少女と花嫁   作:吉月和玖

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24.ダンスのお相手

~三玖side~

 

一花に図書室でいつものをお願いされた三玖はあるものを手にトイレに来ていた。

 

「はぁぁ…一花の変装って人前だとテンション上げなきゃだから疲れるんだよね」

 

そんな文句を言いながらも用意していたウィッグを被り、服装を一花と同じにしていく三玖。そう、三玖が鞄から取り出したのは変装用のウィッグで、たまにこうやって姉妹の変装をお互いにしているのだ。所謂(いわゆる)入れ替わりというやつである。

準備が出来た三玖は一路二年二組の教室に足を進めた。しかしその二組のクラスからは人の気配がほとんどないと三玖は思った。

 

(あれ?林間学校での決めごとがあるって一花は言ってたのに。終わったのかな)

 

疑問に思いながらも三玖は二組の教室の扉を開いた。

しかしそこには男子生徒が一人立っているだけだった。

 

「な、中野さん...来てくれてありがとう」

「あれ?えーっと、前田君だっけ...クラスのみんなは?」

「悪い、君に来てもらうために、林間学校のことについてって嘘をついた」

「えっと、一...私に何か用事かな?」

「俺とキャンプファイヤーでのダンスを踊ってください!」

 

状況が読み込めない三玖は危うく一花と言いそうになりなんとか堪えた。その事には前田は気づいていないようで、頭を下げて一緒にダンスを踊ってほしいと申し込んだ。

 

「え?私と?なんで?」

「それは...中野さんのことが好き…だからです...」

 

(そうなんだ。一花可愛いからよくあるのかな。でも今はまずいよ。私こういう経験ないから何言えばいいかわかんないよ)

 

もうパニックしかない三玖は、これ以上ここに居ればバレてしまうと考え、この場を去ろうと決めた。

 

「ありがとう...返事はまた今度でいいかな...」

「今聞きたい!」

「えっ...えっと、まだ悩んでて...」

「じゃあ可能性はあるんですか!」

「いやぁー」

 

捲し立てるように来る前田に対して三玖はただただ困る一方である。三玖はどうすることも出来ず、前田はそのままどんどん近づいてきた。そんな時だ。

 

「あれ?何かいつもの中野さんと少し違うような...雰囲気変わりました?」

「!」

 

(まずい!)

 

「髪...ん?なんだろう...そういえば中野さんって五つ子でしたよね。もしかして...」

 

なおも三玖に近づこうとしている前田。三玖は怖くなり目を瞑って固まってしまった。

 

(どうしよう…怖い…助けて…!………()()()()()!)

 


 

時は少し戻り。

立川先生と話した後、トイレに行くついでに二年生の教室を見て回った。明日は林間学校なのだから、誰かいれば帰るように促すつもりでいる。だが、どうやら皆残らず帰っているようだ。

 

「しかし、立川先生にダンスのお誘いが来てるとはね。あの話し方だと一人や二人じゃないでしょ。やっぱ人気なんだなぁ」

 

ホント自分への誘いがなくて良かったぁ。誘われると断るのがまた面倒くさいんだよねぇ。キャンプファイヤーの伝説を知ってる生徒からの誘いとなると告白されてるようなもんだしね。

 

「……ことりのやつ大丈夫だろうか」

 

あいつ告白されるとやたら不機嫌になるからなぁ。勉強会に差し支えなければいいけど。本当はあいつの手助けになってやりたいんだが、さすがに生徒達の前でのダンスはなぁ……まだ困ってるようなら少しは考えてやるか。

そんな考えをしながら二組の教室に差し掛かったのところで人の気配を感じたので中を覗き込んだ。すると男子生徒が女子生徒に何やら迫っているようだ。

てか、あの女子生徒って一花じゃないか。何やってんだか。生徒間の問題にはあまり介入しないほうがいいが、こればっかりは仕方がない。えっと、男子生徒は前田か。ただでさえ目つきが悪いのに、そこまで迫ったら相手も怖がるでしょうに。

 

「どうした?あんまり良くない雰囲気に見えるけど?」

「げ!?せ、先生!」

「…っ!」

 

僕の登場に前田は後ずさったが、一花は逆に僕の腕に自分の腕を絡ませてきた。

 

「中野?」

「……」

 

腕を絡ませている一花に声をかけるも震えているだけで返事がない。

 

「前田。何したの?」

「な、何もしてないっすよ。た、ただ…その…中野さんをキャンプファイヤーのダンスに誘ってただけっす」

 

本当かよ。めっちゃ怖がってんじゃん。一花がここまで怖がるのなんて相当だよ。

 

「ごめん!私、先生と踊ることになってるから!」

「は?」

「な、なにーーー!?」

 

先ほどまでの震えは多少減ったようだが、力強く一花はそう宣言した。

その前に僕には何のことかサッパリなのだけれども。

 

「じょ、冗談はよしてくださいよ。さすがに先生とはありえないですって」

 

前田もさすがに教師とダンスは無いと思ったようで、一花に冗談ですよねと聞いてきている。

 

「う、嘘じゃないよ。本当に先生と約束したんだから。ね、先生?」

 

こちらに顔を向けている一花ではあるが、どこか懇願しているように感じられる。

これは仕方ないか。考えてる時間もない。

 

「……本当だよ。確かに一花からお願いされててそれを承諾した」

「先生…」

「ま、マジかよ。てか、先生名前呼びに…」

「ああ、これ?中野姉妹達に承諾もらっててね、人前では中野呼びだけど区別するための時は名前で呼んでるんだよ」

「そうだったんですか…」

「ちなみに一花とは今前田が考えてるような関係性じゃないからね」

「え?」

 

下を向いてしまった前田に話しかけると顔を上げた。

 

「一花は他にもダンスの誘いがあってたみたいでね。でも今はそういうのに興味持てないみたいでさ。それで教師である僕と踊ることで断る口実を作ろうとしたんだよ。ことりを通じてある程度は仲良くさせてもらってるからね」

「なるほどっすね」

 

だいぶ落ち着いてきたようで前田も顎に手を当てて考えている。しかし、一花はなかなか腕を離してくれず未だにくっついたままである。

そんなに怖い子じゃないんだけどね前田は。

 

「あの...こんなことを聞くのは変だって分かってるんだけど、何で好きな人に告白しようと思ったの?」

 

そんな一花が少しだけ体を離して前田に質問をした。

 

「マジか。中野さんってそうな風に思ってたのか...そーだな、とどのつまり、相手を独り占めしたい!これに尽きる」

「!」

「はぁーあ。林間学校までに彼女作りたかったってのに、結局このまま独り身かーっ!」

「前田ならすぐにいい人ができるよ」

「先生に言われてもなぁ…じゃ、俺はこれで」

 

そこで前田は手を振りながら帰っていった。なので今は僕と一花しか教室にはいない。

 

「ふぅ~…とりあえずもう大丈夫かな。一花、そろそろ離れてくれない?」

「あ、ごめん…」

 

一花はぱっと絡めていた腕を解き、僕からも離れてくれた。

それにしても前田がいなくなり冷静に一花を見ていると先ほどから違和感を多く感じている。一花であれば、あの程度自分でなんとかするのではないだろうか。

うーん…一花かどうか見分けるポイントとかあったかなぁ。あ、そうだ。

 

「一花、ちょっとごめん」

「え…」

 

僕はそこで一つだけ思い出した事があり、おもむろに一花の右側の髪をかきあげた。するとそこには耳が出てくる。しかし、この一花にはその耳にあるべきものがない。

 

「やっぱり。君、一花じゃないね」

「…っ!」

 

僕の言葉に驚いた表情をこちらに向けられた。

 

「な…なんで…」

「最初から若干の違和感があったんだよ。で、一花と言えば姉妹で唯一ピアスしてるでしょ。それでだよ」

 

かきあげていた手を離しながら一花に変装をしている誰かに説明をしてあげた。さすがにこの時点で変装してるのが誰かまでは分からんが。

 

「で?君は誰なんだい?さすがにそこまでは僕も分からないからさ」

 

誰なのかを確認するように伝えると被ったいたショートカットのウィッグを外してこちらを申し訳なさそうに見た。セミロングで前髪が目を隠すほど長い髪型をした子が。

 

「なんだ、三玖だったのか」

「!わ、わかるの!?」

「いや、ここまでされたらさすがに分かるよ。三玖の前髪は特徴的だからね。しかし変装巧すぎでしょ」

「でも先生には見破られた」

 

笑いながら変装の巧さを伝えるも悔しそうに見破られた事を残念がっている。

いつまでも教室にいることもないだろうってことで、三玖を図書室に送りながら他の教室を見て回ることにした。

 

「まあ、今回見破れたのはあまりにも怖がってたからね。一花だったら自分でなんとかしてそうだったし」

「そっか…」

「それにしても何でまた入れ替わりなんてしてたの?」

「一花、お仕事があるからって。けど、クラスの人から林間学校のことでまだ決めてないことがあるって呼び出されたの。それで昔からやってたように入れ替わったんだ。まさか告白の場なんて思わなかった…」

 

疲れた表情でそう話す三玖。恋愛関係については慣れていないようだ。

 

「ま、これに懲りて入れ替わりなんて()めるんだね。ところで、勢いとはいえあんな約束して良かったの?」

「あんなって?」

「キャンプファイヤーのダンスだよ。そもそも断って良かったのかって話」

「大丈夫だよ。先生も言ってたみたいに今の一花は何よりもお仕事優先って言ってたし」

「はぁ…とは言え、一花とのダンスどうするかなぁ」

「……」

 

図書室に着いた僕は三玖と別れ職員室に戻るのだった。

 


 

~ショッピングモール~

 

三玖が図書室に戻った後、風太郎の林間学校での洋服選びのため一花以外の姉妹とことり、風太郎の六人でショッピングモールに来ていた。そこでは姉妹達による風太郎のファッションショーが行われた。

 

「では、まずは私からですね!普段から地味目な服装なので、派手な服を選んでみました!」

「多分だけどお前ふざけてるな?」

 

四葉の選んだ服は派手なのだが、服にはこれでもかって程動物の絵柄が載っていた。しかもやたらとカラフルなデザインなのである。

 

「フータローには和装が似合うと思ったから、和のテイストを」

「和そのものですけど!」

 

次の三玖が選んだのは、華道などの家元が着ていそうな服装である。林間学校に着ていく服装であるかというと違うと誰もが思うであろう。

 

「私は男の子の服がよく分からなかったので、男らしい服装を選ばせていただきました」

「お前の男らしい像はどんなだよ!」

 

次の五月が選んだのは、所謂(いわゆる)ヘビーメタル系の服であった。上着も肩まで破けており、ジーパンもあちこち破けている。

 

「......」

「二乃本気で選んでる」

「ガチだね」

「あんたたち真面目に選びなさいよ!」

「さっすが二乃。センスあるよ」

「当たり前でしょ!」

 

最後の二乃が選んだ服はカジュアル系で無難な服装ではあるが風太郎によく似合っておりことりも誉めている。

結局はこの二乃の服に決まったのでそれを姉妹達が買うためにレジに並んでいた。どうやら自分たちの物も買っているようだ。

 

「ったく俺で遊びやがって」

「ふふふ…みんなだって風太郎君に似合う服を本気で選んでたと思うよ」

「だといいんだが…」

 

そんな姉妹達をレジから離れたところでことりと風太郎が待っていた。

 

「……お前は選ばなかったんだな」

「おやおやぁ~、私の選んだ服を着てみたかったのかなぁ~?」

「ち、(ちげ)ぇよ!」

「ふふっ、まあ私の選んだのは二乃と似たような感じだった、ていうのもあったんだけどね。せっかく二乃が風太郎君に似合うものって選んでくれたんだもん。そっちを優先したいじゃない?」

 

ニッコリと笑顔で答えることり。そんなことりの態度に風太郎は頬を掻いている。

 

「まあ、お前がそれでいいんなら……それで、さっき言ってたキャンプファイヤーのダンスのことなんだが…」

「うん」

 

お互いに顔を見ずに話が続く。

 

「なんで俺なんだ?」

 

風太郎はもっともな質問をことりに投げかけた。二人の見ている方向では四人の姉妹にちょうどレジの順番が回ってきたところである。

 

「……嫌な意味で取ってほしくないんだけど、私って男子からの告白が多いんだ」

「らしいな」

「それもあって、今度の林間学校でのキャンプファイヤーのダンスに誘ってくる男子が後を絶えないんだよね」

 

いつもの明るい雰囲気とはどこか遠いことりの態度に風太郎も感じ取っていた。

 

「それで誰か相手でもいればみんな諦めてくれるかなって。それで風太郎君にお願いしたの。風太郎君は私にとって友達でもあるし、風太郎君とだったら踊ることに抵抗はないしさ」

「なるほど。俺を矢面に立たせる訳か」

「まあ、悪く言えばね…ごめんね。私の問題に巻き込もうとして。いいんだよ無理に付き合ってくれなくても」

 

そこでことりは風太郎の方を自傷気味に笑いながら見て答えた。

 

「はぁ…わかった。俺なんかで良かったらダンスに付き合ってやる。下手くそでも文句言うなよ」

「いいの…?」

「お前には同じ家庭教師として助けられてるところもあるからな」

「風太郎君……ホントそういう優しいところ二乃や五月にも伝わればいいのにね」

「ふんっ」

 

笑顔で風太郎を見ることり。そんな視線から逃れるように風太郎がそっぽを向いてしまったところに四人が二人のところに戻ってきた。そして買った服が入っている袋を風太郎に渡した。

 

「本当にいいのか?買ってもらうことになって」

「いいんですよ!気にしないでください!」

「うん」

「そうよ!だっさい服装で私達の近くにいられても迷惑だしね」

 

風太郎の申し訳なさそうな言葉に四葉と三玖と二乃がそれぞれ返事をした。

 

「それにしても…男の人と一緒に服を選んだり買い物をしたりして、これってまるでデートって感じですね!」

「こ、これはただの買い物です。学生の間に交際だなんて不純です」

「あー、五月ってば上杉さんみたいなこと言ってる」

「一緒にしないでください!私達はあくまでも教師と生徒、一線を引いてしかるべきです!」

 

四葉の言葉に五月は瞬時に反応して風太郎に詰め寄るようにしている。

 

「言われなくても引いてるわ!」

 

そんな五月の言葉に風太郎も即座に答えた。

 

「ほら、そんなやつほっといて残りの買い物済ませるわよ」

「そうですね。あなたはここで待っていてください」

「は?なんでだよ」

「いいからそこで待ってなさい!」

「そうだよ。私たちと一緒に待ってよ」

 

二乃と五月が待っているように言うもなおも食い下がる風太郎にことりも待つように伝えた。

 

「そうはいくか!さっきは俺の服を勝手に選んでいたんだ。今度は俺がお前らの服を選んで...」

「下着!」

「買うんです!」

「待ってまーす」

「デリカシーの無い男ってほんとサイテー!」

 

二人が下着を買うことを分かった風太郎はようやく引き下がった。

 

「そういうことなら俺は帰るわ」

「そう?」

「上杉さん!」

 

帰ろうとしている風太郎を四葉が呼び止めた。

 

「明日が楽しみでもしっかり寝るんですよ」

「言われなくても寝るよ」

「しおりは一通り読みましたか?」

「読んでねーよ」

「サボらず来てくださいね」

「あー、わかったわかった」

 

怒涛の如く詰め寄ってくる四葉に諦めのように返事をする風太郎。

 

「うん偉い!最高の思い出を作りましょうね」

 

そんな風太郎の答えに満足したのかニッコリと笑顔で四葉は答えた。

 

「そうだね。じゃあね、風太郎君。また明日」

 

風太郎が帰るということなので、三玖と四葉とことりの三人も二乃と五月の買い物の方に行くことにした。

そして、帰ろうとする風太郎の携帯に着信が入った。

 

親父(おやじ)か。どうしたんだ?…………え?」

 

風太郎の父、勇也(いさなり)からの電話の内容を聞いた風太郎は家に向かって全力疾走で行ってしまうのだった。

 

 




風太郎はことりからのダンスのお誘いがありましたので、一花のダンス相手は和彦にしてみました。
教師と生徒のダンスはどうかと考えましたが、まあ和彦も若い先生だしいいかという結論に至りました。

さあ、風太郎の服の買い物も終わりましたのでいよいよ林間学校が始まります。

では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。


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