少女と花嫁   作:吉月和玖

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41.次なる問題

週の始めの放課後。前回の中間試験と同様に、数学準備室を中野姉妹勉強会のために場所を貸している。まあ、実際は姉妹全員が揃っていない訳なのだが。

というよりも、勉強会にはいつもいた四葉と上杉の姿が今回はなかった。

 

「は?四葉、陸上部の練習に参加してるの?」

「そうなの。それで今は風太郎君が四葉のところにいってるよ」

 

現在この場所にいるのは、一花と三玖と五月、それからことりである。そして、ことりから四葉が助っ人として行っていた陸上部の練習にまだ参加していることを聞いたところである。

はぁぁ…まじでこの姉妹は何かと問題を起こすなぁ。五月がこの場所に来ているだけでもまだましか。

 

「それで風太郎君から残りの姉妹に勉強を教えてやってくれって言われてこうやって集まってるんだけど」

「いやー、二乃もここに呼ぼうと思ったんだけどねぇ。捕まんなかったんだよね」

 

お手上げといった形で一花が二乃のことを話した。

そういえば、三玖が言うには二乃は姉妹からの連絡も拒否してるそうだ。

そう考えると、家には帰らないが姉妹との連絡は取っている五月はましな方か。二乃は本当の意味で家出をしていることになるな。

 

「ほら。とりあえず四葉のことは上杉に任せて、今は目の前の勉強に集中しな」

「そうだね。じゃあみんな始めようか」

 

僕とことりの言葉をきっかけに三人それぞれ勉強を始めた。ことりもことりで自分の勉強を始めている。

二乃と四葉の件、僕でも何かしら動いた方がいいのだろうか…

 

「ことり、ここの和訳教えて」

「えっとね、ここは……」

 

それぞれが集中して勉強をしているところを眺めながらふと考えていた。

 

「先生?」

「ん?ああ…五月か。どうした?」

「いえ、ことりさんは三玖に教えてるので、数学のわからないたころを教えていただこうかと」

「いいよ。どこ?」

「こちらです」

 

五月が僕の横の椅子に座りながらノートを開いて分からないところを聞いてきた。

 

「あの…もしかして二人のことを考えてましたか?」

 

ノートにかかれていた数式を見ていたら、そんな質問を五月から投げかけられた。

 

「どうして?」

「先生は優しいですから。きっと今でも私たちのことを考えてくれてると思ったんです」

「僕は優しくなんかないよ。ただ気になってるだけ」

「ふふっ、じゃあそういうことにしてあげます。では、解説をお願いします」

 

ニッコリと笑顔で返されてしまった。なんというか、昨日の一件から垢が抜けたように感じる。その調子で二乃とも仲直りしてほしいものだ。

その後も、数学は僕が教えて、それ以外の科目はことりが教えるようなスタンスで勉強会は進んでいった。

 

・・・・・

 

次の日の夜。

あれから特に進展もなく、三玖と五月はうちにおり、二乃はホテルでの生活を続け、四葉は陸上部の練習に励んでいた。

今は五月がお風呂に入っているため、ことりと三玖の三人でリビングのテーブルを囲んでいた。

 

「実際どうなの?二乃にしろ四葉にしろ、姉妹の誰かが説得に行った方がいいんじゃない?」

「うーん…風太郎君はこっちは任せとけって言ってるしなぁ」

「私たちが言ったところで変わらない。五月は心の変化は感じるけど、まだ踏ん切りがつかないんだと思う」

 

どうしたもんか。

 

「兄さんから言ってみたらどうかな。教師なんだし」

「言ってもいいけど、二乃と四葉はそこまで仲が良いって訳じゃないからなぁ。どこまで心に届くか。まあ、言うだけ言ってはみるか」

「よろしくね、兄さん」

「期待しないでよ。ところで、二乃と四葉以外の勉強は順調かい?」

 

そろそろ五月がお風呂から上がってきそうだったので話題を変えてみた。

 

「順調…とまではいかないけど…兄さんだって数学は見てくれてるじゃない」

「まあ、そうなんだけど。他の教科はどうなのかなって思ってさ」

 

数学に関しては基礎の基礎を固めているといった感じではある。しかも、今教えている三人については前回の中間試験で数学の赤点は回避できていたメンバーではあるので、今回も数学だけで言えば赤点回避が出来るのではないか、とは思っている。

 

「うーん…三玖は結構いい感じだと思うよ。ただ、英語がなぁ」

「うっ…」

 

ことりが話しながら三玖に目線を向けると、三玖はいたたまれないといった反応を示している。

 

「仕方がない。だって私は日本人だもん」

「英語が嫌いな人の誰もが言う言葉だね。まあ、三玖の気持ちも分からないでもないかな。僕も英語苦手だったし」

「先生も!?」

「ああ」

 

英語が苦手な同士が増えたことに喜んでいるのか、三玖の顔はどこか嬉しそうである。

 

「ちなみに、先生はどのくらいの成績だったの?フータローやことりみたいな感じ?」

「まさか!その二人は別格だよ。僕は至って普通だったよ。悪い時は60点とか取ってたし」

「悪い時の点数が私の一番いい点数と変わらない…」

 

僕の成績を聞いてどこか遠い目をしている三玖。そこはどうしようもないんだが。これからの三玖に期待しておこう。

 

「英語はどんな進路を選んでも必ず履修しなきゃならないからね。僕としては大変だったよ。おかげで日常会話くらいには喋れるようになったかな」

「へぇ~…なにか喋ってみて」

 

僕の話に興味を持ったのか、興味津々といった感じで聞いてきた。

 

「んー…そうだなぁ…Miku's cooking skills have definitely improved. Do your best」

「むー…私のことを言ってるってことはわかるけど、なんだろ。クッキング?って言ってたから料理のことかな…もしかして、私の料理は美味しくないとか…」

「あははは、違うって。三玖の料理の腕は確実に上がってるから頑張って、て兄さんは言ってるんだよ」

 

ネガティブな考えをしている三玖に対し、ことりは笑いながら正しい訳を伝えた。そんなことりの言葉で、一度は沈んでいた三玖もぱーっと笑顔に戻った。

 

「そ…そっか。うん、頑張る」

「まあ、それよりもまずは目の前の期末試験だけどね」

 

意気込んでいる三玖にそう伝えると、お風呂から上がってきた五月が頭を拭きながらリビングに入ってきた。

 

「あがりました。みなさん集まって何話してたんですか?」

「目の前の期末試験を頑張ろうって話してたんだよ」

「そうだったのですね」

 

五月は僕に返事をしながら僕の横に座った。お風呂上がりだからかシャンプーの匂いが漂ってくる。

というか、近いんだけど。

五月は僕のすぐ横に座っているのだ。今までなかった距離感である。

 

「……五月」

「なんです、三玖?」

「なんか変わった?」

「え?」

「今までそんな風に先生の近くに座ることなかったよね?」

「あっ…」

 

三玖も良く見ていることで、五月のちょっとした行動にツッコミを入れてきた。

 

「今回はたまたま近くに座っただけであって、特に何かあった訳ではありませんよ」

「ふーん…」

 

弁明を入れる五月ではあるが、どこか納得をしていないような三玖である。

 

「それより、次の人はお風呂に入ってきな」

「じゃあ入ってくる」

 

僕の言葉に三玖は立ち上がって部屋に着替えを取りに行き、そのままお風呂場まで向かって行った。

 

「そうだ。ことりさん、勉強で放課後に聞けなかったところがあるので今聞いてもいいですか?」

「別にいいけど。じゃあ、私の部屋の机で聞こうか」

「お願いします」

 

五月が勉強の質問をしたために、五月とことりは立ち上がりことりの部屋に向かった。

残った僕は特に何かするということもなかったので、そのままテレビを観るのだった。

 


 

「何よ。こんなところに呼び出したりして」

 

次の日の放課後、僕は二乃を数学準備室に呼び出していた。昨日ことりに言われたように、少しでも話が聞ければなと思ったからだ。

意外にも二乃はすんなりと呼び出しに応じてくれた。

 

「ちょっとした雑談だよ。少し冷めたけど紅茶で良かったよね」

「いただくわ……誰もいないのね」

 

僕の差し出した紅茶の缶を受け取った二乃は、ソファーに腰掛けながらそんなことを口にした。

 

「今日は二乃とのお喋りに時間を使いたかったからね。何人か質問に来たけど後日ってことで今日は帰ってもらったよ」

 

二乃の向かいのソファーに座り、もう一本買っていた紅茶の缶を開けて飲みながら答えた。

うーん…やっぱりミルクティーか緑茶にしとけば良かったかも。

 

「それとも一花達がいると思って期待した?」

「そ、そんな訳ないでしょ!いなくて清々したわ」

 

そこで二乃も僕の渡した缶を開け、中身を飲みだした。

 

「素直じゃないんだから。まあ、四人は今図書室で勉強してるから大丈夫だよ。ここにも来ないように伝えてるしね」

「四人?少なくない?」

 

僕の言葉に二乃は疑問を投げかけてきた。

 

「そうか。姉妹との連絡を断ってるから知らないのか。今、四葉は陸上部の助っ人として練習にも参加している。多分今も走ってるんじゃないかな」

「あの子は何やってんのよ…」

「それで、上杉は四葉を止めるために奮闘してるから勉強会には参加していない。もちろん、君の説得にも奮闘してるって聞いてるよ」

 

僕がじっと見つめると、二乃はプイッと顔ごと目線を反らした。

 

「そういえば来てたわね。何度も何度も…ホントにしつこいんだから…」

 

文句を言っている二乃ではあるが、僕から見ると若干口角が上がってるように見える。上杉の行動も少しずつ二乃の心を動かしてるようだ。

 

「今までは無視してきたけど、今度来たら文句言ってやるんだから……て、なんで笑ってんのよ」

「いや、元気そうで良かったって思っただけだよ」

 

どうやら上杉の行動が開花してきていることが嬉しく、表情に出ていたようだ。

 

「まったく……で?結局用事ってなによ」

「さっきも言ったけど、本当に雑談だよ。ま、成績不振者の面談も兼ねてるけどね」

「うっ…そこはまあ、申し訳ないとは思ってるわよ」

 

成績不振という言葉が出たからか、目をそらしながら二乃は話している。多少なりとも反省はしているようだ。

 

「ことりから聞いてるよ。今はホテル暮らしなんだって?まったく…高校生の家出先がホテルなんて聞いたことないよ。それで?何か不便な事とかない?」

「そんなのないわよ。家にいる時より快適に過ごせてるわ」

 

ドヤ顔で話す二乃。そりゃあホテル暮らしなんて快適以外ないだろうな。

 

「チャンネル争いもないし、空調だって思いのまま。一人って最高ね」

「そりゃなによりだよ。だけど、そろそろ来る頃合いかなって思ってるんだよね」

「何がよ」

「寂しさだよ」

「…っ!」

 

僕の言葉に二乃は一瞬だけ目を見開いていた。隠そうとしても隠しきれないものである。

 

「あればっかりは一人暮らしを経験した人間にしか分からないものだよね」

「何言ってんのよ。別に寂しくなんか…」

 

必死に否定しようとしている二乃の言葉を気にせず、僕は言葉を続けた。

 

「僕も実家からこっちに来たときは寂しさを感じたもんさ。仕事から帰っても誰もいない暗い部屋。朝起きても一人の朝食。テレビで静けさを紛らわしたりするけど、やっぱり静けさを感じずにはいられなかった」

「……」

 

思い当たる節があるのか、二乃はスカートをぎゅっと握りながら黙って聞いていた。

 

「ま、そんな僕にはことりが毎日のように電話してきたからね。多少は寂しさは和らいだかな」

「毎日って…」

「そんな訳で、まあ帰れとは安易に言わないけど、僕にとってのことりの存在に僕がなれたらなって思ってるよ。今みたいに話するくらいできるしね」

「ふん…!」

 

口に手を当てた状態でこっちを見ることはないが、多少なりとも二乃には届いたにではないかと思ってしまった。

 

「……前から思ったんだけど、あんたってやたら気にかけてくるじゃない?お節介が過ぎるくらいに。そういう性格なの?」

「うーん…今までは、ここまでお節介かけた生徒はいないかな。ただ……二乃を見ているとなんとなくほっとけないって感じるんだよね」

「何よ。私に惚れちゃった?」

「そんなんじゃないよ……唐突なんだけど、一つお願いしてもいいかな?」

 

二乃のからかいを軽くスルーして、二乃に一つのお願いをした。

 

「何よ」

「少しの間だけリボンを外してくれない?」

「は!?」

 

僕の突然の申し出に驚きの表情で二乃はこちらを見てきた。当然のことだろう。いきなりリボンを外してほしいなどおかしなお願いだと自分でも思ってしまう。

けど、これには僕にとって大きな理由があるのだ。

 

「よくわかんないけど、それだけなら構わないわよ」

 

僕の真剣な表情を見てか、二乃は頭の両側に付けているリボンを外しだした。そして、両方のリボンが外れることで、目の前にはストレートのロングヘアーの女の子が現れたのだ。

 

「何がしたいかわかんないけど、これでいいの?」

 

少しだけ困った表情で二乃はこちらを見ている。その顔がより一層あの頃を思い出してしまう。

 

「ねぇ二乃。僕と前に会ったことないかな?」

「…っ!」

 

突然の質問だからか驚きのために二乃は目を見開いた。

 

「……あんたと()()()()()()()()、この学校に転校してきた日の職員室の前でよ。リボンもう元に戻していいわよね」

 

二乃は目をそらしながらリボンを元の位置に戻し始めた。

何か隠してる?

そこでことりの言葉が頭を過った。

 

『今でもそっくりなんだけど。当時のみんなは髪型も服装も一緒で全然見分けられなかったよ』

 

五つ子の昔の写真を見た感想を興奮気味に話していたことりの言葉だ。

 

「ねぇ二乃。もう一つ聞きたいんだけどいいかな?」

「はぁぁ…何?」

「五年前って、他の姉妹も二乃くらいに髪が長かったりする?」

「!そうねぇ。あの頃はみんな同じ髪型だったわね。髪型だけじゃない。服装だって性格だって同じだったわ…」

 

懐かしむように話す二乃。しかし、その顔にはどこか寂しさも含まれているように感じた。

 

「で?結局何がしたかったのかしら?」

「いや。昔会った女の子に二乃が似てたからもしかしてって思っただけ」

「ふーん。ちなみに、その子に会ったらどうすんの?」

 

缶に残っていた紅茶を飲みながら、昔を懐かしむように二乃に伝えた。すると、二乃から興味あり気に質問をされた。

会えたらか……

今まで会えるとは思っていなかったから考えてもいなかったけど。そうだな…

 

「今の僕があるのはその子のおかげだからね。そのお礼をまずは言いたいかな。まあ、向こうは忘れてるかもしれないんだけどね。けど……もし覚えてくれてたなら、何かの縁だ。これからも仲良くやっていけたらなって思ってるよ」

ふーん

 

僕の答えに満足したのか、二乃は笑顔でいた。

 

「さてと。先生の昔話も聞けたしそろそろ帰るわね」

 

そして二乃はそのまま立ち上がり鞄も持ち上げて帰る体勢に入った。

 

「悪かったね。最後は変な話になって」

「別に構わないわ。暇潰しにはなったし。そうね……また暇になったら電話くらいしてあげるわ。あんたの妹のことりみたいにね」

 

二乃はそう言いながら扉へと向かう。

 

何よ。ちゃんと覚えてくれてたんじゃない。じゃあね先生。勉強も少しはしてあげる」

 

扉の取手に手をかけた二乃は振り返りながらそう伝えた後、扉を開いて帰っていった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、全てオリジナルで書かせていただきました。
二乃と和彦の雑談は、本来であれば帰るように和彦が説得する方がいいのでしょうが、やはりその説得は五つ子や風太郎が良いと思い、そこまで突っ込んだ話をしないことにしています。
ちなみに、和彦の学生の頃の成績は中の上から上の下あたり。風太郎やことりほどの秀才という訳ではありませんでした。三玖と同様日本の戦国時代についての知識は豊富で、後は数学を得意としていました。運動も得意という訳ではないので、戦国時代の知識がある以外は突出した能力があるということもない一般人です。

では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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