07.甘え
「へぇ~、あの後にそんなことが…」
中野家裁判に参加をしていたことりが帰ってきたので、夕飯で作っていた焼きそばを二人で食べながら今日あった出来事を話していた。
「しかし、二乃さんの上杉への気持ちの表れはそういった経緯があったのか」
姉妹への想い故の行動ってことか。
これは少しずつでも心を開いてもらうようにしていくしかないか。
「それにしても、上杉って面倒見良いんだね」
「うん。それは私も思ったよ。普段人と話してるところを見たことないから尚更かな」
「これを機に交流を持ってくれたらいいんだけど、まだ難しいかな…」
「うーん…そっちもまだまだ時間がかかるかな。そうだ。風太郎君といえば、妹がいるんだって。小学生だって言ってた」
「へぇ~、それで面倒見が良いのかもね」
「うん。それに風太郎君、妹の話をするときはとてもいい顔してたから溺愛してるのかもね」
「はぁ~、それは見てみたいかも」
「ふふふ、お兄ちゃんも私のこと溺愛してもいいんだよ?」
「十分愛情込めてるでしょ」
「えー、最近は冷たいじゃん。一緒に寝かせてくれないし」
僕の言葉に唇を尖らせて文句を言ってくる。
どこの世界に女子高生の妹と寝る大人のお兄さんがいるんだ。そんな兄妹いたらちょっと引くよ!
「もう高校生なんだから1人で寝なよ」
僕は軽くあしらうがことりは全く引き下がらない。
「やだー。だって寂しいんだもん。昔は一緒の布団で眠ってたし、私は全然気にならないよ!」
あー、そう言えばそうだったね。ことりが小学生までは一緒のベッドで眠っていたっけ。中学に上がったらさすがに一人で寝るように言ったけど、結局ちょこちょこ一緒に寝てたなぁ。
だけどさすがに高校二年生にもなった妹と一緒に眠るなんて……
「ねぇねぇお兄ちゃん?今日久しぶりに一緒にお風呂入らない?私お兄ちゃんとお話ししながら入りたいんだけどぉ」
更にとんでもない事を甘えた声で発し、僕の服を引っ張ることり。その表情はとても可愛らしく思わずドキッとしてしまうほどだった。
「いやいや。さすがにお風呂はまずいでしょ」
当然のように断りを入れる。
だってさすがにアウトだよ!倫理的にまずいって!それに妹の裸を見ることになるし……。うん、それだけはダメだよね。
「大丈夫だよ!だって今は私たち以外誰もいないじゃない」
「いや、それ関係ないから」
真顔で言う僕に彼女は「ちぇっ」っとつまらなさそうな顔をした。
諦めてくれたかなと思い安堵する僕だが......
「じゃあさ!せめて一緒に寝るだけでも。お願い!」
顔の前で手を合わせてお願いしてくることり。どうしようか迷っていると、今度は上目遣いをしながらこちらを見つめてきた。
そんな彼女を見て思わずため息が出てしまう。
まぁ仕方ないか。いつものことだし。それに断れば断ったでもっと面倒くさいことになりそうだし……
「はぁぁ、分かったよ」
結局僕は折れることにした。すると途端に彼女の顔がパァッと明るくなる。
まったく調子いいなこの子は……
でもこういうところも嫌いではない。むしろ好きである。だからこそついつい甘くなってしまう自分がいるのだ。
「やったぁ~!ありがとお兄ちゃん!」
はしゃぐことりを尻目に再び大きなため息をつく。
しかしこれはこれで幸せな日常かもしれないなと思う自分もいた。
時刻は既に夜の11時前になっていた。そろそろ眠くなる時間である。ちなみに今僕らは何をしているかというとリビングにあるソファーに座ってゆったりとした時間を過ごしていた。
2人ともパジャマ姿である。そして隣のことりからはシャンプーの匂いなのか甘い香りも漂ってくる。とても落ち着く良い匂いだ。これがいわゆる女子特有の匂いというやつだろうか。なんとも不思議な感じがする。
そんな中、僕は横にいることりをチラッと見る。彼女はテレビに映っているドラマに夢中になっているようだ。その瞳はキラキラと輝いておりいかにもその話に集中していることが伺える。
そんな様子にクスリとする僕。
こうして見るとやっぱり普通の可愛い女の子なんだよな。家での普段の言動とか行動のせいでちょっと残念な部分もあるけど……
それでもやっぱり普通にしていれば容姿端麗・頭脳明晰な美少女なのだ。しかも料理も上手で家事も手伝ってくれるし文句のつけようがないほどの完璧ぶり。こんな子がいたら世の男子諸君は間違いなく惚れてしまうだろう。
まぁ、実際校内にファンクラブがあるわけで……そこまで行くとただの人気者というよりはアイドルのような扱いになる。それもかなりの熱狂的な人気を誇っているらしい。
まぁとにかくモテるってことだね。うん。すごいよ本当に……でもこれだけ美人なら納得かも。
などと考えていると突然彼女が話しかけてきた。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん?何?」
視線を前に向けるといつの間にか彼女は僕の方を見ていた。少し距離が近いような気がするが……気のせいだろうか? 僕の返事を聞いた彼女は満面の笑みを浮かべながら口を開いた。
「おやすみのちゅーして」
「……はい?」
一瞬耳を疑った。
いや待て。何を言っているんだ?どうしていきなりそんなことを言い出すんだ? 頭の中に疑問符しか浮かんでこない。
困惑している僕の手を握りそのまま自分の方へと引き寄せてくることり。
そして僕の耳にふぅーっと優しく息を吹きかけてきた。
「うひゃあっ!?」
思わず声を上げてしまう僕。そんな姿を見て彼女はニヤニヤしていた。完全に楽しんでるよこの子……
「ねぇお兄ちゃん?早くちゅーしてくれないと寝れないよぉ」
「ちょっ……」
「ねぇ、お兄ちゃん…」
頬を赤く染めながらキスしようと顔を近づけることり。僕はことりのおでこに手を当てる。
「はいストップ!」
「むぅ……じゃあ代わりに頭を撫でて!ぎゅ~としてから背中ポンポンしてくれるだけでもいいから!」
「はぁぁ…もう今日はどうしたのさ?いつも以上に甘えてくるけど」
さすがに我慢できなくなった僕は彼女に問い詰めることにした。
普段はここまでベタベタはしてこないし、一緒にお風呂に入ろうとか言ってきたりしない。いや、何度かあったか……
まあなんにしろ、何かあったのかと思ってしまうほど今日の彼女は積極的だ。
「別にぃ~、なんでもなぁい」
しかしそう答えるだけでことりは理由を言わなかった。それどころか僕に抱きついてくる始末。
「いや、だからね……」
呆れた口調で言う僕だが......
ギュッとことりの抱きしめる力が強まった。
「まったくとんだ甘えん坊なお嬢さんだよ」
そう言いながらことりの頭を撫で背中に手を添えてあげるのだった。
次の日。僕は立川先生に昨日もらった小説を自室で読んでいた。
コンコン...
「はーい」
扉のノックの返事をすると、扉からことりが顔を覗かせている。
「珍しいね、お兄ちゃんが小説読んでるなんて。歴史物?」
「いや。恋愛物だね」
「え!?それこそ珍しいよね。どうしたの?」
驚いた表情でことりが近づいてきた。
「確かに僕が好んで読まないジャンルだけどね。昨日立川先生に会って勧められたんだよ」
「立川先生...?」
立川先生の名前を聞いた途端なぜか雰囲気が変わった。
「いつ立川先生に会ったの?もしかして約束でもしてた?」
「どうしたことり?怖いよ」
「いいから答えて!」
僕の言葉に問答無用といった感じで聞いてくる。
「た、たまたま会ったんだよ。ことり達と別れた後にスーパーで買い物してたらね」
「ホントにぃ~~?」
「ホントだって。ここで嘘ついてどうすんのさ」
「むぅ~~...それもそうだね」
納得したのかしてないのか微妙な反応のことりは、とりあえず近くまで寄せていた自身の顔を離して考える仕草をしている。
「前から思ってたんだけど、ことりって妙に立川先生に機敏だよね。何かあった?」
「別に私と立川先生と何かがあったわけじゃないよ。ただ......」
「ただ?」
「......っ!お兄ちゃんと立川先生が妙に近いの!二人に何かあるんじゃないかって心配なの!」
「ぷっ......あははは。何?僕と立川先生が付き合ってると思ってるわけ?」
ことりの発言につい笑ってしまった。
「ちょっとぉ、笑うなんてひどくない?」
「ごめんごめん。まさかそんな風に思われてるとは思わなくて」
笑いながら謝ると少し拗ねる素振りを見せることり。
「まぁ、そう思う気持ちも分からなくもないけどね。実際あの人すごく良い人だし」
「ふーん……。じゃあお兄ちゃんは立川先生みたいな人が好みなんだ」
なんでそうなる。
「いやいや。そういう意味じゃなくて人として好感を持てるって話だよ」
「それってやっぱり好きってことだよね?」
この押し問答長くなりそうだなぁ。
「はいはい。僕の好みの話とかどうでもいいから。それより何か用事があったんじゃないの?」
「むぅ~、話を反らされた。まあいいや。私今から出掛けてくるけど、お兄ちゃん今日の夕方からは用事とかないよね?」
「今日の夕方?とくにないけど」
「良かったぁ。今日は花火があるから行こうよ」
「あぁ…そういえば今日だっけ。僕なんかじゃなくて友達と行ってくればいいのに」
「そこは大丈夫。三玖からお誘いがあったから、姉妹の皆と行くよ」
「なら、尚更僕は行かない方がいいでしょ。教師となんて行きたくないだろうし」
教師と花火大会。うん、僕だったらお断りだな。
「大丈夫だって。三玖に聞いたら気にしないって言ってたから」
「三玖が?」
「うん。ねぇ行こうよぉ~~」
ことりが僕の腕をとってブンブン動かしてくる。
「分かった分かった。行くからブンブンやめて」
「やったー!また連絡するから、絶対予定入れないでよ」
「分かったよ。あ、もう少ししたら出掛けるから現地にはそのまま行くよ」
「はぁーい」
そう返事をしたことりはそのまま出掛けていった。
外での用事も終わらせて街中を歩いているとふと大型ゲームセンターの近くで足が止まった。
学生の頃はちょこちょここういうところに来ていたが、教師になってからは全く来なくなったなぁ。
そんな風に考えて建物を眺めていると見たことがある人物が出てくるのを見かけた。
あれって...でも...
ちょっと気になったので声をかけることにした。
「上杉。それに五月も」
僕に声をかけられた二人は、見られてしまったと思っているような顔で振り返った。
「せ、先生。こんにちは」
「どうしてここに?」
「ん?たまたまだよ。別の用事があって、たまたまここを通りかかったんだ」
上杉の質問に答えてあげる。
「それにしても、二人でゲームセンターなんて随分仲良くなったんだね」
「「ち、違います!」」
「お、おう...」
僕の質問に対しては息の合った呼吸で二人に返事をされる。仲が良いの?どっち?
そんな風に考えていると、二人の間から一人の女の子が顔を出した。
「ん?この子は」
「ああ。俺の妹です。らいは挨拶しろ」
「うん!はじめまして、上杉らいはです」
この子がことりの言っていた上杉の妹か。
「初めましてらいはさん。僕はこの二人の通う学校の教師をしている吉浦です。よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
「うん、良い返事だ」
そう言いながら頭を撫でてあげるとニッコリと笑ってくれた。兄妹で全然違う性格のようだ。
「ねえ先生!学校でのお兄ちゃんはどんな感じ?」
「ん?そうだなぁ。勉強ができて常に学年トップ、てかテストでは満点しか取ってないんだけどね」
「うーん...それは家でも聞いてるから。他にはないの?」
「他かぁ......」
「おい、らいは...」
どんどん質問してくるらいはさんに対して上杉が止めようとしたが、それを手で制した。
「他はねぇ。面倒見がいいかな。後は、与えられた仕事はきっちりとこなそうとする姿勢を感じるね」
「わぁぁ、そうなんだ!」
「先生...」
「あれ?僕の見解は間違ってたかな?」
「いえ、そうではないんですが...」
僕の問いかけに恥ずかしそうに前髪を弄りながら顔を反らした。
結局その後は三人と一緒に駅の方面に向かうことになった。
「ふ~ん、上杉の家庭教師としての給料を渡すために家に行って、その後にらいはさんの希望で三人でゲームセンターに行ったと」
「そうです。なので、上杉君とは仲良くなったわけではありません」
五月からの説明があっているが、僕はその話を聞きながら前を歩く上杉兄妹を見ている。ニコニコしながら歩いているらいはさんに、笑みを浮かべながら見ている上杉。
「理由はどうあれ、らいはさんにとっては良い時間を過ごせたみたいだからいいんじゃない?」
「そう、ですね...」
僕の言葉に五月も笑みを零しながららいはさんを見ていた。
「しかし、結局日曜日が潰れてしまった。いや、まだ夜がある...」
「ん?上杉は何か他に予定があったの?」
「いや、勉強をする時間を...」
「なるほど」
「てか、お前らも勉強しろよ」
上杉が五月に声をかけるも...
「...あ。私はここで...」
急に僕達から離れようとした。
「なんだよ怪しいな。宿題は出てるだろ?済ませたのか」
「確かに数学は出してたね」
上杉が逃がさないといった雰囲気で五月の後を追う。
「わーっ、付いて来ないでください!」
というかこの後五月って花火大会に姉妹で行くんじゃないのか?
そんな風に疑問に思っていると...
「お兄ちゃん、五月さんが四人いる」
「え?」
らいはさんが指差した方向には、五月と同じ顔をした女の子が四人浴衣姿で立っているのだ。
「あ、兄さん。連絡せずに済んでよかったぁ」
その四人というのは五月以外の姉妹であるのだが、その四人と一緒にことりの姿もあった。
「集まったし早くお祭り行こうよ」
「デート中にごめんねー。ていうか、先生も一緒だなんて思わなかったなぁ」
「五月!なんでそいつと一緒にいるのよ!」
三玖と一花さんに二乃さんが言葉を発するが三者三様の反応である。
「わー、上杉さんの妹ちゃんですか?これから一緒にお祭りに行きましょう!」
「あっ」
四葉さんがらいはさんに祭に誘うと、しまったといった顔を上杉はしている。
「でもお前ら宿題は...」
「ダメ?」
目をウルウルさせてらいはさんが上杉に聞く。
あー...どこの妹もこんな顔でお願いしてくるのね。こんな顔をされたら答えは一つだね。
「もちろん、いいさ...」
こうして、僕達兄妹と中野姉妹、そこに上杉兄妹が加わった花火大会が始まろうとしていた。
今回は吉浦兄妹を中心に書かせていただきました。
しかし、書いててなんですが凄い甘えようですよねぇ。風太郎のらいはに対する溺愛に感化されたのかもしれません。
さあ、次回から花火大会の開催です。
次回も読んでいただければと思います。よろしくお願いいたします。