36.見分け方
上杉のお見舞いをした次の日。
以前立川先生と訪れたケーキ専門の喫茶店に来ていた。家でゆっくりするのも良いが、こういった喫茶店でのんびりするのもたまには良いだろう。
ちなみにことりは、上杉が退院早々に家庭教師を行うとのことでそちらに行っている。上杉は無理をしていなければ良いのだが。
「おや。あなたはこの間、たくさんのケーキを買っていかれた」
ミルクティーを飲みながらのんびりスマホを操作していたところに、この店の店長さんが声をかけてきた。
「よく覚えていらっしゃいましたね。結構前の事なのに」
「ふふふ…お得意様になり得そうだったからね。こういうのは得意なんだよ」
とはいえ、かれこれ一ヶ月は経とうとしているのだから大した記憶力だと思う。
「今日は一人で?」
「ええ。たまにはのんびりするのも良いかと思いまして」
「おや、この間と一緒で彼女が来ているかと思ったが残念だ」
「あはは…そこまで親交がある訳ではないですからね」
おそらく立川先生の事を言っているのだろう。今日会えないことに本当にがっかりしている。
「また彼女に会えることを願っているよ。では、僕はここで。また来てくれると嬉しいよ」
そんな言葉を残して店長さんは行ってしまった。
するとそこに、ことりからメッセージが届いた。
『今って電話に出れたりする?』
何の用だろうと思ったが、とりあえず問題ないと返事をした。するとすぐに電話がかかってきた。
「どうした?今日は家庭教師だったよね」
『うん。実は兄さんにお願いがあって』
「お願い?」
上杉やことりでも分からないところが出たのだろうか。
『今画像を送ったから見てくれない?』
そう言われたので、スマホを耳から離し画面を見てみる。確かにことりからメッセージが届いていたので、そこから添付画像を見てみると、五人の女の子が並んでいる写真が写っていた。これは…
「見たよ。それで?この写真を見てどうしろと?」
『ふふっ、じゃあどれが誰だかわかるかなぁ?』
そう来たか。
先ほど見た写真には五人の女の子が並んでいた。しかし、普通に並んだ女の子なら知っている人物であればすぐに分かるだろう。だが、この写真には五つ子達が髪を後ろに結んで並んで立っていたのだ。改めて五つ子なのだと実感してしまう。
「なんでこんなことになったの」
『あー…これにはちょっとした理由があってね……』
そこでことりが、この写真を撮ることになった経緯を説明してくれた。
~中野家マンション~
無事に退院できた風太郎は、さっそく退院したその日から家庭教師のために中野家に向かっていた。
「本当に退院したその日から家庭教師するとはねぇ」
「あらかじめ言っていただろ。はりきっていくぞ!」
エレベーターが三十階に着き開いたドアから勇ましく歩いていく風太郎。玄関まで着くと、チャイムを鳴らしドアを開けて中に入る。それにことりも続いた。
「ふふふ、オートロックも使いこなしてきたぜ」
「そういえば、今日はスムーズにいけたね」
オートロックを使いこなせた事で上機嫌になっている風太郎。靴を脱ぎ、そのままリビングまで向かった。
だが、そこで事件が起きた。
「お邪魔しま...またかよ...」
「ん?」
風太郎がリビングに着くとバスタオル姿の五つ子の誰かがいたのだ。それに焦った風太郎の後ろからことりも状況を確認する。そこに、
「変態!」
「ピンポン押しただろ!」
バスタオル姿の誰かは何かを風太郎に向かって投げ、そのまま上の部屋に駆けて行ってしまった。
どうやら投げてきたのは紙袋のようで、中からあるものが出てきた。
「何々?なんだったの?」
「知るかよ…て、これは...」
紙袋から出てきた物ものとは、全教科0点の回答用紙であったのだ。
「さっきのバスタオル姿のやつは誰だ?」
「えー……一瞬の事だったし、頭をタオルで巻いてたから、本当に顔だけで判断することになるしで、私には判別できなかったよ。それにしてもこの点数はひどいね」
風太郎の疑問にことりも答えることが出来なかった。しゃがんでいる風太郎の横にことりもしゃがみこみ、一緒に散らばったテスト用紙を覗き込んだ。
「!」
その行動に風太郎は咄嗟に別の方向を見てしまった。
「?どうしたの?」
「い…いや…か…顔が近かったからな。ビックリしただけだ」
「?そんなに近かったかな?」
ことりはあまり気にせず五枚のテスト用紙を拾って中身を確認をしている。
(こいつは前からこんな感じだったか?距離感が妙に近いような……て、今はそんなことを考えてる場合じゃない。さっきの奴の正体を考えなければ。とはいえ、俺には顔だけでの判別はできないぞ)
テスト用紙の中身を確認していることりの横で、風太郎は先ほどのバスタオル姿の人物の正体を考えていた。
「仕方がない。ことり。あいつらが揃ったらやってほしいことがある。それをあいつらに頼んでくれ」
「…別にいいけど、何するの?」
「それはだな……」
そしてしばらくした後、五つ子がベランダの窓際に並んで立たされた。
「急にどうしたのですか?」
「同じ髪型にしろって、今日は家庭教師の日じゃなかったの?」
「なんだ二乃らしくもなく随分前のめりじゃないか」
「それは三玖。二乃は私よ」
風太郎がことりにお願いしたのは、全員同じ髪型にして並ばせることだった。見事に同じ顔が並んでいるので、早速風太郎は三玖を二乃と勘違いした。
「本当に凄いね!写真撮って後で兄さんに見せてあげよ」
風太郎の横にいることりは興奮して、五人並んでいるところを写真に撮っていた。
(くそっ、全然わからん。見れば少しはわかると思ったんだが…ええい、こうなったらイチかバチかだ)
「一花!二乃!四葉!三玖!五月!」
風太郎は左から順番にそう呼んだのだが。
「二乃!三玖!五月!四葉!一花よ!髪を見れば分かるでしょ!」
二乃に即座に訂正をされるのだった。
「まあ間違えるのはわかるけど、まさかの全問不正解とはね。ある意味風太郎君は凄いよ」
そんな全問不正解の風太郎にことりはある意味感心をした。
「......と、このようになんのヒントもなければ誰が誰かも分からない。最近のアイドルのようにな!」
「それはフータロー君が無関心なだけでしょ」
最近のアイドルは分かりづらいのと五つ子を見分けることが出来ないことを同じことのように風太郎は話すも、一花に一蹴された。
「そうだね。さすがに今のだったら私でも分かったよ。髪の長さが違ってたんだし」
「ぐっ…!」
ことりのツッコミに風太郎はぐうの音も出なかった。
「ところで、上杉さんはどうして今回のような事をしたんですか?」
「そうだった。事の発端はこれだ!」
風太郎は勢いよく先ほどのテスト用紙五枚をテーブルの上に叩きつけた。
「全教科0点...」
叩きつけられたテスト用紙を見て四葉が言葉を漏らした。
「奇跡だ。ご丁寧に名前は破られている。これを投げつけた奴はバスタオル姿でわからなかったが、犯人はこの中にいる!私が犯人だよって人ー?」
「「「「「……」」」」」
風太郎がダメ元で犯人が誰か聞くも無言の回答が返ってきた。
「ま、当然だよね」
その結果にことりは当然だと思い、五つ子達の反応に感想を述べた。
「四葉白状しろ!」
「当然のように疑われている!?」
「何気に風太郎君ひどいね」
中々名乗り出ないことにやきもきした風太郎は、四葉の肩に手を置いて白状するよう促した。まぁ一番成績が悪いのは四葉なので、風太郎もそう思うのも無理はないが、ことりの言う通りひどい扱いでもある。
「それでこの髪だったんだ」
犯人探しのためにこの髪型にしたのかと納得したように三玖が言葉にした。
「顔さえ見分けられるようになれば、今回のこともスキーの時みたいな一件もおきないだろうからな」
「反省してます……」
「あの五月はマスクさえなければ私たちもわかったんだけど」
「!」
反省の五月の言葉に二乃は、マスクがなければ一花の格好をした五月だと分かったと言葉にした。その言葉に風太郎は驚きの表情になった。
「さっすが五つ子だね。顔だけで判別できるなんて」
「いや、なんでお前らは顔だけで判別つくんだ?」
ことりの感心する言葉と裏腹に、風太郎は五つ子達が顔だけで何故判別出来るのか分からず、思わず聞いた。
「は?」
「何でって...」
そんな風太郎の言葉に、二乃と三玖がお互いの顔を見てから判別できる理由を説明した。
「こんな薄い顔、三玖しかいないわ」
「こんなうるさい顔、二乃しかいない……薄いって何?」
「うるさいこそ何よ!」
薄い顔にうるさい顔。やはり五つ子だけに分かる判断基準なのかもしれない。この答えに風太郎はますます混乱してしまった。
「良い事を教えてあげます。私達の見分け方は昔お母さんが言ってました。愛さえあれば自然と分かるって」
「愛かぁ…」
「......道理で分からない訳だ」
四葉の見分けるコツとして愛があればの言葉にことりは多少納得するも風太郎はもう諦めモードである。
「もう戻してもいいかな?何で今日はそんなに真剣になってるんだろ」
一花の一言で全員が髪を元の状態に戻そうとしている。そんな時だ。
「ん?この匂いは...シャンプーの匂いか...」
クンクンと二乃と三玖の匂いを嗅いでいる風太郎。
「ちょっ…ちょっと風太郎君?」
「えっえっ」
「なんかキモ...」
風太郎の行動に困惑している三玖と違い、二乃はハッキリと言葉にした。
「これだ!お前たちに頼みがある!俺を変態と罵ってくれ!」
「「「「「「……」」」」」」
風太郎の発言に五つ子全員とことりが引いてしまった。
「あんた...手の施しようのない変態だわ」
「違う。そういう心にくるような言い方ではなくて」
二乃の言葉にたじろいでいる風太郎。恐らく本当に思っていることだからこそ気持ちが伝わっているのかもしれない。
「ほくろで見分けることもできるけど...」
そんな困り果てていた風太郎に三玖が一つの見分けポイントを伝えた。
「お手軽!どこにあるんだ?見せてくれ!」
三玖の発言に風太郎は三玖に迫った。
「はいはい。そんな訳にはいかないでしょ。風太郎君、落ち着いて」
ほくろの場所を見るために迫る風太郎と三玖の間にことりが入って抑えた。
「そもそも犯人のほくろを見てないと意味がないでしょう」
「それもそうか…」
ことりによって抑えられた風太郎に五月がごもっともな事を伝えた。
「フータロー君。もしかしたら、犯人はこの中にいないのかもしれないよ」
「どういう事だ?」
「落ち着いて聞いてね。私達には隠された六人目の姉妹、六海がいるんだよ!」
「なんだって-!?む…六海は今どこに...」
「ふふふ、あの子がいるのはこの家の誰も知らない部屋...」
「勝手にやってろ」
一花と四葉の馴れ合いを無視しながら、風太郎は先ほどの0点のテスト用紙を確認していた。
「ややこしい顔しやがって!もうわからん!」
バンッ
その発言と同時に風太郎はまた別の紙束をテーブルに叩きつけた。
「最終手段だ。これはそのテストの問題を集めた問題集。これが解けないやつが犯人だ」
そして、風太郎の発言のもと急遽テストが開始されるのだった。
「なんでこんなことになるのよ...」
「う~ん...」
「納得いきません!」
「今日のフータロー、ちょっと強引...」
全員納得はいかないまでもしっかりテストを受けていた。
そうしてしばらくすると、最初にテストが終わった者が名乗り出た。
「は-い、一番乗り」
一花である。
「ふむ...」
一花の答案用紙を風太郎が確認すると、不意にその用紙を一花の頭に乗せた。
「お前が犯人か」
「あれっ。なんで、筆跡だって変えたのに...」
「ここ。bが筆記体になっている。筆記体で書くやつが一人だけいたのは覚えていた。俺はお前たちの顔を見分けられるほど知らないが、お前たちの文字は嫌というほど見てきたからな」
「や...やられた-」
風太郎の言葉にショックだったのか、一花は膝をついて悔しがった。
「フハハハハハ!」
逆に風太郎はしてやったりといった態度である。
「へぇー…やっぱりちゃんと見てるんだ」
そんな風太郎の態度にニッコリとことりは笑った。
「あの-、一応私たちも終わりましたが...」
「ご苦労。とりあえず採点を...」
残りの四人から答案用紙を預かった風太郎であるが、その答案用紙を見て固まってしまった。
「どしたの風太郎君?」
固まってしまった風太郎が気になり、風太郎の手元にある答案用紙をことりも覗き込んだ。
「五月の『そ』、犯人と同じ書き方だ」
「あ、本当だ」
「良く見たら、二乃の門構え...」
「おぉ、これも一緒だね」
「三玖の4」
「これもこっちにあるのと筆跡が同じだね」
「四葉の送り仮名...」
「こっちの0点のテストと同じ間違えしてるぅ」
「みんな犯人と同じ...お前ら~、一人ずつ0点の犯人じゃねぇか!」
「あー…」
真実にたどり着いた風太郎の怒りに全員申し訳なさそうな顔をしている。ことりもこれには助け船を出せなかった。
「何してんのよ一花!こいつらが来る前に隠す段取りだったでしょ」
「ごめ-ん」
「俺が入院した途端これか...やっぱりお前ら...」
気を落としている風太郎に五月が話しかけてきた。
「上杉君。今日あなたが顔の判別にこだわったのは、昨日話してくれた五年前の女の子と関係があるでしょう?私たちの誰かだったと思ってるんですね」
「……そうだ…」
風太郎と五月が話しているのは昨日の風太郎の病室での話のことである。
五月は風太郎の勉強をする理由を聞いていた。そこで、五年前の京都での修学旅行で出会った女の子が勉強を始めたきっかけであったことを風太郎は五月に説明をした。その後、五月はポケットから昔持っていたお守りを出したのだ。そのお守りというのが、風太郎が五年前に会った女の子が五個買っていたお守りと同じものだったのだ。
その事もあり、風太郎はこの五人の中にあの女の子がいるのではないかと考えていた。
「この中で昔俺に会ったことがあるよって人-?」
「「「「!」」」」
「え?」
「何よ急に」
「どうしたの?」
風太郎のいきなりの発言にことりは驚き、二乃と三玖は戸惑った声が出た。もちろん誰も名乗り出ていない。
「ま、そりゃそうだわ。お前らみたいな馬鹿があの子のはずね-わ」
「馬鹿とは何ですか!」
「間違ってねえだろ。まったく、よくもまぁ0点なんて取ってくれたな。今日はみっちり復習だ、五月」
「あ、風太郎君」
「?」
風太郎が肩に手を置いたのだが、それは五月ではない。三玖だった。
「もしかしてわざと間違えてる?」
当の三玖はご立腹のようで、顔を膨らませて風太郎を睨んでいる。
「もうフータローのことなんて知らない」
「す、すまん!」
「あははは、まずは上杉さんが私達のことを勉強しないといけませんね」
皆呆れた様に風太郎を見ていた。
『てなことがあってね。で、その後兄さんは見分けられるかなって話になったの』
話が壮大過ぎてツッコミどころ満載である。
まあ、今は写真に集中するとしよう。
「とりあえず分かったよ。じゃあ今からよく見てみるからちょっと待ってて」
そこで一旦電話を切った。そして送られてきた五つ子五人が写っている写真を改めて見てみる。僕には顔だけで判断することはやはり出来ない。見るポイントとすれば、やはり髪の長さだろう。
しかし、この写真からだと後ろ髪の長さがよく分からないんだよなぁ。並びのおかげで両端の子の後ろ髪が見えるので助かった。一番右はほとんど後ろ髪がないから一番ショートカットの一花だろう。それで、逆の一番左は後ろ髪が長いのと前髪からして二乃ってとこか。後は、右から二番目は四葉かな。服に「428」って書いてるし。こんな服をよく見つけてきたものだ。
後は三玖と五月かぁ。二人の違いとして見るとすればやっぱり前髪だろうか。となると左から二番目が三玖で真ん中が五月かな。
三玖は右目が隠れるくらいに長いのでそこで見分けられる。林間学校の初日の夜もそれで見分けた訳だし。五月は両端の前髪が後ろにいくほど長いのも特徴的である。
答えを伝えるためにことりに電話をした。
『もしもし。意外に早かったね』
「まあね。早速伝えても良いかな?」
『待って。スピーカーにして写真を画面に出すから……いいよ』
『先生がちゃんと見分けられたか楽しみですなぁ』
『ま、見分けられて当然よね』
『信じてる』
『先生ファイトです!』
『ふふっ、ではどうぞ』
ことりがスピーカーに変えると、五つ子達がそれぞれ声をかけてきた。何気にプレッシャーかけてくるのは止めてほしい。
「じゃあ…その写真の左から、二乃、三玖、五月、四葉、一花。どう?」
『さすがですね。正解です』
おそらく五月が答えてくれたのだろう。なんとか正解できたか。結構緊張してしまった。
「ふぅー…とりあえず合格かな?」
『うん。文句なし』
嬉しそうな声で合格をくれた。
うーん…まだ声だけでは判断するのは難しいんだよな。話し方からして三玖かな?
「なら良かったよ。じゃあそろそろ勉強に戻んないとだろうし切るね。頑張って」
『うん。兄さん、時間ありがとね』
そこで電話は切れた。一息入れるために少し冷めたミルクティーを飲んだ。そして、改めて先ほどことりに送ってもらった五つ子が写っている写真を見てみる。
本当にそっくりだ。今回は後ろに髪を結んだだけだから分かったけど、前に三玖が一花に変装したみたいにされたら、すぐに誰かはまだ分かんないだろうなぁ。
『愛さえあれば見分けられる』
ことりの話だと四葉が見分けるコツとしてそう話したそうだ。
「愛さえあれば、その人のちょっとした素振りや癖。それに声なんかで見分けられるようになるんだろうな」
写真をよく見れば立つ姿勢だって五人ともばらばらだ。
けど……
「それを一目見ただけで見分けられるようになるなんて大変そうだ。それこそ愛の為せる業ってことか…」
その後、ミルクティーをお代わりして残ったケーキを食べ、暫くのんびりした後に喫茶店を後にした。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、風太郎が退院後に行った0点騒ぎを書かせていただきました。和彦は家庭教師ではないので、あの五つ子ゲームは、遠隔での参加となりました。
REVIVALの店長さんの話し方を敬語にするか、普通の話し方にするかを迷いましたが、普通の話し方で書くことにしました。個人的に好きなキャラなのでもっと出番を増やせたらな、とは思っています。
では、また次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。