少女と花嫁   作:吉月和玖

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66.恋愛相談

連休などの休み明けの仕事。誰もが思うであろう言葉が僕の頭にドンと居座っている。『憂鬱』。

 

「まじで憂鬱すぎるぅー」

 

机に突っ伏しながら弱音が零れた。

本当に数学準備室を作っててよかったぁ。職員室だったらこんなこと出来なかっただろうな。

 

「もう少し休みがあってもいいのでは…?」

 

そんな言葉が出てくるのも許してほしい。まあ、誰かが聞いてるわけではないので、許すもなにもないのだが…

そういえば、芹菜さんも昼休みの時に同じような事を言ってたな。やっぱり皆考えることは同じか。

 

「さてと…!」

 

気合いを入れて起き上がり、目の前の仕事に取りかかることにした。

嘆いていても仕事が終わるわけでもないし、頑張りますか!

仕事に取りかかり始めてしばらくしたところ、この数学準備室に来訪者が現れた。

 

コンコン…

 

「はーい、どうぞ」

「失礼しまーす」

 

その来訪者は恐る恐るといった形で扉を開けて入ってきた。

 

「ん?なんだ四葉じゃないか。どうした?」

「その……先生に相談がありまして…」

「相談?まあ、とりあえずソファーに座りなよ。待ってな、お茶も用意するから」

「えぇ!?そんな、いいですよ!」

「いいからいいから。僕も休憩がてら飲もうと思ってたからね」

 

四葉を制止しながらお茶の準備を始める。

 

「そういえば、ことりから聞いたけど、一花以外のメンバーでバイト始めようとしたんだって?」

「はい。一花にもだいぶ負担がかかってると思いまして。みんなで色々と考えては見たんですけど──」

「上杉に反対されたと。そこもことりから聞いてるよ。今は成績優先だってね。まあ、教師の僕としても、バイトを始めるならまずは赤点を回避出来るくらいの成績でいてほしい限りだけどね」

 

用意ができたお茶を四葉の前に置きながら、苦笑いで上杉の言葉に賛成した。

 

「あはは…面目ないです」

 

そこは四葉も分かっているようで、申し訳なさそうにお茶を飲んでいる。僕は、そんな四葉の向かいのソファーに座った。

 

「それで?相談ってどんなものかな?勉強関連?」

 

ソファーに座った僕は、四葉が来た目的でもある相談内容を促してから自分用のお茶を飲んだ。

 

「えっと………恋愛相談です

「ごほっ…ごほっ……は?恋愛相談?」

 

四葉には悪いが、まさかのキーワードが出てきたのでむせてしまい、聞き返してしまった。

 

はい……

 

僕の質問に恥ずかしそうに俯きながら四葉は答えた。

そうか…まあ四葉も女の子なんだ。恋愛相談くらいするだろう。

 

「それは良いんだけど、それだったら僕よりも他の姉妹にしたらいいんじゃないか?もしくはことりとか」

「その……姉妹のみんなには話しにくくって。それにことりさんにも…」

 

なるほど。まあ、今までもそんな感じの相談もあったし珍しいことじゃないか。

 

「いいよ。相談に乗ってあげる」

 

僕の言葉に四葉は顔を上げて笑顔を見せた。

 

「とは言っても、四葉へのいいアドバイスが出来なかったらごめんね。一応、生徒から同じような相談は受けてるんだけどね」

「やっぱり先生は、みんなに頼られてるんですね」

「歳が近いから話しやすいってだけでしょ。それで?相手は上杉?」

 

僕の質問に四葉は目を見開いて固まってしまった。本当に分かりやすい子である。

 

「えーーー!?なんで上杉さんが…!」

「いや、僕は四葉の交流関係知らないから。四葉がよく話してる男子と言えば上杉かなって。その反応だと当たったみたいだね」

「はうっ…!」

 

本当に素直と言うか正直者と言うか、反応を見ていて面白い。今も四葉は恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。

 

「いやー、そっかそっか。うん、いいんじゃないかな。上杉はいい奴だと僕も思うよ」

 

なんか最近も同じことを言ったような……ああ、ことりの上杉と付き合ってる宣言の時に同じことを言ってたな。まあ、実際は演技だったんだけど。

僕が言葉を続けるも、四葉は『うーー…』と唸りながらも顔を覆っている両手を元には戻さずにいた。

 

「で?何に悩んでいるの?告白のタイミングとか?」

「告っ!?」

 

僕の言葉にいちいち反応してくれるから見ていて本当に楽しい。今は覆っていた手をどけているが、顔は真っ赤である。

 

「まあ、告白までいかないならそれでもいいよ。四葉の話ちゃんと聞いてあげるから」

「ありがとうございます」

 

返事をした四葉は『ふぅ』と一呼吸入れると話を始めた。

 

「……実は私と上杉さんは昔会ったことがあるんです。五年前…修学旅行で京都に行った時に」

 

五年前の京都。修学旅行とくればあの子を連想してしまうが……そうか、上杉と四葉もそこで出会ってたのか。

確か二乃が言ってたな。上杉にも五年前に会った女の子がいると。二乃の話だと上杉はその女の子が好きだと。

あれ?じゃあ両想いなんじゃないのか?

だけど──

 

「上杉が五年前にある女の子に会っていることは知ってるよ。ある筋から聞いた話だけどね。でも、その話では、上杉は五年前の女の子に会ってさよならと言われたってことだけど」

 

僕の言葉に驚きの表情を見せる四葉。僕の言葉は不意打ちだったようだ。

 

「すごいですね。そんなことまで知ってるなんて。その情報源気になります」

「そこは秘密にさせてくれ」

 

そこでお互いに笑みを浮かべた。

 

「……あれは…今からお話しする内容に関係してきます。本当はあんなことしたくなかったのですが……上杉さんにあんな思いをさせてしまって…」

「……四葉も知ってるんだね。上杉が五年前のことを覚えているのを」

 

僕の問いかけにコクンと四葉は頷いた。

 

「上杉さんが入院している時に、五月と話しているところを聞いて」

 

僕とことりで上杉のお見舞いに行った時に、壁に寄りかかっていた四葉がいたが…そうか、あの時は五月と上杉の話を聞いていたのか。

 

「嬉しかったです。会った時は私のこと全然覚えていないんだって、ちょっと悲しかったですから」

「なら、そんな話をすればいいんじゃない?」

 

そんな共有できる思い出があるならかなりのアドバンテージだと思う。しかし、彼女はそれをしなかった。むしろ自分との思い出を忘れてほしいという思いを感じられる。

 

「……私は上杉さんと京都でお会いした時にある約束をしたんです」

 

フルフルと首を振った四葉は、僕の言葉に答えることなく話を始めた。

 

「あの時の私と上杉さんは自分の存在意義を見出だせていませんでした。でも、お互いにいっぱい勉強していい就職先に就職して家族を……上杉さんはらいはちゃんを。私はお母さんを楽してあげようって約束したんです」

 

なるほど。それで今の上杉が形成されたのか。

 

「ただ、その後ちょっとショックなことがありまして……旅館に着いた私たちは、上杉さんの迎えを待つことにしたんです。そこで、上杉さんが別の姉妹を私と勘違いして仲良くトランプをしてたんです」

 

『今でもそっくりなんだけど。当時のみんなは髪型も服装も一緒で全然見分けられなかったよ』

 

確か当時の五つ子の写真を見たことりがそんなことを言っていたな。そんな五つ子を、その日初めて会った上杉に見分けろというのも酷な話だ。とは言え、当時の四葉にとっては重要なことだったのだろう。

 

「実はそのことがあってからなんです。このリボンをつけるようになったのは」

 

そう言って四葉は自分のリボンに手を添えた。

なるほど、自分はここにいるっていう思いからつけるようになったのかもな。

 

「上杉さんとの出会いはそれきりでしたけど、それからは私勉強頑張ったんです。小学校の時に助っ人で行っていたサッカークラブの監督に、姉妹のお手本になるようにと言われたこともあり、自分が姉妹みんなのお手本にとも頑張りました。でも……」

 

そこで四葉はスカートをキュッと握りしめながら下を向いてしまった。

まあ、今の成績を見ればだいたいの予想が出来る。努力は実らなかったのだろう。

 

「お母さんも亡くなって、なんのために私は勉強を頑張ってるんだろうって思うようになったんです。そんな時、私は色々な部活で助っ人として活躍を始めたんです」

「そこは想像できるよ。いまもたまに部活の助っ人をしてるだろ。この間の陸上での活躍も凄かったし」

「いやー」

 

この間行われた駅伝の活躍を誉めてあげると、四葉は右手を頭の後ろに持っていき少し恥ずかしそうにしている。だが、すぐに悲しみを帯びた顔に変わっていた。

 

「でも、それが駄目だったんです。当時の私はその活躍を受けて優越感に浸ってたんです。私は姉妹のみんなとは違う。私は優秀なんだって......だから私に天罰が落ちたんです...」

「天罰?」

 

僕の疑問に四葉はこくんと頷いた。

それにしても四葉が皆とは違うと思うなんてな。あれだけ五人でいることが重要だと言っているのに信じられない。

 

「先生は知ってるんじゃないですか?私たちがどうしてこの学校に転入してきたか」

「あ...ああ」

 

一応、前の学校の成績などを確認をしているので、彼女達五つ子が以前の学校でどんな感じに過ごしていたのか資料には目を通している。

五つ子達の転校理由は、表面上では家庭の事情での転校。だが、本当は成績不振による落第。

五つ子達が以前いた黒薔薇女子は進学校だったため、成績が悪い生徒が落第することも珍しくないと聞いたことがある。うちの学校でさえ赤点を取っているのだ。前の学校で成績不振であったのは頷けるものだ。

 

「四葉。君の成績不振による落第が原因なんでしょ?」

 

僕の問いにこくんと四葉は頷いた。

 

「やっぱり知っていましたか」

「ああ。転校直前のテストの成績を見せてもらった時にね」

「……本当は私一人だけが転校するはずだったんです。だけどみんなが付いてきてくれたんです。自分たちは試験を通過しているのにも関わらずです。そして、その時に思ったんです。ああ…これがお母さんが言っていた『大切なのはどこにいるかではなく、五人でいること』なんだって」

 

そこで、先ほどまで沈んだ表情をしていた四葉に笑顔が戻ってきた。おそらく、今の四葉が形成された一つの出来事なのだろう。

 

「だからその時に決めたんです。こんな私のために付いてきてくれた姉妹のために、私はありたいって思ったんです。だから、私だけが特別じゃ駄目なんです。それに、上杉さんは私との約束を守ってくれているからこそ、あんなに成績が良いのに対して私は……こんなところ見せられないですよ」

 

そこで四葉の話は終わった。四葉は薄い笑みを浮かべて少し下を向いている。僕は一息入れるためにお茶を飲んだ。

 

「まあ、だいたいの事情は分かったよ。それで?僕にはどういう相談をしたいの?」

「そ…それは……実は私、最近変なんです」

「変?」

「最近になって、上杉さんのことを目で追ってしまうことが増えたんです。その……ことりさんとの噂があった辺りから」

「へぇ~…」

「な、なんです!そのにやついた顔は!」

 

なんだ、ちゃんと上杉のことを好きでいるんじゃない。

そんな風に思ってしまうと、自然と顔がにやけてしまった。

 

「いや、四葉はちゃんと上杉のことを好きなんだなって思ったんだよ」

「そ…そんなこと……」

「でも、ことりと上杉の噂が嘘だって分かった時、ほっとしたでしょ?」

「………はい…」

「なら、やっぱり四葉は上杉のことが好きなんだよ」

「で、でも。私には上杉さんを好きでいる資格はありませんよ。私のせいで皆には転校してもらうことになったんですから…それに、上杉さんとの約束も守れませんでした…」

 

誰もが思うことを四葉に伝えると自分は上杉を好きでいる資格がないと返ってきた。

資格ねぇ……

 

「四葉。これは僕の持論ではあるんだけど、人を好きになることに資格とか考えなくていいんじゃないかな」

「え…?」

「だって、人を好きになるのなんて理屈じゃないでしょ。まして、四葉は五年もの間上杉のことを想っていたんだ。だから、上杉と再会が出来て嬉しかったんだろ?」

「はい...」

「ならそれで良いんじゃないかな。もう一度聞くよ。四葉は上杉のことを好きなの?」

 

僕はまっすぐと四葉の目を見て確認した。その四葉もまっすぐとこちらを見て、自分の気持ちを答えてくれた。

 

「はい!私は、私は京都で会ったあの頃から、ずっと風太郎君のことが好きでした!」

「うん。いい返事だ」

 

四葉からの返答に満足した僕は、にっこりと頷いた。

四葉は素直になったからか、上杉のことを風太郎君呼びになってるし。

 

「そう言えばさぁ。一つ気になってたんだけど、もしかして姉妹の誰かが上杉のことを好きで、それで身を引いてたとかある?」

「え?」

「いや、姉妹のためにありたいって言ってたから、姉妹の恋の応援のために身を引いてたのかなって」

「......先生...鋭いですね...」

「なんとなくだよ。まあ、誰が上杉のことを好きかは別に言わなくてもいいけど、まだその子のために応援する気だったりする?」

「それは...!だって、私のせいでみんなで転校することになったんです。だったら、そんな私が恋の邪魔までする訳にはいかないかなって」

「ふ〜ん、なるほどね。でもさ、それって別の視点から見ると面白いことに気づけるよね」

「面白いこと?」

 

フッと笑みを浮かべながら僕が伝えると、四葉がなんのことだろうと言わんとしている顔でこちらを見ている。

 

「だってさ。四葉の落第がなかったら僕達出会うこともなかった訳じゃない?教師の僕が言うことでもないんだけどね」

「あ......」

「四葉が落第してなかったら、今も黒薔薇女子で五つ子は過ごしてたんじゃないかな。そうなってくると、上杉はもちろん、僕やことりとも出会えなかった。てことは、上杉を好きでいる姉妹の誰かも、上杉を好きになることもなかった。四葉が引き合わせてくれたんだよ。いやぁー、運命って言うのかなこういうのって」

「運命......」

「......実は僕もね、五年前の京都で君たち五つ子の誰かと会ってるんだよ」

「え!?そうなんですか?」

「ああ。その子ははぐれた姉妹を探しているって言っててね。多分、そのはぐれた姉妹って言うのが四葉のことじゃないかな」

「ですね...」

「で、その子との出会いがあったからこそ、今こうやって教師をやれてるんだ。また会えるとは思ってもいなかったけど、こうやって引き合わせてくれた。まあ、まだ誰かは分かってないんだけどね。けど、ありがとね、四葉」

 

僕の感謝の言葉を聞いた瞬間、四葉の目から一筋の涙が流れた。

 

「......私...ずっと自分のせいでって...考えていました...グスッ...けど...そんな風に...考えて...グスッ...いいんですね...」

「ああ。自分に負い目に感じることはないさ。姉妹のことを考える気持ちも大事だ。だけど、自分自身のことも考えてあげないとね」

「...グスッ......はい...!」

 

まだ涙は出ているが、とびっきりの笑顔を返された。

うん。四葉にはやっぱりこの笑顔がないとね。

 

「よーし!私も私の恋のために頑張るぞー」

「ああ。頑張れ。応援してるから、何かあれば言ってくれ」

「......では、さっそく聞いてもいいですか?」

「どした?」

「ことりさんって、上杉さんのことを好きだと思います?」

「ことり?」

 

ふ〜む。ことりが上杉をねぇ。どうなんだろう、恋人役をお願いするくらいなんだから信頼はしていることは確かだろうし、上杉の話をする時も結構楽しそうに話すからなぁ。

 

「正直分かんないかな。ただ、多少は脈ありだと思う」

「やっぱり」

「まぁ、もしことりがライバルになったら手強いだろうね。あれは、一度好きと思ったら一直線だからなぁ。多分、スキンシップも相当なものだと思うよ。それに加えて、今も上杉に弁当を作っているくらい尽くすタイプだし」

 

実体験なのでそこは自信を持って言える。まあ、ことりが今までに好きになった男が僕以外にいないっていうのがネックではあるが。

 

「自信なくしそうです...」

「ははは、まだことりが上杉を好きと決まった訳じゃないんだし。それに四葉が持っているものでアピールしていけば、きっと上杉も気づいてくれるさ」

「そうですよね。うん!頑張ります!」

 

そう意気込んだ四葉は残っていたお茶を一気に飲んでしまった。

相談されて、結果笑顔になってくれるというのも教師冥利に尽きるものだ。

そんな思いを持ちながら、僕も残りのお茶を飲むのだった。

 

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、四葉の風太郎に対する想いと過去のお話を書かせていただきました。
姉妹のために自分は風太郎の事を好きでいてはいけない。しかし、本当は付き合っていないとは言え、仲良くしている風太郎とことりの姿を見て、自分でもどうすればいいか分からなくなっての和彦への相談です。

次回の投稿は5月27日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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