少女と花嫁   作:吉月和玖

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69.来訪

「母さんから電話なんて珍しいやん」

『たまにはね。と言うか、あんたも電話くらいしてきなさいよ』

 

夕食も終え、ことりが片付けをしてくれているのでリビングでゆっくりしているところに母さんから電話がかかってきた。

 

『ことりは頻繁に連絡してくれとうよ』

「だから良いかなって。メッセージは送っとうやろ」

『文章じゃなくて、声が聞きたいのよ』

「はいはい、以後気を付けますよ。で?何か用事があるっちゃろ?」

 

このままだと愚痴が続きそうだったので、無理やり路線変更をした。

 

『まったく…そうそう、明後日結愛ちゃんがそっちに行くから迎えに行ってくれん?』

「え?結愛ちゃんが?でも明後日も学校やろ?」

 

リビングに掛けているカレンダーを見ながら答えた。

うん、明後日も平日である。

 

『受験のためよ。結愛ちゃん、旭高校受けるから』

「………………は?」

 

今なんと?結愛ちゃんが旭高校を受験する?

 

「いやいや!聞いてないんだけど!」

『そりゃあね。サプライズにしたかったらしくて口止めされてたもの。だけど、さすがに試験本番の日の寝泊まりは一人にしたくないからって、立花さんがね』

 

ならまず受験することを止めなさいよ。

そうツッコミを入れずにはいられなかった。

 

「はぁぁ……どうせ飛鳥あたりの発案やろ、サプライズって」

『ふふふ…さすがよく分かってるじゃない』

 

たく…何考えてるんだか。

 

『そういう訳だから、二泊三日の間面倒見てあげてね』

「わかったよ……しかし、相変わらずの信頼感やね、立花のおじさんとおばさんは。普通、大事な娘を男の家に泊めんやろ」

『そうねぇ。いつも、娘達には和彦君に嫁がせたい、て言ってるくらいだからね』

 

重いんだが……

 

「はぁ…まあいいや。明後日からの件は問題ないけど、もしかして結愛ちゃんが旭高校受かったらうちで預かるってことはないよね?」

『もちろんお願いするわよ。それが条件で受けることにしたんだから』

「なぜ前もって相談せんの!うちは部屋が二つしかないから空きないよ」

『ことりと結愛ちゃんが二人で利用でいいじゃない。あの子も居候みたいなもんでしょ』

「いやまあ、ことりが良いなら良いんやけどね」

『なら、ことりの方は和彦に任せるから。よろしく』

「あー…はいはい。しかし、なんでまた結愛ちゃんは旭高校を?」

『それは本人から聞きなさい。じゃ、そろそろ切るわね』

 

そこで電話が切れた。はぁーとため息を漏らしながら天井を見上げた。

 

「どうしたのお兄ちゃん?お母さんからだったんでしょ、電話」

 

片付けを終えたことりが僕の隣に座りながら心配そうにこちらを見ている。

 

「ああ。とんでもないこと言われたけどね…」

 

そこで先程母さんと話した内容をことりに伝えた。

 

「えーー!?結愛ちゃんが!?」

「ああ……て訳で、もし結愛ちゃんが旭高校に通うことになったら、ことりの部屋を二人で共有をお願いね」

「うーん…まあ、ほとんど寝る時と勉強する時しか使ってないから問題ないけど。結愛ちゃんはそれでいいの?」

「一応、うちで下宿する事が旭高校を受験する条件みたいなことになってるから、本人的には問題ないんじゃない」

「そっか…あーあ、せっかくのお兄ちゃんとの二人っきりの空間だったのになぁ」

 

結愛ちゃんと部屋を共有することには特に反対意見がないように見えることりではあったが、二人暮らしが終わることに心底残念そうに呟いている。

 

「あ、そうだ!私がお兄ちゃんと相部屋になって、結愛ちゃんに一人で部屋を使ってもらうなんてでもいいよね?」

「言うと思ったよ…」

 

実際にはその案も考えたこともあった。だが──

 

「そんなことしたら、ただでさえ申し訳なく思ってる結愛ちゃんが、さらに萎縮しちゃうでしょ。それに僕にだって持ち帰ってくる仕事もあるんだ。それを二人の前でする訳にはいかないよ」

「やっぱそうだよねぇ」

 

僕の説明に意外にすんなりと諦めたことり。

こういう日もあるもんだな。出来ればずっと続いてほしいものだ。

 

でも、結愛ちゃんがいない時とか、寝てる時とかでも全然アタックできるよね。やろうと思えば、布団にも潜り込めるだろうし。うん!

 

と、思ったが束の間。なにが『うん!』なんだよ。顎に手を当てて小声で喋ってるかもだけど、全部丸聞こえだからね。

 

「それにしてもこっちで受験するなんて思い切ったね」

「ああ。そういうのはことりだけで勘弁してほしかったんだけどね」

「ふふん♪愛を感じたでしょ?」

「まあ、確かに感じたね」

 

とても重い愛をね……

 

「いやーん♪もう、お兄ちゃんったら♪」

 

上機嫌そうにことりは僕の腕に自分の腕を絡めながら近づいてきた。

そういうところだよ。別に嫌ってことはないんだが、これが本当の彼女だったらもっと嬉しいんだろうな。

ふと、そこで最近僕に告白してきた二乃と芹菜さんを思い浮かべた。

うーーん…どっちもこういう行動を取るところを想像出来ないんだよなぁ。芹菜さんはそういうキャラには見えないし、どっちかと言うと自然に寄り添ってくるみたいな感じが想像出来る。

二乃は…………駄目だ。まったく想像できん。告白されたからといっても、今は赤点回避に集中的な周りの雰囲気からか、二乃からアプローチがある訳でもない。いつも通りなのだ。だから、笑顔で寄り添ってくるところが想像出来ない。どっちかと言うと、『あんたが寄り添ってほしそうだから近くに来たんだからね』的な感じは想像出来る。所謂(いわゆる)ツンデレってやつか。

そんな光景を想像してしまい、つい笑みがこぼれてしまった。

 

「ふっ…」

「どうしたの?」

「ああ、いや…ちょっと思い出し笑いをね」

「ふ~ん……今、他の女の子のこと考えてたでしょ?」

「……」

 

なんで分かるんだ?

図星をつかれた僕は返す言葉もなかった。

 

「そういうの、すぐわかるんだからね。本当は嫌だけど、他の女の人と話すときは注意しなよ?て訳で、今日の夜はお兄ちゃんには私と添い寝をしてもらいます」

「どういう理屈!?」

「私とお話ししてるのに他の女の子のことを考えてたからだよ」

 

そう言いながらことりは、ますます僕に近づいてきた。

 

「あ、もちろんキスでもいいんだよ?」

 

自分の唇を指差しながら提案することり。

なんだよその二択は!

 

「はぁぁ…添い寝でお願いします」

「ちぇっ…」

 

添い寝の選択をすると、ことりが残念そうな顔をした。

いや、この二択なら決まってるようなものだろ。

 

「それより、結愛ちゃんの受験のこと黙ってるように提案したのって飛鳥なんだよね?」

「ああ。母さんからはそう聞いてるよ」

「まったくもう。相変わらずいい性格してるよ」

 

そこは否定できない。

 

「うーん…結愛ちゃんがこっちに来る理由は何かな?考えられるとしたら、やっぱり私かお兄ちゃんの傍にいたかったから、かな」

 

ようやく離れてくれたことりが右手の人差し指を顎に当てながら結愛ちゃんがこちらに来る理由を考えている。

 

「後は僕の予想であるんだけど…飛鳥ってことりと同じ大学受験するんだろ?」

「うん。この間そんな話をしたよ」

「てことはだ。ことりはこっちの大学を考えてるだろうし、飛鳥もこっちに来るってことさ」

「あ、そっか。そうなるよね」

「そうなると、結愛ちゃんが向こうで一人になる」

「なるほど。それで先駆けて高校受験を機にこっちに来るってことか…」

 

僕の予想にことりもある程度は納得してくれたようだ。

といってもあくまでも予想の範囲なのは間違いない。後は、本人に聞けば解決するだろ。さすがに明後日は試験前日だから聞けないだろうけど、いずれ聞いてみよう。

話はそこまでにして、僕とことりは寝ることにした。

ちなみに、添い寝の件はうやむやにしようとしたが、それをことりが許す訳でもなく、結局その日はことりと二人で眠るのだった。

 


 

結愛ちゃんを迎える当日。

折角なので有給を取って休んだ。今までほぼ使っていなかったので、問題なく休みを取ることが出来た。

なので今は、ことりを見送った後部屋の掃除をしていた。

 

ヴーー…ヴーー…

 

そこに、ズボンのポケットに入れていたスマホに着信が入った。どうやら電話のようだ。

立川先生?

 

「おはようございます。どうされました?」

『あ、和彦さん。すみませんお電話してしまって。その、今日になってお休みと聞いたので、お体でも崩されたのかと思いまして…』

「あー!すみません、ご心配をおかけして。僕は大丈夫ですよ。今日はちょっと地元から知人が来ることになったので、迎えに行かなければ行けなくなったんです」

『そうなんですね。ほっとしました』

 

電話の向こうからは本当に安心したような声が聞こえてきた。

 

「ありがとうございます。そこまで心配していただいて」

『そんな!好きな人の事なんです。心配くらいしますよ』

 

そう言われるとこっちまで恥ずかしくなってくる。本当にまっすぐな人だ。

 

「そ…そうですか…あはは……まあ僕も芹菜さんが急に休んだら心配すると思いますよ」

『ふふふ、きっと和彦さんならそう言ってくれると思いました。その……もし私が風邪ひいたらお見舞いに来てくれますか?』

「え?それは、まあ…風邪をひいた時に一人は心寂しいですからね。芹菜さんが来てもいいと言うのであれば、お見舞いには行きますよ」

『本当ですか!?じゃ…じゃあ、お粥を作ってくれたりとか、その……あーん、とかしてくれちゃったりとか…きゃー!』

 

あー……芹菜さんの夢見る少女モードが発動しちゃったよ。周りに人がいなければいいけど。

 

「ま、まあ…あーんはさておき、雑炊くらいなら作りますよ。それより、授業は大丈夫なんですか?」

『そ、そうでした!ではまた明日お会いしましょうね』

「ええ。お疲れ様です」

 

そこで電話は切れた。先程までのやり取りがつい可笑しくて笑みがこぼれてしまった。

さて!残りの掃除も頑張りますか!

そう意気込み、結愛ちゃんの迎えの時間まで掃除に洗濯と取りかかるのだった。

 


 

~中野家~

 

今日も今日とて、学校が終わったその足で中野家の勉強会が開催されていた。五つ子も勉強に励んでいるのだが──

 

「──ということで、ここでは作者の気持ちを答えるというより、読者のお前らが感じたことを書くわけであって……」

 

風太郎が皆の前で力説をしているが、当の五つ子が全員疲れた表情でいた。

 

(くそっ…行き詰まった!いつかは来るだろうと思ってたが、教師としての俺のノウハウの限界…何がわからないのかわからない!どう教えたらいいのかわからない!くっ…IQの差とはなんと残酷…)

 

「よく分からないけど、失礼なことを言われてる気がするわ」

 

そんな五つ子を見て風太郎は自分の教師としての限界を感じていた。それと同時に五つ子を馬鹿にもしているのだが、悔しがる表情から二乃にはお見通しのようであった。

 

「…と言うか、問題を解く以前に…みんな集中力の限界だよねぇ…」

「やっぱりそうだよねぇ」

「連日勉強漬けですからね…」

「わ、私はまだ出来るよっ!」

 

勉強をする依然に集中力の限界だと、げんなりとした表情で一花が話すが、それにいち早く気づいていたことりも同意した。

五月の話すように、三学期に入ってからは連日勉強漬けが続いているのだ。普段から勉強を苦手に感じている五つ子には酷なものだったのかもしれない。

 

「むむむ…」

 

そんな中、風太郎は先日たまたま本屋で会った一花に買ってもらった、『良い教師になる為のいろは』という本を読んでいた。

 

(だがその成果は出ている。確実に各科目30点を取るために、あと一押し欲しいところだが…)

 

パラパラとページを捲っていく風太郎に一つの文字が目に入った。

 

『詰め込みすぎは逆効果─』

 

「時には飴も必要か…」

 

そして風太郎は右手の人差し指を立てて前に突き出し、ある提案をした。

 

「「「「「「?」」」」」」

「決して余裕があるわけではないが…明日はちょうど学校が休みだからな。一日だけオフにしよう」

 

本来であれば、学校が休みの日も勉強をするのだが、今の状況を見て提案したようである。風太郎にしてはよく出来たものである。

 

「オフかぁ…いいかもね」

「私は明日仕事も休みだし、せっかくだからみんなで出掛けようよ」

「それはいいですね」

 

風太郎の提案に賛成したことりの言葉に続いて、自分の仕事が休みだからと、ここにいるメンバーで出掛けないかと一花が提案した。それには五月もすぐに賛成の声をあげた。

 

「風太郎君はどこ行きたい?」

「ん?俺か?俺はどこでも……と言うか、俺も行くのかよ」

「あんたもたまには勉強以外のことをしなさいよ」

「うーむ…」

 

オフにすると提案したものの、自分は家で勉強を考えていた風太郎にしてみれば行き先などどこでも良かった。

 

「どこかないの?行きたいところ」

「……じゃあ…遊園地とかいいんじゃないか?」

 

催促することりに対して、風太郎は遊園地に行くことを提案した。

 

「ふふ、オフの行き先が遊園地だなんて、フータロー君もベタだねぇ」

「他に行きたいとこあったなら言えよ」

「いいんじゃないかな。気分転換には」

「ですね。私達も久方ぶりなので楽しみです」

「ママに連れていってもらった以来かしら」

「楽しみ…」

 

皆の頭の中は明日の遊園地の事でいっぱいのようなので、今日の勉強会はお開きとなった。

 

「そうだわ。ことり。先生って今日風邪でもひいたの?休んでたみたいだけど」

「そういえば、今日の数学は自習だったね」

「私のところもそうだったよ。結構心配してたんだぁ」

 

勉強会がお開きになったこともあり、二乃は今日和彦が休んだことに、少し心配そうに理由をことりに聞いた。その二乃の言葉に一花と四葉も続く。

 

「あー…そっか。三玖には説明したんだけど。今日は地元から私と兄さんの知り合いが来ることになって。で、そのお迎えに兄さんが行ってるの」

 

和彦の事を説明していなかったことを思い出したことりは、申し訳なさそうに説明をした。

 

「お知り合いの方ですか?」

「うん。ほら、前に私の友達の姉妹のこと話したじゃない?その妹の方が受験のために来るんだよ。明日は旭高校の入学試験でしょ?」

「そうだね。それで私たちは休みな訳だし」

 

明日は自分達の通う旭高校の入試があることを確認すると一花がそうだと答えた。

 

「──て、ちょっと待ちなさいよ!その子、わざわざあんたたちの地元からここに来るの!?」

「うん……私も驚いちゃった」

「ことりは…まあ、先生の妹だからまだわかるけど…」

「そうですね。その方はなぜ旭高校を受験するのでしょうか」

「そうだな。言っちゃあなんだが、うちの高校に県外から受験するほどの魅力はないぜ」

 

もっともな疑問を五つ子と風太郎は持った。

 

「うーん…先生とことりさんの傍にいたかったから、とかではないですか?」

「私も兄さんも本人から聞いてないからなんとも言えないけど、多分そんなところだと思うよ。姉の方が私と同じ大学受けるみたいだから、こっちに来るのもあると思う」

「ふーん、なるほどね。あんたたち兄妹だけじゃなく、自分の姉までもいなくなってしまうと思っての行動か…たいした行動力だわ」

 

ことりの説明に納得した表情で二乃が話した。他のメンバーも概ねその内容で納得しているようである。

 

「でも、そっか…明日は入試だから先生もお仕事か…」

「そうですね。せっかくですから、先生もお誘いしたかったのですが仕方ありませんね」

「ま、明日は私たちだけで楽しんで、また機会があれば先生に連れてってもらおうよ」

「うん…!」「ええ!」

 

残念そうに話す三玖と五月に対して、一花が明日は楽しもうと伝えると二人は笑顔を返した。

その後も明日の計画を立てながら七人は時間を過ごすのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、和彦の地元にいる立花姉妹の妹が受験のために来ることになったお話です。
そしてこのお話から和彦の博多弁を解禁しました。
自分が福岡の人間なので、今まででどこかおかしな文章があったかもしれませんが、僕の中ではこのお話から博多弁の解禁となります。
電話の相手が母親だったために話し方が崩れたということになります。
普段は博多弁で話さないように気を使っているので、ことりの前でも博多弁は使いません。そんな和彦に合わせて、ことりも標準語を使っています。

次回の投稿は6月11日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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