「ん〜、美味しいぃ」
今日は先日二乃と約束をしていた鍋のお店に来ていた。
お店は僕の地元の鍋でもあるもつ鍋が食べれる店。たまにことりとも来ている店でもある。
「気に入ってもらえて何よりだよ。もつ鍋はやっぱり好き嫌いが多いからね」
「初めて食べたけどとても美味しいわ。もつも想像してたのと違うし食べやすわね」
本当に気に入ってくれたようで、取り皿に取った分を食べ終わるや否や鍋から次の分を取り皿についでいる。
「しかし思い切った行動に出たよね。鍋の店に、しかも二人で行く話は冗談かと思ってたよ」
「何言ってんのよ。本気に決まってるでしょ。それよりありがとね。ことりに夕飯のお願いをしてもらって」
「いや。どうせ、うちもことり一人になるからね。なら皆一緒に食べた方がいいでしょ」
「ことり何か言ってなかった?」
「相当驚いてたよ。え?なんで二乃?って」
「でしょうね」
思ってた通りになっていたことが嬉しかったのか、ニコニコしながら鍋を食べている。
「そっちはどうだったのさ」
「んーー…まあ、ある程度は驚かれたけど前から約束してたって言ったら追求は収まったわね。ま、何か言いたそうな子はいたけどね」
二乃は特に気にしていない風を装って食べるのを続けている。
「それにしても、よくこんなお店見つけてたわね」
「まあ、地元料理が食べたくなったらってことで探してはいたんだよ。ここは、地元に本店があるから知った味でもあったしね」
「ふ~ん…この味なんとか家で出せないかしら」
「うーん…家庭料理としての味であればネット上に作り方が出てるんじゃない?」
「そうよねぇ……ちなみに和にぃの実家で食べてた地元料理ってどんなのがあるの?」
「え?そうだなぁ……この間福岡から帰った時に一緒に食べた筑前煮なんかがそうじゃないかな。後は、水炊きっていうこれも鍋料理なんだけど、それも家で食べてたね」
「ふんふん…」
僕の言葉を聞きながらスマホで何やら調べている。理由は分かんないが福岡に興味でも持ってくれたのだろうか。
真剣にスマホを見ているので、声をかけないように僕はもつ鍋を食べ続けていた。
「男の胃袋を掴むってよく言うし、故郷の料理を食べさせるっていうのもありよね。この間の筑前煮ってことりも作れるの?」
「まあ、作れるんじゃない。実家でも母さんと作ってたし。こっちでは作ってるとこ見てないけどね」
スマホを見ながら何やら呟いていたが、今後の自分のレパートリーを増やしたいのだろうか。ことりに作り方を確認するのかもしれない。料理に関しては勉強熱心のようだ。
「……うん、参考になったわ。ありがと」
お礼を言った二乃は、また自分の取り皿に食べる分をついだ。
「何の役に立ったのかはよく分かんないけど、お役に立てて何よりだよ。そういえば、先日お父さんの中野さんと一悶着あったんだって?」
「ああ。あれね……」
実は先日、中野さんから五月に接触してきたそうだ。そして、今すぐ帰ってくるように言われたとのこと。
まあ、親であれば当然の行動でもある。
そんな中野さんの提案に五月は、上杉のマンションへの出入り禁止を解いてもらわないと飲めない、と反論した。
すると、中野さんは上杉の家庭教師復帰を飲む代わりにプロの家庭教師を付けて三人体制で行っていくことを提案した。
「正直、プロの家庭教師案は僕の中では賛否両論って感じかな。プロを付けることで君たちへのプラスにはなるだろうしね。まあ、今までの君達の頑張りを否定している点はあまりいい気分じゃないけどね」
「ふふっ、和にぃならそう言ってくれると思ってたわ。それにいざとなったら、私たちには和にぃが付いてるんだもの」
誇らしげに鍋を食べ続ける二乃。
まあ、頼ってくれるのには嫌な気持ちではないが、あくまでも僕は数学の教師。数学しか教えることが出来ないし、何よりここを勉強しておくといい、といったアドバスも出来ない。役に立ちそうで立てない微妙な立ち位置にいる。
「得意科目がばらばらか…」
「ん?どうしたの?」
「いや」
五つ子五人の得意科目がばらばら。そこに何か光明があれば良いんだが…まあ、今は何も思いつかないから、ここで話しても意味がないだろう。
そう考えた僕も鍋を食べ続けた。
ちなみに中野さんの提案には五月も渋ったそうだ。今の状況であっても頑張れていると。だがそこで、四葉の成績について追及されたのだ。今の四葉の成績では次の試験も危ういのではないかと。
本当に娘達の成績のことをよく見て分析をしている。
五人の中で唯一四葉だけが数学で赤点を取っている。あとほんの少しなのだが、数学という問題は途中で間違えてしまうとそれでバツになってしまう厳しいものでもある。まあ、だから苦手な生徒が多くいる訳でもあるんだが。だから次の試験も同じくらい取れるかというと、そうでもない。
他の教科の成績も見ておけばよかったかなぁ。
で、四葉の成績を間近で見てきた五月も流石に反論が出来そうになかったそうだ。
そんなところに自分なら出来ると、四葉が二人の会話に乱入したそうだ。自信を持って次の試験を今のメンバーで乗り越えられると言った四葉には喜ばしくも思っている。
しかし、その後に出た中野さんの提案には驚きである。
「まさか、次に赤点を取ったら東京の高校に転校とはね」
鍋から取り皿につぎながら信じられないといった雰囲気で話した。普通は考えられないような提案である。
「まったく、パパったら何考えてるのかしら」
「うーん…以前の学校からのうちへの転校は状況を知ってるからなんとなく分かってるんだけど。今回に関してはちょっとなぁ…何かうちの学校にいさせたくない理由でもあるのか…単に上杉の近くにいさせたくないのか…」
「後者だったら、ほんと大人げないわよね」
上杉の近くに居させたくないと思ったのは、中野さんが上杉を嫌っている発言があったからだ。
「しかし、僕もこの話は二乃達から話を聞いたことりからってな感じで又聞きで聞いてるけど、本当に中野さんは上杉が嫌いって言ったの?」
「本当よ。私は現場にいたんだから。はっきりと嫌いって言ってたわ」
「ふーむ…」
まあ、今中野さんの真意を考えててもしょうがないか。
なんにせよ、ここまで言えばうちに戻ってプロの家庭教師の元、勉強に打ち込むと思った中野さんであったが、五月からはうちに戻ることもプロの家庭教師を付けることも拒絶の返答があったのだ。
「あの時は私もびびったわ。まさか五月の口からパパの提案を断るとは思ってなかったから。いい意味でも悪い意味でも、あの子って真面目だから」
ソフトドリンクで頼んでいたジンジャーエールを飲みながら、二乃はその時の事を思い出しながら答えた。
「そこで中野さんは帰っていったんだっけ?」
「そうよ。で、上杉も一緒にいたからそこで四人合流したって訳」
そうなのだ。実はその現場には上杉もいたそうだ。途中、中野さんの前に出ていこうとしたところを二乃が抑えたそうだ。なんでも、四葉の赤点回避が出来ないという中野さんの言葉に頭にきたようである。
「上杉、相当張り切ってるんだって?」
「ええ。全員揃って笑顔で卒業。それしか眼中にないそうよ。だから、赤点回避出来なかったら転校も眼中にないんだって」
「頼もしい限りじゃないか」
「そうね」
口角を上げながら二乃は答えた。おそらく二乃も上杉のことを信頼しているのだろう。
そんな訳で、今回の試験では何がなんでも赤点回避しなくてはならずということで、五つ子、特に五月が試験に向けて張り切っているそうだ。
そういえば昨日も分からないところを電話で聞いてきたな。ま、勉強を取り組んでくれるのであれば、教師としては何も言うことはないな。
「ふ~…美味しかったわぁ」
「ちょっと多いかもって思ったけど平らげたね」
「ええ。最後にちゃんぽん麺を入れたのも独特で美味しかったわ。一つ勉強させてもらえたわね」
「家で作る気なの?」
「そうねぇ…挑戦したい気持ちはあるわね。調べたらレシピもネットにあがってるしね」
「まあ、人数が多いのとこの時期とで鍋はいいかもしれないね」
「作る時は味見してほしいから和にぃやことりも一緒に食べましょ」
「分かった。その時はご相伴にあずかるよ」
「ふふっ、期待しててよね」
「ああ」
その後も雑談を交えた後帰宅することにした。
二乃と二人でマンションまで帰ってきた。今は目の前で二乃が玄関の扉に鍵をさそうとしているところである。
「あっ…!そうだったわ。大事なことを忘れてた」
「?まだ何かあった?」
思い出したような顔で二乃は振り返ると、僕に近づき左手の人差し指を立てて、僕の胸辺りにトンと当てた。
「…………好きよ、和にぃ…」
「……は?え?何?」
え……二乃は何て言った?好き?僕を?
突然の告白に僕の頭はついていけていない。
「返事なんて求めてないわ。どうせ和にぃの返事は決まってる。対象外なら無理にでも意識させてやるわ」
「──っ!」
顔を赤くしながらもまっすぐにこちらを見ている二乃。これからも本気を感じられる。
「教師だからとか生徒だからとか関係ない。和にぃだから好きになったんだから」
「二乃…」
そんな二乃の言葉を僕はまっすぐに受け止めた。
「だから、これからの私を見てなさいよね!」
「……分かったよ」
僕の返答に満足したのか、二乃はニッコリと笑顔を見せるのだった。
二乃の突然の告白の後、家に帰るとお客さんが来ていた。
「ただいまぁ」
「おかえり兄さん」
「…おかえりなさい、先生…」
帰ってそのままダイニングまで向かうと、ちょうどキッチンも見えることから、キッチンで作業をしていることりと三玖の姿を見つけた。
「ただいま。三玖来てたんだ」
「う…うん」
「三玖と一緒にお菓子作ってたの」
もう作り終わったのか、二人は調理器具などを片付けている。
「こんな時間に?」
「昼間は勉強してたから。兄さんもいなかったしここを使わせてもらったの。チョコだけど、兄さんも後で食べる?」
「ああ。いただくよ」
「了解。じゃあ、兄さんの分以外は三玖が持って帰っていいから。少ないけどみんなで食べて」
「わかった」
片付けが終わった二人はチョコが固まるのを待つためか、ダイニングまで来て僕の向かいに座った。
「それで?お鍋はどうだったの?」
「ああ。美味しかったよ。久しぶりに食べたからね」
「もつ鍋だったよね。二乃は食べれたの?」
「うん。普通に美味しいって言いながら食べてたよ。ちゃんと行く前にも確認したしね」
「そっか…あーあ、私も食べたかったなもつ鍋」
本当に残念そうに話すことり。
まあ、ことりももつ鍋好きだからな、仕方がないか。
とは言え、今回は二人でと二乃の強い要望があったから、連れていけなかったんだよね。最初は、一人鍋の予行練習かなって思ってたけど、さっきの告白のことを考えると、もしかしてと考えてしまう。鍋を食べに行く話になったあの時から僕のことを?とも考えてしまうのだ。
そんな時ふと三玖の顔に目が行った。
さすが五つ子、三玖の顔を見ると先ほど告白してきた二乃の顔がちらつく。
でも……よーく見るとやっぱり違うんだよなぁ。まあ、髪型が違うっていうのもあるんだけど、何て言うか雰囲気が違うって言うか、他の姉妹との違いを感じることが出来る。
「あ…あの……先生……さすがに恥ずかしい…」
「え?」
少しだけ見るつもりだったのだが、かなりじっと見ていたようだ。僕に見られていた三玖は、顔を赤くして下を向いてしまった。
「あ、ああ…ごめんごめん。ちょっと考え事してたよ」
少しのつもりが結構な時間、三玖の顔を見ていたようだ。反省である。
「どうしたの?三玖の顔を見て考えごとなんて。三玖のこと見とれちゃった?」
「ふぇ…!?」
ことりの言葉に三玖も顔を赤くしてしまった。
「いや、ただこうやってよく見ると姉妹の違いがあるんだなって思っただけ。何て言うか、雰囲気って言うか…」
「へぇ~…私はまだ、髪型とかアクセサリーとかでしか見分けられないけど。兄さんは教師として色んな生徒を見てきたから、そういうのが自然に身に付くのかもね」
そう言いながら、ことりも三玖の顔をじっと見ている。三玖はまた恥ずかしそうである。
「ま、ほどほどにしとこうか。三玖もいたたまれない気持ちだろうしね」
「…と。そうだね。ごめんね三玖」
「ううん。少しだけ恥ずかしかったけど、二人なら問題ない」
その後もチョコレートが固まるまで、三人で雑談を交えながらゆったりとした一時を過ごすのだった。
三玖が隣に帰った後。お風呂に入り、後は休むだけとなった時間にメッセージが届いた。どうやら五月からのようだ。
『明日なんだけど、私と行ってほしいところがあるの』
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、和彦と二乃の鍋の店での語らいから二乃の告白を中心に書かせていただきました。
いやぁ、二乃の好きな人は風太郎と和彦の二人でかなり迷いました。正直な話、途中までは風太郎と考えていたくらいです。
あと、二乃がもつ鍋食べれるのか分からなかったので、食べれる前提で書かせていただきました。二乃の嫌いな食べ物は漬物なので、もつはいけるかなと。
次回の投稿は6月1日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。