~二乃・風太郎side~
「そっか、金太郎君っていうんだ」
(安直すぎたかな…)
あの後、二乃からの懇願もあり風太郎は自分の正体を明かさず二乃と一緒に五月を捜していた。
金髪の風太郎から金太郎は確かに安直だったかもしれないが、二乃からしてみれば特に気にしてはいないようで、いつも風太郎と一緒にいる時とは打って変わって上機嫌でいる。
(早く出てきてくれ五月…でないと…)
早く五月が出てきてほしいと思う風太郎。その思いには、自分が実は風太郎であるとバレてしまうことへの心配と。もう一つが…
チラッと風太郎は二乃に目線を向けると、目が合っただけで恥ずかしそうに二乃は目線を反らした。そして、普段の風太郎の前では絶対に見せることのない乙女の顔をしているのだ。
『めっちゃタイプかも!』
以前、風太郎の学生証に挟んであった少年の写真を見た時に二乃が口にした言葉。その言葉の通り、二乃は自分のタイプの青年が目の前に現れたことでしおらしくなったのかもしれない。
そんな二乃の態度は至極当然であるので特に問題があるという訳ではない。しかし、風太郎にとっては非常にまずい状況でもあるのだ。何せ二乃が恋してる金太郎という人物は存在しないのだから…
これではさらに自分の正体がバレたらまずい状況がプラスされてしまうのだ。
「あー…タバコ吸いてぇ」
「え?」
そんな時、何を思ったのか急に風太郎がタバコを吸いたいと言い始めた。
「未成年だけどタバコ吸いて~~法律犯して~~」
(どうだ幻滅しただろう。変に好かれるのも困るからな)
どうやら風太郎としては、未成年のうちにタバコを吸っている事で自分の品性が欠けているという事をアピールして二乃に好かれないようにしているようだ。
その発想は良いのかもしれないが、ほとんど棒読みで喋っているので自然に聞こえてこないのが気になるところではある。
果たして二乃の反応はというと……
「ワイルドで素敵」
(えーっ、逆効果!)
風太郎の思っていた反応とは全く反対で、二乃は両手を顔に持ってきてうっとりとした顔をしている。
(もうだめだ…早く見つけて帰ろう…)
二乃の好感度を下げる作戦を諦めた風太郎は、両手の人差し指と親指を使って四角形を作り空を見上げた。どうやら星の位置を見ているようだ。
「何してるの?」
「星から方角を割り出してる。北斗七星のあの星間を五倍にした先が北極星、つまり北だ」
風太郎は勉強で得た知識をこのように日常でも使える。そこもまた凄いところかもしれない。
「へー、意外と物知りなんだね。頭いい人って憧れちゃうなー」
(嘘つけ!!)
自分に対しての扱いに憧れが微塵もないので、風太郎は心の中で大きくツッコミを入れた。
「それも自分の成績をこれ見よがしにひけらかす奴とは違うわー」
「そ…そんな酷い野郎がいるのか…」
二乃の言葉に思い当たる事が多々ある風太郎は顔がひきつってしまった。
「知ってるでしょ?キミの親戚……あれ?」
風太郎の話となると嫌そうな顔になる二乃。そんな二乃は話しながら風太郎の顔を見て何かに気づいた。
「キミ…顔見せて」
「えっ、なっ…まさか…」
さすがに気づかれたかと思った風太郎は少しだけ後ずさってしまった。
「ほら!おでこ、傷ついてる!」
「な、なんだ…こんなかすり傷ほっとけば治る」
二乃が気づいたのはどうやら風太郎のおでこにできていた小さな傷のようだった。
それに風太郎はほっとして大したことはないとアピールをした。
「そんなわけにはいかないわ。うちにもすぐ怪我して帰ってくる子がいてさ」
そう話しながら、常備しているのかカラフルな絆創膏を取り出した二乃は風太郎のおでこにできている傷にその絆創膏を貼った。
「うん、これでよしっ」
風太郎のおでこに絆創膏を貼った二乃は満足したのか、ニッコリと笑顔を風太郎に向けた。おそらく、風太郎が今までに見たことのないような笑顔である。
(調子狂うな…)
そんな二乃の態度に風太郎はどう接すればいいのか軽く混乱もしてきていた。
「!ねぇ、何か声みたいなの聞こえない?」
そんな時だ。二乃が辺りから妙な声が聞こえてくると言い始めた。草木の揺れる音や虫とかではなく、二乃には声が聞こえてきたようである。
「え…そういうのやめろよ…」
そんな二乃言葉にまだ聞こえていない風太郎は冗談やめろと言わんばかりである。どうやら風太郎もそういう関連が得意という訳ではないようである。
「そ、そうだ!俺にはこのお守りがある!どんな魔もはねのけるお守りだ!」
風太郎が言うお守りというのはらいはの手作りのミサンガの事である。温泉で和彦にも話していたが、風太郎のためにらいはが自分で作った物で、こっそりと林間学校に持ってきた鞄に入っていたのだ。それを見つけた風太郎は肌身離さず今も手首に着けている。
そのミサンガを徳のあるお守りだと腕を上げて宣言したのだ。
その時だ。
「あああ…」
唸り声のように聞こえるが少し高い、女の人のような声が聞こえてきて二人は固まってしまった。
しかし次の瞬間には風太郎が一足先にダッシュで逃げてしまったのだ。その行動には二乃も驚きしか出てこなかった。
「ちょっ、ちょっと置いてかないでよ。一人は怖いわ!」
「は?俺は怖がってないけど?」
怖がっていない事をアピールする風太郎ではあるが、明らかに怖がっており声も所々震えていた。それに怖がっていないのであれば、さっさと自分だけが先に進むはずもない。風太郎は木々をかき分けてどんどんと進んでいく。
(なーんだ…男らしくないなぁ…ちょっと幻滅)
そんな風太郎の態度に風太郎の知らずうちに、二乃の金太郎(風太郎)の評価は少しだけ下がっていた。
どんどん先に進む風太郎の後を付いていく二乃はふと脇道を発見した。
「この道の方が楽そうだわ。こっちから行こうよ」
「!」
二乃の言葉に風太郎は振り向き、二乃の示す方向に目をやる。
「……向こうは確か…」
「ほら、森もすぐ抜ける!」
二乃は気にせず開けた道に向けて走って行ってしまった。だが、そちらにあるのは……
「おいバカ、そっちは…!!」
二乃が向かった先にあるのは崖。風太郎としては遭遇しないためにここまで来たのだ。
風太郎の必死の大声も虚しく、二乃の片足は崖の先に出てしまった。
「あ」
二乃は落ちると思った次の瞬間。
グイッ
腕を引っ張られて、崖とは反対側に体が持ってこられてなんとか落ちずに済んだ。
だが、目の前ではその二乃の腕を引っ張った風太郎が逆に崖の方に落ちようとしていた。
「やべ…」
「手っ」
落ちていきそうな風太郎に向かって二乃は手を差し出した。風太郎も必死に二乃の手に向かって手を伸ばすも後少しのところで届かない。
それでもお互いに握ることが出来たものがあった。らいは特製のミサンガである。
ビン
お互いに握ったミサンガを使って二乃は風太郎を自分の方に引っ張った。
「んっ」
もちろん自分が巻き込まれないように手近な木を逆の手で掴んでいる。それでも勢いがあったのか二人は崖から落ちることはなく、崖とは反対側に倒れこんでしまった。
二乃が仰向けでそれに覆い被さるように風太郎がいる状況である。
「ハァ…ハァ…ハァ…助かった」
二乃からしてみれば異性として気になっている男の子が急接近しているので、恥ずかしさで顔を赤くするのも無理はない。
「こちらこそ…ありがと…」
そんな状態の二乃なのでまっすぐに風太郎を見ることが出来なかった。
トクン…二乃の心臓はその瞬間高鳴ったのだった。
「しかし見つからないな。もう帰ったんじゃないか?」
「……」
「?」
風太郎は立ち上がって二乃に問いかけるもその二乃からの反応がない。不思議に思った風太郎は二乃を見るが、二乃は立ち上がらず、下を向いたまま微動だにしなかった。
「どうし…」
「…ごめん、ちょっと動けないかも……怖いから…手、握って…」
声をかけてきた風太郎に対して、頬を赤く染め目を合わさずに二乃を自分の手を差し出した。
「は?」
「ほ、ほら。こんな所じゃまた怖い目に遭うかも!」
「…はぁ」
恋愛について全く興味を持っていない風太郎にとっては今の二乃の心境を読み取ることが出来ない。なので、手を握ってほしいと言っている二乃が何をしたいのかも風太郎にはさっぱり分かっていなかった。
「って、初対面の男の子に何言ってんだろ!今のなし!」
そんな反応があまりよくない風太郎に、二乃はすぐに自分の言ったことに訂正を入れた。
「わかった」
それでも、差し出された二乃の手が震えているのに気づいた風太郎は、自分の手を二乃の手まで持っていき……握らずらいは特製のミサンガを二乃の手に乗せた。
「え?」
「それは徳の高ーいお守りだ。持ってるだけで旅行安全、身体健康、厄除開運安産間違いなし!願いだって叶うともっぱらの噂だ。特別だぞ!」
風太郎にしてみればよく出来た方かもしれない。なんと言っても、らいはの作ってくれたミサンガを他人に渡しているのだから。
二乃からしてみれば本当は手を握ってほしかったのだが、ずっと大事そうにしていた物をくれたのだから、それだけでも嬉しい気持ちが込み上げてきて、大切に握りしめた。
「キンタロー君。キミは明日もここにいるのかな?」
「え?ああ…」
「私たちの学校、明日キャンプファイヤーがあるんだ。その時やるフォークダンスに伝説があって、フィナーレの瞬間に手をつないでいたペアは結ばれるらしいの」
「へ、へー。初めて知った」
「結構大雑把な伝説だから手をつないでるだけで叶うって話もあったりで、人目を気にする生徒たちは脇でこっそりやってるみたい」
「それでいいのか…」
「ほんと大げさで…子どもじみてるわ」
そこで二乃は立ち上がって風太郎に向き合う。そして両手でスカートの裾をつまみ、少し持ち上げて頭を下げながら気持ちを伝えた。
「キンタロー君、私と踊ってくれませんか?」
それはダンスパーティなどで女性からダンスに誘うシーンさながらである。
「待ってるから」
「……っ、えっと…」
そんな二乃の行動にしどろもどろとなってしまう風太郎。それには突然の申し出であったことともう一つ、風太郎にはすでにことりと約束をしているという事実があったからだ。
風太郎が答えに迷っていると…
「おーい!」
「二乃~!」
「っ!五月だわ!」
草木の向こうからライトの光と五月の声が聞こえてきて、二乃が光の方に向かおうとした。
「じゃ、じゃあ姉妹も見つかったようだし俺はこれで」
ここで五月まで来るとまずいと思った風太郎はさっさと離れて行ってしまった。
その風太郎の背中を見ながら二乃は呟いた。
「待ってるから…」
時は少し遡る。
四葉と立川先生と別れた僕は二乃と五月の捜索のため、矢印の看板の逆の林道を進んでいった。四葉の話では結構時間が経っているとのことなので少しの早足である。あまり早く進むと見逃す可能性もあるからだ。
「さすがにこの暗さでスマホのライトだけだと探すのにも一苦労だな…」
ライトを左右にかざしながら歩を進めていく。
もしかしたらすでに上杉が見つけて戻っている可能性もあるし、崖まで進んで手がかりがなかったら引き返すか。
しかし奥まで来ているからかどんどん暗くなっている。立川先生は来なくて良かったかもしれないな。
そんな考えをしながらしばらく進んでいるとガサガサという草木の揺れる音が少し遠くから聞こえた。
とにかく手がかりもない状態である。音がした方向に向かうことにした。
「あああ…」
すると女性の声のようなものが聞こえてきた。ホラー映画でいえば幽霊の声かもしれない。本当に一人で来てよかったと改めて思った。
「二乃?五月?」
確認するように名前を呼びながら声がした方向に進む。するとガサガサと草木を揺らす音がどんどんと近づいてきた。そして次の瞬間…
「わあぁああぁ~~ん」
草むらの向こうから五月が大べそをかいた状態で飛び出してきた。
「五月!?」
「うわぁああぁーーん。先生!!怖かった!怖かったよぉー」
そして飛び出してきた勢いそのまま僕に抱きついてきたのだ。
五月は一人のようで辺りには二乃の姿はなかった。
「おー、よしよし。怖かったねぇ。もう大丈夫だからねぇ」
「うん…うん…」
五月を落ち着かせるために、胸に飛び込んできている五月の頭を撫でながら優しい言葉を投げ掛けてあげた。すると、落ち着いてきたのか泣き声もなくなり、鼻をすする音だけが聞こえてきた。いまだに顔は僕の胸に押しつけてるままではあるが…
「五月?二乃は一緒じゃないの?」
「ぐすっ…いつの間にか…周りにいなくて…どこではぐれたのかも…わかんない…」
「そっか。それは怖かったねぇ。よく頑張った」
「……うん」
二乃の事を聞いたがいつはぐれたかも分からないときたもんだ。さて、どうしたものか。
多分、上杉の脅かしに怖がった五月が一目散に逃げて行ったと四葉が言っていたから、二乃が追いかけたとはいえそのままはぐれたんだろう。
うーん、と空を見上げながら考えていたら、五月がようやく顔を離して申し訳なさそうに見上げてきた。
「ごめんね。迷惑かけて…」
「いいさ。これも教師として、何より妹の友人のためだからね。全然苦じゃないよ」
頭を撫でてあげながらそんな言葉を返した。
「えへへ…」
だいぶ落ち着いてきたようだ。
しかし、以前もそうだったが甘えモードになると敬語が抜けるのだろうか。まあ、本人が気にしてないようだし、あえて言わないでおいておこう。
「さて、そろそろ二乃を探しに行こうか。五月は歩けるかい?」
「はい…!その…あまり離れないでいただけると助かります」
「分かったよ。五月の好きなようにしな」
「では失礼して…」
すると五月は僕の腕を両手で持つようにして近くに寄ってきた。まあこのくらいの距離間なら問題ないだろう。
そして五月と伴って二乃と上杉の捜索に取りかかった。
五月がこの辺りにいたということは二乃も近くにいるのかもしれない。ということで辺りにライトを当てながら周囲を探索した。
「おーい!」
「二乃~!」
声を出して自分達がここにいることをアピールしながらしばらく探していると…
「五月ぃー!」
草むらの向こうから五月を呼ぶ声が聞こえてきた。おそらく二乃だろう。
すると案の定二乃が姿を見せた。
「二乃ー!」
姿を見せた二乃に五月は抱きついて無事を喜んだ。
「って、先生まで来てたんだ」
「四葉から二人が崖の方に行ったって聞いてね。一応、上杉も探しに来てたみたいだけど二人は遭わなかったんだね」
「姿も見ていませんね。そういえば二乃はよく一人で平気でしたね」
確かに夜の森の中を女の子一人で歩いていた割には平気そうな顔である。
「私は上杉には遭ってないけど、他校の男の子に助けてもらったから平気だったわ」
「他校の?」
「そちらの学校でも同じように肝試しをしていたのかもしれませんね」
確かに他校も近くの宿泊施設を利用している訳だから、あり得ると言えばあり得るか。
二乃の後ろの崖に向かってライトを当てる。
なんにせよ、二乃が無事で何よりである。
上杉に関しては崖の存在を知っているから危険はないだろうから一旦引き返すか。途中で遭うか、もう戻ってたりするかもだしな。
「それじゃあ帰ろうか」
「ええ」「はい」
二人に声をかけ四葉と立川先生が待つ場所まで戻るのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は二乃の金太郎へのダンスの申し込みと和彦が二人と合流するお話を書かせていただきました。
和彦がいることで後半は原作と少し変えています。
ちょっと五月の変貌が大きいですが、そこは大目に見ていただければと思います。
次回もまだ林間学校の二日目を書かせていただきます。次回投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。