~ことり・飛鳥side~
和彦とことりが福岡を出発する日。飛鳥と結愛は二人の見送りのために駅のホームまで来ていた。
ガコン…
和彦と結愛は離れたベンチに座っており、ことりと飛鳥は自販機で飲み物を買っていた。
「はい飛鳥。今日はここまで来てくれてありがとね」
自販機で買った飲み物を渡しながら、ことりは飛鳥に見送りに来てくれたお礼を伝えていた。
「奢ってくれなくてもいいのに。ここには来たくて来たんだから」
「それでもだよ。ほら、受け取って」
「わかったわ」
ふふふ、と笑いながらことりから差し出された飲み物を受け取った飛鳥はさっそく飲み始めた。
「……ふぅ…ところで結愛の前だったから聞くのは遠慮してたのだけど、和彦さんとは進展ないみたいね」
「ぐっ…ま、まだまだこれからだもん」
不意をつかれたことりは、飲み物を飲みながら飛鳥とは違う方向に目線を反らしながら答えた。
「それ、夏休みに帰ってきた時にも言ってたわよ」
「あの時とは全然前に進んでるよ!」
「例えば?」
むきになっていることりに対して、何もないだろと言わんばかりな態度で飛鳥はどんなことがあったのかことりに質問をした。
「キ……キスしたもん…」
小さい声で、しかしハッキリとことりは答えた後、自分の飲み物を飲んだ。
「え……嘘……本当なの?」
あまりに現実的な話ではなかったが、ことりの態度から本当なのかもしれないと思った飛鳥は質問を返した。すると、ことりはコクンと頷いた。
それを見た飛鳥は手をおでこに持っていき見上げた。
「まさか和彦さんが手を出してしまうなんて……」
「うっ…」
「ん?その反応。あなたからしたの?」
「う…うん……不意をついて、チュッて……」
「はぁぁ……いつかはするのではないかと思っていたけど、まさか本当に実行するなんて」
飛鳥はさらに頭を抱えながら思っていたことをことりに伝えた。
「し、仕方なかったんだって。そういう雰囲気だったんだから」
「兄妹でキスするなんてどういう雰囲気よなの、まったく…」
「だってぇ~」
正論を突きつける飛鳥に対して、なおも食い下がろうとすることりのおでこに飛鳥は軽くデコピンをした。
「あいたっ…」
「だってじゃないの。ふぅ……和彦さんの様子から怒られてはないようね」
「うん……怒ってはなかったよ…」
デコピンをされた場所をさすりながらことりは答えた。
「和彦さんもことりに甘いところがあるものね......後悔...はしてないのよね」
「うん。もちろん」
飛鳥の質問にことりはまっすぐ目を見て答えた。
「そう......あなたのそういうまっすぐなところ、羨ましくも思うわ」
「ふふふ。そういえば、飛鳥の色恋の話聞かないよね。好きな人とかいないの?」
「んーーー...残念ながらいないわね。というよりも、私に好きな人ができない原因はわかってるのだけどね」
「原因って?」
ことりが飛鳥に聞き返すと、飛鳥はある方向を見た。そこでは和彦と結愛がベンチに座って談笑をしている。
「ん?お兄ちゃんと結愛ちゃんが原因?」
「違うわ。原因はあなたのお兄さんである和彦さんよ」
「え?それこそなんで?」
飛鳥に好きな人が出来ない原因が和彦だと飛鳥が告白するも、ことりにはさっぱり分からなかった。
「まあ、あなたと同じようなものね。私の中で男の人は和彦さんみたいな人って固定観念がついちゃったのよ。すると、周りの男子がみんな子供に見えてきて。それで好きな人ができないという訳」
「な…なるほど…」
飛鳥の言葉に納得したことりであったが、違う考えが頭をよぎったので、チラチラと飛鳥を見てしまった。
「安心していいわよ。私が和彦さんを好きってことはないから」
ニッコリと笑顔で飛鳥が答えたので、ことりはホッと胸を撫で下ろした。
「飛鳥は美人で、お兄ちゃんともお互いに何でも言い合えるくらい仲が良いから、飛鳥がその気になったら付き合っちゃうかもって」
「どうかしらねぇ。和彦さんって私のこと最近では苦手意識を持ってそうだから」
「あはは…」
ことりはその事についても分かっていたが、ここではあえて伝えなかった。
「まあ、大学に行けばそういう人も見つかるかもしれないわ」
「そっか…」
(私は和彦さんに恋しなかった。でもあの子は違う。あの子は自ら茨の道を選んだ。本当に私と違って強い子)
飛鳥は和彦と結愛のいる方角を見ながらそんな考えがよぎった。
「それより、あなたもいい加減兄離れしなさい」
「お兄ちゃんの傍を離れるのは嫌だけど......私...ちょっと気になってる男の子はいるんだよね...」
「え......?」
いつもの話の流れになると思っていた飛鳥は飲み物を飲んでいたのだが、予想もしていなかった言葉が返ってきて、驚きのあまり固まってしまった。
「ほ、本当なの、ことり?」
聞き返す飛鳥に対して恥ずかしそうに下を向きながら、僅かにコクンとことりは頷いた。
「ほ…本当に…ちょっと気になる程度であって、好きかどうかはわかんないの。ただ…こんな風に思うのお兄ちゃん以外に初めてだから…」
戸惑いを
「ねぇ、もしかしてその相手って風太郎君?」
「──っ!」
飛鳥の口から風太郎の名前が出た瞬間、ことりの顔は一気に赤くなってしまった。
「な…なんで…」
「ことりの連絡からは、男子の名前なんて風太郎君以外になかったから。それにいつも風太郎君のいいところを伝えてきてたじゃない」
「そ…そんなにいつもって訳じゃないよ……でも、うん。彼の近くにいるとなんだかお兄ちゃんの近くにいる感じがして…もちろん、全然違うところもあるよ。それでも、彼の近くにいると楽しくて安心するんだ」
ニコッと笑いながら話すことりを見て、飛鳥も満足そうに笑みを浮かべた。
「そぉ。でも、その風太郎君の周りには素敵な女の子が五人もいるのでしょう。あまり悠長にはしてられないんじゃないの?」
「そうだね…」
(私の勘だと、一人が風太郎君のことを好きだと思う。で、もう一人がお兄ちゃんを好き。後一人はお兄ちゃん寄りかなぁ。残りの二人はまだわかんないんだよねぇ)
飛鳥の言葉に、ことりの頭に五つ子達の顔が思い浮かび、それぞれの想う相手について自分の中で改めて整理した。
「なにはともあれ。一度その風太郎君に会ってみたいわね。それに五つ子さんたちにも」
「うん!きっと飛鳥もすぐに仲良くなれると思うよ」
「そぉ。じゃあ、今度の長期休暇の時にでも私の方から行こうかしら」
「うん!待ってる!」
飛鳥がことりのところに遊びに行く約束をしたところで、新幹線へ乗る時間が近づいたので和彦達に合流をした。
福岡を発つその日に飛鳥と結愛ちゃんがホームまで見送りに来てくれた。
今はことりと飛鳥が少し離れたところで話をしている。
僕と結愛ちゃんはベンチに座り、新幹線の搭乗準備が整うのを待っていた。
「それにしてもすごいお土産の量ですね。袋がたくさんです」
「ほとんどがことりのものなんだけどね。僕のは学校へ持って行くものと後は同僚の人へのお土産かな」
「さっき買ってたお酒がそれ?」
「そうそう。よく話している同僚の人がお酒好きでね。こっちの地酒でもと思って買ったんだよ」
まあ、芹菜さんへのお土産はお菓子でもとも考えたんだけど、お菓子は他の同僚の人にも渡すから良しとしよう。
「また淋しくなっちゃうなぁ。お姉ちゃんも平気そうな顔してるけど、本当は心の中で寂しがってるんですよ」
「ああ。それくらいなら分かるよ。なんたって、何年も世話してきたんだ。それくらいの気持ちの変化には気づくさ」
と言っても、本当に少しの変化しかないからな、気づくのには苦労する。ことりみたいに分かりやすければいいんだけどね。
「そっかぁ」
「まあ、たまに電話してきては愚痴を聞かされているからな。僕を愚痴のはけ口にでも思ってるんだろうな」
「ふふふ、それだけ信頼してるんですよ。お姉ちゃんは家では弱音とかそういうの話しませんから」
「高校でもうまくやれているならいいさ。あいつは大学どこ受ける気なんだろ?」
「ああ、それでしたらことりさんと同じ大学を考えてるって、この間言ってましたよ」
「え!?」
思いも寄らない話が出てきて驚いてしまった。
てことは何か。もしことりが今のマンションから通える大学を選んだら、飛鳥のやつもこっちに来る気なのか?そうなるとまた昔のように賑やかになりそうだ。
やれやれと考えてはいるが、自然と口角が上がっていることに僕は気づかなかった。
「しかし、もし飛鳥までこっちに来ると結愛ちゃん一人になるだろ。もっと淋しくなるんじゃないか?」
「えっと...お姉ちゃんにはもっと自由にしてほしいから...だから、お姉ちゃんのやりたいようにやってほしいの...」
良い妹だ。飛鳥といい、結愛ちゃんといい、本当にいい子に育ってくれたものだ。やば、親目線になっちゃった。たまにこうなっちゃうんだよね。
「そ...それに...私も私で挑戦したいことがあるから...」
「それって高校受験?」
僕の質問にコクリと結愛ちゃんは頷いた。
ここまで決心をしているということは、県外の進学校を目指しているのだろうか。何か夢でも見つけたかな。それなら応援しよう。
「そっか。僕は飛鳥も結愛ちゃんも応援してるから。何かあったら言ってね」
「はい!」
頭を撫でてあげながら僕の気持ちを伝えると、屈託のない笑顔で結愛ちゃんから返事をされた。
ちょうどそこで新幹線に乗る時間が来たので荷物を持って立ち上がる。そんなところにことり達とも合流した。
そして、飛鳥と結愛ちゃんの二人に見送られながら、新幹線に乗り込むのだった。
数時間後。ようやく我が家に到着した。
「あー、疲れたぁ...」
「向こうと違って、こっちは迎えとかないからね。駅からここまでが大変だ」
ことりは荷物を置くと、そのままソファーに座り込んで、スマホを取り出した。恐らく、飛鳥に到着の連絡をするのだろう。
「飛鳥に連絡するなら、ついでに父さんと母さんにも連絡しといてくれ」
「はーい」
ことりからの返事を聞きながら僕はお茶の準備に取り掛かった。
さてと...今日の夕飯はどうするかな...とりあえずご飯を炊いて...後は、母さんが詰めてくれた煮物とかを温めなおせばいいか。
そんな風に夕飯のことを考えてたらスマホに着信が入った。
これは...グループメッセージ?
『そろそろ着いたかな?』
『着いたら連絡しなさい』
一花と二乃である。
「お兄ちゃんにもメッセージきた?」
「ああ。僕で返事しとくよ」
ことりに返事をしつつメッセージの返事を打ち込んだ。
『さっき着いたところだよ。今は部屋でゆっくりしてる』
送信と。
すぐに反応があるかなと思ったがしばらく何も反応がなかった。すると──
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
エントランス側の呼び鈴はないからマンションの住人による来訪ということになる。
ということは……
ある確信を持って玄関に行き覗き穴で外を見ると予想していた人物達がいた。
ガチャ…
「いらっしゃい」
「ヤッホー、先生。おかえりぃ」
「上がってもいいかしら?」
「構わないよ」
二乃の申し出を了承して五つ子達を家に招き入れた。
「それじゃあ遠慮なく」
「お邪魔するわね」
「お邪魔します…」
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔します」
ぞろぞろと入ってリビングの方に向かう五人。
やれやれ…やはりこの五人の近くだと騒がしい限りだ。
「あれ?みんな、いらっしゃい!」
「ことりさん、おかえりなさいです!」
「ふふふ、ただいま。四葉は相変わらず元気だね」
ソファーに座っていたことりは、五人がリビングに入るなり立ち上がって出迎えた。
そこで六人で話が始まったので、僕は部屋に向かうためにリビングを後にしようとした。
「ちょっと、どこ行こうとしてんのよ」
「え?」
「積もる話もあるでしょ。先生もこっち来なよ」
二乃に呼び止められた僕は、そのまま一花に話に参加するように促された。
「分かったよ。どうせなら夕飯を一緒に食べながら話そうか。二乃、そっちの夕飯の準備ってもう終わってる?」
「いいえ。この後帰ってから準備するつもりだったわ」
「こっちには母さんに色々持たされた煮物とかあるから温めて食べよう。結構量もあるから足りるだろ。後は、お茶碗とかを持ってきてくれると助かるかな」
「じゃあ、私が取ってきます!」
「四葉一人では大変でしょう。私も行きますね」
僕の言葉に勢いよく立ち上がった四葉に続いて五月も立ち上がり、二人は自分達の家に向かった。
「それじゃあ私も。昨日の残りとかを持ってくるわ」
そして二乃も立ち上がり二人を追っていった。
「じゃあ、私は先生を手伝う。ことり、一花の相手よろしく」
「はーい」
「えー。なんか私だけ何もしてないみたいじゃない」
「大丈夫だよ。私もだから。それよりこの写真見てよ。向こうで何枚か撮ってたんだ」
「へぇ~、よく撮れてるじゃん」
「でしょう!」
どうやらことりは、実家に帰った時の写真を一花に見てもらっているようだ。
さて、こっちも準備に取りかかりますか。
実家から持ってきたタッパーをどんどんと出していく。
「凄い量だね…」
「でしょ?」
おそらく五つ子の事を話してたからお裾分けのつもりだったのだろう。なら、万事問題なしである。
「こっちの手伝いはしなくて、ことり達と話してれば良かったのに」
「いいの。そ…それに、先生と話したかったし…」
「そう?」
「うん……おかえり先生」
「ああ。ただいま三玖」
三玖に返事をすると、嬉しそうに笑みを浮かべていたのが印象的であった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、和彦とことりが帰省から戻ってくるお話を書かせていただきました。
飛鳥と結愛の二人はここで一旦は出番終了ではありますが、今後も出演させてもらおうかと思っております。
本当はもう少し帰省のお話を書こうかと思ったのですが、さすがに五つ子がメールや電話での出演が続くのもないかなとも思った次第です。
では、次回の投稿は5月12日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。