次の日の朝。
今日は朝から各々で行動するために朝早くから皆準備に勤しんでいた。
「兄さんは本当にこっちに来ないの?」
「ああ。昨日も言ったけど、四葉のことはやっぱり教師が出ていくとおかしくなるだろうから、そっちは上杉達に任せるよ」
昨日の一花の電話の後に話したのだが、四葉の説得には僕は行かないことにしたのだ。
「むー…そこまで言うなら…」
「ことりさん、そろそろ上杉君との合流時間です」
「わかった。じゃあ、こっちは任せて。三玖も二乃の方よろしくね」
「わかった」
上杉との集合時間が近づいたためにことりと五月は出発した。
「じゃあ先生、私たちも行こうか」
「そうだね」
そして、僕と三玖は一路二乃が泊まっているホテルに向かうことにした。
本来僕は家で留守番して皆の報告を待っていようと思った。しかし、朝になって三玖から自分に付いてきてほしいと提案があったのだ。説得は一人で行うが、万が一のために近くで待機していてほしいとのことだ。
まあ、今の二乃なら大丈夫だと思うけど、そろそろ二乃と五月の姉妹喧嘩にも終止符を打ってもらいたいので、保険として付いて行く分には問題ないんだけどね。だけど、三玖で説得出来なかった時に果たして僕で何かが出来るのかが疑問ではあるのだが。
そんな考えがある中、二乃が泊まっているホテルまで三玖に案内された。
また高そうなホテルに泊まっちゃってまあ…
ホテルを見上げながらそんな感想が心の中で出てしまった。大人の僕でもまず泊まらないような高級ホテルである。
本当に、中野さんは娘達にカードでも持たせてるのだろうか。
「じゃあ、行ってくるね」
頭に二乃のリボンを着けながら僕に振り返った三玖。どうやら、部屋の鍵を失くしたと言って部屋に案内してもらうようである。
「ああ。僕はその辺でお茶でも飲んでるよ」
僕の言葉にコクンと頷いた三玖は受付の方に行ってしまった。
さて、暫くの間はホテルの雰囲気を感じながら朝の一時を過ごしますかね。
ホテルの一階に備えられていたラウンジに向かい、近くのスタッフにミルクティーを頼んで、ゆったりとした時を暫く過ごすのだった。
~二乃の泊まっているホテルの一室~
ガチャ…
休日の朝。二乃はリファカラットを使ってフェイスラインケアをしながらリラックスしていたのだが、急に部屋のドアが開けられ、そこから見知った人物が入ってきたので驚いてしまった。
「お邪魔します」
入ってきたのは三玖。頭に二乃が使っている二つのリボンをつけている。どうやら、二乃に変装して部屋のドアを開けてもらう作戦は成功したようだ。
「私にプライバシーは無いのかしら」
急な訪問者に呆れながら二乃は言葉を発した。
「まったく、ここまで押しかけてきて…何言われようとも帰らないから!」
突然の訪問で驚きはしたものの、どうせ帰ってくるように説得しに来たのだと悟った二乃は頬を膨らませながら、自分は帰らないと三玖に伝えた。
しかし三玖は、そんな言葉を気にせず部屋にセットしてあったポットのところに向かった。
「お茶淹れるけど飲む?」
「私の部屋なんだけど!」
自由に行動をする三玖に二乃はツッコミを入れざるを得なかった。
「一昨日は上杉、今日は三玖。少しは一人にさせなさいよ」
「フータロー来てたんだ。二人で何してたの?」
「べっつにー。大した話してないわ」
そっぽを向きながら三玖の質問に二乃は答えた。
「そう…ちなみに先生と電話してたのは本当?」
「えー、何ー?気になっちゃう?どうしよっかなー。教えよっかなー」
「内容はどうでもいい。電話したかしてないかを聞きたいだけ」
「……っ」
振り返った三玖の真剣な顔に二乃は言葉を詰まらせた。
「したわね。あいつが私と話したそうだったから、仕方なくね」
「そっか…」
二乃の言葉に三玖は少し安心した顔でポットを使ってお茶の準備を再開した。
和彦の言葉を疑う訳ではないが、以前ベランダで電話をしていたのが二乃だったのか確認したかったようである。
ガチャガチャ
「?」
ガチャガチャ
「あっ」
ガチャガチャ
「熱っ」
そんな三玖はポットを使いこなすことが出来ず、ガチャガチャといじるものの、お湯をうまく注ぐことが出来ずにいた。
「あーもう、鬱陶しい。私がやるわ。紅茶でいいわね」
三玖が中々お茶の準備が出来ないことにやきもきした二乃は、三玖に代わってお茶の準備に取りかかった。
「緑茶がいい」
「図々しいわ!」
図々しいとツッコミを入れる二乃ではあるが、きちんと二人分の紅茶と緑茶を用意した。
「まったく…」
用意したお茶をテーブルに並べた二乃は、自分の紅茶に砂糖を入れるために、スティックシュガーの袋を破った。
「そんなに入れると病気になる」
「私の勝手でしょ」
三玖の言葉を無視するように、二乃は袋の中身を全部紅茶に入れていく。
「その日の気分によってカスタマイズできるのが紅茶の強みよ」
「よくわかんない。甘そうだし」
「そんなおばあちゃんみたいなお茶飲んでるあんたにはわからないわよ」
「この渋みがわからないなんてお子様」
両手で添えるように緑茶の入った湯飲みを持ち、ゆっくり飲みながら三玖は二乃の言葉に反論した。
「誰がお子様よ…って、馬鹿らし…こんな時にあんたとまで喧嘩してらんないわ」
三玖のお子様発言に一瞬反応した二乃であったが、すぐに冷静になり自分の紅茶を飲みだした。
(大人の対応)
そんな二乃の反応に三玖は少し見直していた。
「これ飲んだら帰ってよね。そもそも、なんで新しいホテルがバレたのかしら…」
(先生にだって言ってないから、そっち方面で漏れることはないだろうし…)
「前のホテルに一昨日行ったんだ」
「!」
「でも、そこでホテルから飛び出す二乃を見た」
以前、和彦に説明した内容を二乃にも三玖は説明した。
「
「……」
二乃の追及に反論する訳でもなく、三玖はじっと二乃を見つめたまま言葉を続けた。
「そう。だからもう一度聞きたいんだけど、フータローと何してたの?」
三玖にとってはフータローと二乃の間に何かあったことは明白なので、何かあったのかを聞くのではなく、何をしていたのかを聞いたのだ。
そんな三玖の意図を悟ったのだろう。二乃は真剣な顔で語りだした。
「一昨日を一言で表すのなら最悪。あいつ…絶対に許さないわ…」
「ど…どんな酷いことを…」
怒り心頭な二乃の態度に、どんな酷いことをされたのだと三玖は緊張の赴きで話を聞いていた。
「聞いて驚きなさい!あいつ、変装して騙してたのよ!」
どうだ、と言わんばかりに二乃が風太郎にされたことを三玖に伝えた。だが……
「なんだ」
当の三玖の反応は薄く、落ち着いた様子でお茶を飲んでいた。
「薄ーっ!!」
三玖のあまりの反応の薄さに、二乃は驚きの声をあげた。
「酷いんだから!もっと反応しなさいよ!」
「だって、私たちがいつもしてることだし」
三玖に対してもっと反応しろと抗議する二乃であったが、三玖は冷静にいつも自分達がしていることだと返した。確かに、風太郎に対してだけでも変装して欺いた事も多々あっただろう。
「そう…だけど…」
二乃にも覚えがあるようで、三玖に同意する他なかった。
「あの時も…あの時も…あいつだったなんて。許さない…許さないわ…」
それでもキンタローの正体を風太郎と知らずに接していたこと。それが何よりも二乃にとっては許せなかったのだろう。下を向き、顔を赤くしながらも許せないと呟いていた。
「……他に何もなかったの?」
「それだけよ!」
三玖の言葉に二乃は目線を反らしながらそれだけだと答えた。
「!」
だが、一つだけ印象的な言葉が二乃の頭を過った。
『試験なんてどうでもいい。五人で一緒にいてほしいんだ』
「それだけだわ…」
「ほんとに?」
「……」
その言葉を口にしない二乃は三玖に背を向けながらもう一度それだけだと答えた。
そんな二乃の行動に疑問を持った三玖が、さらに追及したことで、二乃は少し間を取って答えた。
「五人でいてほしいって言われた。試験とか関係なしに」
「フータローがそんなことを…」
いつも勉強の事しか話さない風太郎が、試験に関係なく五人でいてほしいと言った事実が、三玖には驚きの反面嬉しい気持ちが表情に出てきた。
「私の都合を聞いた上で自分勝手よ」
自分勝手だと語る二乃であったが、その言葉には怒りが含まれていなかった。
「二乃はうちに戻りたくないの?」
「なんで戻んなきゃいけないの?いるだけでストレスが溜まるわ。昔と違って好き嫌いも変わっていって、すれ違いも増えたわ。バラバラの私たちがそこまでして一緒にいなきゃいけない?一緒にいる意味って何よ」
戻る理由がないと語る二乃に、三玖は正面から目を反らさずじっと聞いていた。そして答えた。
「
「……っ」
意表を突かれたような三玖の答えに二乃は言葉を詰まらせた。
「二乃は私たちが変わったと思ってるんだろうけど、私から見たら二乃も十分変わってる」
「変わったって…何がよ…」
「昔は紅茶飲まなかった」
「それだけ!?」
斜め上に向かった三玖の答えに二乃はツッコミを入れずにはいられなかった。
「私たちは一人20点の五分の一人前だから」
「?」
「その問題」
ある場所を指差しながら話す三玖に、疑問に思いながら二乃は指差している場所を確認した。それは、風太郎が五人全員のために作った問題集が入っている袋だった。
そして、三玖はその袋の中をガサガサと漁りだした。
「あ!勝手に見ないでよ」
漁った中から一枚の問題を出した三玖は、一つの問題を指摘した。
「問三が違う。正解は長篠の戦い」
「!何?自分は勉強しましたって言いたいの?」
間違いを指摘されたことに、二乃は嫌みを言われたのかと思い冷ややかな言葉を返した。
そんな二乃に、三玖は恥ずかしそうに答えた。
「元々好きだから、戦国武将」
「戦国武将って…あんなおじさんが?」
「うん」
まさかのカミングアウトに二乃もどう返せばいいのか迷ってしまった。
「これが私の20点…そして…」
三玖が次に行動を取ったのは、二乃が飲んでいた紅茶を自ら飲みだしたことだった。
「!」
その行動の意味が分からず、二乃は驚きの顔で見ていた。
「やっぱ甘すぎる…」
「何やってんのよ…」
三玖にとっては甘すぎる紅茶に、げんなりとした顔をしていたので、二乃は何やってんだとツッコミを入れざるを得なかった。
「でもこの味。二乃がいなければ知らなかった」
そこで三玖は二乃に正面から向き合って自分の気持ちを伝えた。
「確かに昔は五人そっくりで
そんな三玖の言葉は確かに二乃の心に届いていて、二乃は顔を赤くしながらもまっすくに三玖の言葉を受け止めていた。
「因みに、二乃がいないからうちの食事はめちゃくちゃで、栄養バランスもボロボロだって一花が言ってた」
「そこは自分たちでなんとかしなさいよ!」
中野家の食事事情の話が出た時は、二乃もさすがにツッコミを入れずにはいられなかった。
「ふん……そのお茶よこしなさい」
先ほど三玖が二乃の紅茶を飲んだように、今度は二乃が三玖の緑茶を飲んだ。
「苦っ。こんなの飲もうとは思わなかったわ。でもこれでハッキリしたわ。やっぱり紅茶の方が勝ってるって」
「紅茶だって元は苦い」
二乃の言葉にジト目で三玖は反論した。どうやら緑茶より紅茶が勝っている宣言に対抗意識が芽生えたようだ。
「こっちは気品のある苦味なのよ。きっと高級な葉から抽出されてるに違いないわ」
「緑茶は深みのある苦味。こっちの方が良い葉を使ってる」
いつものいがみ合いが始まってしまい、お互いに譲れないといった態度である。しかし、二乃にとってはいつもの日常が戻ってきたのを感じたのか、どこか嬉しそうな笑みを浮かべている。
「じゃあ調べるわ。そこら辺の雑草を使ってても泣くんじゃないわよ」
「二乃こそ」
そこで二乃は、自身のスマホで『紅茶 緑茶 葉っぱ』と検索を始めた。そして、その検索結果に二乃と三玖は固まることとなる。
「紅茶も緑茶も同じ葉」
「発酵度合いの違い」
「「……」」
紅茶も緑茶も同じ葉を使っている。この事実に気づいた二人はお互いに目を合わせて一瞬戸惑いの表情になった。
「ふふっ」
「ハハハハ、何それ!面白いわ。今度みんなに教えてあげ…」
先ほどまでは一緒にいることも嫌だと言っていた二乃であったが。
「……」
やはり今まで培ってきた姉妹の絆には勝てなかったのだろう。今知った事を姉妹みんなに共有してあげようと、自然と声に出てしまったのだ。
「過去を忘れて今を受け入れるべき。いい加減覚悟を決めるべきなのかもね」
そんな言葉を口にしながら、二乃は部屋に備え付けてある棚に行き、引き出しの中からあるものを探しだした。
「?」
そんな二乃の様子を三玖は不思議に思いながら見ていた。
そして、二乃が引き出しから出した物ははさみ。そのはさみはギラッと禍々しい煌めきを放っており、三玖はそれを見た瞬間恐怖心が芽生えてしまった。
「三玖」
ビクッ
なので、はさみを持ったまま自分の名前を呼ばれた時には、三玖の肩が震えてしまった。
「あんたも…覚悟しなさい」
はさみの刃の部分を見せながら二乃が近づいてくるものだから、三玖はソファーから立ち上がることも出来ず、ただただ後ずさる事しか出来ず、ある人物の元に電話をするのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、ほとんど原作の二乃と三玖のやり取りとなりました。原作と違うと言えば和彦がホテルの下まで付いてきたということでしょうか。
次回からまたオリジナルストーリーで書かせていただきますので、読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。