少女と花嫁   作:吉月和玖

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55.クリスマス・イブ

食材の買い出しが終えた後、昼食も終えるや否やことりと二乃はうちのキッチンで夕飯の準備に早くも取りかかっていた。時間をかけて作るものもあるそうだ。

そして、日も沈んだ時間帯になり、三玖と五月を連れていつものケーキの喫茶店のREVIVALに向かっていた。

いつの間にか雪がしんしんと降っており、少し積もっているところもある。

 

「うわぁ、すっかりクリスマス一色ですね。どこも装飾でキラキラしてます」

「だねぇ。どこかの店が流してるクリスマスソングもたまに聞こえてくるよ」

 

日が沈んで夜になっていることでイルミネーションも映えている。隣の五月もいつもと違いテンションが上がっているようだ。

 

「……腕を組んでる人たちや手を繋いでる人たちが多い」

「まあ、今日はクリスマスイブだしね。恋人達にとっては特別な日なんでしょ」

「そういうものなんだ」「そういうものなのですね」

 

うーん、女子高生とは思えない答えがしかも二人から返ってくるとは。二人には、まだ好きな人とかはいないのだろうか。

 

「ま、まあ二人にもその内分かるようになるさ」

「先生は…」

「ん?」

「先生にはそういう人いたの?」

「え…」

「三玖!?」

 

まさか三玖からそういった質問が来るとは思わなかったので驚いてしまった。五月も驚いたのだろう、声をあげて三玖の名前を呼んでいた。

 

「ま…まあ、彼女がいたかって話だったら、何人か付き合った子はいたよ。どの子も長続きしなかったけどね」

「え!?そうなのですか?先生でしたら、お相手の方と円満に過ごしていそうです」

「ははは…まあ色々あったんだよ」

 

あまり面白い話でもないのでその場では濁しておいた。

僕が長続きしない理由としてはことりの存在が大きかった。両親共に働きに出ていたので、ことりの世話は僕がしていた。僕が高校の頃なんて、ことりはまだ十歳にもなっていなかったから、一人にするのも気が引けていた。それに加えて、あの性格が小さくなったものなので、どこかに行こうとすると付いていくと聞かなかったのだ。そうなってくると、彼女の事を蔑ろにしてしまうのだ。

高校生にそういった事情を分かってほしいと言うのもまた難しいものであった。なので、向こうから離れていってしまうのだ。

そういった事もあって、付き合っては別れてを繰り返していると、付き合うという行為そのものが煩わしくなってきたのだ。

僕が話したくない雰囲気を出していたからか、二人がそれ以上追及してくることはなかった。

とは言え、あまり良い雰囲気とは言えないな。何か話題でも出さないと。

 

「私は…」

「ん?」

 

楽しい話題を考えていると、三玖が何か言葉にした。

 

「前にも言ったけど、私は先生のこともっと知りたい。好きなこと、嫌いなこと。私の知らないこと、何でもいい」

 

そして、両手で僕の右手を包み込んだ。

 

「でも、今じゃなくてもいい。話したくなったら教えてほしい」

「三玖…」

「……ふっ。分かったよ。また機会があれば教えるよ」

 

ポンポンと頭を撫でてあげると、納得したのかニッコリと笑顔でコクンと三玖は頷いた。

その後しばらく歩いてREVIVALに近づくと見知った人物が客引きをしていた。

 

「メリークリスマス。ケーキはいかがですかー」

「あ、フータローだ」

「ですね」

「僕達客なんだし、偶然会ったってことで話しかけていいんじゃない?」

 

客引きをしていたのは上杉でクリスマスらしくサンタのコスチュームをしている。もちろん営業スマイルも忘れていない。

 

「すみません」

「はい!………て、先生じゃないっすか!?え、それに三玖に五月も!」

「精が出るね」

「お疲れ、フータロー…」

「しっかりと仕事をしているようですね」

 

僕が声をかけると、最高の営業スマイルで振り返った上杉だったが、相手が僕と三玖と五月に驚いたようだった。特に、三玖と五月がいることには驚いているようである。

 

「なんで三人がここに!?」

「今日はことりが五つ子をうちに招待しててね。で、僕達はケーキを買いに来たって訳。一ホールいいかな」

 

状況の説明をしつつ、人差し指を一本立ててケーキの注文をした。それを聞いた上杉は僕達三人を店の中に案内した。

ケーキが出来るまでしばらくかかるとのことなので、客席で待たせてもらうことになった。ただ待つのもなんなので、それぞれ飲み物を注文した。

 

「それにしても、まさかここで上杉君に会うとは思いもしませんでした」

「たしか、ことりが喫茶店でバイトしてるって言ってたけどここだったんだ」

「まあ、そういう巡り合わせもあるもんだよ」

 

五月と三玖の言葉に紅茶を飲みながら答えると、店長さんが近づいてきた。

 

「やあ、今日は来てくれると思っていたよ」

「こんばんは店長さん。今日はクリスマスだけあって繁盛してるみたいですね」

「おかげさまでね。いやー、君も後少し遅かったらケーキが売り切れてたところだったよ」

「それは良かったです」

 

いつにも増して店長さんの機嫌が良いようなので本当に繁盛しているのだろう。

 

「そういえば、今日は彼女も来ていたよ。少し前だったか…友人二人とね」

 

彼女?もしかして立川先生の事だろうか。

 

「もしかしたら、君たちは今日一緒に過ごすのだとばかり思っていたよ」

「あはは…だから前から言っているじゃないですか。彼女とはそういう仲じゃないって」

 

気のせいだろうか、向かいに座っている二人から冷たい視線を感じるような気がする…

 

「そうは言うが、最近では二人で来店することも増えてきたではないか。一度否定した日から仲が進展したのではないかと考えてしまうものだよ」

 

一人納得したように、店長さんはうんうんと頷いている。そう言われても進展が無いのだからどうしようもない。

 

「店長。ちょっと見ていただきたいものがありまして」

 

ちょうどそこに、お店の人だろう、店長さんを呼びに来た。

 

「わかった、すぐ行こう。では、またのご来店お待ちしております」

 

一礼した店長さんは呼びに来た人に付いて行ってしまった。

しかしそうか。立川先生もやっぱりここでケーキを買ってたんだな。

そんな考えをしながら紅茶を飲もうとカップを手に取ろうとすると、物凄い視線を感じた。

 

「──っ!」

 

その視線はもちろん三玖と五月で、むすっとした顔でこちらを見ている。

 

「えっと…どうしたのかな?」

「誰?」

「は?」

「最近よくこのお店に一緒に来られる女性のことです」

「あ…ああ、その事。立川先生だよ。このお店を紹介してくれたのも立川先生だしね」

「ふーん…」「へー…」

 

あれ~?二人とも不機嫌なままなんだが…何故?

 

「お待たせしました」

 

二人の相手をどうしようか悩んでいるところに上杉がケーキの入った箱を持って席まで来た。

 

「?どうかしたんですか?なんか二人の様子が変な気が…」

「ありがとね。いやー、僕にもさっぱりで…そういえば、上杉のバイトは何時まで?」

 

三玖と五月には触れないように話題を変えてみた。

 

「え?後少しであがりますけど」

「なら、この後うちに来るといいよ」

「「「え…!」」」

 

突拍子もない僕の提案に、上杉だけではなく先程まで不機嫌そうにしていた三玖と五月も驚いている。

 

「しかし……」

「別にうちに来ているメンバーは上杉の知らない仲じゃないだろ?」

「ですが、俺はもう……」

「家庭教師として来るんじゃない。ことりの友人として来るでいいじゃないか。ことりからもお誘いのメールが来てただろ?」

「………わかりました。夕飯ご馳走になります」

「うん。じゃあ、しばらく待ってるから、バイト終わったら声をかけてくれ」

「はい!」

 

根負けした上杉がようやく首を縦に振ったところでバイトに戻っていった。

僕はそれに満足したように紅茶を飲み始めた。

 

「先生…ありがとうございます」

「まあ、乗りかかった船だ。進路は導いてあげたから、後は君たち五人で説得するんだね」

「わかった」

 

僕の言葉に三玖が答えると、二人同時に頷いた。

上杉を誘ったことで遅くなる事をことりに連絡してからしばらくすると、バイトあがりの上杉が声をかけてきたので、四人で我が家に向かうことにした。

 

「しかし、クリスマスパーティーするならお前らの家の方が広くないか?まあ、先生の家の広さは知らんが、あそこまでの広さはそうそうないだろ」

「そこは追々わかると思います」

「?」

 

パーティー会場が我が家であることに疑問を投げかけるが五月は深くは説明をしなかった。現状の説明をするにはやはり五人が揃っていた方が良いだろう。

 

「フータローは、ことりの恋人うまくやれてる?」

「まあ、俺がやることと言えば、噂を否定しないことと帰りにことりと一緒に帰る事ぐらいだからな。後は今までと変わらん。あ、昼休みは先生のとこで飯を食うようにはなったな」

「?なぜ、先生のところで?」

「周りがうるさくて食うとこがないんだよ」

「「なるほど」」

 

そんな風に話しているとうちに到着した。玄関を開けると美味しそうな匂いが出迎えてくれた。

 

「この匂い…たまりません!」

 

その匂いにいち早く五月が反応を示した。

 

「ただいまぁ」

「おかえり兄さん、それに二人も。あと、風太郎君いらっしゃい!」

「お…おう」

 

ただいまと挨拶しながらリビングの方に向かうと、キッチンからことりが顔を出して出迎えてくれた。

 

「もう配膳まで終わってるから席に着いてて」

「分かった」

 

うちのリビングテーブルはそこまで広くないので、リビングとダイニング二つに分ける必要があった。

ダイニングテーブルには、僕とことり、三玖と五月が座り、リビングテーブルに、一花と二乃と四葉、それに上杉が座った。

 

「ではでは、皆さまグラスをお持ちして──」

 

それぞれが席に着いたことを確認したところで、一花が立ち上がり音頭を取り始めた。

 

「私の合図でお願いします。せーの──」

「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」

 

チンッ…チンッ…

 

乾杯するグラスの音があちこちから響き渡っていた。乾杯した後は、各自でグラスの中を飲んでいる

全員に配られているのはノンアルコールのシャンパン。僕だけはアルコール入りなので間違えて他の子に飲ませないようにしないといけない。

 

「それじゃあ料理も頂こうか」

「はい!……うーん、このビーフシチュー美味しいですぅ~」

「ふふっ、ありがと。それは二乃と一緒に作った自信作だからね。おかわりもあるからどんどん食べてね五月」

「はい!」

 

隣の五月のビーフシチューのお皿の中身は既に半分はなくなっているようである。

 

「お。このポテトサラダはことりが作ったやつ?」

「さすが兄さん。いつも作ってるからわかってくれると思ってたよ」

 

大皿にあるポテトサラダを小皿に取り分けて食べてみたところ、いつもと変わらない味があったのでどこかホッとした。

 

「相変わらず美味しいよ」

「ありがと」

「……ことり。今度ポテトサラダの作り方教えて」

「うん、いいよ」

 

三玖はポテトサラダの味が気に入ったのかことりに作り方を聞いているようだ。向上心があって良いことだ。

後は、ローストチキンなのだが、各テーブルに二つずつ大皿に載せている。こちらのテーブルでは、一つは切り分けて、もう一つは五月が一人で完食してしまった。

本当にどこにその食べたものは入っているのか不思議である。

ローストチキンもこんがり焼かれていて、中はジューシーでとても美味しかった。ビーフシチューやパンにポテトサラダがあったので、付け合わせ程度で本当に良かったのかもしれない。そんな中、五月と上杉はビーフシチューをおかわりしていたのが凄かった。

 

「そうだ。風太郎君、余った料理タッパーに入れようか?らいはちゃんにも食べてもらいたいし」

「本当か!?それは助かる」

「うー…らいはちゃんのためなら仕方ないですね…」

 

五月は持って帰ろうと思っていたのか、少し残念そうな顔をしていた。

タッパーへ入れる作業をことりがしている中、それぞれが空いた食器を片付けている。

 

「それじゃあ、ケーキを切り分けましょうか」

 

そんな二乃の言葉に歓声が上がり、リビングテーブルに持ってきたケーキの周りに姉妹達が集まっている。

 

「テーブルの上も片づけたし、七人でリビングテーブルを使うといい。僕はダイニングテーブルで食べてるから」

「いいの?」

「ああ。それに皆で話すことがあるだろ?」

 

僕が一人で食べることに心配になったのだろう。二乃がそれでいいのかと聞いてきたので問題ないと答えた。そして、これからのことを話す絶好の機会でもあるので、その事を伝えると五つ子はコクンと頷いてきた。

二乃によって切り分けられた一つのケーキを持ってリビングテーブルの席に座る。

さて、後は静かに見守りますか。

そんな風に考えながらケーキを一口食べた。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話は、前回の続きとなるクリスマスイブのお話です。ケーキを買いに行った先での風太郎との合流を書かせていただきました。
和彦がいたので、強引に夕飯に誘う形を取らせていただいております。

次回の投稿は4月2日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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