少女と花嫁   作:吉月和玖

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32.行方不明

「先生お願いします!」

「はいよ!」

 

林間学校二日目の夜。肝試しも終わりほとんどの生徒は、消灯時間まで宿舎内でそれぞれが思い思いの行動を取っている。所謂(いわゆる)自由時間というやつだ。

そんな中僕は何をしているかというと、昨日の雪から倉庫に避難させていたキャンプファイヤー用の丸太を生徒達が持ってきているので、それを預かり組んでいっているところである。丸太を持ってきているのはキャンプファイヤーの係の人で総出で頑張っている。

ちなみに僕はキャンプファイヤーの係というわけではないのだが……若い!男!というだけで手伝いを言い渡されたのだ。理不尽過ぎる…

僕はどちらかと言えばインドア派なので、あまり体力には自信がない。まあ、丸太を一人で持ち上げるのはなんとか出来てはいるんだが。もう一人生活指導を行っている柴田先生がいらっしゃるので何とかなっている。仮に一人でと言われたらと思うとゾッとしてしまう。

そう考えていると、見知った二人が一緒に丸太を持ってこちらに向かってきた。

 

「やあ、四葉もお疲れさん。上杉は手伝ってくれてるのかな?」

「お疲れ様です先生!」

「ハァ…ハァ…お疲れ…様です…」

 

まだ一回しか運んでないだろうけど、上杉は大丈夫なのだろうか。僕も体力には自信がないがここまでではないだろう。

 

「まあ無理しない程度によろしくな上杉」

「はい…」

 

そんな疲れ果てている上杉を連れた四葉の二人は、また次の丸太を取りに行くために倉庫の方に行ってしまった。四葉の方はまだまだ体力に余裕があるように感じられる。

そんな感じで続々と丸太が運ばれている最中(さなか)、上杉は今度は一花と丸太を運んできてた。それに一花は何やら楽しそうに話しているように見える。

 

「あれ?今度は一花と持ってきたんだ。四葉は?」

「四葉はいつの間にかいなくなっていて、気づいたら一花がいました」

「今、フータロー君に私たち姉妹とのコミュニケーションの取り方のレクチャーをしてたんだぁ。二乃には負けないくらい強く。逆に五月ちゃんには優しさを。自分の言葉でね」

 

なるほど。二乃には強く、五月には優しくか…

確かに五月には甘えん坊な気質があるようだし、優しくするのが良いのかもしれないな。

 

「あ、私にも優しくしてくれてオッケーだよ。じゃあ、次行こっかフータロー君」

「や…優しく…ね。覚えてはおく」

 

僕に丸太を預けた一花と上杉は次の丸太を取りに倉庫に向かって行ってしまった。

しばらく作業をしていると丸太はなくなったのか、追加で持ってくる生徒がいなくなった。

すると、倉庫がある方向から四葉が走ってきた。手には何もないので倉庫にはもう丸太がないのだろう。

 

「お疲れ様です先生!」

「お疲れさん。丸太はもう終わり?」

「はい!倉庫にはもうなかったので鍵も閉めてきました」

 

そう言って持っていた鍵を渡された。

大丈夫だと思うが後で戸締まりの確認だけしとくか。

 

「あのー、上杉さん知りませんか?」

「上杉?上杉なら一花と丸太運んでたけど。丸太がないのを確認したから宿舎に戻ってるんじゃない」

 

四葉と並んで宿舎に戻っていると上杉の存在を聞かれた。

さすがに先ほどの肝試しと違って森の中を歩く訳ではないので迷うこともないだろう。

 

「あ、一花と運んでたんですね。さっきの肝試しも結局最後まで戻ってこなかったので、またどっかに行ってるのかと思ってました」

 

僕の言葉に四葉は笑いながら答えた。少し心配もしていたようだ。

宿舎に入ってしばらく歩いていると前から二乃と三玖、五月の三人が小走りに近づいてきた。

 

「キャンプファイヤーの準備はもう終わられたのでしょうか?」

「ん?ああ、さっきね。それがどうかした?」

「一花の姿が見当たらないのよ」

「一花が?」

 

ふむ。一花は上杉と丸太を運んでいたから上杉と二人でどこかにいるとか?でも、上杉の性格から抜け出したりしないように思うしなぁ。じゃあ、一花は一人でどっかに行った。いや、この宿舎の中にいる可能性だってあるし。

 

「とりあえずもう少しだけ宿舎内を探してみな。僕は戸締まりの確認で倉庫に行くところだったから、その道すがら探してみるよ」

「だったら私も付いていってもいいでしょうか?外であれば一人より二人で見て回った方がいいと思います」

「それは構わないが…灯りがあるとはいえ暗いけど大丈夫?」

「問題ありません」

 

特に震えてる訳でもないし、本当に大丈夫なんだろう。

仕方がない。あまり遅くなると消灯時間になってしまう。

 

「よし!じゃあ外は僕と五月で。残りが宿舎内ということで。行こうか五月」

「はい!」

 

僕の言葉にしっかりと返事をする五月。そして、五月を連れ倉庫にまず向かうのだった。

 


 

~風太郎・一花side~

 

時は少し遡り。

風太郎と一花は和彦に運んだ丸太を預けた後、再び丸太が保管してある倉庫に戻ってきていた。そこには一本の丸太が置いてあるだけだったので、これが最後の丸太なのであろう。

 

「最後の一本だな」

「これで明日キャンプファイヤーできるね」

「…明日か…」

 

そこで風太郎は現在困っている状況があることを思い出していた。キャンプファイヤーで行われるダンスの相手である。

ややこしい状況ではあるが、風太郎として誘われたことりと金太郎として誘われた二乃のどちらかを断らなければまずい状況なのである。

 

(変装した俺が二乃と踊ることになったまではいいが、既にことりとの約束もある。両方は無理だ)

 

一度は二乃に自分の正体を明かそうとも思い二乃に話しかけた風太郎であったが、途中で姿を見失ってしまったのだ。もう一人のことりについては会うことすらできていない。さすがに相談なしでいきなりダンスを断ることを、風太郎は駄目だと思っていた。

 

「まあフータロー君は参加しないんだし関係ないよね」

「それが関係大ありなんだよ。当日踊ることになったからな」

「え……?」

 

やれやれと面倒くさそうに既に一花が持ち上げている丸太の反対側を持ちながら、風太郎は自分がキャンプファイヤーに参加することを伝えた。

 

「ま…待って…!フータロー君誰かと踊るの?」

「ん?まあな。ことりに頼まれたからあいつと踊ることになってるよ」

「こと…り…」

 

(まあ本当は二乃にも頼まれているが、この話をするとややこしくなりそうだから言わないでおくか)

 

「ことりも困ってたみたいだったし、あいつには色々と世話にもなってるしな……っ!」

 

ことりと踊ることを説明しながら一花の方を見た風太郎は驚きの顔になった。一花の瞼から筋を引いて涙がこぼれたのだ。

 

「え…一花?」

「あれ…なんでだろ…違うの。ごめん…一旦置いていいかな」

 

そう伝えている間にもどんどんと涙がこぼれる一花。そんな一花の様子に風太郎は何がなんだか分からず、ガタガタと体を揺らすしかなかった。

 

「どどどど、どうした急に」

 

そんな二人がいる倉庫に別の生徒が近づいてくる気配がしたので、風太郎は慌てて行動を起こした。

 

「よーし全部運んだわね」

「意外と早かったねー」

「疲れたよー」

 

女子生徒だろうか。倉庫の外から中に丸太がもうない事を確認して、作業が終わったと解放感に満ちていた。

その頃風太郎と一花はというと、入口のすぐ横に丸太を立てて、その陰に隠れるように立っていた。

 

「……」

「はは…前にもこんなことあったね」

 

目にはまだ涙が溜まっている一花が笑いながらそんな話をする。

前にもあったというのは、花火大会の時に社長から身を隠すために路地で抱き合って身を隠した事である。あの時も二人で今のように隠れていたのだ。まあ今は抱き合ってはいないのだが。

 

「っていうか隠れる必要ある?」

 

(よくわからんが…優しく…優しく…)

 

一花の質問に対して風太郎は黙って自分の上着を一花の頭から被せた。

 

「!」

「誰も見てないから」

 

風太郎のこの行動は、一花が泣いているところを誰にも見せてはいけないと思ったからこその行動だったのだ。それを知った一花は上着の中ではっとした顔になった。

 

ギィィィ…ガシャン…ガチャ…

 

それも束の間。二人には思いもよらない音が聞こえてきたのだ。

 

「「!?」」

「ガシャン…」

「ガチャ…」

「ま、待て…まさか…え?」

 

音の正体を確認するために二人は入口に向かうも、そこはしっかりと閉ざされていた。

 

ガチャガチャ…ドンドン

 

押したり叩いたりしても反応がない扉。

 

「「あはははは」」

「一本取られたね…」

 

そんな扉を前に二人はもう笑うしかなかった。

 


 

五月と二人外に出て丸太が保管されている倉庫に向かう。念のため途中の道では茂みなどに持ってきた懐中電灯で灯りを当てながら進む。まあこんなところにはいないと思うが。逆にいたら驚きである。

宿舎から倉庫まではほぼ一本道。外にいればどこかで鉢会うだろうと思っていたが今のところ会うことはない。やはり宿舎の中のどこかにいるのではないだろうか。

 

「そうだ」

 

あることを思いついた僕はスマホを取り出し電話をした。

 

『もしもし、兄さん?どうしたの?』

「悪いことり。ちょっと頼みたい事があるんだけど」

『それはいいんだけど。なに?兄さん今どこにいるの?』

 

ことりにあることをお願いするために電話をしたのだが、お願いする前に自分が宿舎にいない事を悟られてしまった。まあ宿舎にいれば直接頼みに行くから感づいたのかもしれない。

 

「キャンプファイヤーの準備があってたのは知ってるでしょ。その準備で使った倉庫の戸締まりの確認をしに行ってるんだよ」

『兄さんも大変だね。それで?頼みごとって何?』

「上杉が部屋にいるか確認してほしくてね。頼めるかな?」

『それくらいなら全然いいけど。風太郎君に何か用事?』

「ま、そんなとこ。じゃあよろしく」

『はーーい』

 

そこでことりとの通話を切った。

ちなみに一花はスマホを部屋に置いたままだったらしく、電話をしても出なかったからしい。

 

「今のはことりさんですよね?なぜここで上杉君の居場所を?」

 

隣で電話をしていたのを聞いていた五月が当然のように問いかけてきた。

 

「一花は上杉と丸太運びをしてたからね。だから彼なら一花の居場所を知ってるのかなと思ったわけ」

「なるほど。であれば、彼が捕まれば一気に解決かもしれませんね」

 

一花と上杉が一緒に行動をしていたことは、同じくキャンプファイヤーの準備をしていた四葉も知らなかった。であれば、準備をしていなかった五月が知ることは叶わないだろう。それに、彼女の性格からして上杉に聞きに行くという選択肢はなかっただろう。五月的には今は上杉の事を見定めているところらしいし。

そして、しばらくするとことりからの折り返しの連絡があった。

 

「どう?上杉いた?」

『それが部屋に戻ってきてないみたいなの。誰に聞いても見てないって。そもそもどこに行ったかも知らないみたい』

「そっか…」

 

まさかとは思ったが上杉も行方不明とはな。困ったなぁ。

 

『あーあ。私も明日のことで話とかしたかったんだけどなぁ。どこ行っちゃったんだろ』

「明日ってキャンプファイヤーの事?」

『そ。なんだ兄さん知ってたんだ。どう?ヤキモチ妬いた?』

「妬かないよ。上杉本人から聞いてね。良かったじゃん承諾してくれてさ」

『まぁね。お陰で断りやすくなったよ。まあ、私と風太郎君が踊ることをあんまり信用してくれなかったんだけどね。私が風太郎君呼びだったのが功を成したみたいかな。こうやって部屋にいるか確認したのもまた大きなことだと思うよ』

「そっか。ことりが楽になったのなら何よりだよ。じゃあそろそろ切るね。ありがとね、助かったよ。多分、このまま消灯になると思うから、おやすみ」

『これくらい問題ないよ。さっきも言ったけど私も風太郎君に用事あったし。じゃあね、おやすみ』

 

そこで電話が切れた。収穫があったと言えばあった。上杉も一花同様に行方不明だということが…

 

「上杉君いなかったのですか?」

 

僕の会話から上杉がいなかったことを察した五月が、いなかったことを確認してきた。

 

「ああ。部屋にはいないって。行方も誰も知らないそうだよ」

「まあ、彼の場合は他人との関わりがほとんどないですからね。誰も行き先を知らないのも無理はないかと」

 

そうなってくると二人は一緒にいるのか?でもどこに?

先ほども考えたが、上杉が抜け出してどこかに行くというのは考えられない。

そんな風に考えていたら倉庫が見えてきた。遠目から見ても扉はしっかりと閉じられているようだ。後は近くまで行って戸締まりの確認をするだけだ。その後はどうしたものか。

 

ガランッ…!

 

考えごとをしながら扉に近づくと何かが倒れた大きな音と共に扉に穴が空いたのだ。

 

「え?何事!?」

「わ、分かりません。中の物が何か倒れたのでしょうか」

 

それにしても何故扉が壊れるのだという話ではあるんだが。

そうこうしていると、今度はビービーとけたたましくサイレンが鳴りだした。

 

『衝撃を感知しました。30秒以内にアンロックしてください。解除されない場合直ちに警備員が駆けつけます』

「「!!」」

 

この倉庫にはどうやら防犯対策がされているようで、先ほど扉を破壊された事でシステムが作動してしまったようだ。とにかく鍵を使って扉を開ければ良いようなので扉に鍵を差し込む。

すると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「うわっ、なんだこれ!」

「スプリンクラー...火を消さなきゃ」

「ひとまずセンサーをなんとかしよう!」

「なんとかって...だから鍵がないと...」

 

ガチャ

 

「はぁぁ…何やってんのお二人さん?」

「一花。二人してこんな所で何してたんですか?」

 

扉を開けると、先ほどまで鳴っていたセンサーが止んだのだが、そこにはびしょ濡れになっている上杉と一花の2人が居た。

 

「とりあえず二人は一旦宿舎に戻ってタオルで拭いたり着替えたりしたら先生の部屋に集合ね」

「「はい…」」

 

こんだけの騒動を起こしたんだ。生徒指導の柴田先生は相当お怒りになるだろうね。今夜は長くなりそうだ。

立たせた二人を五月に任せて僕は現場に残って立川先生に連絡をした。

 

『どうされたのですか?』

「あー…ちょっと生徒がやらかしちゃいまして。倉庫の扉を壊しちゃったんです」

『えー!?』

「とりあえず僕は現場にいますので施設の方に連絡をお願いします。該当の生徒は今五月が連れて宿舎に戻ってるので、そちらは柴田先生に任せます。ただ、その生徒はびしょ濡れですのでまずは着替えをさせるようにお願いします」

『わ、分かりました。施設の方に連絡ができ次第またご連絡しますね』

 

電話を切った僕は倉庫の中に進む。閉じ込められたのは本人達から聞かないと経緯は分からんが、何故スプリンクラーが?

二人がいた辺りを見てみると小さな焚き火の跡があった。これで暖を取っていたのだろう。それで警報と共にスプリンクラーが作動したのか。しかし、どうやって火を起こしたんだ?まさか自力で?

これは聞き取ることが色々ありそうだ。

かくして、施設の人が来た後は分かる範囲の状況を説明して宿舎に戻るのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、キャンプファイヤーの準備を中心に書かせていただきました。
少し中途半端ではありますが、原作の一花と風太郎のやり取りも書かせていただいております。
戸締まりの確認に行くのに女子生徒と二人でというのもないかな、とは思いましたがそこはご愛嬌ということで読んでいただければと思います。
後、生徒指導の先生の名前が分からなかったので、失礼ながら勝手に柴田と付けさせていいただきました。戦国武将の柴田勝家から取っています。

次回はいよいよ林間学校三日目を迎える訳ですが、ほぼオリジナルでの内容となる予定です。

では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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