色々なことがあった林間学校も終わり、いつもの日常が戻ってきたある日。今日は学校が午前授業だったこともあり、僕はことりと二人で総合病院に来ていた。
僕もことりも至って健康そのものであるので、今日はある人物のお見舞いに来ているのだ。その人物というのが上杉である。
林間学校三日目のスキーの最中に上杉は高熱で倒れた。その後、次の日の出発時間まで寝かせていたのだが熱は下がることがなかった。なので、病院に連れていくために上杉には僕の車で一緒に帰ってもらうことになったのだ。付き添いとして、同じクラスで知った仲ということで五月が立候補した。他の姉妹やことりも手を挙げたが、学年主任の木下先生が五月を指名したのだ。
「では吉浦先生。任せてばかりで申し訳ないが、上杉のことよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそ、クラスの事を任せっきりになってしまい申し訳ないです」
「なーに、こちらのことは気にせず運転と上杉のことに集中してください。中野。吉浦先生の邪魔にならないようにな」
「はい!」
助手席に座っている五月が木下先生の言葉に答えたところで車を発進させた。上杉は後ろの席におり、シートベルトをした状態で背もたれを倒し、少しでも寝やすい状態を作っている。
さて、まずは近くの病院からだろう。非常時用の風邪薬は飲ませているが、ちゃんと処方された薬の方がいいだろうしな。
という訳で、大きめな病院を探してそこに向かい上杉の診察をしてもらった。
診察結果としては、簡単に言えば肺炎まではいかないものの風邪による発熱が酷くなっているとのことだ。地元に戻ったら、必ず地元の病院にもう一度行くように注意もされた。
しばらく点滴をすることになったので、五月と二人でちょっと早めのお昼ご飯を食べることにした。
「しかし、まさか五月が付き添いに立候補するなんて思いもしなかったよ。心境の変化でもあった?」
お昼の蕎麦を食べている時、少し疑問に思っていたことを五月に聞いてみた。
「そう…ですね。今回の林間学校を通して上杉君の人となりを確認することができました。先生やことりさんが言っていた通りの人間だと思ったんです」
「へぇ~、それは良かった。二日目の朝に上杉の事を確かめるんだって息巻いていた時は、少し心配はしてたんだけどね。あ、僕のいなり食べたかったらどうぞ」
「いいのですか!?いただきます!」
一皿に三個乗っていたいなりを僕は二個食べたので残りの一個を五月に譲った。五月は目をキラキラして喜んでいるのであげた甲斐があったというものだ。
「………後は、今回の上杉君の体調不良の一因は私にあると思ったのもあります」
僕のあげたいなりを美味しそうに食べた五月は、今回付き添いに立候補した理由を語った。
「上杉君が私たちのことをきちんと見てくれているのか確認をするために、私はスキーの時、寝ている一花になりきって上杉君の前に行きました。それであちこち連れ回してしまって…」
「風邪を引いたのではないか、と」
僕の言葉にコクンと五月は頷いた。
まあ、上杉の風邪はらいはさんから貰ってきたか、倉庫でスプリンクラーの水を浴びたことが原因だろうけどね。スキーで連れ回したのも容態を悪くさせた原因の一つと言えば一つかもしれないが。
「ま、なんにせよ。上杉は五月を見つけてくれたんでしょ」
「よく分かりましたね。ええ、彼はきちんと私たちのことを見てくれていました」
見つけてくれた時の事が嬉しかったのか、五月はニッコリと微笑んでいる。
上杉とは喧嘩までしていたのに、こういう顔ができるようになったことを嬉しく思う。
お昼ご飯が終わった後も上杉の点滴が終わるまでまだ時間もあったので、周辺を五月と軽く観光とまではいかないが見て回って時間を潰した。
その後は点滴を終えた上杉を車に乗せ地元に向かって走らせた。
そして地元にそろそろ着くだろう時に五月がある提案を出した。
「上杉君の病院なのですが、私たちの父が院長を勤めている病院に行きましょう。私から父にお願いしてみます」
「え!?五月達の父親って院長先生なの?」
「ええ。知らなかったのですか?」
まじかぁー…まあ、あのマンションに五人の娘と住んでるならそれくらいの職には付いてるか。
驚きはあったものの、納得感も感じることもできた。
そして、五月の案内のもと病院へと車を走らせた。
病院に着くと五月がすでに話を通していたのか、診察が始まった。まだ熱も高いことから検査入院をすることになった。諸々の手続きも院長先生こと中野姉妹の父親が色々としてくれたようだ。
その間に理事長に報告のため連絡をした。
『おー、吉浦先生。無事に着いたかね?』
「ええ。つい先ほど地元の病院に。中野さんが院長を勤めていらっしゃる病院です。中野五月さんに付き添いに来てもらって助かりました」
『そうか。何はともあれ
「ありがとうございます。では、中野五月さんを送ってからそのまま帰宅します。失礼します」
理事長との電話はそこで終えた。
さて、次は上杉の自宅か。やれやれ忙しいものだ。
あらかじめ、上杉に聞いていた自宅の電話番号に電話する。
『はい。上杉ですが』
「
『吉浦先生。ご無沙汰してます。らいはです』
自分の自己紹介をすると明るい声で返事が返ってきた。
「らいはさんか。花火大会以来だね。風邪を引いたって聞いてたけどもう大丈夫なのかい?」
『はい!ご心配していただきありがとうございます。もうすっかり元気です!』
元気よく返事が返ってくるが、言葉遣いといい本当にしったかりした子だ。
『それで、今日は?』
「ああ。親御さんは誰かいるかな?」
『お父さんがいますよ。ちょっと待ってください』
そこで父親と代わるためらいはさんの声が途絶えた。
『はい。風太郎の父ですが』
「突然のお電話申し訳ありません。
『お、あいつ何かやらかしましたか?』
なぜか嬉しそうな声で返ってきた。
「いえ。風太郎君は林間学校三日目に熱で倒れてしまいまして、今はこの町の病院に連れてきたところです」
『そうか…らいはから貰ってたかもしれねぇな。病院って言うと総合病院っすか?』
「ええ。ご認識されてるところと。後、熱が下がらないことで入院をすることになりましたので、それも併せてご報告いたします。手続きなどは院長先生のご厚意で問題なく進めております」
『へぇ~、あいつにしては殊勝なこった』
「?どうかされましたか?」
『いや。あそこには知人がいるんでね、詳しいことはそいつに聞いてみることにしますわ。先生。連絡ありがとうございます』
そこで上杉家との連絡も終わった。とりあえず今やるべきことはこんなものだろうか。後はことりに無事に着いたことをメッセージしといて、と。
「先生!」
丁度そこに五月が声をかけながら近づいてきた。父親との話が終わったようだ。
「お待たせしました」
「いや。僕も色々と電話してたからそんなに待ってないよ。それよりありがとね。上杉の手続きとか色々してもらって」
「いえ。すべて父がしたことですので…」
「失礼」
そんな五月と話していると男の人に声をかけられた。
その人物は若く見えるがどこか威厳というかオーラを感じる。
「お父さん!?」
え、お父さん!?てことは、この人が五つ子の父親でこの病院の院長先生か。
「お会いするのは初めてですね。中野三玖さんの担任をしております吉浦です」
五月の言葉で相手を知った僕は頭を下げて挨拶をした。
「やあ。娘達が何かと世話になっているようだったから挨拶をと思ってね。礼儀正しい先生のようで何よりだよ」
なんだろう…底知れないプレッシャーを感じてるのは気のせいだろうか。
「五月君。さっきは伝え忘れていたが、江端に車を出させよう。それに乗って帰るといい」
「え、しかし…」
そこで五月はチラッとこちらを見た。僕に送ってもらうつもりだったのだろう。
「車を出してもらえるならそうするといいよ。せっかくのお父さんの申し出なんだし」
「は…はい…」
「では僕はここで失礼させてもらうよ。今後も
「は、はい!では先生、また学校で」
そんな言葉を残して中野さんは行ってしまった。五月はペコリと頭を下げて中野さんに付いていった。
なんか最後の最後にどっと疲れがきたような気がする。
そんな思いの中家に帰るのだった。
そんなこともあって、まだ入院している上杉のところにお見舞いに来たのだ。
「ことりは五つ子と来れば良かったのに」
「それが、みんなで用事があるみたいで一緒に来れなかったの。一人で来てもよかったんだけど、お兄ちゃんが行くなら一緒にって思って」
受付で上杉の病室を聞いて院内をことりと二人で歩いた。聞いたところによると、どうやら上杉は個室のようである。五月がもしかしたら気を効かせてくれたのかもしれない。
「しかし意外に上杉の入院は伸びたね」
「ホントにね。まあ大きな病気じゃないみたいだし、そこは安心かな」
そんな風にことりと話しながら上杉が入院している病室に向かっていると、その病室の前で背中を壁に預けて立っている女の子がいた。
「あれ?あれって四葉じゃない?」
「本当だね。あんなところで何してるんだろ」
ことりが壁に寄りかかっているのが四葉だと気づいたのだが、確かにあのリボンは四葉である。
「何してんの四葉?」
近づきながらことりが四葉に声をかけた。
「ふぇ!?ことりさん?それに先生も!な、なんでここに…」
「なんでって、上杉のお見舞いだけど」
色々な種類のゼリーを入れた袋を掲げてお見舞いに来たことをアピールした。
「で…ですよねぇ…」
「何?風太郎君って、今診察中か何か?」
「い、いえ。そういう訳ではないです…」
よく分からんが病室も合っているようだし中に入らせてもらおうか。
ドアが開けられた病室の中を見ると、どうやら上杉は誰かと話をしているようだった。なので、開いているドアを軽くノックして入ることにした。
コンコン…
「こんにちは風太郎君」
「なんだ、ことりも来たのか。先生まで、ありがとうございます」
ノックでこちらに気づいた上杉が挨拶をしてきた。先ほどから上杉と話していた人物もノックの音で振り返っている。
「見た感じは問題ないようだね。これ、差し入れ。上杉と話していたのは五月だったんだね」
「こ…こんにちは先生。ことりさんも」
差し入れのゼリーの入った袋を掲げながら五月の横まで来た。ふと五月の手元を見てみると何かを握っている。筒状の何かみたいだがよく見えなかった。
まあ、まじまじと見る訳にもいかないか。
一方のことりは五月の向かい側の椅子に座ったようだ。
「意外に元気そうで良かったよ。結構心配したんだから」
「悪いな。俺はこの通り元気だ」
心配そうに声をかけることりに対して、上杉は自分は元気であるとアピールをした。
「それにしても、五月ってばいつの間にか風太郎君と仲良くなってたの?林間学校の帰りの付き添いにも立候補してたよね?」
ニヤリと笑みを浮かべながら五月にからかうようにことりが話しかけた。
「そ、そういうのではないですぅ!林間学校の帰りも訳があったんです!」
そんなことりのからいに本気で困っている五月。両手を前に出してぶんぶんと振りながら否定をしている。真面目な五月ならではの反応なのかもしれない。
「ふふっ、冗談だって。私は五月と風太郎君が仲良くなってくれたことを嬉しく思ってるよ」
「仲良くはなってないんだが…」
「まあまあ。それより五月。他のみんなは?今日は五人で用事があるってことりから聞いてたけど」
「え…えーっと…ど…どこに行ったんでしょうね。あははは…」
「「?」」
五人での用事があるからことりは僕と来ていることになっているのだが、五月は今一人だ。用事は終わったのだろうか。いや、さっき入口に四葉がいたよな。
そんな風に考えていると、病室の入口辺りが騒がしくなってきた。
「やっと見つけたよぉ、五月ちゃ~ん…」
「探した」
一花と三玖の言葉と共に五月以外の四人の姉妹が病室に入ってきた。
「せ…先生も来てたんだね」
僕の存在に気づいた三玖は微笑みながら近づいてきた。
「まあね。結構な付き合いにもなるし、まあ教師代表かな。本当は立川先生と来る予定だったんだけど、別の用事が出来たみたいで来れなくなったんだよ」
「ことりもいるけど、ここで立川先生と一緒じゃなくてよかった」
僕の言葉に三玖はどこかほっとしているように見えた。
「先生とことりがいるんだったらもう少しゆっくりしたかったけど、私たちも別の用事があるから。ほら五月ちゃん行くよ」
「うぅ~~…」
一花が五月に声をかけるも動こうとしない五月。何があったんだ?
「五月!私は覚悟決めたわ!あんたも道連れよ!」
「ま、待ってくださいぃ~!」
二乃は五月の腕を掴むとそのままズルズルと連れていってしまった。
「お騒がせしてごめんね」
「では上杉さん、しっかり休んでくださいね」
「先生とことりもまたね」
一花と三玖と四葉も二乃と五月に続いて病室を出ていった。
何と言うか、嵐のような出来事だったなぁ。
「なんだったの?」
「ああ。あいつらは今日予防接種に来てたんだと。それで、二乃と五月が怖がって逃げ出したのを他の三人で探してたんだよ」
「なるほど。注射を怖がってた訳か」
「まあ、五月の場合はそれだけじゃないだろうが…」
小さな声で上杉がボソッと声に出したが他にここを離れたくない理由があったのだろうか。
「何か他にあったの?」
「いや。二人が来る前に話してた内容が中途半端なところで終わったから、最後まで聞きたかったんだろうよ。ま、俺は話さなくて済んだから助かったがな。とはいえ。五年前…京都…偶然だよな…」
上杉は最後の方になると少し真剣な顔になっているが、本当に五月が行ってしまって良かったのだろうか。
「ふ~ん…それで?風太郎君はまだ退院できそうにないの?」
「いや。さっきの診察で明日にも退院できるだろうと言われた。さっそく家庭教師を始めるぞ、ことり」
「え~!?退院できることは嬉しいけど、退院早々に家庭教師始めるの?少しは休んだら?」
「そうもいくか!あいつらの成績のこと考えたらこれ以上休む訳にはいかん」
ことりがまだ休むように促すもやる気満々の上杉である。
「まあ、ほどほどにね」
その後もしばらく上杉とことり、三人で語り合うのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、風太郎のお見舞いと回想として林間学校から帰ってくる話を軽く書かせていただきました。
ここで風太郎より大分早いですが、和彦がマルオと対面です。五月の雰囲気が柔らかく感じたのか、マルオの警戒心は高くなっていましたね。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。