ことりの恋人騒動で賑わっている学校では、二学期の終業式も終わりを迎えた。そんな冬休みの初日には五つ子の引っ越しが行われていた。
「布団は一つの部屋に纏めるんだっけ?」
「はい!広い部屋の方にお願いします!衣類のダンボールは私で運んじゃいますね」
引っ越しと言ってもダンボールに詰めている荷物などを業者さんに運んでもらい、部屋の中では各々が荷物整理をしている、といった感じだ。僕とことりも手伝いのために来ているのだ。
ま、お隣さんのよしみってところだ。
そして荷物運びは僕と四葉が中心となって行っていて、僕は今布団を運んでいるのだ。
「よっと……ふぅ…」
「ありがとね、先生」
「ははは…さすがに布団五組運ぶのには堪えたかな」
布団を運んだ先で荷物の整理をしていた一花に感謝された。その一花はどうやら制服をクローゼットにしまっているところのようである。
「結局五人一緒に寝ることにしたんだ」
「うん。最初は二手に分かれようかって意見もあったんだけど、ここまで来たら一緒がいいかなって」
「そうか。いいんじゃないかな。仲良きことは美しきかなってね」
「何それっ」
ふふふ、と笑いながら自分の作業を続けている。
「制服はこっちにしまうんだ」
「うん。もう一つの部屋のクローゼットも普段着とかでいっぱいになるだろうしね。こっちにはよく使うのを持ってくる予定だよ。部屋着とかかな。今、三玖と五月ちゃんで仕分けしてくれてるから後で持ってくる予定だよ」
「ふーん…そんじゃ、他のところに行ってるよ。服関係は僕の出番はないだろうし」
「うん。よろしくね」
一花のいた寝室?を出て他の場所に向かうことにした。とは言え、先ほどの布団であらかた運び終わったので僕の出番は終わりかもしれない。
そんな風に考えながら歩いていると二乃とことりがキッチンで整理しているのを見かけた。
「ここは二人でやってたんだ」
「あら。荷物は運び終わったの?」
「まあね。だから、何かやることないか探し中ってとこ」
「そうなんだ。でも、こっちは二人で大丈夫だよ。むしろ兄さんが来たら狭くなっちゃうし」
「だよね。ん?こっちに置いてる炊飯器やオーブンレンジとかはどうするの?」
二人と話していると、キッチンではなくダイニングの方に置かれていた炊飯器とオーブンレンジに目がいった。
「ああ…それねぇ…まさにことりとどうしようか考えてたとこなのよ。やっぱ棚がないと不便よねぇ」
「ふーん。買いに行くなら車出すけど?」
「本当!?じゃあ、お願いしようかしら。他に日用雑貨で必要なものがないかみんなに聞いてくるわね」
置場所に困っていた二乃は、僕の車を出すという言葉にぱぁーっと明るい顔をして、他の姉妹のところに行ってしまった。そして、姉妹達から聞き終わった二乃がコートを羽織ながら玄関まで来た。後ろからは一花も来ている。
「来るのは二人でいいのかな?」
「ええ。全員で行ってもしょうがないし、お金を管理してる一花と、実際の物を見たい私ってわけ」
「なるほど。それじゃあ行こうか」
一花にと二乃を乗せて、少しだけ遠くにある家具雑貨店に向かった。ここだったら、種類も豊富でリーズナブルな物もあるだろう。
二人は早速色々と見ているようで、僕はそんな二人の後をカートを押しながら付いていった。
「これなんかいいんじゃない?」
「そうねぇ…使いやすさを考えるとこっちがいいかもしれないわ」
なんだ、思ったよりしっかりしてるじゃないか。
真剣に吟味をしている二乃の姿に、自分の意見はいらないなと思ってしまった。適当に選んでしまうのではないかと思ったので、その時は止めようと思ったが、そんな考えは無駄だったようだ。
「ねえ、あんたはどれがいいと思う?」
「へ?」
「へ?じゃないわよ。あんたの意見も聞いてんの」
「もう、先生ぼーっとしてたでしょ」
どうやら考えごとをしていたら僕に意見を求めていたようだ。
「悪い悪い。そうだなぁ…じゃあ──」
その後は三人で意見交換をしながら店内を回ることにした。
「うーーん…結構歩き回ったねぇ」
「そうね。もうクタクタよ」
あの後も色々と見て回り、今はベンチに座りながら僕の奢りのソフトクリームを舐めながら休憩をしている。
「まあ、でもいいのが見つかって良かったじゃん」
「それもそうね」
僕の脇には今回購入された品々がカートに乗せられている。これでも多少押さえたようだ。
車には乗るが上に運ぶのが大変だな。四葉あたりを助っ人として下に来てもらうか。
「はぁぁ~…この後帰ったらご飯作らないとなのよねぇ。結構ダルいわぁ~…」
「ああ、そのことなんだけど。今日は僕がお寿司頼んどいたから、夕飯の準備はしなくていいよ」
「「お寿司!?」」
僕の言葉に二人がズイッと近づいてきた。
「さっすが先生っ、気が利くねぇ」
「と言っても、並だからね」
「もう、そこは特上にしてくれてもいいじゃない」
「無茶言わないの」
「ま、頼んでくれただけでも助かるわ。ありがと」
特上じゃないのかと文句を言ってきた二乃であったが、次の瞬間にはニコッと笑顔になっていた。
なんだか雰囲気変わった?
「お寿司が来るんだったら、そろそろ帰りましょうか」
「そだね。あらかた買ったし、足りないものあったらまた買いに来ればいいしね。その時はよろしくね、先生」
「はいはい」
車に向かって歩き始めた二人を追うように、荷物の乗ったカートを押しながら僕も歩き始めた。
「う~~ん、美味しいですぅ」
「ははは…お口に合ったようで何よりだよ」
一花と二乃と一緒に帰ったら、すでにお寿司は届いていたようでお金を預けていたことりが対応してくれたようだ。
こっちの荷物も四葉に手伝ってもらったおかげで、なんとか部屋まで運ぶことも出来た。すぐにご飯でも良かったのだが、棚はさっさと設置した方が良いだろうとのことで僕がすぐに組み立ててキッチンに設置した。炊飯器とオーブンレンジ両方をその棚に設置するとピッタリと収まった。さすが二乃である。
その後はリビングテーブルに二つの寿司桶を並べて皆で食べることになったのだ。リビングテーブルが大きめで助かった。とは言え──
「やっぱり七人だとちょっと狭いね」
「まあ、食べれないこともないしいいでしょ」
ことりの言うように寿司桶も大きいので、テーブルの上はかなりぎゅうぎゅうの状態で置かれている。二乃の言う通り食べれないこともない状態でもあるのだ。
「それにしてもお寿司の出前が来たときはビックリした」
「だねぇ~。私ってば、出前の人が部屋を間違えたのかと思っちゃったよ」
「いやー、このお寿司と言い、二人の手伝いと言い。先生の家の隣に引っ越して良かったかなぁ」
一花が嬉しそうに話した。
まったく調子がいいのだから。
「今日は後は休むだけだから問題ないかもだけど、明日からの生活ちゃんとしないとだからね?」
「わかってるって。そこはちゃんとしていくよ」
僕の言葉に一花が答えるが本当にやっていけるのか不安は尽きない。
「そうだ。明日はクリスマスイブなんだし、うちで夕飯食べようよ。ケーキも兄さんが買ってきてくれるし」
「へぇ~、いいわね。料理なら任せなさい」
「私も手伝う」
「あんたは今回なしよ。料理は私とことりでやるから」
「む~…」
「あはは…三玖の申し出は嬉しいけど、キッチンも狭いしね。今回は二人でやるよ」
賑やかに明日の予定を皆が話している。
「……上杉さんも参加してもらえればいいんですけどね」
「「「「「……」」」」」
そんな時に四葉がポロッとこぼした言葉に、他の五人は沈んだ顔をしている。
「ちなみに上杉は今、どこでバイトしてるんだ?」
「うーん…確かどこかの喫茶店でバイト始めたんだって。年末までたくさんシフト入れてるって言ってたよ」
さすがのことりである。下校時にでも聞けたのだろう。
「一応メールで誘ってはみるけど、多分バイトだって断ってくるんじゃないかな」
「彼ならあり得そうですね」
とは言えダメ元ってこともあるだろうということで、ことりから上杉にメールが送られた。
「それより先生は明日いるんでしょうね?」
「ん?ああ、残念ながら予定がないからね。一日うちにいるよ。ケーキも僕が取りに行くしね」
二乃の問いに僕は両手を挙げながら残念そうに伝えた。
「じゃ…じゃあ、それ私も行く」
「へ?ただケーキ取りに行くだけだけど」
「いいの…!駄目?」
「駄目ってことはないよ。じゃあ行こうか」
「うん…!」
ケーキを取りに行くのに了承すると、三玖は笑顔で応えた。
「はい!私も一緒に行きたいです」
「え?五月も?ま、まあ全然構わないけど」
「ありがとうございます」
別にケーキを食べに行くのではなく取りに行くのだが、何がそこまで彼女を突き動かしているのだろうか。
「あ。明日一日暇してるなら午前中車出してくれない?」
「ん?どこかに行くの?」
「明日の夕飯の買い物よ。ことりも行くでしょ?」
「そうだね。誘っといてなんだけど、さすがに大人数の料理を作る想定はしてなかったから」
「なら決まりね。四葉も来てくれると助かるわ」
「荷物持ちだよね。任せて!」
「勝手に話が進んじゃってるけど了解だよ。じゃあ午前中は二乃達の買い物に車出して。夕方以降にケーキを取りにいくか」
明日の予定も決まり、その後は残りのお寿司を食べながら談笑するのだった。
そして夕飯も終わり、寿司桶や食器なども洗い終わった頃、僕とことりはそろそろお暇することにした。
「…と、そうだった」
そこであることを思い出して、ショルダーバッグの中からあるものを取り出した。
「君たち五人に渡しておくものがあったんだった。はい」
五人に手を出してもらい、それぞれの手に乗せていく。
「これって…鍵?」
「ああ。この部屋の鍵だよ。五人分必要でしょ?」
一花の言う通り、五人に渡したのはこの部屋の鍵である。
「そういえば、まだ貰ってなかったわね」
「ん?鍵にキーホルダーが付いてる」
「本当だ。みんな違うのかな」
「色は違うようですが」
三玖がキーホルダーの事を話したら、五人がそれぞれの物を見せ合った。
「一応、同じ花があしらってるデザインの色違いを用意しておいた。特に意味はないんだけど、ちょうどそれが五色あったからいいかなって。ま、早めのクリスマスプレゼントってことで」
「へぇ~、この花って薔薇だよね。私は黄色だ」
「私は紫ね」
「私は青…」
「私は緑だよ」
「私は赤ですね。どれも綺麗ですね」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
「ねえ?どうして別々の色にしたの?」
五人が見せ合いをしている中、ことりが僕に近づいてきて質問をしてきた。
「うーん…まあ、同じものを五個用意しても良かったんだけど、あの子達って一人一人違うところが多くあるでしょ?だから、花は同じでも違う色にすることで個性があるんだって伝えたかったのかもしれないな」
「ふーん…なーんか最近やたらと仲いいよね、みんなと」
「そう?まあ、これまでの出来事を考えれば、このくらいの仲になるのは当然なんじゃない?」
「そうなんだけど……私から離れていっちゃうんじゃないかって思っちゃうの」
僕の服の腕あたりを引っ張りながら、ことりは顔を下に向けている。そんなことりの頭を撫でてあげるのだった。
「さーて、何作ろうかしらねぇ」
「そうだね。人も多いし大皿に盛りつけられるものがいいかもね」
次の日の午前中。二乃とことり、それに四葉を連れて大きめなスーパーに来ていた。
二乃とことりが献立を考えながら先導していて、その後ろからカートを押しながら僕と四葉が続いている。
まあ、僕が財布で四葉が荷物持ちと思えば適した配置である。
「四葉達は去年までクリスマスってどう過ごしてたの?」
「そうですねぇ。去年は南の国に弾丸冬忘れツアーに行ってました」
「さすがだな。芸能人みたいじゃん」
「あはは…ちなみに、一昨年は北の国に行って超ホワイトクリスマスなんかもしましたね」
「南に北にと、良くもまあ行ってるもんだ」
それじゃあ、何事もなければ今年もどこかの国に行っていたってことか。いや、上杉がもしいたら勉強漬けか。
「でも、過ごす場所なんてどこでもいいんです」
「え?」
まっすぐと前を向きながら四葉が答えた。
「姉妹みんなと過ごせればどこでもいいんですよ。大切なのは五人でいることなんですから。ししし」
「そうか」
ニカッと笑いながらこちらを見る四葉に釣られてこちらも笑みを浮かべてしまった。
「こーら、カートが一緒に来てくれないと乗せられないでしょ」
「悪い」
四葉と話していたら、どうやら立ち止まっていたようで急いで前の二人に追いついた。
「何二人で話してたのよ」
「ただの世間話だよ。それより献立は決まった?」
ちょっと不機嫌そうに二乃から問われたが、流しておいた。
「うーん…ポテトサラダにビーフシチュー、後はパンを並べようかなって思ってるんだけど…」
「これでも結構な量になるでしょ?そこにケーキもあるわけだし…だから、もう一つの定番のローストチキンをどうしようかって話してたとこなの」
「なるほど」
確かに二乃が言ったメニューだけでもお腹いっぱいになりそうだ。
「ローストチキン。やっぱり定番だよね」
「四葉の言う通り定番の品でもあるんだから、付け合わせ程度で作ればいいんじゃない?それでも雰囲気味わえるだろうしさ」
「それもそうね。あんたが言うならそうしましょうか」
僕が意見を言うと案外すんなりと通った。
その後二乃は、ことりと二人で食材を見ながら、どう作っていくかを話しているようだ。
「なあ四葉」
「はい?どうかしました?」
二人に遅れないように、今度は歩きながら四葉に声をかけた。
「最近の二乃って、なんか素直じゃない?」
「え?そうですか?いつもと変わらないと思いますけど」
「そう?」
うーーん。僕の気のせいだろうか。まあ、べつに悪いことではないから気にしないでおくか。
結局、骨付き鶏もも肉を四つ買うことで収まったようだ。
四つは多いんじゃないか確認すると、『一人大食いがいるから問題ないわ』と返ってきた。
その時、ある人物が脳裏に過ったのは許してほしい。
今回の投稿も呼んでいただきありがとうございます。
今回は、五つ子のお引っ越しを書かせていただきました。部屋は寝室と衣服などを置いている衣装部屋とで分けてみました。
今回、買い物のために和彦が車を出していますが、せっかく運転が出来る主人公ですので、これからも運転シーンなんかも出していければなと思っております。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。