校。教師目線と生徒目線でかなり違うので書いていくのは難しいですが頑張ります。教師サイドの展開は原作にほぼほぼ無いので、今更ですがオリジナル部分を交えながら書かせていただきます。

では、また次回投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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