少女と花嫁   作:吉月和玖

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64.割り振り

次の日。以前から約束をしていた参拝に行くため、集合場所であるうちのマンションの前でみんなが来るのを待っていた。うちには上杉に森下、佐伯も来たことがあるので集合しやすい場所ではある。立川先生には前もってうちのマンションの住所を教えている。

しばらくすると上杉兄妹が姿を見せた。

 

「明けましておめでとうございます。先生、ことり」

「うん。おめでとう」

「おめでとう、風太郎君」

「ほら、らいはも」

「うん。明けましておめでとうございます。今日は私も誘っていただいてありがとうございます」

 

上杉と新年の挨拶をした後、上杉に促されるようにらいはさんが挨拶をしながら頭を下げてきた。

 

「おめでとう、らいはさん。相変わらず礼儀正しいね」

「おめでとう、らいはちゃん。こちらこそ来てくれてありがとね」

 

礼儀正しく挨拶をしてきたらいはさんの頭を、ことりが撫でながら僕達も応えた。

ちなみに、上杉兄妹と五つ子達は正月にたまたま神社で会ったそうなので、そこで新年の挨拶は交わしたそうだ。

 

「ふわぁー、らいはちゃん!今日は楽しみましょうね!」

 

僕とことりの後ろに控えていた四葉がさっそくらいはさんに抱きついている。相変わらずのらいはさん愛だ。

そうこうしていると、反対側から森下と佐伯も来たようだ。

 

「ヤッホー、ことり」

「ことり、明けましておめでとう」

「加奈、智子!おめでとう。来てくれてありがとね」

「ふっふっふ。面白そうだったからね」

「こっちこそ、誘ってくれてありがとね」

 

ことりが森下と佐伯の二人のところに行き出迎えている。

 

「あ、先生。明けましておめでとうございます」

「先生、あけおめぇ~」

「ったく、佐伯は相変わらずだな。ああ、おめでとう」

 

僕への挨拶を終わらせた二人は残りのメンバーにも挨拶を始めた。

 

「三玖と風太郎君には紹介したけど、私の友人で森下智子と佐伯加奈だよ」

「「よろしくね」」

「よろしくぅ」

「よろしく」

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

「で、二人とも。この子がらいはちゃん。風太郎君の妹さんだよ」

「へぇ~、可愛いじゃん。上杉君が自慢するだけはあるね」

「よろしくね、らいはちゃん」

「はい!よろしくお願いします」

 

森下と佐伯の二人はらいはさんの愛嬌に可愛がりそうな素振りを見せているが、当のらいはさんはまだ緊張しているようだ。

 

「そういえば、佐伯は二乃と同じ五組だよね」

「そうね。話したことはそんなにないけど」

「だね。まあ、私もことりと智子のところに行ったりしてたからね」

「それにしても、やっぱり五人揃ってるところを見ると騒然とするね。えっと…私は教室では中野さんって呼んでるけど、名前呼びしてもいいかな?」

 

ちなみに森下はことりや三玖と同じ四組だ。ことりもいることで、三玖も二人と少なからず話しているのだろう。

 

「うん、全然構わないよ。むしろ名前で呼んでもらわないと私たちも大変だしね」

 

森下の提案に一花は問題ないと答えた。

まあ、確かに中野さん呼びだとみんな振り返るだろうしね。

 

「うーん…まずは名前と特徴が一致するように覚えないとだよね。大変だ」

「二人だったら大丈夫。すぐに覚えるよ」

 

五つ子とのコミュニケーションを取るうえでの第一関門なのかもしれないな。

佐伯が大変そうな声をあげるも、ことりは二人なら問題ないと返した。

そこへ小型のミニバンが近くに停まった。

 

「すみません、遅れましたか?」

「いえ、時間通りですよ。皆早く着いていただけですので」

 

停まった小型のミニバンからは立川先生が下りてきて、遅れた事を謝罪してきたが時間通りであることを伝えた。

 

「えっと…明けましておめでとうございます、か……吉浦先生。本年もよろしくお願いします」

「明けましておめでとうございます、立川先生。こちらこそ、本年もよろしくお願いします」

 

お互いに年始の挨拶をしながら頭を下げた。

しかし、今僕の事を名前で呼びそうになってたなぁ。プライベートとはいえ生徒達の前でってことで抑えたっところか。

頭を上げた立川先生は僕と目が合うと、名前呼びをしそうになったことに恥ずかしさが出たのか、顔を反らしてことり達の方に挨拶に向かってしまった。

さて、じゃあ全員揃ったことだし向かいますか。

 

「じゃあそろそろ向かおうと思うけど、皆は僕の運転する車と立川先生の運転する車に分けようか」

「どう分けよっか」

 

僕の言葉にことりが反応して全員に向かって話しかけた。

 

「そうだなぁ......吉浦先生の車ってたしか八人乗りだよね。立川先生の車は五人乗りですか?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、四人と六人か三人と七人に分けるってことよね」

「あー...それについて一つ提案なんだけど。上杉兄妹はこっちに乗せるよ。上杉は唯一の男だし、らいはさんは今日初めて立川先生と会ったわけで、そのらいはさんが立川先生の車だと緊張しちゃうかもだしね」

 

一花と二乃がどう分けるか話を進めるところに僕の提案を伝えた。

 

「うん、兄さんの案はいいと思うよ」

 

僕の提案にすぐさまことりが賛成してくれた。他のメンバーも反対はないようである。

 

「残り八人...」

「交流も兼ねてじゃんけんのグーとパーで決めちゃおっか」

「そうですね。話し合ったところで決まりそうにありませんし」

 

結局、佐伯の提案でじゃんけんで分けることになった。

 

じゃんけんの結果こちらの車には、一花・四葉・上杉・らいはさん・ことり・森下の六人が乗ることになった。

助手席に上杉。二番目の座席にらいはさんを中心に四葉とことり。一番後ろに一花と森下が座っている。

 

「じゃあ、先行している立川先生達を追いかけますか」

「よろしくお願いします、先生」

 

僕達は駐車場に停めていた車に乗り込んだので、先に向かうように伝えた立川先生の車を追いかける形となったのだ。

出発の合図をすると上杉から返事が返ってきた。

 

「それにしても中々バランスのいい分かれ方になったんじゃない?佐伯はことり達三人の中でもコミュニケーション能力は高いし。二乃とも同じクラスなんだろ?」

「そうだね。三玖と五月は大人しい方だけど、きっと加奈と二乃で盛り上げてくれるよ」

「加奈、失礼ないといいんだけど…」

 

バランスの取れた分かれ方ではないかと後ろの席に確認すると、ことりが問題ないだろうと答えてくれた。だが、森下にとっては佐伯の暴走を危惧しているようである。

 

「あはは…まあ、立川先生もいるし大丈夫じゃない?」

「そんなに凄い方なんですか?」

 

ことりの乾いた笑い声に四葉が心配そうに聞いている。

 

「そこまで心配することでもないよ。ちょっとぐいぐいいくところがあるけど、空気を読むのもうまいしね」

 

ニコッと笑いながらことりは四葉に説明をした。

 


 

~芹菜車side~

 

(なんだろう…なんか、少し空気が重いような……)

 

芹菜の運転する車には、助手席に三玖が。そして、後ろの席に五月を中心に二乃と加奈が座っている。

出発してしばらく経っているのだが、加奈はこの車内の中の空気の重さに気がついていた。

 

(なになに!?私なにかした?)

 

状況の理解が出来ない加奈は一人頭の中で混乱していた。

主にその雰囲気を醸し出しているのは、運転手と助手席の二人なのだが。二乃はため息混じりに窓から外を眺め、五月は五月で芹菜に聞きたいことがあるもここでは聞けない、と頭の中で葛藤をしていた。

 

「えっと……佐伯さんはことりさんと仲が良いのですよね?たしか、去年からとか」

「う…うん!そうだよ。私とことり、それに智子が去年一緒のクラスでね。私と智子は中学からの友達だったんだけど、去年席が近かった智子とことりが仲良くなって、で私もそれに乗っかったって訳」

 

沈黙を破ってくれた五月に心の中で感謝しながら、自分がことりと仲良くなった経緯を加奈は説明した。

 

「これは知ってるかもしれないけど、ことりって入学式で新入生代表で挨拶したんだよ」

「へぇ~、相変わらず凄いわねあの子」

「私は先生から聞いていたので知っていますよ。たしか、元々が上杉君だったそうでしたが、上杉君が辞退したためにことりさんが代表になったとか」

「フータローらしいね…」

 

ふふふ、と笑いながら三玖は答えた。

 

「まったく。笑い事ではないのよ。あの時はことりさんが快く承諾してくれたけど、現場は大慌てだったんだから」

 

当時の事を思い出した芹菜はため息混じりに話した。

あの時のことりは、ただ和彦に晴れ姿を見せてアピールするつもりだったので、すんなりと代表挨拶を承諾したのだ。

 

「で、それもあってか、入学した後すぐはことりの周りは人がいっぱいいたんだ。県外から来たって言うのと吉浦先生の妹だって言うのも噂になってさらにね。そんな時かな、私と智子が声かけたのは──」

 

その時のことを思い出したのか、加奈は懐かしそうに笑みをこぼしていた。

 

「あの時のことり、相当無理してたからねぇ。無理に連れ出して、甘いものを食べに行ったの。疲れた時には甘いものって言うしね」

「それには同意します!」

 

疲れた時には甘いもの。その言葉に五月が力強く同意をした。

 

「ふふふ、面白いね。五月さんって甘いもの好きなんだ」

「は…はい……甘いものと言いますか…なんと言いますか…あはは……」

「?」

 

五月にとっては甘いものというよりも、食べることが大好きなのだが、さすがにそこまでは言えずにその場は誤魔化した。

 

「そだ。立川先生って吉浦先生と仲良いですよねぇ。今日もこうやって来てる訳ですし」

「え、ええ。一応同期だし。職員室でも席が隣だしね」

 

加奈の質問に芹菜は当たり障りのない言葉で答えた。

 

「ふーん…じゃあ、友達以上恋人未満ってことか……」

「恋人!?」

 

加奈の発言に隣の五月は驚きの声をあげた。

 

「恋人未満って言ったでしょ。反応し過ぎよ」

「うっ…すみません」

 

五月の反応に、窓から外を眺めている二乃が冷静に返した。

 

「あはは、ごめんねぇ~。だけど、普通は仲が良いってだけで、異性の同僚とこんな遠出なんかしないと思ってね。だけど、吉浦先生はまだフリーみたいだし。だから友達以上恋人未満って言ったの。立川先生も吉浦先生のこと何も想ってなかったらごめんなさい」

「う、ううん。吉浦先生はとてもいい方だから、私と恋人になってくれるのは光栄よ」

「ふーん…社交辞令なのか本心なのか……どっちにしろ吉浦先生を落とすのも大変そうだよね」

「そうなの?」

 

そこまで黙っていた三玖が振り返りながら聞いてきた。

 

「だって今までに告白した生徒をみんな振ってるんだよ」

「へぇ~、あいつ学生から告白されてるのね」

 

先ほどまでずっと外を眺めていた二乃が加奈の言葉に反応し、加奈の方向に顔を向けた。

 

「うん。私の知る限りだと二人くらいかな…」

「「「……」」」

 

顎に指を当てながら考える素振りで話す加奈に対して、二乃と三玖は窓から外を眺め、五月は下を見て黙っていた。

 

「……て、あれ?やっぱりこの話は興味なかった?」

 

そんな雰囲気に加奈は申し訳なさそうに伝えた。

 

「い、いえ!やはり吉浦先生は教師と学生との距離感をしっかりされているなと思いました」

「うーん…それはどうなんだろ…」

「え?どういうこと?」

 

五月の言葉に肯定するかと思いきや、どちらかというと反対の意見を言ったため、三玖が疑問を投げかけた。

 

「ことりが言うには、吉浦先生に告白してきた生徒ってそこまで話したことない子だったらしいよ。だから、ある程度仲良かったら少しは考えてたんじゃないかって」

「ある程度、ねぇ」

「後、これはあくまでも私の考えなんだけど。吉浦先生を攻略するにはことりと仲良くなってた方がいいと思うんだよね」

 

加奈は腕を組んで、うんうんと頷きながら自身の考えを伝えた。

 

「ことりさんですか?」

「そう!あの兄妹ってすごい仲が良いじゃない?だから、ことりが味方になれば自ずと吉浦先生にも近づけるって訳。実際、私と智子もことりとお昼一緒にするようになったから吉浦先生とよく話すようになったしね」

 

そこで、二乃と三玖と五月は確かにと思ってしまった。なにせ、五つ子達が和彦とある程度の親密な関係を築けたのもことりの存在がとても大きかったからだ。

一方で芹菜も加奈の話を聴きながら考えていた。

 

(私は職場が同じだから自然と仲良くなれたけど、和彦さんとの距離を縮めきれてないって感じてたのよね。そっか──)

((ことりさんか……))((ことりか……))

 

見事に心の中の言葉が四人ハモった瞬間であった。

 

「あ、でも今日いるメンバーだったら割といけるかもね。まあ、吉浦先生のことを好きだったらの話だけどね。あはは……はは……えっと……」

 

(何!?この空気!)

 

誰も加奈の言葉に反応する訳でもなく、何か考えているように見えたのだった。

 


 

~和彦車side~

 

一方その頃。

 

ブルッ…

 

「え、何?」

「どうしたの?ことりさん?」

「ううん。なんか、急に悪寒が走ったような気がして…」

「風邪ですか?」

 

ことりの言葉に、らいはと並んで座っていた四葉が心配そうにことりに話しかけた。

 

「うーん…そうじゃないと思うんだけどなぁ」

「誰か噂でもしてるんじゃない?」

「悪巧み的な?」

「そう!それ!」

 

智子の言葉に、それだ!と一花は智子に指差しながら答えた。

 

「風邪気味なら車の中で待ってるか?」

「えー、それはないよぉー!大丈夫だって。一瞬のことだったし」

 

風邪気味なら参拝の間は車の中で待っているか提案をした和彦であったが、ことりは大丈夫だからと提案を却下した。

 

「無理すんじゃねぇぞ」

「うん。ありがとう風太郎君」

 

後ろを向きながら風太郎はことりに声をかけてきたので、それに対して笑顔でことりはお礼を言った。

 

「ふーん…フータロー君ってばことりには優しいんだね?」

「ば…馬鹿言うな!同じ家庭教師として風邪で倒れられても困るのとらいはに移してほしくないだけだ!」

 

一花の言葉に風太郎は前を向きながら説明をした。

 

「もー、お兄ちゃんってば…ごめんねことりさん。お兄ちゃんあんな事言ってるけど……」

「大丈夫だよ。風太郎君は優しい人だって分かってるから」

 

申し訳なさそうに話すらいはであったが、ことりは笑顔でらいはの頭を撫でながら答えたので、自然とらいはも笑顔になっていた。

 

「そ…そういえば、結構遠くまで来ましたが、そろそろ着くんですか?」

「ああ、もうそろそろかなぁ。て言っても、僕も初めて行くところだから土地勘はないんだよねぇ。もうナビ任せ」

 

四葉が窓から外を見ながら和彦に確認すると、和彦からはそろそろじゃないかと返事が返ってきた。まあ、和彦も県外の人間であるから土地勘がなくても仕方のないことではある。

 

「風太郎君。ナビだと後どれくらい?」

「俺に分かると思うか?」

「あはは……」

 

ことりが風太郎にナビで確認してもらおうとしたが、その風太郎にはナビを扱うことが出来ないので、風太郎の返しにことりは乾いた笑いしか出なかった。

 

「ま、気長にいこうよ」

「先生はどうして今から行く場所に選ばれたんですか?」

 

智子は疑問に思っていたことをここで和彦に聞いてみた。

 

「うーん…一つは、たまにはこうやってドライブも良いかなって思ったからかな。で、もう一つは、今から行く天満宮は学問で有名な人を祀ってる場所らしいからね。君達学生にはちょうどいいでしょ?」

「いいと思います!一花!四葉!お前らは特にちゃんと参拝するんだぞ。他の三人にも言っておけ」

「はーい」「はい!」

 

気合いの入った風太郎の言葉に、一花と四葉はそれぞれ返事をした。それを見て他のメンバーはクスクスと笑うのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は参拝への出発から車内の出来事を書かせていただきました。
自分で書いてて思ったのですが……登場人物が多いとセリフとかそういうのを書くのが大変!!
片寄りなく同じくらいにセリフがあるように書いていたらもう混乱です。
さて、次回は参拝場所での出来事を書かせていただこうと思っております。

次回の投稿は5月17日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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