少女と花嫁   作:吉月和玖

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05.問題は山積み

「ふん♪ふふ、ふーん♪」

 

僕とことりは今少し遅めのランチを外でするため町中を歩いている。

そんな中、隣を歩いていることりは終始ご機嫌である。

 

「ご機嫌だね、ことり」

「えー……だってお兄ちゃんと外でランチなんて久しぶりだし。これってデートだよねぇ」

 

兄妹で外食することもことりにとってはデートなのか。

まあせっかくご機嫌なんだし、野暮なことは言わないでおこう。

そんな時だ。前方に見慣れた横顔姿を発見した。

 

「ん?あのアホ毛は……もしかして五月じゃないか?」

「あ、ホントだ。おーい五月ー!」

 

僕の言葉に同意したことりは五月に呼び掛けた。

 

「え?先生。それにことりさんまで」

 

呼ばれた五月はこちらに振り返り、こちらに近づいてきた。

よしよし。数学準備室に通ってくれてるからか見分けられるようになってきたぞ。

 

「お二人でお出かけですか?」

「ああ。ちょっと遅いけど昼飯にね」

「ふふふ。私が家庭教師として頑張るようにって兄さんが………て、あれ?」

「ん?どうかされましたか?」

「いや、なんで五月はこんなところにいるんだろうって」

「…っ!」

 

ことりの疑問の声に五月はビクッと肩を揺らす。

あれ?そういえばなんでだ?

 

「私、兄さんとお昼を食べた後に家庭教師の様子を見に行こうと思ってたんだけど…今の時間ってたしか家庭教師の時間だよね?」

「そ、それはぁー……」

 

ことりの質問に目を反らす五月。

こいつ逃げてきたな。

 

「五月ぃ~?」

「し、仕方ないんです!あんな人に教えてもらうなら自分で勉強をした方がマシです!」

 

ことりの問い詰めるような言葉に正直な言葉を口にする五月。まったく…どれだけ嫌われているんだ上杉のやつは。

 

「まあ、ここで話しててもなんだし五月もよかったら一緒に来る?ことりとだったら帰れるでしょ?」

「はい…」

「決まりだね。さすがにお腹空いてきちゃった」

 

五月の同行も決まり三人でそのまま近くのお店に入った。お昼時も過ぎた時間なので店内は割と空いておりスムーズに席に案内された。

三人それぞれの注文が終わり、一つ気になった事を五月に聞いてみた。

 

「五月のその上杉に対する反応から、もしかして転入初日に学食で上杉と口論になった黒薔薇女子の生徒って五月?」

「うっ…」

「あー…友達から連絡来てたあれかぁ…結局何が原因で口論になったの?」

「あれは上杉君が全面的に悪いんですっ」

 

そんな心の叫びがこもったように口にする五月。

そんな五月から当時の事を教えてくれた。

まず、出会いから最悪だったようだ。

ほぼ同時に同じ席のテーブルの上にお互いのお昼を置いたのだが、上杉は隣の席が空いているにも関わらず譲ることをせず先に座り自分の席だと主張したそうだ。子供か。

 

「それにしても、無理しないで五月が隣の席に行けば良かったのに…」

「まさか相席するとはね」

「し、仕方なかったんです。負けたような気がして…それに、本当に足が限界だったんです」

 

相席に関しては上杉もさすがに許したようだ。

 

「上杉君の一人で勉強しながらのご飯は割と有名だからね」

「へぇ~そうだったのか」

 

その勉強をしながらご飯を食べたいるのを五月は注意したそうだが、上杉には聞く気がなかったようだ。

 

「そこまではまあ許せます。しかし、わざと百点のテストを見せてきたんですよ!」

「あはは…」

「頭が良いことはそこで分かりましたので、私から勉強を教えてほしいと提案したんです。それなのにぃ……」

「一蹴したと」

 

僕の言葉にコクンと五月は頷いた。

まあ、一人狼気質があるからな上杉は。食堂での口論の事を聞いた時にも思ったが、上杉が誰かと一緒にいるというか話してるとこ見たことないしな。

 

「しかも極めつけは、私のお昼を見て、ふ、太るぞって言ってきたんですよっ!」

「「あはは…」」

「デリカシーが無さすぎです!」

 

五月は文句を言いながら運ばれてきた料理を、やけ食いの如く食べている。そんな姿に、僕とことりはもう笑うしかなかった。

しかし……

ふと五月の注文した料理とことりの注文した料理を見比べる。

うーん……よく食べる子なんだな。

この間はケーキが好きなのかと思ったのだが、食べること全般が好きなようだ。

とはいえ、今それを言えば火に油は目に見えている。

上杉……ある意味大物だな。まあ、たしかにデリカシーはないが。

 

「うーん…この間はカッコいいところがあるんだって思ったんだけどな、上杉君のこと」

「カッコいい?彼から一番遠い言葉ですね」

「重症だなぁ。でも、カッコいいって思ったのは本当だよ。だって三玖に向かってこう言ったんだよ?五人揃って笑顔で卒業してもらうって。こんなこと普通は言えないよ」

「五人揃って、笑顔で卒業…」

「僕も普段から思ってることだね。生徒皆が笑顔で卒業していってほしいって。でも、中々口には出せないかもね」

「そうですか……彼が…」

 

五月の食べる行動は止まらないが、少しは胸に響いてはいるようだ。

そんな五月の姿を見た僕とことりはお互いに目が合うと笑ってしまった。

 

「それで?今、上杉の下で勉強してるのは残りの四人?」

 

五月の上杉に対する思いを聞いた後、もう一つ気になったことを聞いてみた。

 

「いえ。私が家を出るときには一花と四葉は先に家を出てましたよ」

「は?」

「一花は今日はバイトがあると言って出掛けていました。最初は見ていると言っていたのですが」

 

一花さんっていうとショートヘアーの子だっけ?三玖と五月は数学準備室に通ってくれてるから覚えてきたんだけど、他の三人とは授業でそれぞれの教室に行くとはいえ、そこまで接していないからなぁ。

 

「へぇ~、一花ってバイトしてるんだ?どんなバイト?」

「すみません、そこまでは…」

 

ふむ。バイトの内容は姉妹に言ってないのかな?

 

「それで四葉なのですが。あの子は女子バスケの助っ人に行きました」

「転入して間もないのにもう助っ人行ってるんだ、凄いんだね」

 

ことりが関心するなか四葉さんの容姿を思い出す。

たしか特徴的なリボンを着けてたような。

 

「四葉は運動神経抜群ですからね。前の学校でも部活をいくつも掛け持ちしていました」

「「へぇ~」」

 

四葉は運動神経抜群っと。

 

「じゃあ、残った二乃と三玖で勉強してるんだ」

「いえ…二乃は姉妹の中でも一番家庭教師に反対していますので。四葉を女子バスケの助っ人に誘導したのも二乃ですし」

 

二乃さんはたしか一番髪が長かったっけ?話し方もきっぱり言う感じだったし上杉とは衝突しそうだな。

 

「元々四葉は家庭教師に賛成だったんですが」

「そういえば、四葉だけ上杉君に宿題見てもらってたもんね」

「はい。しかし、二乃から女子バスケの人数が足りないから試合が出来ない。助っ人に行ったらどうだ、と家庭教師が始まる直前に言われ…」

「助っ人に行ってしまった、と」

 

僕の言葉にまたコクンと五月は頷いた。

 

「てことはだ。この間の件で協力的になった三玖だけが、今日の家庭教師の勉強に参加してると」

「その三玖も果たして勉強できているかも疑問ではあります。二乃が黙っていないかと」

「シュールだなぁ」

 

僕の言葉に五月が自身の解釈を付け加えるとことりが言葉を漏らした。

うーむ、これは一朝一夕ではなんともならないかもだな。上杉にとって問題はまだまだ山積みってわけだ。ことりが参加することで果たして問題解消に繋がるのだろうか。心配ではある。

 

その後、ことりは五月と一緒に中野家のお宅に行く事になった。勉強していなくても様子だけは見ておこうという考えに至ったのだ。

 

「それじゃあ兄さん行ってきますね」

「ああ。現状をその目で見てくるといい。五月。ことりも参加するんだから少しは協力してやってくれ」

「ことりさんの下であれば教えは乞います」

「十分だよ」

 

そこで二人は行ってしまった。

さて、外に出てるしついでに夕飯の買い物でもして帰るか。今日は久しぶりに僕が作ろうかね。

そんな思いで近くのスーパーに寄ることにした。

さーて、何を作ろうかね。

 

「あら?吉浦先生」

 

食材を物色していると女性から声をかけられた。声の方に目を向けると見知った人物がいた。

 

「立川先生じゃないですか。奇遇ですね」

「本当に。吉浦先生ってお住まいはこの辺でしたっけ?」

「いえ。外食のついでに立ちよったので、ここを利用するのは初めてですよ。まあ、家はそんなに遠くないですが」

 

そういえば結構立川先生とは話してはいるがお互いの家の話はしていなかったな。それにしても、なんとも意外な場所で遭遇するものだね。

 

「もしかして、晩御飯を買いに来たんですか?」

「ええ。そういう先生こそ」

「私はちょっと小腹が減ったので買い出しに。家にあるもので済ませるつもりだったんですけど」

 

なるほど。

そんな流れで一緒に買い物をすることにした。立川先生の家も僕の家と同じ方向みたいだし帰りも途中まで一緒することにした。

 

「吉浦先生は何を作るんですか?」

 

食材を見ながら献立を考える。

そうだなぁ……

 

「焼きそばでもしようかなって考えてます」

 

材料的に手早くできるだろうし。野菜や肉もあるから問題ないだろう。

立川先生は感心しながら、

 

「やっぱりお料理出来るんですね」

「まあ、簡単なものであれば。今はことりが作ってくれてますけど、ことりが来るまでは一人暮らしでしたからね」

 

自炊はしていたしそれなりに料理が出来るほうだと思う。その他にも家事全般得意だ。実家でも手伝ってたしね。

ちなみに僕が作ったのを食べた人はことりだけ。両親や親戚にも振舞ったことがない。その事にことりは嬉しそうにしてたっけ。機会があれば両親くらいにはご馳走したいとは思っているけどなかなか実現していない。いつか食べてもらいたいものだ。

そんなことを話しつつ、買い物かごに入れていく。そしてレジに向かい精算していく。二人だったのでそこまで時間はかからなかった。会計を終えた後は袋に買ったものを入れ店を出ることにした。立川先生の荷物を持つのを手伝って帰路につくことにした。

他愛のない話をしているうちに立川先生の住むマンションに到着する。

 

「それじゃあ、ここで失礼しますね」

「はい。ここまで荷物を持っていただきありがとうございました」

「気にしないでください。男として当然のことをしたまでですよ」

 

そう言って別れようとすると何かを思い出したのか呼び止められた。

 

「どうしました?」

 

振り返ると立川先生は鞄の中を探しながら近付いてきた。少しして目的のものを見つけたのか差し出してくる。

 

「これ、前からお渡ししようと思っていまして」

 

渡されたそれは一冊の本だった。表紙にはタイトルが書かれている。

 

「これは……」

 

手に取った本を眺めていると彼女は言った。

 

「私のオススメの一冊です。良かったら読んでみてください。きっと気に入ると思いますよ?」

「……はい。帰ったら読ませて頂きますね」

 

受け取った本を手にして今度こそ立川先生と別れた。

その後家に戻った僕は早速もらった本のページを開いた。タイトルは『君の望むもの』。内容はラブストーリーらしい。ヒロインの女の子がある男の人と再会。そして結ばれるまでの物語だそうだ。

恋愛小説か。あんまり読んだことないジャンルだけど、面白かったらことりにも勧めてみようかな。そんなことを考えつつ僕は夕飯の準備を始めた。

 

ブー…ブー…

 

ん?ことりからか。

 

『お兄ちゃん、大変だよ!上杉君が中野家裁判にかけられちゃった!』

 

………どゆこと?

僕の頭ははてなマークでいっぱいであった。

そんなところに、またことりからメッセージが来る。今度は画像も添付されてるようだ。

 

『五月と家に行ったら、上杉君がお風呂上がりの二乃の上に覆い被さっているところに遭遇!』

 

画像はたしかにお風呂上がりなのか、あられもない姿をした二乃さんの上に上杉が覆い被さっているところではある。

妹よ。慌てていたかもしれないが、兄とはいえ男にこの画像を送るのはどうかと思うぞ。

それにしても、なるほどそれで裁判ね。

これは上杉の今後にもとんでもなく影響が出るのではないだろうか。

ただでさえ家庭教師を続ける上で大変な状況なのに自分から窮地に落とすようなことを上杉がするとは思えない。となると何かしらあってのこの体勢か…

二乃さんには申し訳ないが、ことりから送られてきた画像を隅々まで見てみる。

うーん…なんか周りが散らかってるような?

というか、なぜ上杉がいる状況下で二乃はお風呂に入ったんだ?上杉が帰った後に入ったのか?だったらどうやって上杉は家に入ったんだ?駄目だ、分からんことだらけだ。

そんな時だ。

 

『お兄ちゃん、今電話に出ることってできる?』

 

ことりからそんなメッセージが届いたのだった。

 

 




大変長らくお待たせしました。最新話の投稿です。

今回は、風太郎の家庭教師から逃げるため外に出ていた五月と吉浦兄妹が町で出会った話を書かせていただきました。
それにしても思いつきで書きましたが、やはり風太郎や中野姉妹との接点が少ないと書くのってこんなにも大変なんですね…

また間が空くと思いますが、次回もどうぞよろしくお願いいたします。


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