少女と花嫁   作:吉月和玖

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33.高熱

林間学校三日目。

今日はスキーに登山、川釣りと三つのコースを選んぶといった自由参加形式である。教師陣も三つのコースにそれぞれ分かれて、何かあった時のために待機をすることになっていた。

スキーや川釣りは生徒が楽しんでいるのを見ているだけで良いのだが、登山だけは違う。山頂や山道でも何かあるかもしれないので、一緒に山を登らなければいけないのだ。なので、教師陣営からもあまり人気とは言えないのである。まあ、実際スキーを選ぶ生徒が例年多いことから、登山を選ぶ生徒は一クラス分の人数がいるかいないかなので付き添いの教師も一人で事足りているそうだ。

そんな貧乏くじを引いた僕は今、引率のために登山に参加して今は山頂まで来ていた。初心者コースとはいえ普段運動をしない僕からすれば、中々体力を使うものだった。だが山頂からの景色も良いものである。

ここの山頂は広いスペースがあり、お店も並んでいる。山を登るまでは団体行動てはあったが、山頂に着いた今は下山するまで自由行動としている。

展望台からの景色やその景色をバックに写真を撮ったり、お店の中を覗いたりと(みな)様々である。

かく言う僕は、疲れてベンチに座り生徒達を見守りながらも景色を見るのに楽しんでいた。

 

「隣いい?」

 

景色を楽しんでいた僕にこの登山に参加していたことりが声をかけてきた。先ほどまで友達二人と話していたがいつの間に。

 

「構わないよ」

「ありがと」

 

僕から許可をもらったことりは僕の横に並んで座った。

 

「友達と話してたんじゃなかったの?」

「うん。写真もある程度撮ったよ。兄さんと話してくるって行ったらお店の方に行っちゃった」

 

僕の質問にお店が並ぶ方を見ながら答えることり。僕もそちらを見ると確かに並んでいる商品を見ている二人の姿があった。

 

「しかし何でまた登山なんて選んだのさ」

「私は…ほら、スキー滑ったことないし。川釣りって気分でもなかったから…」

 

チラチラと僕を見ながらことりは登山を選んだ理由を話している。表向きはそうなのだろうが、多分登山を選んだ本当の理由は僕がいたからだろうな。

 

「それで?本当の理由は?」

「……もちろん、兄さんがいるからだよ!」

 

屈託のない清々しいまでの笑顔で答えることり。そこまで言われると僕も何も言えないな。

 

「そう言う兄さんだって、なんで登山の引率なの?スキーは私と一緒で滑ったことないから分かるけど、川釣りとか選んでそうだよ」

「僕の場合は選んだんじゃなくて選ばれたって感じだから。若くて体力ありそうだからって…」

 

実際には体力ないんだけどね。まあ、普段の運動不足解消と思っておこう。

 

「本当は立川先生の案もあったんだけど、立川先生スキーの経験者らしくてね。それで、スキー未経験者の僕の方が選ばれたって訳」

「それはそれは、ドンマイ!」

 

そこでサムズアップされてもなぁ。ことりは僕と違って体力あるから今回の登山も平気にこなしている。むしろ、未経験でも滑り始めたらスキーもすぐに滑れるようになったのではないだろうか。結構勿体ない事をしたと思うが。

 

「友達はよく登山に付いてきてくれたね」

「うん。二人は元々どれでもよかったみたいでね。ことりが登山に行くなら私も、みたいなノリで付いてきてくれたよ」

 

なんて友達思いの子達なんだ。

しかし、二人を見ると平気そうな顔でお店の商品を見ているから、体力はある方なのだろう。

 

「そういえば、結局風太郎君は昨日見つかったの?私は今日も会わず仕舞いだから、この林間学校では昨日の肝試しの脅かし役の時にしか見てないや」

 

初日は僕と五つ子に立川先生と一緒に別行動。二日目は主にクラスごとでの参加だったから会えるはずもないか。唯一の昨日の夜は一花と二人倉庫に閉じ込められてた訳だしね。

 

「僕も昨日は夜バタバタしてたから伝えるの忘れてたけど、上杉は一花と一緒にキャンプファイヤーの丸太を保管していた倉庫に閉じ込められてたよ」

「えー!?嘘でしょっ!?」

 

ことりは信じられないといった顔で驚いている。まあ当然の反応だろう。

 

「本当だよ。昨日の夜はその事でバタバタしてたんだよ」

 

僕は壊れた倉庫の扉の件でずっと外にいたのだが、まあそこは言わなくても良いだろう。

 

「でもなんで倉庫に閉じ込められたの?」

「なんでも、二人で話していたら気づかれないうちに外から閉められたんだって。あそこ外鍵だから中からは鍵を開けられないんだよ」

「そんなことがあるんだねぇ」

 

本当にそう思うよ。いくつもの偶然が重ならないと起き得なかったことである。

 

「しかも、閉じ込められた後に上杉は木の棒とロープを使って火起こし機を自分で作って、火を起こしたんだから。そこも驚きだよ」

「それで暖を取ってたんだね。凄いな風太郎君は」

 

兄妹二人で上杉の行動に感心しているとスマホにメッセージが届いた。どうやら五月のようだ。

 

『一花から聞きました。今日のキャンプファイヤーでのダンスを先生が一花と踊ると。ただ、昨日の事で一花が寝込んでしまいまして。ただの風邪と思いますが、大事を取って今日のダンスには参加させないようにしようかと思います』

『了解。一花にはしっかり休むように伝えといて』

 

『わかりました』と返事が返ってきたのでそこでスマホをしまった。一花が風邪引いたなら上杉は大丈夫なのだろうか。

 

「先生~」

 

そんなことを考えているとことりの友達である、森下さんと佐伯さんが近づいてきた。

 

「よかったら兄妹でのツーショット撮ってあげましょうか?」

「え、いや…」

「いいのっ?ありがとう!ほら兄さん立って立って」

 

僕は良かったのだがことりはノリノリで、僕の腕を取って立たせようとした。そしてそのまま展望台の手すりの方まで引っ張られて山々の景色をバックに写真を撮ってもらうのだった。ご丁寧に腕を組んだ状態で。

ことりは五つ子の他にも、この森下さんと佐伯さんの二人には兄妹仲良しなのをさらけ出している。

何はともあれ、登山も後は下って山の麓にあるレストランで遅めの昼食を食べるだけだ。

 

「よし!じゃあそろそろ出発するよー」

『はーい!』

 

そして、生徒を集めて下山をするのだった。

 

・・・・・

 

山の麓での遅めの昼食も終わり、資料館での展示物などを見終わった僕ら登山コースのメンバーは、今はバスに乗って宿舎を目指していた。

生徒達は最初こそはしゃいでいたものの、疲れがきたのか殆どが寝てしまっていた。

僕も疲れから眠気があり、何度も欠伸をしていた。

そんな時、スマホに着信が入った。メッセージではなく電話のようだ。

五月?

 

「はい、どうした?」

『先生!上杉君が!上杉君が!』

 

相当慌てているようでどうも要領を得ない。

 

「落ち着いて。ゆっくり話そう。上杉がどうしたんだって?」

『…っ、今上杉君とスキーのリフトに乗っているのですが、上杉君が倒れてしまって。しかもすごい熱もあるみたいで!』

「っ!分かった。僕は向かえないけど、待機してる先生をリフト乗り場まで向かわせるから、そのまま下までリフトに乗って下りてくれ。上杉の事、頼んだよ」

『はい!』

 

少しは落ち着きを取り戻した五月の返事に満足した僕は、電話をそのまま切りすぐに別の人物にかけ直した。

 

『はい?どうかされましたか?』

「立川先生。先ほど五月から連絡がありまして、現在リフトに乗っている上杉が高熱で倒れたそうです」

『えーー!?』

「隣にいる五月が支えているそうです。そのままリフトで下まで下りるように伝えているので、男性の先生をリフト乗り場に向かわせてください」

『わ、分かりました!すぐに向かいます』

 

そこで立川先生との電話も切れた。しかし、この林間学校では立川先生の連絡先を聞いといて良かったと何度も思ったものだ。

 

「どうかしたの兄さん?」

 

後ろの席に座っていたことりが電話をしていた声に気づいて声をかけてきた。

 

「風太郎君の名前や高熱で倒れたって言葉が聞こえたけど…」

「さっき五月から連絡があって、上杉が高熱で倒れたって」

「え!?だ、大丈夫なの?」

「現地の先生を向かわせたから大丈夫だと思うけど。僕が出来るのはここまで。後は宿舎に戻ってだね」

「そ、そうだよね」

 

心配そうな声のことり。とはいえ、ことりに伝えた通り今僕が出来ることは何もない。無事に先生達が対応してくれるのを祈るばかりだ。

そんな思いの僕を乗せたバスは宿舎に向かって進むのだった。

 

宿舎に着いた僕とことりは急いで上杉がいるであろう場所に向かった。立川先生から高熱のために別室で安静にさせると聞いたので、その部屋に向かう。

すると向かいから五つ子が肩を落としながら歩いてきた。

 

「みんな!風太郎君は?」

「今は先生が付いて部屋で寝ているかと。その部屋は立ち入り禁止と言われました」

 

なるほど。正しい判断だ。

 

「フータロー…せっかく林間学校に前向きになってくれたのに…一人で…こんな寂しい終わり方でいいのかな…」

 

三玖の言葉で五つ子達はさらに悲しい表情になっている。

 

「とにかく、君たちはもうすぐ始まるキャンプファイヤーの準備に入るように。僕は上杉の様子を見てくるから」

 

六人にそう伝えた僕は一人、上杉が寝ている部屋に向かった。

 

コンコン……ガチャ…

 

「おー、吉浦先生かね。どうされました?」

 

扉をノックすると扉が開かれ、中から学年主任の木下先生が顔を覗かせた。

 

「上杉が倒れたと連絡を受けたのは僕でしたので、気になりまして」

「そういえばそうでしたな。いや、助かりましたよ。吉浦先生からの連絡がなければ生徒だけでここまで連れてくることになっていたでしょうからな」

 

木下先生は部屋から出てきて扉を閉めて僕と向き合った。

 

「結構悪いですか?」

「うーむ、知識がないのでなんとも言えんが、あまりよくないでしょうな。これ以上悪くなるようでしたら病院へ、とも考えていたところです」

「そうですか……あ、上杉の看病変わりますよ。主任はどうかキャンプファイヤーに行ってください」

「いいのですか?吉浦先生も登山で疲れているでしょうに」

 

僕が看病を代わると申し出ると驚かれてしまった。

 

「ええ。疲れはありますが、キャンプファイヤーには木下先生がいた方が良いでしょうし。座って看るだけなら苦でもありませんしね」

「分かりました。では、ここは任せます。何かあればすぐにでも教えてください」

 

そう言うと木下先生はキャンプファイヤーの準備が行われている広場へと向かっていった。

入れ代わりに、僕が上杉の寝ている部屋に入った。

外も暗くなってきていたので上杉には悪いが電気をつけさせてもらう。

上杉が寝ているベッドの横には先ほどまで木下先生が使っていたであろう椅子があったのでそこに座った。

 

「ハァ…ハァ…せ…先生……?」

 

座ったことで気配を感じたのか、寝ていた上杉が目を開けて話しかけてきた。汗をたくさんかいているようなので拭いてあげたほうが良いかもしれないな。

 

「悪い。起こしちゃったかな。起きたついでに汗を拭いてあげるから、ちょっと待ってな」

「す…すみません……ハァ…ハァ…」

 

そこで目を閉じた上杉を確認した後、タオルなどを用意するために一度部屋を出た。他にも冷えピタなんかもあればいいんだが。施設の人に聞いてみるか。

 

結局、冷えピタなどはなくタオルと水を用意した。

用意した物を部屋に持ってくると、上杉はまだ起きていたようで、椅子に腰かけると寝たままの状態で声をかけてきた。

 

「ハァ…そこまでしてもらわなくてもいいんすよ…」

「言葉と態度が一致してないよ。まったく…そんな風にやせ我慢しててこんなに酷くなったんじゃないの。一旦汗だけでも拭くから一度起き上がって」

 

僕の言葉に素直に起き上がった上杉には僕に背中を向いてもらうように座ってもらった。

 

「もしかして、らいはさんから貰ってきたとか?」

 

服をたくしあげ、上杉の背中の汗を拭きながら今回の熱の原因について聞いてみた。

 

「かも…しれないですね…とはいえ、あいつにはそんなこと言えないっすけどね…」

「まあ、そうだよな……よし、簡単にしか出来なかったけどやらないよりかはマシでしょ。布団入って寝ていいよ」

 

ゆっくりではあるが、上杉は布団に入り仰向けに寝転んだ。その上杉の顔の汗もタオルで拭ってやった。

 

「慣れてるんすね…」

「うちは両親共働きだったからね。ことりが風邪引いた時とかはよく世話してやったもんだよ。上杉もそうだろ?」

「ええ…ゲホッ…ゴホッ…まあ、らいははまだ小さいですからね。そこまで大変じゃないっすよ」

「成長してもそんなもんだよ。ほら、お喋りはもういいから少しでも寝ときな」

 

水で濡らしたタオルを上杉のおでこに乗せながら寝るように促した。

 

「冷たっ……うっす…」

 

そこで上杉は目を閉じると息は荒いものの眠りについたようだ。

後はタオルを時間をおいて変えればいいか。

少ししか時間は経っていないが十分に暗くなった外からは、キャンプファイヤーで灯している焚き火の明るさが見えていた。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、スキーに参加しなかった和彦とことりの語らいから上杉が倒れたと連絡を受け、寝ている上杉のもとに駆けつけるところまでを書かせていただきました。
当初は、和彦とことりもスキーに参加で書こうかと思っていたのですが、兄妹水入らずの時間をと思い、二人は登山にしてみました。
なので、五つ子の出番は今回少なめというかほとんどないことになっています。すみません。
ちなみに、今回も先生のお名前も勝手に付けさせていただきました。学年主任の先生はハゲネズミこと秀吉の昔の名前木下藤吉郎から取らせていただきました。

さて、次回で林間学校も終える予定となっております。次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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