少女と花嫁   作:吉月和玖

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49.試験結果、そして─

~中野家・リビング~

 

期末試験も終わったその週の土曜日。ことりを招いた五つ子達は、自分達の成績が書かれた紙をテーブルの上に広げてそれを囲んでいた。

 

 

-試験結果-

 

・一花

国語 26点、数学 57点、社会 30点、理科 43点、英語 38点、合計 194点

 

・二乃

国語 19点、数学 32点、社会 27点、理科 38点、英語 45点、合計 161点

 

・三玖

国語 40点、数学 54点、社会 75点、理科 45点、英語 25点、合計 239点

 

・四葉

国語 35点、数学 25点、社会 30点、理科 22点、英語 26点、合計 138点

 

・五月

国語 46点、数学 55点、社会 29点、理科 71点、英語 37点、合計 238点

 

 

「こ、これは酷い...」

「あんなに勉強したのにこの結果か-」

「改めて私達って馬鹿なんだね」

「二乃、元気出して」

「あんたは自分の心配しなさいよ」

「ま、まあまあ。みんな前回よりも格段にレベルアップしてるんだし、次の試験に期待だよ」

 

五つ子は自分たちの試験結果を見て、落胆していた。

そんな五つ子をことりは一生懸命励ましている。

 

「それにしても、やっぱり明るみに結果に出たわね。ことりに勉強を付きっきりで見てもらってた三人は後一教科だけが赤点だなんて」

「あははは…まあ、三玖と五月ちゃんには全然敵わないけどね。二人はことりの家でも勉強見てもらってたみたいだしね」

 

確かに、今回の結果はそれぞれの行動に紐付いているように見られる。

ことりの家に泊まっていた三玖と五月は群を抜いて成績が良く、ホテルに泊まっていた二乃や部活で勉強会に参加していなかった四葉の成績は芳しくなかった。

 

「丁度家庭教師の日だし、今日は期末試験の反省がメインだろうね」

「うん、その予定だよ。それにしても風太郎君遅いなぁ」

 

ピンポ-ン

 

一花の言葉にことりが答えたところに、来客の知らせであるチャイムが鳴り響いた。

 

「お、噂をすればだね...」

「フータローにしこたま怒られそう...」

「だね-」

「なんで嬉しそうなのよ」

「あはは。結果は残念だったけど、またみんなと一緒に頑張れるのが楽しみなんだ」

 

今回の試験結果で風太郎に怒られるであろうと呟く三玖に、笑って四葉が答えたので二乃が笑うところではないだろうとツッコミを入れた。

しかし、こうやってまた皆と集まって勉強が出来ることに四葉は嬉しさを感じていたのだ。

 

「あれっ...上杉君じゃありませんでした」

 

インターホンのモニターを見に行っていた五月が確認した時、そこには風太郎の姿はなかった。

 

「失礼いたします」

「なんだ江端さんか-」

「今日はお父さんの運転手はお休み?」

 

先ほどインターホンを鳴らした男の人が入ってきた。この者は一花から呼ばれた通り江端といい、三玖が質問をした通り五つ子の父親でもあるマルオの運転手を勤めているのだ。

 

「ええ。本日は臨時家庭教師として参りました」

 

そんな江端は臨時家庭教師として来たと答えた。

 

「そ、そうなんだ」

「江端さんは昔教師をやってたもんね」

「あいつサボりか」

「体調でも崩したのかな...」

「うーん…だったら私に連絡が来てもいいだろうしなぁ…あの。はじめまして。私、上杉風太郎君と一緒に家庭教師を勤めております、吉浦ことりと申します」

 

江端の言葉に四葉、一花、二乃がそれぞれ口にする。そんな中、三玖が体調を崩したのではないのかと心配の言葉が出たが、そうであれば同じ家庭教師である自分に連絡がくるはずだとことりは答えた。そんなことりは、江端とは初対面だったため、両手を前で添えて頭を下げながら挨拶をした。

 

「旦那様より聞き及んでおります。礼儀正しい方ですね。私は、ここにいるお嬢様方のお父様の運転手を務めております、江端と申します。本日()()どうぞよろしくお願いいたします」

 

(え?本日よりって…)

 

江端の挨拶に一瞬疑問に思ったことりであったが、それも次の江端の言葉で理解することとなる。

 

「お嬢様方にお伝えせねばなりません。上杉風太郎様は家庭教師をお辞めになりました」

「え...」

 

五つ子とことりがその言葉に驚き、五月が唯一声を漏らした。

 

「旦那様から連絡がありまして、上杉様は先日の期末試験を最後に契約を解除されたとのこと。私は次の家庭教師が決まるまでの臨時家庭教師をすることになりました」

 

全員が固まり、江端の言葉を信じることが出来ずにいた。

 

「え...つまり...フータロー君、もう来ないの...?」

 

全員が現実を受けきれずにいる中、一花が言葉を発することができた。五つ子とことりがの誰もが思いたくない言葉を。

 

「嘘......」

 

一花の言葉に信じられないといった気持ちで、ことりは言葉を漏らした。

 

「やっぱり...赤点の条件は生きていたんだわ。試験の結果を知られてパパに辞めるよう言われたのよ」

「で、でも…今回はそんなこと聞いてないって兄さんも言ってたし、私も聞いてないよ」

「ことり様の仰る通りかと思われます」

 

二乃は、赤点回避出来なかったら家庭教師を辞めなければいけないという、前回の中間試験同様の条件がまだ生きていたと思ったようだ。しかし、今回の試験ではそんな条件は出ていないとことりが反論する。ことりは和彦からそのようなことを聞いていないからだ。

実際に条件が出ていれば、きっと和彦は教えてくれるとことりは思っていた。

 

「上杉様はご自分からお辞めになられたと伺っております」

「自分からって...」

「風太郎君...なんで...」

 

四葉とことりは信じられないといった気持ちで言葉が漏れた。

 

「そんなの納得いきません。彼を呼んで、直接話を聞きます」

 

納得のいっていない五月が自分のスマホを出して風太郎を呼ぼうとした。だが──

 

「申し訳ありませんが、それは叶いません。上杉様のこの家への侵入を一切禁ずる。旦那様よりそう承っております」

「なぜそこまで...」

「嘘でしょ…」

 

江端のマルオから預かった言葉に信じられないといった顔を五月とことりがした。

 

「分かった。私が行く」

 

三玖がそう決心をして玄関に向かおうとしたが、それを江端は許さなかった。

 

「江端さん通して」

「なりません。臨時とはいえ、家庭教師の任を受けております。最低限の教育を受けていただかなければここを通すわけには参りません」

 

そして、江端の用意した問題用紙に五つ子が取り掛かることとになった。ことりはそんな五つ子の勉強をソファーに座って見ていた。

 

「これが終われば行ってもいいのよね」

「ホホホ、ご自由になさってください」

 

二乃の言葉に笑いながら江端は答えた。それをきっかけに五人がそれぞれの問題にとりかかった。

 

「全く、あいつどういうつもりよ」

「私はまだ信じられないよ」

「本人の口からちゃんと聞かないとね。誰か終わった?」

「私はもうすぐです」

「私も...」

 

風太郎が自分から家庭教師を辞めたことに信じられないといった五つ子達であったが、直接本人から聞き出すためにまずはこの問題を終わらせようという一花の問いに、五月と三玖がもうすぐ終わると答えた。

 

「この問題比較的簡単だよ。きっと江端さん手心を加えてくれてるんだよ」

「そうね。けど、少し前の私達であれば危うかったわ。自分でも不思議なほど問題が解ける。悔しいけど全部あいつのおかげだわ」

 

一花の問題に対する気持ちを話すと二乃がそれに応える。五つ子たちは順調に問題を解いていった。しかし──

 

「あと一問...あと一問なのに...」

「私もあとは最後だけです」

 

順調に進めていた三玖と五月であったが、二人は後一問というところでペンが止まってしまった。

 

(確かにこの問題、風太郎君の作る問題よりも比較的簡単に作られてる。だけど、ちゃんとそれぞれの苦手分野もしっかり入れてて、簡単に終わらせないようにしてる。さすが元教師だけあって、問題作るの上手いなぁ)

 

五つ子達がやっている問題と同じものがことりの手元にあり、それを見たことりはそんな感想を抱いた。そして、チラッと江端の方に視線を向けるとニコニコと問題に苦戦している五つ子達を見ていた。

 

「ホホホ、その程度も解けないようであれば特別授業を行うしかありませんな。ですね、吉浦様?」

「え、ええ…」

「「「「「~~~っ!」」」」」

 

江端の特別授業の言葉に五つ子達は焦って問題に向き合った。

特別授業をちらつかせた江端はというと、五つ子とことりのお茶の準備をするためにキッチンに向かっていった。

それを見た五月が全員に対してある提案をする。

 

「あの...カンニングペーパー見ませんか?」

「それって期末の?」

「い、いいのかな...」

 

二乃が言うように、実は期末試験用にカンニングペーパーを用意していたのだ。

家出騒動や部活騒動に終止符を打った先週の土曜日。この日に、風太郎はカンニングペーパーの準備をしていた。もちろん本当に使うわけでもなく、全員への鼓舞のためでもあったのだが、念のためといった名目で全員の筆入れに入れていたのだ。

しかし、ここで使って良いのかという四葉の心配なセリフに対して五月は──

 

「有事です。なりふり構ってられません」

「五月が上杉さんみたい」

「あんた変わったわね...」

「だけど…」

 

三玖の心配そうな声で五つ子がことりの方を見た。

ことりは、今の立ち位置としては問題を解く五つ子達の監視役なのだ。そんなことりの前でカンニングペーパーを見ることはよろしくないだろう。

 

「五月も言ってたじゃない。有事だから、私も見て見ぬフリをしてるよ」

「ありがとうございます。では……」

 

ことりから許可を得た五月が、筆入れからカンニングペーパーを取り出して中身を見たのだが固まってしまった。

 

「どうしたの?」

 

そんな五月に疑問に思った三玖は声をかけた。

 

「?これ…どういうことでしょう…?なんというか…私のはミスがあったみたいです」

「じゃあ私の使お」

 

五月のカンニングペーパーが使えないらしいので、次に一花が筆入れからカンニングペーパーを出して広げてみた。そこには──

 

「えーっと…」

 

『安易に答えを得ようとは愚か者め』

 

「「「「「「……」」」」」」

 

一花のカンニングペーパーを覗き込んだ他の姉妹やことりも無言になってしまった。

 

「な~んだ。初めからカンニングさせるつもりなかったんじゃない」

「フータローらしいよ...」

 

一花のカンニングペーパーに書かれた文字を見て、一花と三玖は微笑みながら話した。

 

「ですが、どうしましょう....」

「待って、続きがあるみたい...②って…」

「私かしら」

 

この五つ子で②と言えば二乃が連想されるので、次に二乃のカンニングペーパーを広げた。

 

『カンニングする生徒になんて教えてられるか→③』

 

「自分で言ったんじゃない」

 

カンニングペーパーを作って提案をしたのは風太郎。なので、こんな言葉を残されてもとツッコミを入れざるを得なかった。

 

「繋がってる...これ上杉さんの最後の手紙だよ」

 

二乃のカンニングペーパーには③の文字があることから、このカンニングペーパーは一花から順番に読むことで繋がっているのではないかと四葉は口にした。

そして、三玖のカンニングペーパーには──

 

『これからは自分の手で掴み取れ→④』

 

四葉のカンニングペーパーには──

 

『やっと地獄の激務から開放されてせいせいするぜ→⑤』

 

「あはは、やっぱり辞めたかったんだ。私たちが相手だもん。当然と言えば当然だよね」

 

四葉のカンニングペーパーに残された言葉を見て四葉は項垂れてしまった。

 

「最後は五月だけど……五月?」

 

二乃が五月に声をかけるも、五月は自分のカンニングペーパーを見ながら固まっていた。そして──

 

「………だが、そこそこ楽しい地獄だった、じゃあな」

 

自分のカンニングペーパーに書かれていた言葉を五月は声に出してみんなに聞かせた。

その言葉に思うことがあるのだろ、五つ子とことりは固まってしまった。

 

「私......まだ、上杉さんに教えてもらいたいよ」

「私だって...風太郎君がいないと...」

「そうは言ってもあいつはここに来られないの。どうしようもないわ」

 

ここにいる全員がこれからも風太郎と勉強を頑張っていきたい気持ちとどうしようもない現実とで板挟みになっていた。

そんな時一花からある提案を妹たちに出された。

 

「みんなに...私から提案があるんだけど」

 

その言葉に他の姉妹やことりは一花の言葉に耳を傾けた。

 

「あんたそれ本気?」

「うん。ずっと考えてたんだ」

「でも、いいの?多分これから、みんなが思っているよりも大変なことが続くよ?」

 

一花の提案に二乃が本気かと聞くと、一花は前々から考えていたようであった。

しかし、ことりは本当にいいのかと改めて五つ子に確認した。一花の提案していることをこの中で大変であることを一番理解している人物でもあるからだ。

 

「問題ない」

「だね!みんなが一緒なら」

「ええ。きっと乗り越えられるでしょう」

 

ことりの呼びかけに対して三玖と四葉と五月が答えた。一花と二乃も同じ気持ちのようで、五人がニッコリとことりを見ている。

 

「はぁぁ…本気なんだね。なら、私はサポートさせてもらうよ」

「ありがとね、ことり」

 

五つ子全員の本気を感じたことりは、諦めてもらうことを諦めサポートすることを伝えた。それに一花がお礼を伝えた。

そして、五つ子達は一斉に立ち上がり、お茶を用意した江端を迎えた。

 

「おや、どうされましたか?」

「江端さんもお願い。協力して」

 

一花のセリフに対して、姉妹全員が真剣な顔をしているのを見て、口角を上げて江端は漏らした。

 

(小さな頃より見てきましたが、まだまだ小さな子どもだと思っていました。それが、どうです。このような顔ができるようになるなんて…)

 

「大きくなられましたな」

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、五つ子の期末試験の結果と風太郎が家庭教師を辞めた事を知った五つ子とことりの話を書かせていただきました。
五つ子の試験結果ですが、三玖と五月をかなり高く書かせていただきました。この二人はことりに毎晩勉強を見てもらったことと、和彦から数学を教えてもらっていたこととでこの点数にさせていただきました。
勉強会に参加していた一花は原作より少しだけ高く。二乃と四葉は、和彦の解説があったことで数学だけ原作より高くしております。

さて、この話で期末試験編は終わりとなりますが、最初の予定より長くなってしまいました。原作で言う『七つのさよなら』の部分も含まれてますので、長くなるのは当然だったのかもしれませんね。

では、また次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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