少女と花嫁   作:吉月和玖

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第七章 始動
62.新年


カランカラン……パンパン…

 

正月。というよりも、一月一日の0時。

僕はことりとその友達で来ることになった二年参りに同行したいた。まあ、所謂(いわゆる)運転手兼保護者と言ったところだ。

参拝も終わり後は帰るだけなのだが、ことりが甘酒を配っているのに気づき、友達とそこに行ってしまった。

僕はどうも甘酒は苦手なので遠慮して、代わりに自販機で売っていた温かいお茶を買って少しは(あたた)まることにした。

 

「しっかし、やっぱ寒いねぇ。そんな中みんな参拝に来て偉いもんだ」

 

自分もその参拝に来ている者であるが、お茶を飲みながらそんな言葉をこぼしてしまった。

そんな時スマホに着信が入ったのに気づきポケットから取り出した。

相手は……五月?

 

「明けましておめでとう、五月」

『明けましておめでとう、お兄ちゃん』

 

新年の挨拶をすると、五月からも明るい声で返ってきた。

 

「どうした?こんな時間に」

『うん。一刻も早くお兄ちゃんに直接声で新年の挨拶したかったから』

「その気持ちは嬉しいけど僕が寝てたらどうするつもりだったんだい?」

『そ、その時は朝とかにかけなおすよ』

 

僕の質問に焦ったような言葉で返ってきた。

そこまでは考えてなかったのか。

ちょっと抜けているところに思わず笑ってしまった。

 

『もう!笑うなんてひどいよ』

「ごめんごめん。五月もしっかりしてそうで、でもやっぱり抜けてるところがあってで、つい面白くって」

『むーー……でもやっぱり安心するなぁ。お兄ちゃんの声が聞けて』

「まだ丸二日も経ってないでしょ」

『そうなんだけど……遠くにいるんだって思うとやっぱり寂しくって…』

 

そこで五月から寂しそうな声が聞こえてきた。

 

「明日には帰るから安心しな」

『…うん』

 

電話では安心させるために頭を撫でてあげられないのが残念に思う。何か明るい話でも出してあげれば…

 

「そうだ。明日駅で買う予定なんだけど、福岡のお土産、五月はどういうのがいいの?」

『え?お土産?うーん…食べられるのならなんでもいいよ。あ、お兄ちゃんのオススメがいいな』

「僕の?うーん……」

 

お土産ってやっぱりお菓子系だよなぁ。距離があるから生物とかは控えた方がいいよな。と言ってもご当地のお菓子ってあまり食べないし…

 

「あ…一口サイズのおもちがあるんだけど」

『おもち?』

「うん。最近は食べてなかったけど、子供の頃はよく親にせがんでたんだよねぇ。一口サイズのおもちにきな粉をたっぷりとまぶしてね。そのままでも美味しいけど、一緒に包装されてる黒蜜をかけるとまた美味しいんだよね」

『う~~…美味しそう~~…』

 

ははは…電話の向こうではよだれが出てそうな反応だ。

 

「まあ、他にも選んで買って帰るから楽しみにしてな」

『うん!でも、福岡のお土産と言えば明太子かと思ったよ』

「確かに福岡は明太子で有名だけど、持って帰るにしても距離があるからね。食べたいんだったら配送してもらうけど」

『本当に?じゃあお言葉に甘えちゃおっかな。お兄ちゃんはやっぱり地元だからよく食べたりしてたの?』

「いや。僕は明太子は苦手でね。以前食べられないものがないのか聞かれた時は出てこなかったけどね」

『そうなんだ』

「ちなみにうちの家族は皆食べれないから食卓に並ばなかったのは助かったかなぁ。明太クリームパスタも一度挑戦してみたけど、駄目だったよ」

 

その時の味が蘇ってきたので、お茶を飲むことで誤魔化した。

 

『へぇ~…ふふふ、またお兄ちゃんのことが知れて嬉しいな』

「また大袈裟な...」

 

本当に三玖といい、僕のことを知って何が嬉しいのやら。

そんな時、甘酒を配っていた場所からこちらに向かってくることりと友達の姿が見えた。

 

「...と、そろそろ移動しなきゃだから切るね」

『あれ?家にいるんじゃないの?』

「いや。ことりとその友達に付いて二年参りに来てるから、今は神社にいるんだよ。これから帰るところ」

『へぇ〜二年参りかぁ。いいなぁ。そういうことならわかったよ。じゃあ、おやすみなさいお兄ちゃん』

「ああ。おやすみ五月」

 

そこで電話が切れた。それとほぼ同じくことり達が合流してきた。

 

「おまたせ、お兄ちゃん。そろそろ帰ろうか」

「ああ」

 

ちなみに今日一緒にいることりの友達は、ことりがお兄ちゃん呼びをしていることを知っているし、僕への接し方も知っているので、所謂(いわゆる)気の知れた仲である。まあ、小学校からの友達であればそれくらいにもなるだろう。

 

「じゃあ、二人を家まで送ろう」

「和彦さん、いつもありがとうございます。和彦さんのおかげでこうやって二年参りにも来れているので本当に助かってます」

「本当ねぇ。うちの親も和彦さんのことすごい信頼してるわ」

 

まあ、この子達が子供だった頃からよく面倒を見ていたからな。

今日一緒に来ていることりの友達は、一人は立花飛鳥(たちばなあすか)。長い髪を大きめのリボンで束ねいて、それを片方の肩から前に持ってきている。小学校の低学年の頃からのことりの友達で、よくうちにも遊びに来ていた。ことりが僕のところまで来ることがなければ、高校も同じところに通うことになっていただろう。成績も確かことりと変わらないくらいよかったと思う。今も地元では有名な進学校に通っているくらいだ。性格はおっとりしているが芯は強いので物事ははっきりと伝えるタイプである。もう一人は、立花結愛(たちばなゆめ)。飛鳥の妹で、今年は高校受験を控えている。とても礼儀正しい子で、ことりと飛鳥に付いて回っていた。そのせいもあってか、結愛ちゃんとも接する機会が多かった。姉妹ともに成績が良いので姉と同じ高校に通うのではないだろうか。髪はセミロングのストレートで、ワンポイントで花柄の絵が付いているカチューシャをしている。これは以前、僕が買ってあげた物なのだが大切に使ってくれているようだ。

ちなみに、家族間でも交流があるので、僕がまだ大学生だった頃までは一緒に夕飯を食べに行ったりもしていた。それもあってか、こうやって夜に出歩くことを僕がいることですぐに許可を出しているのだ。

駐車場に到着したので、三人を車に乗せて出発した。

 

「あ、あの。和彦さんとことりさんは今年はどれくらいいられるんですか?」

「あー...今年は四日から仕事だからね。二日には向こうに戻らないといけないんだよ」

「そ...そうですか...」

「明日はお互いに家族で過ごすでしょうしね。明後日は見送りに行くわね、ことり」

「ありがとう飛鳥」

「も、もちろん私も行きます!」

「うん。ありがとね結愛ちゃん」

 

明後日の出発に対して見送りに行くと言う立花姉妹それぞれにお礼をことりは伝えた。

 

「そういえば結愛ちゃんは高校受験だけど、お姉さんと同じとこに行くの?」

「そ…それは…その……ひ…秘密です…」

「え?」

「ふふふ…まあいいじゃないですか和彦さん。結愛にも秘密の一つや二つあるものですよ。それにしても今の聞き方、やはり本職だけはあって先生みたいですね。それか、近所のおじさんとか?」

 

ぐっ…!先生ならまだ良いが、近所のおじさんは堪えるな。

 

「す、すまん。聞き方や聞く内容は気をつけるよ」

「そ、そんな!こ、今回のことがたまたま秘密にしたいものであって、和彦さんとはもっとお話ししたいって思います。全然おじさんじゃないです!お姉ちゃん言い過ぎだよ」

 

結愛ちゃんが必死にフォローしながら飛鳥に文句を言っているが、その飛鳥はふふふと笑っているだけである。

 

「でも、私も教えてくれなかったんだよねぇ。難関校に受けるとか?」

「んと…ちょっと今は言えなくって…もう少ししたら伝えるから。ごめんね、ことりさん」

「ううん。結愛ちゃんが決めた進路なんだもん。私は応援するよ。ね?お兄ちゃん」

「ああ。困ったことがあったら言ってくるといい。力になるから」

 

申し訳なさそうに話す結愛ちゃんに僕とことりは明るい声で答えた。飛鳥も結愛ちゃんも妹みたいなものだからな。何かあれば力になってやりたいものだ。

 

「ふふふ。言質取りましたからね、和彦さん」

「へ?」

「結愛が困った時はなんでも力になってくれるのでしょう?」

「ま、まあ、僕の出来ることなら言ってもらっていいけど…」

 

なんだろう…飛鳥の言葉が少し怖いんだが…

 

「それだけで構いませんよ。良かったわね、結愛」

「う…うん!これで相談できそう」

「なんのこと?」

「こちらの話よ」

 

僕と同じように気になったのだろう。ことりが確認するも、飛鳥は話を誤魔化した。

まあ、この子達の事だから悪いことは考えてないだろう。そんな風に考えながら運転するのだった。

 


 

~五つ子・ことりside~

 

「明けましておめでとう」

『おめでとぉ〜』

『おめでと」

「おめでとう...』

『おめでとうございまーす!』

『おめでとうございます』

 

一月一日の夕方。ことりは年始の挨拶のために五つ子に電話をしていた。五つ子側は代表して三玖が電話を取り、スマホをテーブルに置いてスピーカーで話している状況である。

 

「ごめんね、こんな時間になっちゃって」

『いいよいいよ。私たちは今日一日暇してたし』

『ことりは忙しかったの?』

 

新年の挨拶のための連絡が夕方になってしまったことを謝ることりであったが、一花が気にしないように伝えた。すると、三玖が今日のことりは忙しかったのか聞いてきた。

 

『まあね。家族で参拝して、後はおじいちゃん達に会ったりもしたから。明日にはそっちに戻ることになってるから、お正月の用事を今日一日に凝縮したって感じかな」

『ひえ〜〜、それはお忙しかったんですね』

『よくやるわね。さぞかし先生も疲れたんじゃない?』

「うん。帰りの車で寝てたよ」

 

二乃の言葉にことりも少し笑いながら答えた。

 

『では、先生は今も休んでらっしゃるのですか?』

「ううん。兄さんは今度は自分の友達の集まりに行っちゃったよ。多分、帰りも夜遅くになるんじゃないかな。みんなに挨拶できなくてごめんって言ってたよ」

『まあ、メッセージでのやり取りはしてるんだし、今は自分の用事を優先してもらっても問題ないわ』

 

現在和彦は、小学校からの友人数人と集まって飲んでいる。友人の一人が居酒屋の経営をしているので、そこを貸し切って集まっているそうだ。なので、今ここには和彦の姿はない。

二乃が言ったように、朝にはメッセージで新年の挨拶のやり取りはしているので、挨拶をしていないという訳ではない。ことりが電話をしているのは、新年の挨拶を声にしてしたかったからである。

 

「そうだ。風太郎君には新年の挨拶した?私は一応メールでやり取りしたけど」

『上杉君でしたら、今日神社でたまたま会いましたので、らいはちゃん共々家にご招待をしましたよ』

「え...風太郎君と会ったんだ」

『はい!新年早々にらいはちゃんにも会えたので嬉しかったです!』

『ホント、なんでいつもあいつと会うのかしらね』

『それで例のあれも渡そうと思ったんだ』

 

三玖が言う例のあれというのは、無償で家庭教師を引き受けてくれている風太郎に対して何かお礼が出来ないかと考えていたものである。色々と考えた結果お年玉的に少ないながらもお金を渡そうと五つ子達は考えていた。

 

『まあ結局うやむやになっちゃったんだけどね。本人からも出世払いでいいって言われたし』

『出世払い...しかも一円たりともまけないって言ったのがフータローらしかった』

 

その時のことを思い出したのか三玖がくすくすと笑いながら話した。

 

「へぇ~、新年から面白そう」

『ことりさんはどなたかとお会いしなかったんですか?』

 

楽しい時間を過ごしたんだと羨ましそうにしていることりに対して、四葉が質問を投げかけた。

 

「もちろん私も友達に会ってたよ。一番仲がいい友達とは二年参りにも行ってきたしね」

『へぇ~、いいわね二年参り。私たちもすればよかったわね』

『深夜に学生だけでなんて不良です!ことりさん達は先生がいらっしゃったからいいかもしれませんが』

「あれ?よく兄さんが一緒だったなんてわかったね。確かに一緒にいたけど」

『そ、それは…その…先生ならことりさん達学生だけを向かわせるなんてしないと思っただけで…』

 

和彦に電話をして、あらかじめ和彦も二年参りに同行していたことを知っていた五月ではあったが、電話したこと自体を秘密にしていたので、慌てて弁明した。

 

『相変わらずあんたたちは仲いいわね。友達とかは先生が一緒でも何も言わなかった訳?』

「うん。一緒に行った友達も兄さんとの付き合い長いしね。車も出してもらえて、親からも信頼されてる兄さんがいるから行っていいって言われてで、逆に助かってるって言ってるよ」

『ふーん、結構親しいみたいだね。ことりの友達ってもちろん女の子なんだよね?』

「うん。あんまり仲良くなった男の子っていないんだよねぇ」

 

ことりの友達が和彦と親しげなことに一花が気になったので、一応女子なのかどうかことりに確認した。すると、少し笑いながら自分には仲が良い男子はいないとことりは答えた。

 

『だ、だよねぇ。いやー、先生も女の子に囲まれて嬉しいでしょうなぁ』

『急にどうしたのよ』

 

いきなりテンション上げて話し始めた一花に二乃は(いぶか)しげに疑問を投げかけるも、一花からは『なんでもないよ』と返ってくるだけだった。

 

『その…二年参りには友達がお一人だったのですか?一番仲が良いと言っていたので』

「ううん。二人だよ。その二人は姉妹でね、姉の方が私と同い年で妹が中学三年生だよ。家族ぐるみでも付き合いがあるんだぁ」

『へぇ~、家族でも付き合いがあるんですね』

「うん!明日も見送りに来てくれるって言ってたし」

 

四葉の驚きの声にもことりは嬉しそうに話した。

 

『先生とその二人はやっぱり仲が良いの?』

「うん、そうだね。同い年の子が飛鳥って言うんだけど、彼女なんて兄さんに対してもズバズバ気にせず言うからね。兄さんも少し苦手にしてるみたい」

 

三玖の質問にことりは楽しそうに話していた。おそらく、和彦が飛鳥に言い負かされた時の事を思い出したのだろう。途中クスクスと笑ってしまった。

 

そっか…苦手…

『じゃあ、妹さんもそれくらいの仲なんですか?』

 

和彦が苦手にしているということりの発言に、三玖はどこかホッとしたように言葉を溢していた。そこに四葉も質問をした。

 

「うーん。飛鳥ほど言ってくることはないかなぁ。もう三人の妹って感じかな。どこに行くにも付いてきてね。小さかった時なんかは、兄さんがよく抱っこしてあげてたなぁ。それで、私たちにはしてくれないのかって、飛鳥と二人で兄さんに抗議してたっけ」

 

((う…羨ましいぃ……))

 

ことりが昔を懐かしむように話していたら、三玖と五月が心の中で羨ましいと思っていた。

 

(でも、今じゃ普通の抱っこは難しいよね)

(それじゃあ……おひ…めさ…ま抱っこ──っ!)

 

そして、二人の考えが見事にシンクロしており、また自分がされているところを妄想してしまったために、三玖は顔を手で覆いながら天井を見上げ、五月は顔を手で覆いながら下を向きぶんぶんと振っていた。

 

『何やってのよこの子たちは』

「ど、どうかしたの?」

 

状況が分からないことりは、何があったのか心配しながら聞いていた。

 

『あはは…大丈夫ですよことりさん。私もよくわかってませんが』

 

そんなことりを自身も状況の把握が出来ていないものの、四葉は大丈夫だと答えた。

その後も、色々な雑談を交えながら六人は過ごすのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、和彦とことりが実家に帰っておりますので、ことりの地元の友達を出させていただきました。
お話の中でも書かせていただいておりますが、家族ぐるみでの付き合いがある人物で、飛鳥についてはことりの本性を知っている程の親友です。ちなみに結愛は、ことりが和彦のことを好きまでは知りません。
実家に帰ると、五つ子とのやり取りが電話やメッセージしか出来ないのが難点ですね。
なので、次回には戻ってくる予定です。

次回の投稿は5月7日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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