少女と花嫁   作:吉月和玖

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57.動向

次の日の朝。今日は上杉を含めた三人で朝食を食べている。と言っても、僕はすでに食べ終えてるので、お茶を飲んでゆっくりしているだけなのだが。

 

「さてと。じゃあ、いってきますか」

「俺たちと違って、教師は冬休みじゃないから学校に行かなければならないのすっかり忘れてましたよ」

「だろうね。はぁー…学生に戻りたい…」

 

上杉の発言に愚痴をぼやいてしまった。ことりが長期休暇に入る度にこんな風にぼやいてしまうのだ。

 

「ほらほら、ぼやいてないで行かないと。遅刻しちゃうよ」

 

そう言いながらことりに背中を押されてしまった。

 

「はいはい。あ、今日の夕飯は外で食べてくるから、ことりも五つ子達と食べるといいよ」

「え…そうなんだ」

「ああ。じゃあ、上杉もゆっくりしていっていいから。いってきます」

「「いってらっしゃい」」

 

二人の声を背に玄関を出て学校に向かった。

 


 

~風太郎・ことりside~

 

「むーーー…」

 

和彦が学校に向かった後、上杉は途中だった朝食を食べ始めたのだが、向かいに座っていることりが両肘をテーブルにつき、両手に顔を乗せてずっと唸っていた。

 

(触らぬ神に祟りなしだな)

 

「ずずっ…」

 

こういう時のことりに話しかけるとろくなことがないと悟った風太郎は、味噌汁を飲みながら今のことりには関わらないと決意した。が──

 

「お兄ちゃん、今日の夕飯外で食べてくるって」

「……み、みたいだな」

 

無視することもまた面倒になるので、風太郎はことりの言葉に答えるしかなかった。

 

「ま、まあ。先生にも付き合いってものがあるんだろ」

「風太郎君は今日が何日か知ってるの?」

「は?25日だろ。それくらいわかるわ」

 

おかずの玉子焼きを口に運びながら、風太郎は阿保かと言わんばかりに答えた。

 

「じゃあ、今日は何の日の?」

「は?そりゃあ……クリスマスだな」

 

先ほどの玉子焼きを口に運んでいたので、箸を口に咥えたまま風太郎は今日がクリスマスであると伝えた。

 

「そう!クリスマスなんだよ!」

 

すると、ことりが風太郎に向かって勢いよく顔を持っていったため、風太郎は少し引いてしまった。

 

「わかったから少し引いてくれ。いちいち顔が近いんだよ」

「もう。これくらいで恥ずかしがってちゃ、もしもの時大変だよ」

 

(勘弁してくれ)

 

文句を言いつつことりが離れてくれたので、風太郎はほっと一息を入れた。そして、朝食を再開した。

 

「で?今日がクリスマスだからなんだってんだよ」

「クリスマスだよ!?メインは確かに昨日の夜かもしれないけど、クリスマスの夕飯を外で食べてくるって、絶対何かあるでしょ!」

 

信じられない、と言わんばかりにことりは風太郎に訴えかけた。当の風太郎にはあまり響いていないようで、心の中では『そうか?』と思っているほどである。

そんな風太郎を見たことりは、反応がいまいちなのを察した。

 

「はぁーー…もうちょっとこっち方面の勉強もしようね風太郎君」

「ぐっ…」

 

的を得ていることりの言葉に風太郎は何も言い返せなかった。

 

「なら尚更俺に話してもどうにもならないだろ。他に相談相手になりそうな奴だっているだろ。五つ子だったり、数学準備室で一緒になった二人だったり」

 

ふてくされたように朝食を食べ続けながら、風太郎は提案した。確かにもっともな話である。

 

「だってぇ…素の私を見せれるのって、今のところお兄ちゃんと風太郎君だけなんだもん。話くらい聞いてくれたっていいじゃん」

 

今も頬杖をついていることりはぶーぶーと風太郎に文句を言っている。それを気にせず風太郎は朝食を食べ続けた。

そんな風太郎の姿を見ていたことりはふふっと笑ってしまった。

 

「?どうした?」

「ううん。いつもお兄ちゃんと食べてるけど、風太郎君と二人でってなんか新鮮で。なんかこうしてると、夫婦ってこんな感じなのかなって思っちゃった」

「ゲホッ…ゲホッ…」

 

ことりの急な発言に風太郎はむせてしまった。

そんな風太郎の姿をなおもことりは微笑みながら見ていた。

 

「……んんっ…おかわりくれ」

「はーい!」

 

咳払いをした風太郎は恥ずかしそうにご飯茶碗をことりの方に差し出しておかわりを要求した。そんな風太郎の申し出に、ことりは笑顔でお茶碗を受け取りおかわりに向かうのだった。

 

・・・・・

 

~五つ子・ことりside~

 

結局、あの後は和彦の話をすることはなく、普通に雑談をしながら、風太郎とことりは朝食を食べた。

朝食を食べ終わった風太郎は、今日も昼過ぎからバイトだと言うことで、昨日の夕飯をタッパーに詰めたものを手に帰っていった。

その後、ことりはお皿の洗い物や洗濯を終わらせると、五つ子と昼食を食べるために隣の部屋に来ていた。

 

「ごめんね二乃。一人分増えることになって」

「別に気にしないわよ。五人が六人になったところでたいして変わらないわ。三玖、お皿出してちょうだい」

「わかった」

 

現在、キッチンでは二乃が中心となって昼食を作っている。三玖はそのサポートをしているようだ。

一言声をキッチンに声をかけたことりは他の姉妹が座っているリビングに向かって座った。

 

「それにしても、先生はまだ学校があるのですよね。なんだか違和感があります」

「だよね!私たちはお休みしてるのになんだか不思議な感じだよ」

「あはは…今朝風太郎君も同じこと言ってたよ。この時期になると、兄さんってば毎回学生に戻りたいって言いだすんだよ。困った兄さん」

「ふふふ。先生でもそのように言われることもあるんですね。そんな先生の姿も見てみたいです」

 

自分達が冬休みに入っているので学校に行かなくていいところを、和彦は教師のために冬休みになっていないので出勤したことに四葉と五月は違和感を感じたり、不思議に思っていた。

 

「そういえば一花は?仕事?」

「ああ、一花でしたら…」

「おふぁよ~……」

 

リビングに一花の姿が見えなかったのでことりが尋ね、それに五月が答えようとしたところに、眠そうに目をこすりながら一花が寝室から出てきた。

 

「おはよ。ったくもう昼よ。どんだけ寝ればいいのよ」

 

昼食を作り終わった二乃がお皿を持ってテーブルに並べながら一花に答えた。

 

「いやぁ~…あれ?ことり来てたんだ」

「うん。おはよう一花。家だと一人だし一緒にお昼食べようかなって」

「あれ?先生いないの?」

「先生は仕事です。私たちと違い冬休みではありませんから」

「あー……そういえばそうだっけ」

 

ようやく頭が冴えてきたところでテーブル傍に一花は座った。そこに二乃と三玖によって持ってきた料理のお皿が全て揃ったので昼食を食べ始めた。

 

「フータロー君はもう帰っちゃったの?」

「うん。今日もお昼過ぎからバイトだって言ってたよ」

「上杉さんそんなにバイト入れてるんだね」

「元々がそうだったんじゃない?私たちの家庭教師の給料相当いいみたいだから、家庭教師やってた時はこっちに集中してたんでしょ」

 

昨日は吉浦家に風太郎が泊まっていたのでどうしたのか気になった一花は、ことりに風太郎の所在を確認した。

するとことりが、バイトがあるから帰ったと答えたので、四葉はそんなにバイトを入れているのかと驚いた。

そんな四葉の反応に二乃が今までだってそうだったのだろう、と冷静に答えた。

 

「年内は店が開いてる限りは極力シフトに入れてるんだってさ」

「私たちの家庭教師を続けるといっても、今まで通り給料が出る訳でもありませんからね」

「じゃあ、フータローの家庭教師は年明けから?」

 

バイトをそんなに入れているのであれば自分達の家庭教師も出来ないのではないかと思った三玖はそんな疑問を口にした。

 

「みたいだね。私の場合は今日からでも全然いいんだけどね。そうだ!冬休みの課題終わらせて風太郎君をビックリさせようか」

「おお!いい考えですね!きっと上杉さんは驚くと思いますよ」

 

ことりの冬休みの課題を早めに終わらせるという提案には、五つ子全員が賛成のようである。そんな訳で、昼食が終わったら早速課題に取りかかることになった。

 

「あ、そうだ。今日は夕飯もこっちで食べていいかな?」

「別に構わないけど…何?先生は残業かなにかで遅くなるわけ?」

 

昼食も食べ終わり、後片付けを行っている時に、ことりから夕飯も一緒にしていいか提案があった。それについては問題ないと二乃が答えたが、和彦は帰りが遅いのかも確認した。

 

「うん。なんか夕飯を外で食べてくるからって、朝出掛ける前に言われたんだよねぇ」

「外で……ということは、どなたかとご一緒ということでしょうか」

「多分ね。私が家にいる時に一人で外で食べるってこと今までになかったしね」

 

風太郎の前とは違い、ことりは気にしていない風を装って話している。内心では、先程風太郎と話していたように誰と夕飯を食べるのかめちゃくちゃ気にしているので、よく我慢をしている方である。

 

「ほほぉ~。それはそれは。誰とご一緒なのか気になりますなぁ~」

「え?お友達とか同僚の先生とかじゃないの?」

 

一花が、和彦の夕飯の相手が気になると言うと、四葉が疑問を口にした。

 

「そりゃあ、そうかもしれないけどさぁ。今日ってクリスマスだよ。さすがにその線はないんじゃない。て言うか、先生ってここ地元じゃない訳だけど、友達っているの?」

「ううん。兄さんの友達は地元だったりだから。同僚の先生はみんな年が離れてるから、この辺の友達っていう人はいないんじゃないかな。飲みに誘われたらよく付き合ってはいるけどね」

 

ことりと住むようになっても、和彦は同僚の先生達と飲みに行ったりはしている。最近は試験や林間学校が立て続けにあったので飲みに行ってはいないが、恐らく忘年会がそろそろあるだろうし、それに参加するだろう。去年もそうだったからな、とことりは考えていた。

 

「てことは──」

「……立川先生…」

 

一花が考える素振りを見せていると、三玖がポツリとある人物の名前をこぼした。

 

「やっぱそうなるよね」

 

ことりもある程度は予想していたが、改めて言われるとそうだろうと納得を得なかった。

 

「ふーん…あの女もなかなかやるじゃない」

「ちょっ…ちょっと待ってください。あたかも先生が立川先生と一緒に夕飯に行くようにお話しされてますが、つまり…その…お二人はそういう……」

「ううん。五月が思ってるような関係じゃないと思うよ」

 

恐る恐るといった形で五月が確認に入るが、それをことりがすぐに否定した。

 

「もし二人が付き合ってるなら、それこそ今日じゃなくて昨日の夜に一緒にいるよ。それがないってことは、今回の夕飯は同僚として行くって気持ちなんだと思う。兄さんはね」

 

ことりの確信じみた言葉に三玖はほっと胸を撫で下ろしていた。

 

「とは言え、立川先生の方は──」

「狙ってこの日を選んだんでしょうね。もしかしたら告白まで持っていくかもしれないわね」

「「「──っ!」」」

 

一花が話そうと間をおいたのだが、二乃が芹菜が告白までするかもしれないと話した瞬間、三人がビクッと体を反応させた。

 

「私が焚き付けたこともあるけど、ここまで行動に出るとはねぇ」

「え?二乃、立川先生を焚き付けたの?」

「そういえば、あの時ことりはいなかったね」

 

二乃の言葉に疑問に思ったことりであったが、そんなことりに対して一花が思い出したように口にした。

 

「あれってたしか林間学校の一日目だったよね。旅館の温泉にみんなで入って」

「ですね。あの時はテンション高く、二乃が恋ばなと言って立川先生に迫っていましたね」

 

顎に人差し指を付けて思い出すように話す四葉に五月が同意した。

 

「あ、あれは…やっぱり旅館での温泉だったし、テンションも上がるもんでしょ。てか、止めに入らなかったあんたたちも同罪なんだからね!」

「私は一応止めには入ったんだけどねぇ」

「うぐっ…」

 

止めに入らなかった他の皆も悪いと二乃が言うが、一花が止めに入ったと主張すると、二乃はぐうの音も出なかった。

 

「でも、焚き付けたってことは、やっぱり立川先生って兄さんのことを……」

「そうだね。ごめんことり、私たちから聞いたって言わないで」

 

芹菜が和彦を好きだというのは、ことりも薄々気づいていた。何しろ和彦に想いを寄せているであろう人物はすぐにチェックをしているからだ。それもあって、数学準備室には足繁く通っていたのだ。

ただ、当の芹菜はというとほぼ数学準備室には来ていない。まあ、職員室では隣同士でもあるから話す機会は少なくないのと、ただ単に仕事で忙しいのもあったのだろう。和彦と芹菜は去年に初めてクラスを持ったので、それどころではなかったのだ。

とは言え、和彦のことを長年見てきたことりにかかれば、芹菜が和彦に想いを寄せていることに気づくのに大して難しくなかったのだ。

もちろん三玖の気持ちにだって気づいている。

 

「あはは、大丈夫だよ。私は薄々気づいてたし」

 

一花が顔の前で手を合わせるようにお願いしてきたが、ことりは笑って言わないと答えた。

 

「ま、なんにせよ。結局のところ先生が誰といるかなんてわかんないでしょ。それこそ、四葉が言ってたように他の先生との食事なのかもだしね」

 

二乃の言葉に四葉はうんうんと自信満々に頷いた。

 

「……そうですね…私たちは今すべきことをしましょう」

 

和彦の話はここまでということで、冬休みの課題に取り組むために全員が教科書とノートの準備を始めたのだった。ただ、何人かの心の中にはモヤモヤしたものが残っていたままだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、クリスマスの夜にご飯を食べてくるという和彦の発言から、五つ子とことりの和彦の動向を話すお話を書かせていただきました。
一応、風太郎にもことりから話を振ったのですが、まだまだ風太郎には早かった模様です。

次回の投稿は4月12日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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