少女と花嫁   作:吉月和玖

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26.吹雪

『もうー、本当に心配したんだからね!』

「悪かったって。本当にバタバタしてたから、それで連絡を忘れてたんだよ」

 

最初のサービスエリアでの休憩ではことりの方がバスの中では素で話せないという理由で電話が出来ず、偶然にもお互いにサービスエリアでの休憩になった時にようやくお互いに電話で話せるようになったのだ。

 

『それより三玖に事の顛末を話させようとしたでしょ?』

「ま…まあね…」

『はぁぁ…あの時も驚いたんだから。お兄ちゃんのスマホにかけたつもりがなぜか女の人の声で出るんだもん。すぐに三玖だってわかったからすぐに思考は復活したんだけどさ』

「あははは…そこは三玖にも怒られたよ…」

『だろうね。三玖もよく電話を取ってくれたよ』

 

終始呆れられた声でことりは話している。

 

「そっちは順調に進んでる?」

『うん。予定通りに向かってるよ。そっちは?』

「こっちは予定というのが無いからね。今日中には現地に着ければ良いかなって考えてるよ。だから、そういう意味では順調かな。運転も立川先生と交代でしてるから疲れないしね」

『立川先生……三玖たちや風太郎君もいるし大丈夫だよね…うん

「立川先生がどうかした?」

『ううん。なんでもないよ』

 

後半の声が聞こえなかったので確認してみたが問題無いようだ。

 

『じゃあ、そろそろ出発だから切るね。道中運転気をつけてね』

 

そこで電話が切れたのでスマホをしまう。そしてフェンスに寄りかかりながら風景を眺めていた。

 

「お電話終わりましたか?」

 

そんなところに立川先生が声をかけてきた。

 

「はいミルクティーです。だいぶ寒くなってきたので温まりますよ」

 

手には二つの飲み物を持っており、その一つを差し出された。

 

「ありがとうございます。ふぅー、温まりますねぇ」

「ふふっ…ですね。だいぶ現地に近づいてきたということでしょうか」

「まあそれでも、まだ半分くらいですけどね。あの子達は?」

「お土産コーナーで時間を潰すそうですよ。五月さんは軽く食べ物も食べてましたけど」

「さっきお昼食べたんですけどね。さて、そろそろ出発することを連絡しますか」

 

そこでスマホを取り出して全員に出発するから車に集合するようにメッセージを送った。上杉にはメールを送っている。

 

「あ、あの!」

「?どうされました?」

「わ…私たちも連絡先の交換をしておきませんか?その…これから何かあった時のためにも…」

「そうですね。立川先生が良ければ交換しましょう」

 

立川先生からの何気ない提案に特に反対する理由もなかったので承諾して自分のスマホを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます!では、えーっと…」

 

立川先生が自身のスマホをいじりながら登録をしていく。完了した後にお互いにメッセージを送ったが問題無いようだ。立川先生はスマホを口元まで持っていきどこか嬉しそうである。

 

「あの!たまにプライベートで連絡とかもしていいですか?」

「ええ。別に構いませんよ。では、僕達も行きましょうか。遅れると二乃あたりが文句言いそうなので」

「はい!」

 

そこで終始機嫌がいい立川先生と二人、車が停めてある場所に向かうのだった。

 


 

今現在は立川先生が車の運転をしている。なので僕は真ん中の席に座っている。他のメンバーは助手席の三玖を除いて休憩に入るごとに席を変えていた。今は僕の横に五月と四葉が並んで座っており、後ろに上杉と一花と二乃が座っている状況だ。

通りすぎていく景色を窓から眺めているとスマホに着信が入った。

理事長先生?

 

「はい、吉浦です」

『おお、吉浦先生。今は電話に出て大丈夫なのかね?』

「ええ。今は立川先生が運転中ですので。何かありました?」

『うむ。実は先ほど学年主任の先生から連絡があってだね。あちらでは猛吹雪でバスが立ち往生している状況なのだそうだ』

「猛吹雪ですか…」

 

チラッと窓の外を見るが雲っているがこちらは雪すら降っていない。

 

「こちらはそんな事ないですね」

『そうか。とりあえずそこは一安心だね』

 

そんな話をしていたら…

 

「あ、雪が降ってきたよ」

「本当ですか?」

 

隣の席からそんな会話が聞こえてきたので僕も改めて窓の外を見てみた。

 

「すみません。今しがた雪が降りだしました」

『そうか…学年主任の先生にはそのまま進むのは危険だと判断して今日は現地に向かわず近くの宿泊施設に泊まるように指示をしている』

「なるほど。妥当かもしれませんね。ということは僕達もそこに?」

『いや、その場所は猛吹雪が発生している場所だからね。そこに自ら行くというのは危険だろう。そこで、君たちは別に宿泊施設を探してもらい、今日はそこに泊まるといい。領収書を提出してもらえば経費として出すとしよう』

「分かりました。そのあたりは立川先生と話し合って進めてみます。連絡ありがとうございました」

 

そこで電話が切れたので耳からスマホを離した。しかし、困ったことになったものだ。

 

「立川先生。次のサービスエリアで停めてもらえますか?」

「わ、わかりました」

 

運転している立川先生に後ろから声をかけると返事が返ってきた。

 

「何かあったのですか?」

 

立川先生以外が心配そうにこちらを見ており、代表して五月が聞いてきた。多分立川先生も運転しながらも聞き耳を立てているだろ。

 

「あー…大したことないこともないんだが…」

「ハッキリしないわね」

「……先行しているバス組なんだけど、今猛吹雪に見舞われて立ち往生している状況らしいんだよ」

「マジっすか。てことは…」

「ああ。上杉の予想通り、このまま進むと今度は僕達もその猛吹雪にかち合うことになる。その証拠に雪が降ってきたからね」

 

僕の言葉に皆が窓の外を見た。

 

「ど、どど、どうするんですか!?このままだったら吹雪の中を走るんですよね?」

「まあ落ち着きなよ四葉。その辺りの話は多分さっきの電話でしてるだろうしさ」

 

さすが一花。鋭いところがある。

 

「先行しているバス組は、結局今日は本来の目的地に向かわず近くの宿泊施設に泊まることになったらしい。多分そろそろことりから誰かに連絡が来ると思うよ」

 

すると三玖が自分のスマホをこちらに見せてきた。

 

「まさに今かかってきた。ちょっと待って。もしもしことり?……うん、今私たちもその話をしてたところ。先生も話してるからスピーカーにするね」

 

そう言うと三玖がスマホを操作してこちらに向けてきた。

 

『兄さん、聞こえる?』

「ああ。大変みたいだね」

『うん。もう窓の外は雪一色だよ。さっき副担任の先生が今日は別のところに泊まることになったって皆に話したとこだよ』

「そこも僕は理事長から聞いてて、こっちも今皆に話したとこだよ」

「では、私たちもその宿泊施設に向かうのでしょうか?」

「そんな訳にはいかないでしょ。ことりたちが向かってる宿泊施設ってまさに吹雪いてるところにあるんでしょ?私だったらそこに行くなんてごめんだわ」

「確かに二乃の言う通りだな」

 

五月の考えに二乃と上杉が反対をしている。意外にもこの二人は意見が合うのではないだろうか。

 

「うん、二乃の言う通りで僕達はその宿泊施設には向かわない。その替わりとして別の宿泊施設を探すことにする」

「なるほど。それだったら吹雪の中を進む必要が低くなるね」

 

僕の言葉に一花が納得したように話した。

 

「てことで、この後にあるサービスエリアで車を停めて、立川先生とどこに泊まるかを話し合いたいと思ってます」

「そういうことであれば、わかりました」

『じゃあ、みんなと会えるのは明日ってことかぁ』

「そうなりますね。他のみなさんにも私たちは明日にでも合流することをお伝えいただければ助かります」

『うん。とは言え五クラス分かぁ。ま、大丈夫でしょ。じゃ、私はここで切るね』

 

そこでことりからの通話が切れた。そしてそれと同時にサービスエリアに到着するのだった。

 

・・・・・

 

「見つかりませんねぇ」

「ええ…」

 

サービスエリアに着いてからは立川先生と一緒に今晩の宿を探していた。探していたのだがそれが中々見つからないでいた。

ちなみに五つ子と上杉には自由行動を許可してるので各々自由にしている。

 

「まさかここまでないとは思いませんでしたね」

「ある程度は予想してたんですがここまでとは驚きでした」

「え?部屋がないことを予想してたんですか?」

「ええ。まず第一にここが観光地だということですね。そんなところの宿泊施設はすでに予約でいっぱいでしょう。バス組が泊まるところが見つかったのは、吹雪のせいでしょうね。吹雪のせいでキャンセルが出てそれで空いていたのかもしれません。運が良いとしか言い様がありません」

「な、なるほど」

 

スマホで宿の情報を次々に確認しながら僕の見解を伝えていく。

 

「そして第二にこの中途半端な人数です」

「え?」

「男二人に女性が六人。こうなってくると少なくても四人部屋か三人部屋が二つと二人部屋が一つないといけない。それを泊まる当日に同じ宿で探すとなるとまた難しいですね。条件とか無ければ空いてるかもですが」

「そこまで考えてたんですね」

 

感心したような声で話す立川先生。

一人より二人で探した方が見つかると思ったけどこうも見つからないとは。そんな考えの中一つの宿に目が止まった。

その宿は料理も美味しそうだし温泉もありでかなり良いところだ。そして部屋もあるにはある。だが……

 

「ん?何か見つけられたんですか?」

「いえ、ここはちょっとないかなって思ってます」

「どれです?」

 

そう言って立川先生が僕のスマホを覗き込んできた。

 

「ふむふむ…いいんじゃないですか。ここにしましょうよ」

「いえしかし…」

「まあまあ。私が電話しますね………あ、すみません今からなんですけど予約できますか?えっと大人が八人なんですけど、ネットで掲載されてた部屋をお願いしたく…」

 

僕の静止を待たずに宿に電話をかける立川先生。女性の立川先生が良いと言うのであれば僕に反対する余地は無いが。絶対あの子は過剰反応するだろうな…

その後、宿の予約が出来たので出発した。そして予約した部屋に案内された直後にそれは起きた。

 

「なんで男二人と同じ部屋に泊まらなくちゃいけないのよ!」

 

ほらね。

部屋の中で二乃が叫んでいる。二乃が叫んでいるように今回部屋は一つしか予約できなかった。この部屋以外は満室だったからだ。

そしてその予約した部屋というのは七人部屋であるが、ベッドルームと和室とで分かれているので、寝る時に分かれれば問題ないと言えばないのだ。

 

「ごめんなさい。もうここしか空いてる部屋がなくって。ほら寝る時はベッドと和室で分かれればいいんだし」

「むーー…」

 

立川先生が必死に宥めようとしているおかげで、二乃はそれ以上叫ぶことはなかった。

 

「二乃、諦めなよ。それより楽しまないともったいないよ」

「一花、あんたまで……そうよ、男は車で寝泊まりすればいいじゃない」

「この雪降るなか車はさすがに寒くて休めないよ。暖房つけても雪が積もって一酸化中毒になりかねないし」

「んー…だったら、たしか入り口にもう一つ部屋があったからそこを借りれば」

「二乃、もしかして犬小屋のこと言ってる?」

「凍死しちゃうよ!」

 

唯一諦めが悪い二乃があれこれ提案するがどれも僕が却下していった。てか、犬小屋はないだろ。四葉ではないが本当に凍死してしまう。

 

「それにしてもこちらは吹雪かなくてよかったですね。雪は降っていますが」

「うん。このくらいなら幻想的でいい感じ」

 

一方窓際では五月と三玖が外を見ながらそんな感想を述べていた。

 

「めっちゃ良い旅館で部屋じゃねえか。文句言ってないで一花の言った通り楽しもうぜ!」

 

上杉は自身の鞄の中を確認した後急に立ち上がりテンション上げてそんな事を言っている。

 

「上杉、車の中からずっとテンション高いね」

「考えてみれば、こいつらの家以外でのお泊まりなんて小学生以来ですからね。四葉、旅館の中を探検に行かないか?」

「おー、いいですね!ぜひ行きましょー!」

「二人だけだと何か起きそうだから私も付いていくね」

 

そこで上杉と一花と四葉が部屋から出ていった。

 

「はぁぁ、立川先生もいることだし何もないことを祈りましょ。お土産コーナーに行こうと思ってるけど誰か行く?」

「だったら私が」

 

二乃の提案に五月が手を挙げ、二人が部屋から出ていった。

今部屋に残っているのは僕と立川先生、それに三玖である。

 

「三玖はどっちかに行かなくて良かったの?」

「うん。私はここでゆっくりする」

「では、お二人のお茶の用意をしますね」

 

そして、立川先生の用意してもらったお茶を飲み、窓から雪が降る景色を眺めながら三人でゆっくりと過ごすのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話では原作同様バス組は吹雪によって別の宿泊施設に泊まることになりました。
そして、和彦組については事前連絡があったことで吹雪に巻き込まれずに済む形を取らせていただきました。

ちなみに、この林間学校の場所がネットで調べても分からなかったので、僕の解釈で長野県にしてます。
林間学校が行われたのは11月初旬~中旬にかけてなので、その時期にスキーが出来るのは長野くらいしか思いつかず。他にあったらすみません。

では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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