少女と花嫁   作:吉月和玖

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53.聞き分け

ことりの噂の真相を聞いた後。僕は自分の部屋に戻り、ベッドの上で壁に寄りかかりながら座り、歴史の雑誌を読んでいた。最近ではこういうのを読む時間もなかったから結構貴重な時間でもある。

ご飯の後、もう少し一緒にいようよ、ということりの誘いもあったが、やんわりと断った。

また、変な要求されそうだったしなぁ…

しばらくそんな時間を過ごしていると、傍に置いていたスマホにメッセージが入った。

 

「グループ通話?」

 

いわゆる何人とも話が出来る機能なのだが、届いたグループがまた珍しいものであった。

以前その場のノリで作った『先生と五つ子』というグループ。つまり、ことりは入っていない僕と五つ子だけのグループである。今まで使われたことがなかったが、そのグループに今メッセージが入ったのだ。

まさかこのグループが使われるとは…本当に僕のことを教師だと思っていないな。

そんな思いのもと『参加』のボタンを押した。

 

「どうした?」

『あー、やっときたぁー』

『あんたが来ないとただの五つ子グループ通話じゃない』

『もしかして忙しかった?』

『こんばんはー!先生!』

『すみません、夜分遅く』

 

一気に喋られるとマジで誰が誰だか分からんな…これを機にしゃべり方にも特徴があるか聞いてみるか。

 

「いや、部屋でゆっくりしてただけだよ。まさかこのグループが使われることがあるとは思わなかったから、ちょっと焦ってた」

『えー、せっかく作ったんだし、それは使うでしょ』

『でも、本当に使う機会は少ないと思うなぁ』

『ことりさんとのグループでのメッセージのやり取りはよく使いますけどね。先ほども連絡がありましたし』

 

どうやらことりと五つ子のグループも作っているようだ。まあ、それは普通だろう。こっちのグループがイレギュラーなのだ。

 

『それより聞いたわよことりのこと。あんたの妹も中々思いきったことするわね』

『けど、本当に付き合ってるって言われるよりも納得した』

「ははは…僕もまさか考えても行動に移すとは思ってもみなかったよ」

 

確かに今回の付き合う演技をすることには効果が期待できる。とは言え、その相手役にもかなりの条件があるから行動に移すことはそうそう出来ないのだ。相手役の条件には、ことりのことを恋愛対象として見ておらず、なおかつことりの信頼を得られていることがないといけない。こんな条件を得ているのは、あの学校では上杉くらいだろう。

 

『しかし、上杉君もよく引き受けましたね。彼なら間違いなく断るでしょう』

『だよねぇ。フータロー君だったら、断る、の一言で終わってるよ』

『たしかにぃ。上杉さんならあり得るよ』

 

まあ、ことりの恋人役なんて、色々と注目を集めるだけだろうしね。いつも一人で勉強をしている上杉にとっては迷惑な話だろう。

 

「今回は、上杉が君たちの家庭教師を勝手に辞めたことを盾にしたみたいだよ。後は、ことりの頼み方が切羽詰まってたとか?告白されることには、ことり自身嫌気が差してたみたいだからね」

『ファンクラブまであるんでしょ?しかも本人から許可も取ってないって。まったく、よくやるわよ』

『二乃、羨ましいの?』

『羨ましくないわよ!私だってそんなのごめんだわ』

「でも、ファンクラブとまではいかなくとも、五人も大変なんじゃない?告白とか多そうで」

『『『『『……』』』』』

 

僕の言葉に誰からも返事が返ってこなかった。

 

「あれ?そうでもなかった?この間一花が告白されてたから、他の皆もそうなのかなぁ、と思ったけど」

 

まあ、実際は一花に変装した三玖だったけど。

 

『はぁー!?一花!あんたいつの間に!?』

『いやぁー、たまたまだよ、たまたま。それ以来ないから』

『でも、一花ならされてそうだよね』

『そうですね。姉妹で一番コミュニケーションを取れてますし』

『私たちは男子と話すことがほとんどないから…私が男子で話したのはフータローくらい…?』

 

なるほど。まあ、五人がうちの学校に来てまだ三ヶ月くらいだしね。まだまだってところか。

それでも時間の問題だろうけどね。現に一花はキャンプファイヤーのダンスに誘われてるんだし。

 

「まあ、五人もそのうちことりみたいに困る日が来るさ。なんたって、五人とも可愛いんだし男子が黙ってないよ」

『『『『『──っ!』』』』』

 

あれ?また反応がない。何か間違っただろうか。

 

『ふ…ふーん…あんたってば、前から思ってたけど恥ずかしいこと平気で言うわよね』

「え?」

『あはは…しかも自覚ないときたもんだ』

『先生。可愛いって、私もなのかな?』

 

私が誰かは分からんが──

 

「まあ、五人がって言ったしね。むしろ五人とも同じ顔なんだし、髪型は違えどみんなそれぞれが可愛いと思うよ」

『…~~~っ!』

 

なんか声にならないようなものが聞こえてきたな。

 

『三玖!ドタバタうるさいわよ!』

 

ああ。今の三玖だったんだ。

 

『えっと…他のみんなはわかんないけど、私ってその…か…かわいいなんて言われなれてないもので…』

『私たちは中学から女子高でしたからね。ほとんど男子とも交流がありませんでしたから仕方ないかと』

「なるほどね。それは悪かったよ」

『別に謝ることはないよ。恥ずかしいだけであって、みんな嬉しく思ってるしね。現に三玖なんか、ドタバタさせるほど嬉しがってたんだし』

『一花…!』

 

あははは…やっぱり電話だと意志疎通に限界があるな。

 

「ま、なんにせよ、ことりのフォローはしてやってくれると助かるよ」

『ん…任せて』

『と言っても、何かするって訳でもないわよねぇ』

『だね。多分ことりのことだから、へたにフータロー君と接触もしないだろうし』

『なるほど。私たちはあくまでも噂を否定しなければいいと言うことですね』

『よかったぁ~。何かするんだったら、私だとすぐにバレそうだったよぉ』

「フォローをお願いしたけど、まあ今まで通り接してもらえればいいと思うよ。上杉に関しては……ま、きっとまた前みたいな関係に戻るさ」

『うん』『ええ』『うん…』『はい!』『はい』

 

今の上杉は家庭教師の任を解いた状態だ。あいつにとって、家庭教師と生徒の関係が無ければ五つ子と学校で話そうともしないだろう。ことりはちょっと強引なやり方だったけどね。

 

「さて、明日も学校だしそろそろ休もうか」

『そだね。うーん…』

 

そこで終わるのかと思ったのだが、何故か考え込むような声が聞こえてきた。

 

「ん?どうした?」

『いや、少し気になったんだけど。ちなみに先生って、今普通に会話してるけど、誰が誰かはわかってる?』

「ぐっ…」

『わかってないようね』

 

多少なりとも話し方に癖とかないか聞き分けようとはしているんだが、そもそも誰がどんな喋り方をしているかを知らないと分かりようがない。

癖とは言わないが、四葉と五月が僕に対して敬語を使ってるくらいは分かっている。でも、それだけだとどっちがどっちかは判断が出来ない。

 

「やっと見た目で判断できるようになってきたのに、さすがに声だけだったら分かんないって。だから五人全員に話しかけるように話してたんだよ」

『で、ですよねぇ。ほら一花ぁ、さすがに声だけだったら無理だよぉ』

『そうですよ。もう少し段階を踏んでからでないと』

『だよね。ごめんね先生』

 

今の会話の流れから一花が僕に聞き分けられているか確認したことになる。何か特徴があれば…

 

『それでも、ちゃんとわかってほしいって思ってしまう…』

『そうよねぇ。少しくらいわかんないの?』

 

無茶苦茶な。

 

『まあ、今後の先生への課題ってことで。よろしくね先生』

「はいはい。頑張りますよ」

 

そこで電話が終わったのでベッドに寝転んだ。

頑張るとは言ったものの、最後のも誰が言ったかは分からんし。敬語じゃなかったから四葉と五月以外ってことは分かるのだが……待てよ。最後、よろしくねって言ったか?しかもテンション高めに。てことは、最後のは一花だったのかも。二乃と三玖はあんな風に言わないだろうし……

 

「だぁー!分からん。とにかく今後彼女達と接していく時に気をつけていけばいいだろ」

 

勢いよく起き上がった僕は飲み物を取りにキッチンに向かった。

 


 

~二年一組~

 

次の日の朝。予想通りと言えばそうなのだが、クラスの生徒達は直接的に聞かないものの、遠巻きに風太郎を見ながらヒソヒソと話していた。

 

(くっ……ある程度は予想していたがここまでとは…これでは自習にも身が入らんぞ。しかし、ことりはいつもとは言わんが、こんな状態で過ごしているのか…)

 

クラスメイトのみならず廊下には他のクラスの生徒も集まってきているようで、風太郎は針のむしろ状態でいた。そんな状態の中、風太郎はことりも同じような経験を常にしているのだと思い、尊敬と同時に同情の念も生まれた。

そんな一組の教室にどよめきが広がったのだが、風太郎はとりあえず無視を貫くことにした。だが──

 

「おはよう風太郎君」

 

風太郎に声をかける人物によってどよめきの原因を風太郎は知ることになった。

 

「こ、ことりか。おはよう…」

「ふふっ、何どもってるの?」

「ど、どもってなんかねえよ。それよりどうした?今お前が来ると注目受けるだろ」

 

風太郎の言っている通り、教室や廊下にいる生徒は全員が風太郎とことりに注目していた。

 

「いや、本当は朝の登校の時に渡そうと思ってたんだけど、風太郎君ってばメールの返事くれないんだもん」

「メール…?」

 

ことりに指摘を受けたので自身の携帯を見てみた。そこには確かにことりからのメールがきていたのだ。

 

「す、すまん。気づかなかった」

「そんなことだろうと思った。はいこれ。昨日約束してたのだよ」

 

そこでことりはランチバッグを風太郎の机の上に置いた。

 

「!悪いな。助かる」

「いいって。昨日も言ったけど、全然苦でもないし。そだっ」

 

そこでことりが片手で口元を隠しながら顔を風太郎に近づけた。

 

もし昼休みに食べる場所がなかったら、数学準備室に行くといいよ。兄さんなら受け入れてくれると思うから

 

それだけを伝えると、ことりはニコッと笑みを浮かべながら風太郎から離れた。

 

「!」

 

そんな笑みを浮かべることりの顔に、風太郎はドキッとさせられて前髪を弄りながら目線をそらしてしまった。

 

「わかった。その時は行ってみる」

「ふふっ…じゃあ戻るね。お弁当感想また聞かせてね」

 

ことりはそれだけを言い残すと一組の教室から出ていった。その瞬間──

 

『うぉぉぉーーーーー!!』

『きゃぁぁぁーーーーー!!』

 

教室や廊下などのあちこちから様々な叫び声が響いた。

男子達からはショックを受けたような声が。女子達からは恥ずかしさにも似た歓声が、それぞれ上がっている。

ことりのファンクラブの者達は、膝から崩れ落ち床に手をつき泣いている者もいるくらいだ。

 

(そこまでかよ…)

 

そんな様子を見た風太郎は心の中でそうツッコミを入れた。

そんな光景が繰り広げている中、五月は自分の席に冷静に座っていた。

 

(私たち何もしなくていいんじゃないかな、お兄ちゃん)

 

和彦からことりのフォローを頼まれていたので、どんな風にしていこうかと考えていた五月であったが、先程のことりの行動を見て自分には何もする必要性がないと感じるのだった。

 


 

コンコン…

 

「はーい」

 

午前中の授業も終わり、数学準備室に戻ってきた僕はお昼ご飯の用意をしていた。まあ、弁当を出すだけなのだが。

そんなところに訪問者が来た。

またことりだろうか。

そんな思いでノックに答えたら意外な人物が入ってきた。

 

「失礼します」

「おー、なんだ上杉じゃないか。どうした?」

「いえ。ことりから食べる場所に困ったらここに行けと言われまして」

 

どこか居心地悪そうな雰囲気の上杉がそう答えた。

 

「食べる場所?食堂とか……て、なるほどね」

 

上杉の手元にはランチバッグがあり、それで大体の事を理解した。

 

「いいよ。そこのソファーとテーブル使いな。お茶も出すよ」

「そこまでしてもらわなくても…!」

「いいから、いいから」

 

遠慮する上杉を制してポットでお茶の準備をする。

 

「どこも興味津々な視線で居たたまれなかったか」

「え…ええ。ある程度は予想してたんですが、ここまでとはって感じです」

 

急須から湯呑みにお茶を注ぎながら、すでに疲れきっている上杉の態度にクスッと笑ってしまった。

 

「はい、お茶。じゃあ、食べようか」

「ありがとうございます」

 

僕が上杉の向かいに座ったところで、お互いに弁当を開く。しかし、そこに広がったのは──

 

「予想はしていたが、同じ中身の弁当を広げるとなんか異様な光景に見えてくるな」

「ははは…ですね。まあ、同じ人物が作ったのであればしょうがないかと。あの、勉強しながら食べててもいいですか?」

「ん?構わないよ」

 

一つのおかずを口に入れながら、上杉の確認に許可を出した。

すると、上杉はポケットから単語帳を取り出して、それを見ながら弁当を食べ始めた。

 

「いつもそんな感じで勉強しながら食べてるの?」

「え、ええ。俺にはこれしかありませんから」

 

器用に片手で単語帳を捲りながら箸を進めていく上杉。

本人的には自分には勉強しかないみたいに言っているがそんなことないと思う。

 

「上杉は自分が勉強するしか取り柄がないみたいに言ってるけど、そんなことないんじゃない?少なくとも、僕が知る限りだと六人の子がそう思ってるよ」

「それって…」

 

コンコン…

 

上杉が何か言おうとした矢先、扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ」

「「「失礼します」」」

 

入室を促すと三人の女子が入ってきた。

 

「あ、風太郎君やっぱりここにいた」

「「こんにちは、先生」」

 

入ってきたことりは上杉の姿を見つけるや否や、ふふふと笑いながらこちら来た。他の二人、森下と佐伯もことりに続いてソファーまで歩いてきた。

 

「ごめん兄さん。私たちもここで食べていいかな?」

「構わないよ。悪い上杉、少し端に移動してもらってもいいかな」

「は、はい」

 

僕の言葉に戸惑いながらも弁当を持って、上杉はソファーのスペースを空けるために移動した。僕も上杉の向かいに座るように移動する。それを見たことりは早速僕の横に座って自分の弁当を広げ始めた。

森下と佐伯は上杉の横に座っている。

 

「ことりぃ…あんた一応上杉君とは付き合ってることになってるんだし、上杉君の隣に座りなよぉ」

「えー、ここにいるメンバーだったら問題ないよ」

 

佐伯のツッコミにことりはさらりと答えた。

 

「もしかしたら上杉は初めてかもしれないね。二人はことりが一年の頃からの友達で、今上杉の横に座ってるのが佐伯で、その奥が森下だよ。この三人でたまに昼休みに来ることもあるんだ」

「よろしくね、上杉君」

「よろしくぅ」

「あ、ああ…て、俺のことは知ってるんだな」

「上杉君って結構有名人だもんね」

「そうそう。今じゃことりの恋人ってことで話題になってるけど、その前からは毎回テストで満点を取ってるって有名だし」

「そ、そうだったのか」

 

佐伯のテストで満点を取っている事で有名だという言葉に、上杉は多少照れたように頬を掻いていた。 

 

「それにしても上杉君って優しいね。普通だったらこんなこと引き受けないよ」

「だねぇ。さらに、そのことを周りに自慢しないところもポイント高いよ」

 

佐伯がサムズアップをしながら上杉に伝えた。

こんな感じで、三人の中では一番ノリが良いのがこの佐伯である。普段は大人しそうにしているが、五つ子で言えば一花に近いのかもしれない。髪は肩まであり、後ろを少し結んでいるのも特徴的だ。

ちなみに森下は、三人の中では一番おとなしい。いつも、ことりと佐伯にツッコミを入れていることがしばしばである。髪はショートカットでボーイッシュなところがあるが、ことり曰く三人の中で一番乙女チックなのだそうだ。

 

「でしょう!風太郎君は優しくて頼りになる男の子なんだから」

 

森下と佐伯の二人の言葉が嬉しかったのか、ニッコリと笑いながらことりが答えた。そんなことりを恥ずかしくて見れないのか、上杉は弁当を食べるのに集中していた。

 

ねえ加奈。やっぱりことりってば本気で上杉くんのこと…

そうね。けど、多分本人自覚してないわね

「ちょっとぉ。二人でコソコソ何話してるのよぉ」

 

森下と佐伯が二人で小さな声で話しているので、ことりがそれに対して文句を言った。

 

「大丈夫!私たちはことりの味方たがら」

「?」

 

佐伯の言葉にことりは首を傾げた。

そんな感じで今日の昼休みは賑やかに過ごすのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、五つ子と和彦のグループ通話と噂が広まった次の日の学校の様子を書かせていただきました。
サブタイトルにもなっている通り、和彦はなんとか電話で五つ子の声を聞き分けようと頑張っていたようですが、結局最後まで分からずでした。今後に期待かもしれません。
学校では、ことりの恋人(演技)として風太郎が周りから色々な眼差しで見られていましたね。そして、ことりの友人二人とも接点を得ることになりました。大変にはなりますが、この二人も出していければなと思っています。

では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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