少女と花嫁   作:吉月和玖

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30.肝試し

~風太郎・四葉side~

 

「「ひぃっ……うわあああ!!」」

 

時は少し遡り。肝試しの会場でもある森の中では風太郎と四葉が脅かし役に勤しんでいた。今も前田と前田が声をかけたであろう女子の二人を脅かしたところである。

 

「くくく…」

「絶好調ですね、ジャケットどうぞ!」

 

脅かしたことで怖がっていく様を見て大変ご満悦な風太郎であり、そんな楽しそうにしている風太郎を見て四葉も嬉しく思っていた。

もう11月も中旬を過ぎた頃。さすがに夜は冷えることもあり、待機している時はお互いにジャケットを着ていた。

 

「私嬉しいです。いつも死んだ眼をした上杉さんの眼に生気を感じます」

「そうか蘇れて何よりだよ」

 

例え方が独特ではあるが、風太郎が楽しそうにしていると言いたいのであろう。四葉の目はキラキラしていた。

 

「もしかしたら来てくれないと思っちゃったから」

 

少し悲しい表情で土に螺旋を書いていく四葉。実際にらいはの体調不良もあり一時期来ないかもしれなかった風太郎。しかし、今こうして自分の横にいて林間学校を楽しんでいることが何よりも四葉は嬉しかった。

 

「後悔のない林間学校にしましょうね……ししし」

「……」

 

とびっきりの笑顔を風太郎に向ける四葉。そして風太郎はその笑顔から何か考えさせられるものができた。

 

「あ、次の人来ましたよ!」

 

そうこうしているうちに次のペアが来たようで、灯りが二人に近づいてきた。そして二人はタイミングよく脅かしのために飛び出した。

 

「や、やってやらぁ!」

「食べちゃうぞー!!」

 

そんな二人の脅かしに対して今回のペアは反応がいまいちだった。それは…

 

「フータロー」

「四葉もいるじゃん」

 

一花と三玖。今回の肝試しで風太郎の扮装を知っている二人だったからかもしれない。

 

「一花に三玖!」

「なんだネタがばれてる二人か。脅かして損したぜ」

 

二人の前だからか風太郎はピエロの仮面を取り二人に話しかけた。金髪のカツラはそのままなので今の風太郎は端から見たら金髪の男の状態である。

 

「あ、ごめん…」

「わぁ、びっくり。予想外だー」

「お気遣いどうも」

 

すぐに謝る三玖と棒読みではあるが驚きを表現している一花。風太郎は一花の棒読みには気づいているようだ。

 

「本当だよー……っ!」

「嘘つけ……て、どうした?」

 

驚いたことが本当だと言いながら一花は風太郎に近づいていった。そこで一瞬驚きの表情を醸し出した。

普段は鈍いところが多々ある風太郎ではあるが、そんな一花の変化には気づくのだった。

 

「ううん…その金髪染めたのかなって。中々似合ってるじゃん」

「カツラだ。そんなことより、看板が出てるから分かると思うが、この先は崖で危ない。ルート通り進めよ」

「わかった。ほら行くよ一花。次の人が来ちゃう」

「は~い。じゃあね。四葉もフータロー君も頑張って」

 

この先の道は二手に分かれている。風太郎が話した通り看板が出ているので見れば分かるのだが、矢印と逆に行ってしまうと崖があって危ない場所になっている。

そんな風太郎の説明を受けた一花と三玖は先に進んでいった。

それを風太郎と四葉が見送っていると、四葉の方から風太郎に脅かし方のダメ出しが入った。

 

「上杉さん。脅かし方にまだ迷いがあります。もっと凝った登場しないと!」

「は?凝ったって言ってもなぁ…」

 

今は草むらから急に飛び出す登場を行っているがそれ以外となると後ろから登場するくらいだろうか。しかし、四葉の考えは突飛していた。

 

「上杉さん。ここにロープがあります」

「なんであるかはひとまずツッコまないでおこう。それで?それをどうするんだ?」

 

ロープを持った四葉はニコニコしながら上を向いた。それに風太郎も続く。その先には太い一本の木の枝があった。

 

「お前…まさかと思うが…」

「お手伝いします」

 

ピンっとロープを張りながら話す四葉に反論をする気も失せ、風太郎は四葉にされるがままに木の枝に登って準備を始めるのだった。

 

そしてしばらくすると次のペアが来たようで灯りが近づいてきている。

 

(あれは…二乃に五月か。ふっ、日頃の鬱憤(うっぷん)をここで晴らさせてもらおう)

 

枝の上に上がったからか下にいた時より近づいてくる人物が分かるようで、風太郎には二乃と五月が近づいてくるのが見えたのだ。何だかんだで、風太郎も脅かし役をやる気は満々のようである。

そして二人が近づいたまさにその時。

 

「勉強しろ~~~っ!」

 

そんな台詞とともに二人の目の前に丁度現れるように風太郎は逆さまになってぶら下がったのだ。

 

わああああ、もう嫌ですぅぅぅぅ

「五月待ちなさい!」

 

仮装した風太郎が目の前に現れた瞬間悲鳴をあげた五月が周りを気にせず走り去ってしまった。どうやらホラー系が苦手のようで、ここまでギリギリのところに今の風太郎の脅かしで限界が来てしまったようだ。

そんな五月を二乃が一生懸命追いかけた。こちらも周りを見ることなく…

 

ブラン…ブラン…

 

一方の風太郎は呆然とした状態で二人が去った方向を見ていた。

 

「本当に苦手だったのか…」

「あちゃー…やりすぎちゃいましたね…」

 

今回は脅かしに出なかった四葉も木の陰から走り去ってしまった二人の方向を呆然と見ていた。

そこで風太郎は走り去った方向を見てあることに気がついた。

 

「あれ…?あいつら…どっちに行った?」

 

風太郎が見ている方向には、崖の方向に進まないように立ててあった順路を示す矢印の看板が立っていた。

 


 

~二乃side~

 

「五月ー、どこ行ったのよー」

 

一目散に逃げてしまった五月を追いかけていた二乃であったが、途中見失ってしまいスマホのライトを頼りに辺りを探しながら進んでいた。

 

「こっちで合ってんのかしら。一旦戻ろうかな…」

 

結構な距離を歩いているのにも(かか)わらず、一向に森を抜けないどころか更に覆い茂っているように二乃は感じていた。そんな時だ…

 

フッ…

 

「えっ」

 

二乃が持っていたスマホの電池が切れたのかライトが突然消えてしまったのだ。

 

「嘘っ、もう!?昨日充電するの忘れてたかも」

 

電源ボタンを長押ししても反応がないスマホに二乃は焦ってしまった。

 

「なんなのよ!せっかくの林間学校なのに、こんな所で一人に…」

 

ザアアアア…

 

そこに風が吹き周りの木々が葉っぱを擦れ合い音を立てた。普段であれば気にはならないが、この暗い森の中でのこの音は恐怖心を煽るのに効果抜群であった。

そんな二乃の後ろで小動物か虫かが動いたからか、ガサッという草の音が鳴った。

 

いやっ

 

その音で驚いた二乃は膝をついて倒れてしまった。

 

「……最悪…」

 

地面に手をつきどうしようもない気持ちになっていた二乃に声をかけてきた人物がいた。

 

「大丈夫か?」

 

声の方に二乃が視線を向けると、そこには金髪の青年が心配そうに息を切らせながらこちらを見ていた。

その青年の姿に二乃はどこかで見た覚えがあった。

 

「見つけたぞ二…」

「嘘…キミ…写真の…」

「…え?」

 

二乃が見た覚えがあったのは、以前風太郎の学生証に挟んであった写真に写っていた少年の顔である。

目の前にいるのはまさにその少年が成長した姿なので、二乃が驚くのも無理はなかった。

つまりは、今二乃の目の前にいる金髪の青年は風太郎である。その事に二乃は気づいていない。

 

「やっぱり…あの写真の顔だ」

「なんのことだ?とにかくこっちに来るんだ」

「え?そんな強引な…」

 

風太郎は二乃の言っている事が分からず、移動のために二乃の腕を掴み強引に立たせようたした。

 

ビッ……ビリィ

 

「!」

 

だが不幸にも二乃のスカートが近くの枝に引っ掛かってしまい、そのまま破いてしまった。

 

「あっ、悪い…」

 

(やべ…怒られ…?)

 

スカートが破けた事にとんでもないことをしてしまったと思った風太郎は顔を真っ青にして謝った。普通に考えれば怒られると思ったのだが、二乃は怒るよりも破けた場所から見える素肌に恥ずかしそうにしていた。

 

「本当にすまない…」

 

(なんだ?今日はしおらしいな)

 

いつもであれば有無を言わさず風太郎の事を怒る二乃がしおらしい姿を見せている事に、逆に恐怖を風太郎は感じていた。

 

「ねぇ、キミの名前教えて!」

「え?」

 

予想だにしていなかった二乃からの質問に風太郎は訳が分からなかった。

しかし無理もない。あの写真の少年の正体を風太郎は親戚の人物だと二乃に教えていたのだから、二乃は名前を知らないのだ。

 

「あ、ごめんね。前にキミの写真を見たことがあって、かっこいいなーと思ってたんだ」

「写真…」

「ここの施設、他の学校の生徒も林間学校に来てるのは知ってたけど、まさかあいつの親戚に会うなんて思わなかったわ」

「あっ」

 

二乃の、写真と親戚のキーワードで自分が金髪のカツラを被ったままであったことを風太郎は今ようやく気づいた。

 

「なんとなく、雰囲気はあいつに似てるわね」

 

(つまり…整理すると…「あの頃の俺」を俺と思ってない二乃が、今の俺を「あの頃の俺」だと思ってる…!!う~~ん、分かりづらい!)

 

ようやく状況の把握ができた風太郎ではあるが、まだ軽く混乱中である。

つまり、学生証に挟まっていた写真に写っていた金髪の少年は風太郎であるが、二乃は気づかず別の人物だと思い込んでいた。実際に風太郎は親戚だと言っているのだから。その写真に写っていた少年に似た人物が目の前に現れたのだが、二乃は風太郎に言われた通りに親戚の人だと思い込んでいるのだ。実際は風太郎なのだが。

確かにややこしい状況ではある。

 

(正体を明かすべきか…しかし、弱みを握られそうで、できれば避けたいところ…よしっ、ボロが出る前に戻ろう)

 

ここにこのままいるのは得策ではないと判断した風太郎は、脅かし役をやっていた場所まで戻ることにした。

しかし、その場を移動しようとする風太郎に二乃は待ったをかけた。

 

「待って。妹とはぐれちゃったの。一緒に捜してくれないかな…」

 

(くっ……)

 

結局風太郎は二乃と行動を取ることになったのだった。

 


 

所変わって…

林間学校二日目の肝試し。周りからの後押しもあり、僕は今、立川先生と二人で森の道を歩いていた。灯りはスマホのライトのみなのでかなり暗く感じる。

隣を歩いている立川先生は先に進むにつれて徐々に僕の方に近づいてきて、今では僕の服を掴み僕に寄り添うように歩いている状態だ。多分無意識の状態からの行動であろう。先ほどから辺りをキョロキョロと見ている。

 

「大丈夫ですか?」

「ふぇっ!?だ…だいじょう…ぶではないですね…」

 

素直である。その間にも風で揺れる草木の音にも過剰に反応している。

 

「う~~…クラスの生徒達が教えてくれたのですが…この森は出るそうでして…こんなことであれば聞かなければよかったですぅ…」

「キャンプファイヤーの伝説といい、よくもまあ色々とありますね」

 

おそらく、この林間学校を少しでも楽しませようと歴代の生徒達が遺してきた物なのだろう。肝試しをする森には出る、というのを最初に聞いていれば中々の演出を作ることが出来るだろう。まさに今の立川先生のようにだ。

 

「吉浦先生はやはり平気なのですね」

「まあ、違う意味でドキドキはしてますが…」

「え?」

「……先ほどから、立川先生が怖がる度に僕に寄り添って来られるので、その…胸が当たってる時がありまして…」

「っ~~~!」

 

そうなのだ。先ほどから寄り添われる度に、旅館の浴衣姿で見たあの豊満な胸がこちらに押し付けられているのだ。こんな状況男としてドキドキしない訳がない。

 

「本当はすぐにでも言えば良かったのですが、あまりに怖がっていたので安易に離れてくれとは言えず…すみません」

「い、いえ!むしろ私の方から近づいていた訳ですし、吉浦先生はちゃんと教えてくださいました……あの…私は気にしませんので、もし吉浦先生さえ良ければこのままの状態で進んでもいいでしょうか?」

「え?それはまあ…立川先生が気になさらないのであれば」

「はいっ」

 

胸の事を指摘すれば多少は意識して離れてくれると思っていたが、むしろ先ほどより心なしか距離が縮まっているような…

 

二乃さんも言ってたじゃない。こういう時こそ距離を縮めるチャンスよ!

 

それに何やら息巻いてるような。まあ、ここから進むのに気合いを入れているのかもしれないな。

結局、ほぼ腕組みと言ってもいいほど寄り添われながら進んでいると…

 

「食べちゃうぞー!」

「お…」

きゃああああ!!

 

仮装した生徒がセリフと共に飛び出してきた。僕は微動だにしなかったのだが、立川先生はもう寄り添うレベルを飛び越えて抱きついてきていた。男にとっては役得なのかもしれない。

 

「あれ?先生たちじゃないですか」

「ん?四葉か?」

「はい!お疲れ様です!」

 

ミイラ男よろしくミイラ女の仮装なのか、顔にまで包帯を巻いた四葉が敬礼ポーズで正体を明かした。なるほど上杉のお手伝いという訳か。

 

「どうでしたか、私の脅かしは?」

「見ての通りだよ。大変良くできました」

 

震えて抱きついたままの立川先生を安心させるために、彼女の肩をトントンと優しく叩きながら四葉の質問に答えた。

 

「うーん、でも先生は怖がってないですよねぇ」

 

四葉は僕の反応にはどこか悔しいところがあるようではある。

 

「ほら、立川先生。四葉ですから安心してください」

「ふぇ…?」

 

まだ震えている立川先生に優しく声をかけて四葉の方に視線を向けるように促してみた。すると、四葉というより生徒であることが分かったのか落ち着きを取り戻してきた。

 

「よ…四葉さん?」

「はい!ししし、そこまで怖がってくれたのなら脅かし役としては嬉しいかぎりです」

「はうー…」

「おとと…」

 

落ち着いたの良いのだが、体から力が抜けたように僕に抱きついたまま崩れ落ちそうになった立川先生をなんとか支えた。

 

「す、すみません。なんか安心したら急に力が抜けちゃって」

「大丈夫ですよ。なんだったら、しばらく僕にしがみついてていいですから」

「はい…」

 

僕の言葉に立川先生はキュッと僕の服を握りながら寄りかかってきた。

 

「お二人もやりますね。とても仲良しさんです」

「はいはい。そういえば上杉は一緒じゃないの?」

 

四葉のからかいを無視して上杉の存在を確認した。さすがにこんな暗いところで一人で脅かし役をやるとは思わなかったからだ。

 

「それが…少し前になるんですけど、二乃と五月を脅かした時にやりすぎたのか、五月が物凄い勢いで逃げてしまって…で、それを二乃も追いかけて行ったんです。ただ、二人が走って行った方向が崖の方だったかもしれないんです」

「崖?」

「はい。この先には崖がありまして、そちらに行かないようにあんな感じで看板を立ててたんですが、五月は周りを見ずに走って行ってしまったので…」

 

少し先に立っている看板を指さしながら四葉は説明してくれた。ここに来る時にも途中で同じような看板が確かにあった。普通に歩いていれば見逃すこともないだろう。

 

「それで、心配になった上杉さんが二人を追いかけて行ったんです」

「なるほどね」

 

四葉の説明である程度の状況は理解できた。

 

「ただ、その上杉さんも中々帰ってこなくて…」

 

心配そうに四葉が話を締めた。どうやら追いかけていった上杉も帰ってこないから何かあったのではないかと思っているのだろう。

 

「よし。じゃあ僕も様子を見てくるよ。悪いんだけど、立川先生とここにいてくれないかな?」

「え?」

「いいんですか?」

「ああ。立川先生、すみませんがここで四葉と待っててください。ちょっと急ぎで行ってきますから」

 

立川先生の肩を掴んで僕から離してそう伝えた。

 

「分かりました。私も一緒にとも思いましたが足手まといになりそうですからね。四葉さんとここで待ってます」

 

僕の言葉に力強く頷いた立川先生に頷き返した僕は、三人の捜索のために矢印の看板とは逆の方向に向かうのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話はだいぶ原作に沿って書かせていただきました。最後にはオリジナルで和彦を登場させましたが。

肝試しの脅かし役は一度だけやったことがありますが、かなり難しかったのでちゃんと脅かせている風太郎達は凄いなと思います。

次回も肝試しのお話を書かせていただきます。次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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