「ふわぁー、人がいっぱいだぁー」
「さすが三が日。元日よりは少ないかもだけど、人多いね」
目的地近くの駐車場に二台車を停めれたので、そこで合流することができたが、境内まではまだ距離があるにも関わらずたくさんの人で賑わっていた。道沿いには
そんな光景に驚きの声をあげているらいはさんに答えるように、僕も人の多さに驚いていた。
「これは、はぐれないようにするのも難しいかもしれませんね」
「そうですね」
僕の隣まで来た芹菜さんが困ったように話しかけてきたのでそれに答えた。
しかし、この間の花火大会のこともあるし、念には念を入れとくか。
「今から参拝に行くわけだけど、この人の多さではぐれる可能性もある。その時は仕方がないから、その時一緒にいたメンバーで参拝して、ここまで戻ってくるように。無理に探したりして、道に迷うようなことがあったら意味がないからね。もちろん電話で連絡を取り合うのもありだけど、繋がらない可能性もあるから注意するように」
僕の提案に全員から『はい』と返事があった。
はぐれる可能性の話はしたけど、あくまでも全員での参拝が一番だ。周りに注視しながら進もう。
「らいは。また俺の袖持ってろ」
「うん」
「えー。それだとまたはぐれちゃうかもだよ。らいはちゃん、良かったらもう片方の手で私と手を繋ごうか」
「いいの?うん!」
らいはさんは上杉に言われた通りに上杉の袖を握ったが、そこへ自分とも手を繋ごうと提案したことりによってことりとも手を繋いだ。あれなららいはさんが一人になるという一番最悪なことは起きないだろう。
「上杉。そのまま一番前を歩いてくれないか。背が高い上杉が目印になるだろうし」
「わかりました」
僕に返事をした上杉が出発を始めたので、それに続くように他のメンバーも出発した。
「はうっ~、私もらいはちゃんと手を繋ぎたかったよぉ~」
「ほら、四葉。そんな下ばっかり見てるとはぐれちゃうよぉ」
「ことりはわかってるなぁ。ああやって外堀を埋めていくんだよ」
「加奈。一人で何言ってるの?置いてくよ」
「まったく…この人混みを見てると花火大会を思い出させられるわ」
「たしかに…」
「吉浦先生からその時のこと聞いてるわ。今日はそうならないようにしないとね」
自然と二、三人の組み合わせで縦に伸びた感じになった。僕は一番後ろからはぐれないように見ながら進むことにした。
「これは……花火大会の比ではないですね」
「人は多いけど、皆目指す場所は一緒だから流れは出来てるよね。それを考えると花火大会よりはましかな」
僕の隣を歩いている五月が人の多さに困った声を出していたので、安心させることを見込んで答えた。
うん、このままいけば問題ないだろう。
数分後──
「見事にはぐれたね」
「ごめん、お兄ちゃん…」
人にぶつかった拍子に倒れそうになった五月を支えてあげたのだが、前を歩いたいたはずの三玖と二乃の姿がなかった。
はぁぁ…心のどこかで油断してたのかもな。
「五月のせいじゃないさ。五月が一人にならなかっただけでも良かったよ。とにかく前に進もう」
「うん」
自然と五月の手を握り人の流れに乗った。
これ以上はぐれるわけにはいかないからな。
握った五月の手からはギュッと握り返された。どうやら五月も同じ気持ちのようだ。
「お兄ちゃんと一緒でよかった」
「何言ってんだ。僕なんかより姉妹といた方が良かっただろ」
「姉妹と離ればなれになったのは心細いけど、お兄ちゃんが近くにいてくれたから」
手を握ったまま隣まで来た五月がこちらを見ながらニコッと微笑んだ。
ったく…
「そんなこと言っても出店の食べ物は買ってあげないからね」
「そんなこと思ってないよ!」
頬を膨らませて怒る五月を連れ人混みの流れに乗り先に進むのだった。
~二乃・三玖・芹菜side~
「あれ…後ろから先生と五月が来てない」
「は!?マジ?」
「どうしたの二人とも」
和彦と五月が後ろから付いてきていないことに気づいた三玖に二乃が驚き、立ち止まって後ろを振り返った。
そこには確かに二人の姿はなかった。
そんな三玖と二乃の行動に疑問を持ちながら、芹菜も立ち止まって後ろを振り返った。
「先生と五月がいない」
「えーー!?」
三玖の言葉に驚き後ろの方を見るが芹菜も二人の姿を見られなかった。
(まさか五月が抜け駆け?ううん。あの子にそんな行動を取る考えがまずないわ。あるとすればこっちだと思って見張ってたのに)
二乃はそんな風に考えながら困った顔をしている芹菜を見ていた。
「ちょっと待って。前を歩いてた佐伯さん達もいなくなってるわ」
「むー…はぐれた…」
「はぁぁ…やっぱこうなるのね。どっちにしろ目的の場所は一緒なのだから先に進みましょ。ここにいても他の人の邪魔になるだけよ」
「それもそうね。三玖さん行きましょう。五月さんなら吉浦先生がきっと付いてるから」
「うん…」
三人となった、二乃と三玖と芹菜は境内に向かう人の流れに乗って進むことにした。
「ねえ先生。さっき車の中では聞けなかったのだけど、一つ聞いてもいいかしら?」
「なーに改まって」
「吉浦先生とクリスマスの夜に何かあった?」
「「──っ!」」
二乃の言葉に三玖と芹菜は驚きはしたものの歩みを止めることはなかった。
「な…な…なっ…なんでクリスマスに私と吉浦先生が一緒にいたのを知ってるの!?」
「ああ、それは私と四葉で二人がマンションに入っていくのを目撃したから」
「嘘でしょ……」
一緒にいたことを知られていたことが恥ずかしかったのか、芹菜は顔を両手で覆った。
「もしかして、この事中野さんたち全員知ってるとか…」
「うん…ことりも知ってる」
芹菜は確認のため三玖の方に顔を向けるとコクンと頷かれ、さらにことりも知っている事実を言われた。
「そうなんだぁ…う~…結構恥ずかしいわね、こういうのって」
恥ずかしそうに笑顔で答える芹菜。その顔は本当に恋をしているんだな、と二乃と三玖は感じた。
「そ…それで?どうなのよ。何も進展なかったの?告白くらいしたと思ったんだけど」
「う~ん…これはここだけの秘密にしてくれる?」
芹菜の言葉に二乃と三玖は頷いた。
「……実は告白したんだぁ……初めて男の人に告白したから、凄く緊張しちゃったよぉ」
「「──っ!」」
予想は出来ていたものの、芹菜の口から告白したという言葉を聞かされた二乃と三玖は目を見開いて驚いてしまった。
「で、でも。吉浦先生とは付き合ってないのよね?」
「うん。そう聞いている」
あまりに明るい表情で話す芹菜に、二乃と三玖はどこか慌てたように確認をした。
「そこまで知られちゃってたか…たぶんことりさんだよね……うん、良い返事は貰えなかったかな……」
芹菜は、先ほどまでの明るい表情から少し雲がかかった表情になった。
「でもね……
「……そんなことが分かってても告白したの?」
良い返事が貰えないことを分かってても告白したのかと三玖が確認すると、芹菜は笑いながら答えた。
「うん……もう自分の気持ちを隠しておくのが我慢できなくって」
「そっか…」
そんな芹菜に三玖はあまり納得はしていないものの、そういうやり方もあるのだと思った。
「ちょっと待ちなさい。今さりげなく吉浦先生のことを名前で呼ばなかった?」
「あー……えっと…クリスマスの日からお互いに名前で呼び合うことになってね。それで……今日は生徒がいる前ではって思っていつも通り呼んでたの。ただ…今はつい…でも、二人の前ならいいよね」
「まあ…それくらいなら…」
「……」
二乃は声に出して答えたものの、三玖は辛うじて頷くことで了承した。
そんな時、二乃と三玖のスマホにメッセージが届いた。
「あら、ことりからだわ」
「ことり達はもう境内に着いたみたいだね」
『はぐれたら各々で参拝って兄さんは言ったけど、やっぱりみんなでしたいから待ってるね。手を洗うところの近くにいるよ』
「ことりさんはなんて?」
「折角だからみんなで参拝しようだって」
「ことりさんらしいわね。目印とかはあるの?」
「手を洗うところの近くで待ってるって」
「それは分かりやすいわね。ちょうどもう境内に着くし、さっそく合流しましょうか」
少し先を行く芹菜の後ろで二乃は三玖に声をかけた。
「三玖、あんた大丈夫なんでしょうね?」
「え、何が?」
「……ならいいわ」
「……うん…」
姉妹だからこそ分かるちょっとした変化。それを感じ取った二乃が三玖に声をかけるも、三玖は何のことだと返した。しかし、これにも三玖なりに大丈夫だという言葉が込められているのを二乃は感じ取り、これ以上聞かないことにした。そんな二乃の配慮に三玖はただ感謝を込めて返事をした。
(ありがとう二乃…やっぱり五つ子、すぐばれるよね…それにしても名前呼びかぁ…)
歩きながら空を見上げ、三玖はここにはいない和彦に思いを馳せていた。
(先生呼びに慣れちゃったから実感沸かない…えっと……か…和彦…さん……)
そこでぶんぶんと頭を振る三玖に隣の二乃はたじろいでしまった。
「な、なに?」
「ごめん、なんでもない」
(名前なんてフータローみたいに簡単に言えるって思ったのにこんなに違うんだ…やっぱり大人だから?それとも……)
そしてまた三玖は空を見上げた。
(まったく……三玖もわかりやすいわよね。動揺し過ぎよ。それにしても、やっぱり立川先生は和にぃに告ってたか…)
林間学校初日。温泉に五つ子と芹菜が一緒に入った時、二乃達五つ子は芹菜から自分は和彦が好きだと教えてもらっていた。その時の二乃は、和彦のことはことりのお兄さんで親しみやすい先生というだけの印象だった。しかし今は──
(なんであいつなんだろ…)
近くを歩く三玖と芹菜を見た後にまた正面を向く。
(ふふっ…いずれにしろ、これは私の恋。私の好きにさせてもらうわ)
そしてスマホを取り出すとある人物にメッセージを送るのだった。
そろそろ境内に着く頃になってスマホに着信が入った。
五月もスマホを取り出したので、五月の方も着信があったようだ。
「あ、ことりさんからだね」
「本当だ」
着信内容はグループメッセージでことりからのもので、みんなで参拝するために待っているという内容だった。
「ことりさんらしいね」
「ああ」
しかしグループでメッセージを送ってくるってことは、はぐれたのは僕達だけじゃないのだろうか。
「返事は私で送っておくね」
五月が返事がのメッセージを送ろうとしている時、またメッセージがきた。
『わかったわ』
『わかりました』
「被ったけど二乃だね。二乃もはぐれたんだ」
「だね。てことは、隣にいた三玖も一緒かな?」
そんな疑問を持った時、ことりも同じような疑問を思ったのだろう。追加のメッセージが届いた。
『兄さんと三玖と立川先生は一緒?後はこのメンバーだけがいないの』
へぇ~、思ったよりはぐれなかったんだ。
自分の所在をスマホに打ち込みながら意外だったなと考えた。
『僕は五月と一緒にいるよ。多分もうすぐ着くんじゃないかな』
『私は二乃といる。立川先生も一緒。こっちも境内見えてるからもう着くよ』
僕のメッセージの後すぐに三玖からのメッセージが届いたので、おそらくこれで全員だろう。
『じゃあこれで全員の安否確認完了』
『みんなで待ってるよ』
『先生!五月をよろしくお願いします!』
ことりのメッセージの後に一花と四葉からもメッセージが来た。
ま、全員無事に合流出来そうで何よりだ。
「よかったね。誰かが一人ぼっちはなさそう」
「だね。それが一番避けたかったことだからね……そろそろ手を離してもいいんじゃない?」
「まだはぐれる可能性だってあるんだし、いいの!」
その言葉と共に手を繋いでいる力が強まり、さらにこちらに近づいてきた。
気のせいか前より甘え度が上がってるような…まあいいか。ことりといると思えば問題ないか。
そんな感じで、結局境内に入るまでは手を繋いだままだった。
参拝も終わり、出店を覗き見たり昼食を食べたりとしたので、後は帰るだけである。帰りの乗っているメンバーは、上杉兄妹はそのままで、残りのメンバーが入れ替わった形だ。
僕の隣の助手席では、三玖がスマホとにらめっこ状態である。何か調べてるのだろうか。
ちなみに、疲れたのからいはさんは先ほどからスヤスヤと眠っている。そんならいはさんを寄りかけるように上杉は自分の方に寄せていた。
「らいはちゃんも疲れたみたいですね」
「まあ、結構歩き通しだったからな」
「ふわぁ~…妹ちゃん見てたら眠くなってきたわ」
「私もぉ~…」
「まだ時間もかかるし寝てて良いよ」
後の席から二乃と佐伯が眠そうな声を発していたので、寝てても良いと伝えた。
「それじゃ、着いたら起こしてぇ」
「私もお言葉に甘えるわ」
その言葉の後から静かになったのでどうやら眠ってしまったようだ。
「上杉と五月も寝てて良いからね」
「ありがとうございます。でも、俺はそんなに眠くないので」
「私もです」
「そうか。三玖も助手席だからって起きてなくてはいけない訳じゃないから。疲れてたら寝てな」
「大丈夫…」
助手席の方をチラッと見るが、まだスマホとにらめっこ状態のようだ。
まあ、話し相手がいる方がこちらとしては助かる。そんな思いで帰りの運転をしていた。
~二乃side~
眠ると言った二乃であったが、しばらくスマホの画面をじっと見ていた。そこには──
『この間約束したお鍋のお店、今月行かない?』
『それは良いけど、何故今?』
『いいでしょ。じゃ、日程はこっちで決めるから。言っとくけど、この間言った通り二人でだからね?』
『分かってるよ。後、日程は土日だと助かる』
『わかったわ』
和彦とのメッセージのやり取りが書かれていた。
それをニッコリと二乃は見ていた。
(和にぃと二人で食事。これはデートと言っても問題ないわよね。ふふふ…)
終始上機嫌なまま、二乃は眠りについた。
~ことりside~
ことりは、一花と四葉と智子と共に芹菜の運転する車に乗っていた。しばらく経つと、和彦の車同様眠りにつく者が現れた。後の席に座る、一花と四葉と智子である。
そんな三人の姿を見ながら、ことりは『ふふふ』と笑っていた。
「三人共寝ちゃったか。ことりさんも寝てて大丈夫よ」
「私は平気です。こういうのは兄さんとのドライブで慣れてますから。お話し相手になりますよ」
「そう?私としては助かるんだけどね」
そんな時、ことりのスマホに着信が入った。
「あれ、三玖からだ。何かあったのかな?」
『ことりってチョコレート作れる?』
「?」
なんの脈略もなくそんなメッセージが来たので、ことりは少し混乱した。
「?三玖さん何かあったの?」
「いえ、ただの世間話みたいです」
「そう?」
メッセージを見た後にことりに間があったので芹菜も少し心配になって問いかけた。
(それにしても、なんでチョコレートなんて……もしかして…)
あることが頭を過ったのでことりは返事を返した。
『チョコレートは作ったことあるよ。もしかしてバレンタイン?』
『うん』
試しに聞いたことりであったがどうやら正解のようだ。
(そっかぁ。兄さんに作ってあげたいんだなぁ。でも……)
『ふふふ、そっか。でも、まだ一月に入ったばかりで、バレンタインまで一ヶ月以上あるよ?』
『私、不器用だからうまく作れるのに時間かかると思って』
(なるほどね)
『私に聞いてきたってことは、作り方教えてほしいのかな?』
『うん』
「……」
(私のお兄ちゃんへの想いは変わってない。だから本当は迷ってる。このまま三玖のこと応援するか……)
『ねえ?三玖は兄さんが好きなの?』
三玖の口からは直接は聞いていないが、三玖の事を見ていればことりにとっては一目瞭然だった。三玖が和彦を好きだということを。
もしここで誤魔化すようなことがあれば、ことりは三玖の応援をすることをやめようと思っていた。だが、しっかりと答えてくれたなら──
『うん。好き』
短い文章ではあるが、三玖の想いがことりにも伝わってくるものだった。それを見たことりは、口角を上げて返事をした。
『そっかそっか。じゃあ、とびっきりのチョコレートを作んないとだね。頑張ろうね!』
『ありがとう』
その後は、今後の予定などをやり取りして終わった。
やり取りが終わったことりは、窓から外の風景を眺めていた。
『あまり悠長にはしてられないんじゃないの?』
そんなことりの脳裏には、親友の飛鳥の言葉が過った。
「……うん。ちょっとだけ考えてみようかな」
ことりは晴れやかな表情でそんな言葉を口にしていた。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、前回のお話の続きで参拝に着いた話を書かせていただきました。ちょっと無理やり感がありましたが、何組かにはぐれて、それぞれの組での話を展開させてもらってます。
芹菜からクリスマスに告白した事。そして、お互いに名前で呼びあっている事を聞いた二乃と三玖が、それぞれのペースではありますが、行動を開始しました。そして、ことりの心も動き出そうとしています。
次回の投稿は5月22日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。