少女と花嫁   作:吉月和玖

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38.自習

~中野家・リビング~

 

「ただいま」

 

吉浦家でのひとときを終えた三玖が、家に帰りリビングに入ると他の姉妹が揃っていた。

 

「三玖、おかえりー!」

「おかえりぃ~」

「おかえりなさい三玖」

「おかえり。遅かったわね」

 

二乃はキッチンで夕飯の準備をしているが、他の姉妹はソファーに座ったり、ダイニングテーブルの椅子に座ったりとさまざまであった。

 

「みんなはもう帰ってたんだ」

「あははは…私と五月はさっき帰ったんだけどね」

「なので、三玖が特別に遅いというわけではないですよ」

「そっか」

 

四葉と五月の言葉を聞きながら、三玖は鞄に入れていたエプロンを取り出し、それを着ながらキッチンに向かった。

 

「手伝う」

「あら。いい心がけね。と言っても、もうほとんど終わってるから後は温めるだけよ。配膳だけ手伝いなさい」

「わかった」

 

二乃の指示に従いながら、三玖は夕飯の料理をテーブルに並べていった。そして、全ての配膳が終わったところで、五人がテーブルを囲んだ。

 

「それじゃあいただきましょうか」

「「「「「いただきます」」」」」

 

この日も五人揃っての夕飯となった。夕飯を食べ始めた時、二乃が今日の話題として切り出した。

 

「今日、私は一花と買い物行ってたけど、あんたたち三人はどこ行ってたのよ。いつの間にかいなくなってたし」

「私はらいはちゃんとの約束があったので、二人で買い物してましたよ」

「わ、私も街を散策してたんだぁ。まあ一人だったけど…」

 

二乃の質問に五月と四葉が答えた。皆が皆どこかに出掛けていたようである。

 

「私は…ことりと約束してたから、ことりの家で料理の練習してた」

「ふ~ん。ま、ことりなら大丈夫だと思うけど、せいぜい頑張りなさい」

「うん…!」

 

二乃の言葉にニッコリと笑みを作って三玖は答えた。

 

「ことりさんの家ということは先生もいらっしゃったんですか?」

「うん。今日はことりと先生と三人で過ごしたよ」

「そ…そうですか」

「途中でクッキーも焼いたしね。少しだけ持って帰ってきたから食後に食べて」

「へぇー、三玖とことりさんの手作りかぁ。ちょっと楽しみかも」

 

三玖のお土産に四葉は嬉しそうに話した。

いつも以上に楽しそうに話す三玖。その顔を見て一花は満足そうな顔をしていた。そんな時何か考え事をしているような素振りを見せる五月に気がついた。

 

「?五月ちゃん、どうかした?」

「い、いえ!せ、先生も私たちによく付き合ってくれるなと思いまして」

「それもそうね。たまに教師であること忘れるときもあるわ」

 

五月の言葉に二乃が同意した。

 

「わかるかも!先生って呼んでるんだけど、なんか先生って感じしないんだよね。もちろん授業中とかは先生なんだけどね」

「まあ、それもことりの存在が大きいだろうね」

 

四葉の言葉に一花がしみじみと答えた。

 

「ま、あまりに仲良くしているからか、授業中にあてられる頻度が増えているのがたまに傷だけどね」

「あー!やっぱり一花もなのね。もうホント最悪よぉ」

「実は私もだったりして…」

「私も…」

「実は私もです…」

 

どうやら授業中にあてられることに不満が溜まっているのは五人全員共通認識のようだった。

 

「いい先生ではあるんだろうけどね。そういえば三玖、服のこと先生は誉めてくれた?

う…うん…綺麗で大人っぽいって…

「へぇ~、そっか…」

 

今日はちょうど隣に座っていた三玖に一花が質問をすると、恥ずかしさも見られるがとても嬉しそうに三玖は答えた。そんな三玖の様子に一花も嬉しくなった反面、どこか寂しそうではあった。

 

(私もフータロー君に誉められたいな…)

 

その後もしばらくその日にあった出来事などを中心に、五人で話しながら夕飯の時間にを過ごすのだった。

 


 

~風太郎side~

 

期末試験前の一週間を明日に控えたある放課後。

風太郎は意気込みながら廊下を歩いていた。

 

(明日から期末試験のテスト週間に突入する!初めてのテストは平均20点。そして中間テストで平均28点。この伸び率を考えると…何事もなければギリいける!そう!何事もなければ!)

 

そう。初めて会った日に実施したテストから中間試験まで、確実に成長が出来ているのだ。風太郎の思っている通り、何事もなければ赤点回避も現実味を帯びてきている。

そんな風太郎はさっそく姉妹達に勉強会への参加をするように呼びにいった。だが……

 

「すみません!今日は陸上部の皆さんのお手伝いがあるんです!」

 

四葉は手を合わせながら頭を下げ、今日の勉強会の断りを入れてきた。

 

「テスト週間に入れば部活もお休みになると思いますので!」

 

そんな言葉を残して、四葉は風太郎の前から去っていった。

 

「試験勉強は明日からでしょ?今日くらい映画観に行ってもいいでしょ」

 

勉強会に誘いに来た風太郎に対して、二乃は今日くらい休ませろと言ってきた。二乃の後ろでは、映画に付いて行くであろう五月が申し訳なさそうにしていた。

 

「二乃、考え直しましょう。怖い映画らしいですし」

「尚更一人は嫌よ!」

 

そして、二乃と五月の二人もまた風太郎の前から去っていった。

結局、図書室に五つ子で集合したのは一花と三玖だけである。その現実に風太郎は打ちのめされていた。

 

「ま、まぁ明日からが本番だからさ。まだノーカン。まだ何事もないって」

「元気出しなよ風太郎君。きっと明日は大丈夫だって」

 

下を向いている風太郎に一花とことりは慰めの言葉をかけた。

 

「だといいが…仕方ない…今日は各自自習で…」

「ま、そうだよねぇ」

 

家庭教師である二人が自習モードになっていた。

 

「じゃあ私はこれで…」

 

そこで一花は席を立って帰る準備をして帰ろうとした。そんな一花の肩に手を置き風太郎は呼び止めた。

 

「待て」

「え?」

「本当に自習するのか怪しいな。やっぱり俺が教える!」

「あ、ありがたいけどごめんね。今日は用事があって…」

「嘘をつくんじゃない」

 

用事があるという一花の物言いに聞く耳を持たない風太郎。そんな風太郎に一花は用事の内容を伝えた。

 

「ホントだよ。事務所の社長の娘さんを面倒見る約束なんだ」

「あの髭のおっさんの娘だと?適当なこと言って勉強から逃げようたって、そうはいかねーぞ。そんな娘が本当にいるなら、俺の前に連れてきてみやがれ」

 

なおも一花の言葉を信用できない風太郎は、ビシッと一花に指を指しながらそう宣言した。

 

「もぉー、わかったよ。じゃあうちに来ればいいよ。証明してあげるから」

「ふーん…面白そうだし私も付いて行ってみようかな」

 

いつまでも信用してくれない風太郎に一花は、自分の言っていることが正しいことを証明するために中野家に来るように提案した。そんな一花の提案にことりも面白そうということで付いていくことにした。

 

「三玖はこの後どうする?」

 

さっそく図書室から出る準備に取り掛かっていることりから三玖はどうするのか質問をした。

 

「私は……」

 


 

コンコン…

 

数学準備室で作業をしているところに控えめなノックが聞こえてきた。

 

「どうぞ~」

 

僕は作業の手を止めることなくドアに向かって声をかけた。そしてドアが開かれ入ってきたのは…

 

「あれ、三玖じゃないか。どうした?」

「う…うん…ここで勉強しようと思って…」

 

入ってきた三玖は恐る恐るそう伝えてきた。

 

「ダメだったかな…」

「いや、まあ駄目ってことはないけど。今日は一人?」

「うん。みんなそれぞれ用事があるみたい」

 

僕の許可を得られた三玖はソファーに鞄を置きながら、他の皆のことを話してくれた。

 

「四葉は陸上部の助っ人。二乃と五月は映画に行ったよ」

「試験まで約一週間だってのに映画って…」

「後、一花のお仕事の社長さんの娘さんを一花が面倒見ることになったみたいで、ことりとフータローは一花に付いて行った」

「なるほどね。三玖もそっちに行けば良かったのに」

 

作業を止めた僕は、椅子を回転させて三玖の方に向きながらそう伝えた。

 

「いいの。先生と歴史の話もしたかったし」

「ふ~ん…まあ三玖がそれでいいならいいけど」

「そ、それにちゃんと数学の質問もある」

「はいはい。じゃあこっちに座りな」

 

勉強を教えるのに近くにいた方が良いと思った僕は、隣にある椅子をポンポンと叩いてこっちに来るように促した。

 

「うん…!あ、でもその前に…」

 

三玖はこっちに来る前に棚にある本を厳選しだした。三玖はたまに来てはここの本を借りていったりしているのだ。

 

「もうこの間の本読み終わったの?」

「うん、つい熱中しちゃって」

 

この間借りていた本を棚に戻しながら、次に借りていく本を探しているようだ。

 

「どれももう読んだことあるやつでしょ」

「それでも、また読みたいって思えてくるから仕方がない……あれ、これ前になかった」

 

そこで三玖は一つの本を手に取り中身をパラパラと読みだした。

 

「ああ。それは僕の私物だよ。たまに時間が空いた時に読む用にね。ま、ほとんど時間ないんだけどね」

「ふーん…これ借りてもいい?」

「ん?構わないよ」

 

僕の許可を得た三玖は、その本を鞄にしまい勉強道具を持って隣の席に座った。

 

「なんだったら、数学の参考書貸してあげようか?」

「それは勘弁…」

 

ノートを広げている三玖に冗談を伝えると、結構本気で拒否されてしまった。

 

「それにしてもこの間の小テスト、姉妹全員がまた散々だったね。三玖だったら補習免れると思ってたのに」

「うっ…それは…林間学校もあったし…」

 

中間試験同様、今回の期末試験前にも小テストを行ったのだが、五つ子は全員見事に補習となったのだ。補習常連にはあまりなってもらいたくないものだ。

その時もまた、ことりと上杉に五人の面倒を見てもらったっけ。

 

「じゃあ、ちゃんとこの間の小テストの内容覚えてるか確認しようか」

「わ…わかった…」

 

僕の指示のもと、とりあえず教科書に載っている問題を解いてもらった。

真剣に問題に取り組んでいる三玖を見ていると、中間試験の時に五月がここで勉強をしていた時のことを思い出していた。

あの時の五月もこんな風に真剣に勉強してたっけ。問題に行き詰まった時の顔がそっくりだ。

 

「……じっと見られると…少し困る…」

 

垂れた髪を耳にかけながら三玖が照れくさそうに言ってきた。

 

「…と、ごめんごめん。真剣に取り組んでくれて嬉しくなっちゃってさ。僕も自分の作業してるから、分かんないところがあったら言いな」

「うん」

 

その後は、質問がある度に説明してあげてを繰り返してと、二人だけの時間を過ごすのだった。

 


 

~ことりside~

 

「へぇ~、結局三人で社長の娘さんの面倒見たんだ」

 

吉浦家の夕飯時。ことりから和彦に、一花が面倒を見ることになったという社長の娘さんのことの話をしていた。

 

「うん!おままごとだったんだけどね。なんだかんだで風太郎君ってば面倒見がいいんだから」

「まあ、五つ子の家庭教師を続けているだけはあるよね。それにらいはさんがいるから自然に身に付いたのかもね」

「そっか。それもあるよね」

 

ご飯を食べながら話すことりに、和彦はご機嫌のように感じて、何かあったのだろうかとも思った。

 

「やけに機嫌が良いけど、何かあった?」

「え?そんなに機嫌いいように見えてたかな。自分では全然気づかなかったかも」

「てことは、無意識だったのか。それだけ良いことがあったってことでしょ」

 

ご飯を口に運びながら和彦はことりに伝える。すると、手を止めたことりは、うーんと考えた。

 

「特にこれってことはなかったんだけど、なんて言うのかな、風太郎君と一緒にいるとお兄ちゃんが近くにいるように感じるんだ」

「僕?」

 

微笑みながらそんなことをことりが言うものなので、和彦は若干驚いてしまった。

 

「うん……全部が全部おんなじって訳じゃないんだけど、ふとした瞬間にお兄ちゃんとおんなじ雰囲気を醸し出してるんだよ。今日だってそう…」

 

そこでことりは、風太郎が社長の娘さんの菊に話しかけた言葉を思い出していた。

 

『無理すんな。お前みたいな年の女の子が母親がいなくなって寂しくないわけがない。可愛げもなく大人ぶってないで、ガキらしくわがまま言ってりゃいいんだよ』

 

母親がいなくても父親さえいれば寂しくないと言う菊に対して風太郎が伝えた言葉だ。

 

(ふふっ、自分ではわかってないだろうけど、人の気持ちに寄り添える温かさ、それを風太郎君は持ってる。まるでお兄ちゃんのように…)

 

トクン…

 

(あれ…?)

 

今日の風太郎の出来事を思い出した時、ことりは一瞬心臓の高鳴りを感じた。それもあって、ことりは自分の胸に手を当てた。

 

「ん?どうかした?」

 

ほんの少しの違和感を感じた和彦はことりに尋ねた。

 

「う、ううん。なんでもないよ。そうだ!今日は一緒に寝ようよ」

「なんでだよ!」

「え~、いいじゃんたまにはぁ~」

 

こうなると何を言っても無駄だと判断した和彦は、結局粘り負けて承諾することになるのだった。

 

 




新年明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年最初の投稿を読んでいただきありがとうございます。
今回は、勤労感謝の日の中野家の夕飯時と風太郎が期末試験に向けて勉強会を行おうとするも断られ続けて各自自習となったお話を書かせていただきました。
改めて思ったのですが、夕飯時を書く確率が高いですね。今回の話だけでも二回登場してますよ。
今後も夕飯時の話を書くかもしれませんがご容赦いただければと思います。

では、また次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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