『兄さん聞こえる?』
「ああ。ちゃんと聞こえてるよ」
あのメールの後ことりから連絡があり、中野家裁判に参加するよう言われた。
今はことりの携帯をスピーカーにして参加している。
『それでは揃ったところで裁判を始めます』
声だけだと誰が誰だか分からんのだが…
『裁判長発言の許可を』
『検察の五月ちゃん発言を』
今の会話の流れから今から発言するのは五月か?んで、五月をちゃん付けで呼ぶのはたしか一花さんだっけか?じゃあ、裁判長は一花さんか。まあ長女だし妥当か?
『裁判長、ご覧ください。被告は家庭教師という立場にありながら、ピチピチの女子高生を目の前に欲望を爆発させてしまった...この写真は上杉被告で間違いありませんね』
『え...冤罪だ...』
恐らく僕に送られてきた画像と同じものを上杉に差し出しているのだろう。
『ふむふむ。それは特別弁護の先生にも?』
『はい。兄さんにも送ってますよ』
『ちょっ、ことり!なんてものを送ってんのよ!』
『ご、ごめん。つい驚きの衝動から...』
「大丈夫だよ。送られてきた画像は削除してるから」
まあ、じっくりと状況の観察をした後なんだけどね。
『まあいいわ。裁判長』
『はい、原告の二乃くん』
『この男は一度マンションから出たと見せかけて、私のお風呂上りを待っていました。悪質極まりない犯行に我々は、こいつの今後の出入り禁止を要求します』
なるほど。上杉が帰ったから二乃はお風呂に入ったのか。しかし出入り禁止とはまた。
『お、おい。それはいくらなんでも!』
『たいへんけしからんですなぁ』
『一花!俺は財布を忘れて...』
『......』
『さ...裁判長...』
裁判長と言い換えたってことは無視されたのか。一花さんは徹底してるなぁ。
『異議あり』
お、上杉を助ける子がいるんだ。えっと、一花さんは裁判長で、二乃さんは原告。五月は検察で証拠の写真を掲示して、四葉さんは参加していない。それに声からことりではないから、これは三玖か。
『フータローは悪人顔してるけどこれは無罪』
悪人顔は一言余計だと思うのは僕だけだろうか。
『私がインターホンで通した。録音もある。これは不運な事故』
『三玖~~』
まさかの助けが入るとは思わなかったのか、上杉は嬉しそうな声を出している。まあそりゃそうか。
とはいえなるほど。それで二乃のお風呂上りに上杉は家の中にいたのか。これで大分一本の線になってきたな。
『あんた、まだそいつの味方でいる気...?こいつはハッキリ「撮りに来た」って言ったの!盗撮よ!』
『忘れ物を「取りに来た」でしょ』
なるほど『取る』と『撮る』ね。同じ読みでも大分違う意味になってくるな。
『裁判長~三玖は被告への個人的感情で庇ってま~す』
『な、何言ってんの...それは違うって言ったはず...先生も聞いてるのに...』
なんかえらく三玖焦ってるなぁ。後半何か言ってたっぽいけど聞こえなかったな。
『三玖...信じてくれると信じてたぜ』
『それ以上近づかないで』
上杉が声をかけたみたいだが拒否している。どういう状況だ?
『え~~?その態度は警戒してるってことかな~~?』
『してない。二乃の気のせい』
『言っとくけど、私は裸を見られたんだから』
『見られて減るようなものじゃない』
『はー?あんたはそうでも私は違うの!』
『同じような身体でしょ』
なんか言い合いが始まったんだが...上杉の事で裁判をしてたんじゃないのか?
『い、今は私たちが争ってる場合じゃ...』
『五月は黙ってて』
『てか、あんたもその写真消しなさいよ』
『え~~......』
姉妹の争いを止めようと入った五月に対して二乃さんと三玖がその五月に対して威嚇しているようだ。今の僕の心境をことりが代弁してくれている。
『裁判長~~』
『よーしよし。頑張ったねー。うーん、三玖の言う通りだとしてもこんな体勢になるかなー?』
『一花、やっぱあんたは話がわかるわ。こいつは突然、私に覆いかぶさってきたのよ』
『上杉君...それ本当?』
『そ...そうだが、それは...』
『有罪。切腹』
『三玖さん!?』
『うーん...それは庇いきれないよ』
これは...あまり良くない流れだね。発言するとすれば今か?
「いち...裁判長。発言しても?」
『おや。特別弁護の吉浦先生。発言を許可します』
「ありがとうございます。では、裁判長。今手元には例の写真はありますか?」
『うん、あるよ。丁度五月ちゃんと見てたところ』
「では、その写真をよーく見てください。周りに物が散らかっていないでしょうか?」
『そう言われれば...二乃と上杉君の周りに本がたくさん......もしかして...』
五月も気づいてくれたようだね。
「裁判長。確かにその写真からは上杉が二乃さんを覆いかぶさっているように見受けられます。しかし、違う角度から見てみると、近くの棚から本が落ちてきたのを二乃さんから上杉が守った、とも見えるのではないでしょうか」
『そ、そうだ!先生の言う通りなんだ!』
僕の発言に助かったと言わんばかりの上杉の声が聞こえてきた。
『確かに』
『さすが兄さん。着眼点が凄いです』
『やっぱり、フータロー君にそんな度胸ないよね!』
ふー...何とか流れを変えられたかな。
そんな風に考えていると、二乃さんの慌てたような声が聞こえてきた。
『ちょ、ちょっと!何解決した感じ出してんの!?先生の当てずっぽうでしょ』
「まぁ、確かにあくまでも予想の話ではあるんだけどね...」
『二乃しつこい』
『...!!あんたねぇ...』
三玖の言葉にまた一触即発の雰囲気が携帯の向こうから漂ってきた。
『まぁ、そうカッカしないで。私たち、昔は仲良し五姉妹だったじゃない』
三玖と二乃さんの争いが起きそうなところを一花さんがどうやら止めたようだ。
『とは言え、俺の注意不足が招いた事故だ...悪かったな』
『昔はって...私は...』
タタタ...ガチャッ...バタン...!
なんだなんだ?何が起きてるんだ。
「おい、ことり?」
『えっと......二乃が外に出て行っちゃったの』
「は!?」
『ほっとけばいいよ...』
『先生。今日は私たちに付き合ってくれてありがとね』
『すみません。こんな事に巻き込んでしまいまして...』
「あ、ああ。それは構わないんだが...」
『兄さん、ありがとね。それじゃあ、私はこれから帰るから』
「気を付けて帰るんだよ」
『はーーい』
そこで携帯は切れた。とりあえず上杉の冤罪は免れたようだ。しかし......
二乃さんが出て行った直後のあの発言。
『昔はって...私は...』
どうも引っかかる。
上杉に対する拒否反応は五月以上だ。しかし、五月の場合は食堂でのやり取りが原因であのような態度になってしまったと本人も認めている。では二乃さんは?
ただ上杉の事が嫌いだけであそこまでなるのだろうか。そもそも、なぜ上杉の事を嫌っている?学校での接点はほぼないはずだ。なんせ上杉は、今まで他の生徒との接点を持とうとしなかったのだ。
では、上杉を家から遠ざけるのはなぜだ?
「......て。ここで考えてても埒が明かないか......夕飯でも作るかな」
そして、中野家裁判に巻き込まれたことで手を止めていた夕飯の支度を再開することにした。
~風太郎・ことりside~
中野家裁判を無事?に終えた風太郎とことりは一緒に中野家を出てエレベーターで下に降りていた。
「はぁ...やっと帰って自分の勉強ができるぜ」
「あはは、お疲れ様」
「吉浦もサンキューな。今回免れたのはお前のおかげでもある」
「私は兄さんに連絡しただけで、他は何もしてないよ。むしろ上杉君を疑ってもしてたんだし。ごめんね」
「あんな光景を見たんだ。仕方ないさ」
プルルル...
そんな時、風太郎の携帯に着信が入る。内容を見た風太郎は笑みを浮かべた。
「何々?彼女さんとか?」
「ち、ちげぇよ!妹だ、妹!」
「へぇ~、上杉君って妹さんがいたんだ。いくつ?」
「小学六年生だ。しっかりした自慢の妹だよ」
「そっか...ふふふ」
「な、何がそんなにおかしいんだ」
「だって、上杉君の今の顔......とってもいい笑顔だったから。普段からそんな風に笑えばいいのに」
「ぐっ...そんなことが出来たら苦労しねぇよ...」
ことりの言葉に風太郎は恥ずかしそうに前髪を弄りながら目を反らした。
「ふふふ、恥ずかしがってる上杉君も可愛いね」
「からかうなよ」
「ごめんごめん……でも、二乃大丈夫かな…」
「……俺たちはあくまでも家庭教師だ。人の家のことに過度な干渉もよくないだろう」
「そうなんだけどね…」
風太郎の言葉に、ことりはあまり納得は出来ていないようである。かくいう風太郎自身も多少なりとも気にはしているようではある。
そんな二人がマンションのオートロックの自動扉をくぐると、隅で丸くなっているジャージ姿の女の子がいた。
「二乃!」
「あ」
ことりの言葉に二人を見た二乃は一目散にオートロックの自動扉まで急いだ。しかし……無情にも二乃の目の前で扉は閉まってしまった。
中に入れなかった事でガクッと肩を落とす二乃。そのまま同じ場所に座ってしまった。
「に、二乃。上の誰かに連絡して開けてもらおうよ」
「やめて……その手は使いたくないの」
「でも……」
ことりが自分の携帯を出しながら提案するも二乃は拒否した。
「やめておけ。それよりも早く帰らないと先生が心配するぞ」
「そうなんだけど…」
風太郎の言葉にも、ほっとけない気持ちがありことりはその場から動こうとしなかった。
「はぁ…」
そんなことりを見た風太郎はため息を付き、二乃から少し離れた所に座ってしまった。
「!?な…何してんのよ?」
「どうしても解けない問題があってな。解いてから帰らないとスッキリしないんだ」
そう言いながら、風太郎はポケットから単語帳を出してめくり始めた。
「ふふっ、じゃあ私もーっと。て言っても勉強道具持ってないんだよね。上杉君何かない?」
「ほら」
「ありがと」
笑みを浮かべながら風太郎の傍にことりは座った。
「勉強勉強ってバカみたい」
「あはは…」
「勉強が馬鹿とは矛盾してるな。いや、馬鹿だから勉強をしているとも言えるか」
「うるさい。みんなバカばっかりで嫌いよ」
「二乃…」
「姉妹のこともか?それは嘘だろ」
「…!!嘘じゃない!あんたみたいな得体の知れない男を招き入れるなんてどうかしてるわ…私たちの」
「五人の家にあいつの入る余地なんてない」
二乃の言葉に被せるように代弁するように風太郎が口にする。
「!」
「そう、お前は言ったよな。俺が嫌いってだけじゃ説明付かないんだよ」
「もういい黙って」
「姉妹のことが嫌い?むしろ逆じゃないのか?五人の姉妹が大好きなんじゃないのか。だから異分子の俺が気に入らないんだ」
「何それ…見当違いも甚だしいわ。人のこと分かった気になっちゃって。そんなのありえないわ。キモ…………何よ、悪い?」
「いや、わかるぞその気持ち。俺にも妹がいてな…」
「そうよ!私悪くないよね」
「え?」
「バカみたい。なんで私が落ち込まなきゃいけないの?」
「……」
「やっぱ決めた」
意を決したようにその場に立ち上がる二乃。その口元は笑みが出ているようでもある。
「私はあんたを認めない。たとえそれであの子たちに嫌われようとも」
「うっ…」
「ありゃりゃ」
そう宣言した二乃を見上げながら、風太郎は後悔したような顔をするのだった。
そんな時、オートロックの自動扉が開かれて三玖が出てきた。
「二乃。いつまでそこにいるの、早くおいで」
「!」
「あ、フータローにことりもいたんだ。ちょうど良かった明日なんだけど…」
「三玖!帰るわよ」
「でもまだ話が…」
「いいから!」
何かを話しそうにしている三玖を無視して家に帰ろうとしている二乃。そんな彼女は自動扉をくぐった辺りで振り返り、風太郎に向けてべーと舌を出すのだった。
そこに残された風太郎とことり。
「はぁ…また厳しくなりそうだな…これだから過度な干渉は嫌なんだ」
「まあ、こればっかりはね…でも、二乃が元気になったのは上杉君の功績でもあるんだよ。そこは自信持って」
「はぁぁ…それで家庭教師としてやりにくくなるなら世話ないがな」
「まあそこは私も協力するから。ね?」
風太郎の前に出て、後ろ手に上半身を横に倒しながらも上目遣いで伝えることり。
「わ、分かった。これからもよろしく頼む」
そんなことりの行動に照れながらも答える風太郎。
さすがは校内にファンクラブを作るだけのことはあることりだ。あの風太郎ですら照れてしまうほどの破壊力を天然で出してしまっている。
当のことり本人はまったく気には止めていないのがまた別の問題ではあるのだが。
「ふふっ、よし!じゃあこれからは運命共同体ってことで、私のことはことりって呼んでいいよ。その代わり、君のことは風太郎君って呼ぶから」
「あ、ああ」
「じゃあ、改めてよろしくね風太郎君!」
「こっちこそよろしくな、ことり」
そこで風太郎とことりはお互いに手を握りあうのだった。
風太郎の裁判に吉浦兄妹が参加する形で書かせていただきました。
ここまで絡んでくる教師はいないかもしれませんが、そこはご愛嬌ということにしていただければと。
今後もちょっとずつ絡んでいくと思います。
それでは、また次回も読んでいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。