迎えた林間学校当日。空は晴れ渡っており良い天気だ。良い天気ではあるのだが…
「いやー、天気に恵まれて良かったじゃないか」
「そうですね」
なぜか僕は理事長室に呼ばれて理事長と話をしている。
「あ…あの、理事長。それでご用件とは?」
「ふむ。そんなに緊張しなくても構わないよ。中野さんから娘たちの事を頼むように言われていてね。それを君にも伝えておこうと思っていたんだよ」
僕はいつから中野姉妹担当になったのだろうか。
「中野姉妹に限らず生徒全員の安全はしっかりと守らせていただきます。もちろん、理事長のご子息祐輔君も」
「そうか。まあ、息子についてはそこまで心配はしていないが君がそう言うのであれば大丈夫だろう」
窓から外を見ながら理事長は話しているので表情は見えないが声色から安心していることが伺える。
トゥルルル…
そこに理事長室の電話がなった。
「はい…主任かね。どうしたのかね?……何?……ふん……ふん。分かった。折り返すから暫く待ってなさい」
電話の相手はどうやら学年主任のようで、神妙な顔つきで理事長は受けていた。何かトラブルだろうか。
「君?中野さんの娘さんの誰かと電話は出来るかね?」
受話器を置いた理事長から急に聞かれた。
「え?一応五人とも連絡先を知ってますが、何かありましたか?」
「……中野さんの娘さん五人がいなくなったそうだ」
「は!?五人全員ですか?」
「とにかく状況を確認したい。すぐに連絡をしてくれたまえ」
「わ、分かりました!」
何やってんだあいつらは…とにかく誰かに連絡だよな。
そこで僕は五月の連絡先をタップして電話をした。
『はい』
「五月か!?今どこにいる?」
『……今は姉妹と一緒にマンションに向かってるところです』
「は!?マンションって家に帰ってるのか?」
『帰っていると言えば帰っているのですが、別の目的があります』
「何?忘れ物?」
『違います。その…上杉君が林間学校に来られなくなったとのことで、私たちで迎えに行こうと思っておりまして。それで父の送迎担当の方にお願いをするためにマンションに向かっています』
ツッコミどころが満載ではあるがとりあえず理事長と共有しよう。
「ちょっと待ってて……理事長、彼女達と連絡が取れまして、どうやら林間学校に来られなくなった上杉を迎えに行くために自身の家の車で迎えに行くと考えてるみたいです」
「まったく、大それた事をしでかす子たちだね。とは言え、このままではあの人に迷惑をかけてしまう。それに連れ戻すにしてもバスはもう出る時間だし。何かないか…」
対応策に思案をしている理事長。あの人っていうのは多分中野さんの事だろうけど、だいぶ気にしてるなぁ。スポンサーにでもなってもらってるのだろうか。
そんな考えをしていると、こちらをじっと見ている理事長と目が合った。何か嫌な予感がする。
「君、車の免許は持っているかね?」
「持ってますが…」
「車は?」
「ありますね……八人乗りのが…あの、まさかとは思いますが…」
「うん。君は察しが良くて助かるよ」
ニッコリと笑いながら理事長がぼくの肩に手を置きうんうんと頷いている。
「君のクラスは副担任の先生にお任せしよう。それはこちらで対応しておく。だから彼女達のこと頼んだよ」
笑顔でそう言われたら何も言い返せない。悲しき大人の社会である。
「あー、主任かね?先程の件なのだが……」
僕の返答も聞かずに電話で学年主任に連絡している。トントン拍子で話が進んでしまっているようだ。
「はぁぁ…ごめん、待たせた」
『それはいいのですが、ずいぶんお疲れのようなお声ですね』
「ははは…色々あってね…車の手配はもう済んだ?」
『ちょうど今からしようとしたところでしたが、先生に待つよう言われてましたのでまだしてません』
「そいつは良かった。手配はいらないから」
『…っ!それは戻ってこいと?』
「あー…そう言えたら良かったんだけどね。今からじゃバスの出発が遅れちゃうでしょ?だから僕が車を出すことになったから」
『え!?先生が?』
「ああ。だから悪いんだけど、今度はうちのマンションに向かってくれないかな。僕もすぐに向かうから」
『わ、わかりました!』
そこで電話が終わったのでスマホをしまう。すると、理事長も電話が終わったようである。
「待たせたね。向こうには君が六人を連れてくるということで話している。後、立川先生も連れていきなさい」
「え?立川先生ですか?」
「ああ。現地まではかなりの距離があるからね。運転の交代要員だよ。幸いにして今日一日は移動のみであるから副担任の先生だけで現場は問題ないだろう」
「分かりました。では立川先生と合流後車のあるうちのマンションに戻り、そこで中野姉妹と合流。そして、上杉も来れるようでしたら連れて現地に向かいます」
「うむ。長旅で大変かもしれんがよろしく頼む。そうだ、何かあればいけないし連絡先の交換をしておこう」
すると理事長は自分のスマホを取り出した。そこで連絡先の交換をしたところで理事長室を後にした。
職員用玄関から外に出ると立川先生が待っていた。
「立川先生、お待たせしました。すぐに向かいましょう」
「はい!しかし、林間学校初日から大変なことになりましたね」
「まったくですよ」
その後マンションに着くとすでに五人の姿があった。
「ったく。なんで無断で抜け出したんだ」
「ご…ごめん…」
「悪いとは思ったわよ」
「けど、理由が理由だからね。絶対止められると思ったんだ」
「でもでも、上杉さんはなんとしても連れていきたかったんです!」
「わ…私はあくまでも肝試しの実行委員になりたくなくて」
五人が五人それぞれ口にしたが反省の色は見える。
「この件でどれだけの人に迷惑がかかったか分かってるね。次からは勝手な行動をとらないように」
「「「「「はい…」」」」」
僕の言葉に全員が返事をしたのでとりあえずこの件は良しとしとこう。そこで車の停めてある場所まで案内した。
「それにしても先生はお二人で来られたんですね」
「ええ。私は吉浦先生の補助として来たの。林間学校の現地までに距離があるから運転を交代で行う予定よ」
「ほえー…なるほどです。よろしくお願いしますね立川先生!」
車を停めてある場所まで行く間に中野姉妹と立川先生で軽く挨拶をしている。
「じゃあ上杉の家に向かおうか。場所を知ってるのは?」
「私です。前に行ったことがありますので」
「じゃあ五月が助手席に乗ってくれ。後は適当に。八人乗りとは言え狭いけど文句言わないでよ」
「いやー、さすがに乗せてくれるのに文句まで言わないよ」
一花の言葉を皮切りに続々と皆が乗っていく。
「あの、近くまで着いたらそこで待っててくれますか?私が彼を連れてきますので」
「え?それは問題ないけど、いいの?家の前まで行けるなら行くよ?」
「いえ。大丈夫です」
まあ何か考えがあっての事なんだろうけど、とりあえず出発させた。うちからも割りと近かったのですぐに車を停める。
「では、行ってきますね」
そう言った五月は車から降りて行ってしまった。
「じゃあ私たちも外で待ってようか」
「面倒ねぇ」
一花の言葉に面倒そうに答えながらも二乃も車を降りている。三玖と四葉もそれに続く。
「皆さんやはり仲良しですね」
「本当ですね。何をするにも一緒って感じです」
「これを機に私も中野さんたちと仲良くなれればと思います」
「立川先生ならきっと大丈夫ですよ」
そんな話をしながら僕と立川先生も車から降りて上杉を待つことにした。そして、しばらくすると風太郎を連れた五月が戻ってきた。
「お、来たようだね」
「フータロー」
「おそよー」
「こっちこっち」
「ったく何してんのよ」
「おはよう、上杉君」
「……」
五月に連れられた上杉は、僕達が揃って待っている光景に驚いているようだ。
「肝試しの実行委員ですが、暗い場所に一人で待機するなんてこと私にはできません。オバケ怖いですから。あなたがやってください」
「……仕方ない行くとするか」
五月の後押しもあり頭をかきながらも上杉は承諾した。その顔はどこか嬉しさも伺える。
「よし!じゃあ、上杉も揃ったし行くとしますか。席はどうする?」
「…助手席がいい」
僕が席について聞くと手を挙げながら三玖が希望を言ってきた。
「何?酔いやすいとか?」
「そんなとこ」
「分かった。三玖が助手席で、後は立川先生には真ん中に座ってもらおうかな。それ以外は自分達で決めてくれ」
ということで、真ん中には立川先生と一花と二乃。一番後ろには上杉と四葉と五月が座ることになった。全員が乗車したことを確認したところで出発する。
「それじゃあ行きますかっ」
「しゅっぱーつ」
四葉の合図を聞き車を発車させるのだった。
車を発車させてしばらく。渋滞もなく順調に走らせている。
「そういえば、立川先生と授業以外で話したことないですよね」
「そうね。吉浦先生はちょっと特殊だから感じないかもだけど、普通は教師と話すこともないでしょう」
「たしかに。好き好んで話すことはないわね」
「私はよくお手伝いすることがあるから話したりしますよ。まあ、吉浦先生ほどではありませんが」
「そうですね。やはりことりさんがいるからこそですね。三玖以外は担任ではありませんから」
後ろでは立川先生を中心に話が盛り上がっているようだ。一花がいるしきっと気にしてくれたんだろう。
「ん…」
そんな考えをしていると隣からポッキーの入った袋を差し出された。ちょうど赤で停まっていたのでご相伴に預かる。
「ありがとね。三玖は後ろに参加しなくていいの?」
「参加する時はする。でも今は先生の相手をしてあげる」
「そっか。ありがとね」
「うん…」
三玖と会話をしているとドリンクホルダーに立て掛けてたスマホに着信が入った。ことりのようだ。
やべ。そういやぁ、ことりに何も言わずに来てたんだっけ。仕方ない。
「三玖。ちょっと僕の電話出てくれない?」
「ええっ!?で…でも…」
「大丈夫だよ。相手はことりだから普通に話して用件を聞いてくれればいいから」
「うーん…わかった」
僕の言葉に渋々といった形で三玖が僕のスマホを手にとって話し出した。
「も…もしもし三玖だけど……えっと…先生は私の横で車の運転してる……えっと…フータローが林間学校に参加しないって連絡があったの……うん…それで姉妹みんなでフータローを迎えに行くことになって……うん、だけどそこに先生が運転する車で行くことになって今にいたってる」
三玖がこっちをチラチラ見ながらことりに状況の説明をしてくれている。
「あんた、生徒に自分の電話取らせるなんていい度胸してるわね」
「まあまあことりだったんだから」
「それでもだよ。やっぱり兄妹だよねぇ。ことりとそういうとこ似てるよ」
三玖に電話を取ってもらったことに二乃と一花のツッコミが入った。
「先生をあんた呼び。いいんですか、吉浦先生?」
「ん?ああ、堅苦しい雰囲気じゃなければ僕は構いませんよ。改めて言うけど、教師に向かってその喋り方して良いのは僕だけなんだからね」
「わかってるわよ」
「吉浦先生がいいと言うのであればいいのですが…」
二乃に一応釘をさしておいた。立川先生に対しても同じ接し方をいきなりされたらビックリするだろうからね。しかし、立川先生もやっぱりその辺りは気にするタイプなのだろうか。そうこうしている内に三玖の電話も終わったようだ。
「……わかった。先生に伝えとく……うん、じゃあ……ふぅ…」
「ありがとね。助かったよ」
「別にいいけど、私に事の顛末の説明をさせたでしょ?」
「あー…やっぱ分かった?」
「むー…色々聞かれて大変だった」
「悪かったって」
運転中だからよく見えないが、チラッと見たら三玖は頬を膨らませてこちらを見ていた。そして僕のスマホは元の場所に戻してくれた。
「…抹茶ソーダ一本」
「教師に物を要求しますか」
「生徒に自分の電話を取らせた先生に言われたくない」
「はぁ…分かったよ。奢らせていただきます」
「うん…!あ、ことりが先生から連絡してほしいんだって」
「やっぱか。了解」
さてそろそろ高速に入る頃合い。どこかのサービスエリアで休憩がてらことりに連絡すればいいか。そんな考えのもと運転に集中することにした。
~後部座席~
「……」
和彦と中野姉妹達のやり取りを見て芹菜は驚きを隠せなかった。和彦と中野姉妹が他の教師に比べ親密な関係であるのは前から理解はしていた。しかし今のやり取りは芹菜の想像を越えていたのだ。下手をすれば自分よりも仲が良いのではと思うくらいに。
「?どうしたんですか、立川先生」
「あ、うん。みんな吉浦先生と本当に仲良いんだなって」
様子がおかしい芹菜に一花が声をかけたので、それに芹菜が答えた。
「そうですね。よくしていただいております」
「ま、他の先生よりかは接しやすいのは確かよね」
「そうですね。私も先生とは話しやすいです!」
「ありがとね」
五月の言葉に二乃が答えると、さらに後ろの席に座っていた四葉からも和彦は話しやすいと称賛の声をあげた。それに前を向きながら和彦が礼を述べた。
それらの言葉にお世辞などはなく本心だと彼女達の顔を見れば分かると芹菜は思った。
(でも……)
そこで芹菜はある方向を見た。その方向にいる人物は和彦と話す時もいつもの調子で話している。
(それでもあの顔は……)
その人物が時折見せる顔。それは自分が和彦と話す時にする顔と同じてあると芹菜はすぐに感じた。今も表情に変化が無い中でも口角が上がりとても楽しそうにしている笑顔を垣間見ることができる。
(あの子も恋、しちゃったんだ。吉浦先生は生徒から告白されたことがあるって仰ってた。けど、今度は今までとは違うように思える。私もうかうかしてられない!)
芹菜は心の中でそう意気込むのだった。
そんな芹菜の横で一人勘が良い物が一人いた。一花である。
(これは……先生は立川先生と何もないって言ってたけど、立川先生って絶対先生に対して脈ありじゃん。立川先生のことはほとんど話したことないからどんな人なのかはわかんないけど、三玖にとってライバルになるんだろうなぁ…て、自分の気持ちにもハッキリしてない私が何言ってんだって訳なんだけどね)
こうして色々な想いを乗せた車は林間学校の宿泊所に向かうのだった。
今回は和彦を中野姉妹と風太郎に同行させるため、結構無理やりな展開で持っていきました。教師が遅れてくる生徒のために車を出すってすごい話ですよね…
そして、現在の和彦と中野姉妹との親密感を肌で感じた芹菜(立川先生)もどんな行動に出てくるのか…
では、次回投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。