~吉浦家・リビング~
和彦が自分のケーキを持ってダイニングに向かった後、リビングでもそれぞれの前にケーキの載せられたお皿が置かれた。
席順としては、風太郎を軸に左から一花、三玖、ことり、二乃、五月、四葉といった感じだ。
「それじゃ、私たちも食べよっか」
一花の合図とともに七人はケーキを食べ始めた。
「うーん、美味しい!」
「ここのケーキって、いつも先生が差し入れしてくれてるお店よね」
「そうだと思う。店長さんと先生は仲良く話してたから」
「差し入れのケーキ、どれも美味しかったもんね」
「今度は注文するために行きたいですね」
「実際、私もまだ行ったことないし、今度行ってみようかな」
女性陣が楽しそうに話しながら食べている中、風太郎は一人黙々と食べていた。
「ほらほら、フータロー君もお話に参加しようよ」
「い…いや、俺は…」
「別に楽しんでいいんだよ。風太郎君は私たちの友達でもあるんだから。あ、私の恋人役でもあったね」
ふふふ、と笑いながらことりが話すと周りも笑い始めた。
「ホント、最初聞いたときは驚きしかなかったわ」
「たしかに…」
「私は、実際にことりさんが上杉君を連れて出ていったところを見ていたので、噂の方を少し信じてしまいました」
「私だって噂を信じちゃったわよ。あの上杉に彼女ができたんだって。軽くショックもあったわね。私には恋人いないのに上杉にってね」
「あはは…う、上杉さんはちゃんと恋人役できてるんですか?」
また別の話題で盛り上がっている女性陣に対して、風太郎も話の参加をさせようと四葉が風太郎に話を振った。
「ん?さっきここに来る途中でも三玖と五月に話したが、別に何かをしている訳でもないしな。校内でことりと話す訳でもないし、一緒にいるのは帰りくらいだ」
「あー、それは知ってる。クラスの男の子達もフータロー君とことりが一緒に帰ってるのを見るたびに嘆いてるもん」
(そんなにか!?)
(さすがことりファンクラブ)
一花の言葉に風太郎は驚き、和彦はファンクラブのメンバーに関心した。
「それにしても、よくそれだけであんたたちの噂は途切れないわよね。多少は疑念を持つものじゃないの?」
「うん。それはまあ毎日聞かれたかな」
「連日、ことりの周りは人でいっぱい」
「あはは…三玖には迷惑かけてるね。風太郎君とは校内で一緒にいると周りが騒いで迷惑になるし、勉強の邪魔をしたくないって言えば納得してくれるよ」
「マジで付き合ってるみたいよね。真相を知ってるけど、どっちが本当かわかんなくなってくるわ」
風太郎とことりが校内で一緒にいるところが少ないことから、周りに噂の疑念を持たれるのではないかという二乃の考えに、ことりがしっかりとフォローをしていることを伝えた。その言葉に二乃は、結局付き合ってるのかそうでないのかが分からなくなってきたようだ。
「そういえば、上杉さんはお昼どうしてるんですか?それだけ騒いでると学食でも大変なんじゃ…」
「ああ。マジで視線が凄いからな。先生に頼んで数学準備室で食べさせてもらってたよ」
「へ~、それじゃあ売店で買って?でもそうなってくると、フータロー君のお財布的に厳しいんじゃない?」
学食で買った定食などの料理は学食内で食べなければいけないので、一花は売店でお昼を買って数学準備室に向かっていると思ったようだ。
「いや、ことりから弁当を作ってもらってるからな。そこは大変助かっている」
風太郎の答えに、五月以外がことりに注目した。五月は、すでに教室でことりが渡しているところを見ていたので知っていたのだ。
「あんた、そんなことまでしてたわけ?」
「まあ、兄さんと自分の分を元々作ってたし、迷惑をかけてるし、でね」
「もう付き合っていると言っても過言じゃない」
「そうかなぁ?」
三玖の言葉にことりは疑問の声をあげた。
「三玖の言う通りです。私は、教室でお弁当を渡す光景を見ていましたが、端から見たらお付き合いしているとしか見えませんでした」
「まあ、結果オーライだね」
「相変わらずお前は軽いな…」
周りの人達に自分達が付き合っていると意識出来たことには結果オーライと語るこてりに、風太郎は頭を抱えた。
「それで?幸せ絶頂の上杉は私たちのことは見捨てるのね」
「ぐっ…べ、別に幸せ絶頂って訳じゃねぇよ」
「そこじゃないでしょ?」
「……」
二乃の二度の追及に風太郎は言葉が出なかった。他の姉妹も風太郎の言葉に注目をしているようだ。
「お…俺は…二度のチャンスで結果を残せなかったんだ」
下を向くことなく、前を向き風太郎は語り始めた。
「次の試験だってうまくいくとは限らない。だったら、こんな経験不足の俺なんかよりも、もっと経験豊富なプロにことりが補佐する形が最善だ。これ以上、俺の身勝手に巻き込めない」
「そうね…あんたはずっと身勝手だったわ。そのせいで、したくもない勉強させられて、必死に暗記して公式覚えて、でも問題解けたら嬉しくなっちゃって。ここまでこれたのは全部あんたのせい」
そこで二乃は膝立ちとなり、テーブルに右手を置いて前のめりとなり左手人差し指で風太郎を指差した。
「最後まで身勝手でいなさいよ!謙虚なあんたなんて気持ち悪いわ!」
「……」
二乃の言葉をまっすぐに受け止めた後、風太郎は下を向いてしまった。
「悪い、でももう戻れないんだ。俺は辞めた。こうしてお前らと話せているのは、先生の家だからだ。だが、お前らの家に入るのは禁止されてる」
「それが理由?」
「ああ…だからもういいだろ…」
家庭教師を続けない理由は五つ子の家へ入ることが禁止されているからなのか一花が確認すると、風太郎は力なく答えた。
それを聞いた五つ子はお互いを見合って笑っている。
そんな五つ子に風太郎は疑問を持ってしまった。
「?どうかしたのか?」
「なら、問題ないね」
一花の言葉にあわせて五つ子はそれぞれが鍵を手に持った。和彦からプレゼントされたキーホルダーを着けた鍵を。
「それは?」
「借りたの。この部屋の隣の部屋を」
「え?どういう意味だ?」
「私だってそれなりに稼いでるんだから。と言っても、先生の知り合いの人のおかげで格安で借りれてるんだけどね。あぁ、事後報告だけどお父さんにももう言ったから。私たちはこれからここで暮らす。これで障害は無くなったね」
ニッコリに一花が伝えると、他の姉妹達も笑顔で風太郎を見ている。そんな一花の発言に風太郎はただ驚くしかなかった。
「嘘だろ…たったそれだけのために…あの家を手放したのか…?」
そこでばっと風太郎は立ち上がった。
「馬鹿か!今すぐ前の家に戻れ。こんなの間違ってる。と言うか、ことり!お前がいながら何してるんだ」
「言ったでしょ。私だって風太郎君が辞めたことはショックだったって。だからみんなの気持ちを汲んだの」
真剣な顔でことりは風太郎の言葉に答えた。
「だからって……!先生はこのこと了承したんですか!?」
「あーー…まあ、隣の部屋を紹介したの僕だしね。うちまで来て相談に来た時の五人の真剣な顔を見れば反対出来なかったよ」
和彦は申し訳なさそうに顔をかきながら答えた。
「言いましたよね。大切なのはどこにいるかではなく、五人でいることなんです」
右手を胸に誇らしげに四葉は語った。
(こいつら、ここまでの覚悟で俺を…それに比べて俺は…)
立ったまま下を向いてしまった風太郎は、五つ子の覚悟の想いに手に力がこもり、いつの間にかギュッと両手を握っていた。
「たった二回で諦めないで。今度こそ私たちはできる。フータローとならできるよ。成功は失敗の先にある、でしょ?」
ニッコリと三玖は風太郎に伝えた。その言葉を聞いて、風太郎は顔を上げ五つ子達を見た。その顔はどれも不安そうな気配がなかった。
「……たく。なんだか…お前らに配慮するのも馬鹿らしくなってきた。俺もやりたいようにやらせてもらう。俺の身勝手に付き合えよ、最後までな」
いつもの調子で笑みを浮かべながら風太郎は答えると、五つ子とことりの六人はお互いに見合って笑うのだった。
上杉の家庭教師復活宣言の後は、もう遅い事もあり今日は解散となった。
「え?本当ですか?」
「ああ、上杉は今日うちに泊まっていくといい。親御さんには僕から伝えるから。どうせ冬休み中なんだし、明日の準備とか無いだろ?」
「ま、まあ。泊めていただくのは助かりますが」
五つ子と上杉が帰る準備をしているところに、僕から上杉にうちに泊まっていくように提案した。五つ子達は隣なので問題ないが、上杉は夜道を帰らなければならない。それに雪もまだ降っているようだし、暗い雪道を歩くのも危険だろう。
「うん。兄さんの提案通りにしなよ。タッパーに入れた料理は冷蔵庫で冷ましとくから、全然明日でも食べれるよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ことりの誘いもあり、上杉はうちに泊まることを了承した。そんな僕達のやり取りをじっと見ていた人物がいた。
「どうした、一花?」
「え…?う…ううん、なんでもないよ。先生、フータロー君のことよろしくね」
そんな言葉を残して玄関で待つ他の姉妹と合流した後、隣の家に帰っていった。
「さて、洗い物しちゃいますか」
「俺も手伝おう」
両手を腰に当てて、頑張りますか、と意気込んでいることりに上杉が手伝いを申し出た。
「本当に!?ありがと。兄さんは明日もあるんだから、先にお風呂入っちゃいなよ」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて先に入らせてもらうよ」
ことり達と違い明日から仕事で学校に行かなければいけない僕は、ことりの勧めもあり先にお風呂に入らせてもらうことにした。
~風太郎・ことりside~
カチャカチャ…
和彦がお風呂に入っている頃、風太郎とことりは二人で洗い物をしていた。ことりが食器を洗い、それを風太郎が拭いていく、といった形だ。
「本当にありがとね。助かっちゃった」
「別にこれくらいどうってことねぇよ。今日泊めてくれるお礼みたいなもんだ」
ぶっきらぼうに話す風太郎に対して、ふふふとことりは笑っている。
「何笑ってんだよ」
「ううん。なんでもないよ」
そんな答えを返すも、ことりは機嫌が良さそうに洗い物を続けた。
「何がそんなに楽しいんだよ」
「えー、ただ何となくこの時間がいいなって思っただけだよ」
「はぁ?」
風太郎の質問にことりが答えるも、そのことりの答えに風太郎はますます分からなくなった。
「それより風太郎君。家庭教師続けてくれてありがとね。改めて、私からもお礼を伝えるよ」
「……ここまでされたんだ。これからもあいつらと付き合っていくさ」
「ふふっ、愛されてますなぁ風太郎君は」
「そういうんじゃないだろ」
「でも、これで次回の試験にも集中できるね。きっと五人揃えばどんな困難も乗り越えていけるよ。そこに風太郎君が手を貸してくれる。なら、越えられない壁はないね」
洗い物の手を止めて興奮するように話すことりだが、そんなことりに冷静に風太郎が返した。
「お前もいるだろ」
「え?」
「お前は俺の相棒だからな。頼りにしている」
そう伝えた風太郎はタオルを持っていない手をことりの方に伸ばした。
「ほら、次の皿」
「あ、ああ。うん」
自分の事を話されるとは思わなかったので、驚いたことりは少しの間思考が停止したが、風太郎の次の皿を促す言葉に思考が戻り洗い物を再開した。
そんなことりの心には嬉しさと、本人には分からない何かが渦巻いていた。
「私だって君のこと必要だって思ってる。頼りにしてるよ」
そして、とびっきりの笑顔でことりはそう返すのだった。
~風太郎side~
お風呂に入り、和彦から借りた服を着た風太郎は、リビングに用意された布団の中に入り、電気の消えた天井をじっと眺めていた。
「今日は色々ありすぎてどっと疲れたぜ」
バイト先で和彦と三玖と五月に出会い、その後は和彦に家への招待。そして、五つ子の決意の表れを示す言葉。確かに、風太郎にとっては色々とありすぎて疲れるのも無理はないのかもしれない。
そんな風太郎は、ふとあることに気づき枕元に畳んでおいたズボンのポケットに手を突っ込みあるものを取り出した。そして仰向けになって、腕を伸ばしてそれを眺めていた。
それは筒上のもので『京都 清水寺』と書かれているお守りである。
これは、期末試験前に風太郎が一人、二乃や四葉の事で奮闘していた時に出会った人物から渡されたものである。
「……」
渡された人物というのが、五年前に風太郎が京都で出会った女の子だと思われ、その子は『
しかし、急に目の前に現れたその子は暫く風太郎と話すともう会えないと言って、このお守りを託し去っていったのだ。
『自分を認められるようになったらそれを開けて』
「ったく…言いたいことだけ言っていきやがって……」
(確かに、あの子がいたからこそ必要ない人間だと思っていた俺に、他の人から必要とされる人間になれるのではないかと思えてきた。だからこそ、この思い出を大切にしてきた。だが……)
そこで風太郎の脳裏に六人の顔が過った。
『フータロー君』
『上杉』
『フータロー』
『上杉さん』
『上杉君』
『風太郎君』
そこでお守りを持っていた腕を下に降ろした。
(俺にはもうあいつらがいる。だから……)
「さよならだ、零奈」
風太郎はどこか吹っ切れたように笑顔で、天井に向かって口にするのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回のお話で風太郎が家庭教師復活です!
原作では、五つ子と風太郎が川に飛び込んだりとありましたが、今回はケーキを食べながら雑談からの運びとさせていただきました。
ちなみに、原作通り風太郎に零奈が託したお守りは、まだ風太郎が持っていることになっています。
しかし、自分には必要としてくれる人達が出来たことで、過去の思い出に囚われない決心をしたのかもしれません。
では、次回の投稿は4月7日を予定日しております。
次回投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。