~五つ子side~
一花が教室を出たところで四葉と五月の二人と合流した。
「一花!噂のこと聞いた?」
「うん、さっき。だから本人に聞いてみようと思って。五月ちゃんはフータロー君と同じクラスだよね?フータロー君は?」
「それが、ホームルームが終わるなり一目散に帰ってしまって…」
噂の当事者である風太郎と同じクラスである五月に、一花は確認するも帰ってしまったと言われた。
「まあ、そりゃそうだよねぇ」
「しかし、あの噂はにわかには信じられません」
「だ、だよね。上杉さんとことりさんがだなんて…」
普段の二人のことを知っている三人としては根も葉もない噂であろうと思っていた。
「あんたたち集まってたのね」
そこに二乃と三玖も合流した。
「てか、どうなってんのよ。ことり本人に聞こうと思ってたら帰ってるし」
「そうなの?」
「うん。ホームルームが終わったらすぐ帰っちゃった」
二乃のことりはすでに帰ってしまったという言葉に、一花は三玖に確認するも肯定された。
「で?ここで集まって話してるってことは上杉もいないのね?」
「はい。ことりさん同様すぐに帰ってしまいました」
「はぁぁ…これって噂が本当ってことあり得るんじゃない?」
「「「「──っ!」」」」
二乃の言葉に他の四人は衝撃が走り、全員目を見開いて二乃に注目した。
「いやいや。フータロー君とことりだよ?ないでしょ」
「たしかに、ことりにそんな素振りなかった」
二乃の発言に真っ先に一花が否定し、それに三玖も続いた。
「だって、ことりなら今まで通り噂をすぐに否定するでしょ。上杉は友達だ、とか言って。それが今回ないのよ?」
「しかし、上杉君とその…お付き合いをすることになったのであれば、ことりさんであれば私たちには報告していただけるのではないでしょうか」
「だ…だよね!」
二乃の発言に五月がまた別の角度の意見を言った。その五月の意見に四葉が乗っかった。
そこに男子生徒が二人、五つ子の傍を通りかかった。
「おい、あの噂聞いたかよ?」
「聞いた聞いた。吉浦さんのことだろ?」
「ああ。最初は嘘だろって思ったけど、さっき二人が仲良さそうに一緒に帰ってるの見てさぁ。うわぁー、本当なんだって現実を突きつけられたよ」
「マジで!?」
「「「「「……」」」」」
通りかかった男子生徒の話が聞こえた五人は言葉が出ず、アイコンタクトのようにお互いを目配せした。
「……ここで話してても埒が明かないわね」
「そ、そだね。やっぱり本人に聞かないと」
ずっとここで話していても解決されないという二乃の言葉に一花は同意した。
「どうする?一応もう一人関係者がまだ学校にいるけど」
「「「「あ…!」」」」
そんな時、三玖の発した言葉で他の四人はある人物の顔を想い描いていた。
「それでわざわざここに来たの?」
机の上のノートパソコンの電源を入れながら五つ子の五人を数学準備室に迎え入れた。
「いやー、先生なら何か知ってるかなぁーって」
迎え入れた五つ子にはソファーに座ってもらっており、一花が頭をかきながら答えた。
「しかし、ことりと上杉がねぇ…と言っても、そもそもその噂だって今初めて聞いたからね。お役に立てそうにないよ」
机の上に置いていたペットボトルの蓋を開けながら答えて、お茶を飲んだ。
「そっかぁー、やっぱり先生でもわからないですよねぇ~」
「悪いね。まあ、普通は自分の兄に今度告白するとか報告しないでしょ。皆もその時が来たら他の姉妹に報告しないでしょ?」
「それもそうね」
四葉の言葉に申し訳ないと謝ったが、そもそも兄妹に誰かに告白をすることを報告しないだろと伝えると二乃が同意してくれた。
しかし、そうか…全然そんな素振りなかったけど、いつの間に上杉のこと好きになってたんだ。へぇ~…
ことりの事はよく見てたつもりだけど、僕もまだまだのようだ。
「結局ふりだしに戻りましたね」
「うん…」
「帰ったらことりに聞いとくよ。しかし、どちらにしてもそれとなく君たちには共有すると思うんだけどね、ことりだったら」
僕へはともかく二人の共通する友人でもあるんだし、ことりの性格から言えば共有すると思うんだが。
「ま、恋は盲目ってよく言うじゃない。あのことりも上杉に夢中で忘れてたんでしょ」
「「──っ!」」
「?」
今一瞬、二乃の言葉に誰かの反応があったような……気のせいか。
「それより五月は何も感じなかった訳?ことりが上杉連れていくとこ見たんでしょ?」
「私は……例の家庭教師を辞めたことについて追及のために連れていったのだと思っていましたので。ことりさんも結構気にしてましたから」
「なるほどー」
二乃の追及に五月は、家庭教師の件で話をするのだと思っていたと答えた。その答えに四葉も頷いているし、他の姉妹がその場所に居合わせたとしても同じことを思っただろう。
ことりは結構上杉のことを認めてたからな。何も相談せずに勝手に家庭教師を辞めたことに思うところがあるのだろう。あ、そういう意味では告白したっていうのもあり得るのか。
「まあ、なんにせよ。ここでは何も得られないんだし、そろそろ帰ったら?皆は引っ越しの準備とかあるでしょ?」
「そうだった。じゃあ、みんな帰ろっか」
「うーん…夕飯の準備もしないとねぇ~」
「それ手伝う」
「あら、本当に最近はよく手伝うようになったじゃない。殊勝なことだわ」
ソファーから立ち上がった五つ子は、それぞれが鞄を持ち部屋の扉に向かった。
「それでは。突然の訪問すみませんでした」
「お邪魔しましたー!」
「何かわかったら連絡しなさいよ」
五月と四葉の挨拶に二乃が連絡するよう被せるように言ってきたところで五人は数学準備室から出ていった。
「さて。まだまだ終わらせないといけない仕事もあるし、頑張りますか」
そして僕は、一つ伸びをしてから立ち上がっているノートパソコンを使って残りの仕事に取りかかった。
そしてその日の夕飯時。ことりの準備してくれたご飯を二人でいつも通り食べていた。
そんな中、僕はご飯を食べていることりを向かいから見ていた。
「?どうしたのじっと見つめちゃって。あ!あーんしてほしかった?」
「なんでだよ」
帰ってきてからことりを見ていたが、ここまではいつもと変わらないように見える。
「じゃあ……とうとう私に惚れちゃった?」
「はぁぁ…」
「ちょっとぉ!そこでため息つかれると、私だって傷つくんだからね!」
文句を言いながら、ことりは箸で持っていたおかずを口に持っていった。
「いや、いつもと変わらないなと思ってね」
「ん?何かあったの?」
「五つ子から聞いたんだよ。今、校内ではことりと上杉が付き合ってるんじゃないかって持ちきりみたいじゃないか」
「ふーん…そうなんだ。私は今日すぐに帰ったからよくわからないや」
至って冷静にといった感じでことりはご飯を食べるのを続けている。
「で?実際のとこどうなの?上杉と付き合ってるの?」
「……付き合ってるって言ったらお兄ちゃんはどう思う?」
質問に質問で返されてしまった。だが、ことりはじっとこちらを見ているから真面目に聞いているのだろう。
「いいんじゃないかな。上杉ならきっとことりと仲良くしていけるよ」
率直な意見を伝えたのだが、ことりは僕の答えを聞くとぷくっと頬を膨らませて不満そうな顔を向けている。
「…想像してたのと違う」
「は?」
「私が誰かと付き合うんだよ!何も感じないの?」
こちらに迫る勢いでことりはそんなことを言ってきた。
「いや…まあ…どこの誰かも分かんない奴だったら色々と思うところはあるけど。上杉だろ?いい奴じゃないか」
「…駄目だぁ…作戦失敗だよぉ」
上杉はいい奴だと伝えると何故かことりは項垂れてしまった。
なんだ作戦って?もしかして、やっぱり付き合っていないとか?
項垂れていたことりは元の状態で座ると、またご飯を食べ始めた。
「付き合ってないよ」
「え?」
「だから風太郎君と。噂は真っ赤な嘘。まあ利用させてもらってるけどね」
~屋上~
「ねえ風太郎君。一つ協力してほしいんだけど」
「あ?」
訝しげな風太郎に対して、ふふふと笑みを浮かべながらことりは提案内容を伝えた。
「多分今、私たちの事が噂されてると思うんだ。吉浦さんが上杉に!?的な」
「まあ、そうかもな」
「だから、その噂を本当にしようよ」
「…………は?」
ことりの提案に風太郎は一時的に思考が停止してしまった。
「だから、私たち付き合ってることにしようよ」
「待て待て!そうもいかんだろ!」
ことりが自分達が付き合っていることにしようと言うと、風太郎は全力で否定した。
「なんで?別に本当に付き合う訳じゃないよ。本当のことを知ってるのは私と風太郎君だけ。付き合ってることを演じればいいんだよ」
「いや…そうかもしれんが…」
「そうだなぁ…昼休みとか休み時間は別にお互いに会わなくてもいいと思う。お互いの時間を尊重してる関係だって言えば納得されるし。まあ、帰りくらいは一緒に帰った方がいいかもね」
顎に人差し指を当てながらこれからの計画をつらつらと話すことり。もうことりはやる気満々である。
「いや!そもそも、なんでそんなことをしなければいけないのかって話だ」
そんなことりに待ったをかけるように、風太郎は付き合う振りをする理由をことりに確認した。
「理由は二つ。一つは、いい加減告白されるのに嫌気がしてきてるんだよねぇ。で、その抑止力のために私は上杉風太郎君とお付き合いしてるんです、てことにすればいいかなって」
「なるほど。この間のキャンプファイヤーのダンスみたいなもんか」
「そういうこと」
腕を組んで風太郎が理解を示してくれたことに、ことりはうんうんと笑顔で頷いた。
「で?二つ目は?」
「ふふふ、私が誰かと付き合うことでお兄ちゃんがショックを受けるかもしれないでしょ?そこで、本当は付き合ってるのは嘘で今でもお兄ちゃんのことを好きだよって伝えるの。そうすれば、僕も今回のことで気づかされたよ。やっぱりことりのことが好きだ。て言われるんだよぉ~」
「……」
「そしてそこから始まる私とお兄ちゃんの恋の物語……はぁ~ん、どうしよう。そのままキスなんかしちゃったりしてぇ。やぁーん、もう」
そこでことりは風太郎のことをバシバシと肩あたりを叩いた。
(いてぇーし、うぜぇー…)
「でも男の人ってキスじゃ終わらないかもって聞いたことあるし…どうしようその先まで進んじゃったりしたら…でも、お兄ちゃんになら……ねえ?風太郎君はどう思う?」
「知らねぇよ!!」
ようやく妄想の世界から戻ってきたことりは、そのまま風太郎に意見を求めたが、案の定意見は返ってこなかった。
「えー、もう男の人としての大事な意見なのにぃー」
そんな風太郎の態度に納得いかないといった形で、ことりは頬を膨らませて抗議するように風太郎を見ている。
「はぁぁ…ようは、先生の気を引くためにやるってことだな」
「違うよぉ。お兄ちゃんの真なる心を呼び起こすためにやるんだよ」
(それは違うだろ)
ことりの言葉に風太郎は心の中でツッコミを入れた。
「まあいいや。どちらにせよ、俺はやらんぞ。そんな面倒事ごめんだ」
「えー!頼りになるの風太郎君しかいないんだよぉ。ね!おねがい!」
恋人関係を演じることに風太郎は断るが、ことりも風太郎以外に頼れる男子生徒がいないのだ。懇願するように両手を合わせて頭を下げている。
「引き受けてくれたら、風太郎君が勝手に家庭教師を辞めたの何も言わないから」
「ぐっ……ここでそれ出すのズルくないか?」
「そんなことないよ。私、内心では凄く怒ってるんだから。本当はそのことを文句言うためにここに呼んだんだよ」
合わせている手をずらして、ジト目でことりは風太郎を見た。そんなことりの顔に風太郎は居たたまれない気持ちとなってしまった。
「だぁー!もう、わかった。引き受けてやる」
「さっすが風太郎君♪」
根負けした風太郎の言葉にパァーッと笑顔になったことりは、風太郎の腕に自分の腕を絡ませながら喜んだ。
「くっつき過ぎだろ」
「これから恋人を演じていくんだもん。これくらい慣れないと。そだ。引き受けてくれたからお礼に何かしてあげるよ。何かない?」
やたらスキンシップが強いことりの行動に恥ずかしく、風太郎はことりの方を見れず前髪を弄っていた。
「て言われてもなぁ…」
「うーん……そういえば、風太郎君って毎日焼肉定食焼肉抜きを食べてるんだっけ?」
「よく知ってるな。まあ、金がねえからな」
「有名だからね。じゃあ、明日からお弁当作ってあげるよ」
一つの提案をしながらことりは風太郎から離れた。そのことで、風太郎も少し落ち着いてきたようだ。
「いいのかよ?」
「うん。どうせお兄ちゃんと自分用に毎日作ってるし。そこに一人分増えても手間じゃないよ」
申し訳なさそうに確認する風太郎であるが、ことりは手間ではないと笑顔で答えた。
「正直助かる」
「じゃあ決まりだね。折角だから今日一緒に帰りにお弁当見に行こうよ。お互いの教室に行くのは囲まれそうだから、昇降口で待ち合わせしよう」
「わかった」
そこで予鈴が鳴ったので二人は急いでお互いの教室に戻っていった。
「上杉も本当にいい奴だね。ことりの悪ふざけに付き合ってくれて」
「悪ふざけって…ホントに悩んでるんだよ?告白されることにはさぁ。特に先輩とか後輩なんて、誰あなたって感じなんだから」
「確かに」
ちょうどご飯も終わったので、ことりはお茶を飲みながら告白が多く一々断るのは大変だと言ってきた。まあ、確かに毎回知らない人から告白されるのも辛いだろう。
「それより、五つ子達には話しておかないの?今日の放課後、僕のところに聞きに来るくらい気にしてたよ」
「んー…やっぱり言っておいた方がいいよねぇ。その方が今後演じていきやすそうだし。後は、智子と可奈にも伝えとこ」
そう言うや否や、スマホを使い始めた。どうやらメッセージで伝えるようである。
そんなことりを横目に夕飯の後片づけを始めるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、ことりと風太郎の噂を探る五つ子とことり本人から噂の真相を聞く和彦の話を書かせていただきました。
皆さんの想像通りだったかもしれませんが、噂は真っ赤な嘘。ことりの企みによる演技でした。しかし、そんな演技に付き合う風太郎もいい奴ですね。
とは言え、これからの話次第では、この嘘の関係が本当になるかもしれないという事もなきにしもあらずなので、二人の心境もじっくりと考えていこうと思います。
ちなみに、ことりと風太郎のやり取りを書かせていただきましたが、この内容を和彦は知りません。なので、ことりが和彦をお兄ちゃん呼びしていることや一人の男性として好きであることを風太郎が知っているのを和彦は知らないことになります。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。