少女と花嫁   作:吉月和玖

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70.立花姉妹

「和彦さーん!」

 

結愛ちゃんの迎えのために空港まで来ていた。到着口で出てくるのを待っていたのだが、本人が笑顔で手を挙げて近づいてきた。

 

「やあ、結愛ちゃん。長旅ご苦労様」

「飛行機でしたのであっという間でしたけどね。和彦さんもここまで迎えに来てくれてありがとうございます」

「いや、問題ないさ。じゃあ、行こうか。荷物持つよ」

 

結愛ちゃんが持っていた大きめのボストンバッグを手に取り駐車場に向かって歩き始めた。

 

「ありがとうございます。やっぱり和彦さんは優しくて頼りになりますね」

「これくらい普通だよ。学校でも男子は結愛ちゃんには優しいんじゃない?」

 

駐車場に向かう道すがら、結愛ちゃんの歩幅に合わせるようにゆっくり目に歩きながら話を続けた。

 

「うーん…学校の男子より和彦さんの方がやっぱり自然な感じなんだよねぇ。今もさりげなく私の歩幅に合わせてくれましたし」

 

そこは経験の差かもしれないな。いつも僕の近くにいた結愛ちゃんにとっては、こっちが当たり前になっているのかもしれない。

結愛ちゃんは多分同年代の中でも可愛い部類に入ると思う。そんな彼女だ。恐らく周りの男子も黙っていないだろう。そんな中、自分をアピールするために彼女に優しくしたりとした男子だっているかもしれない。

だが、今の彼女を見ているとあまり効果を発揮していないように思える。

そうなると、その男子達が不憫に思えてくる。申し訳ない。

そんな男子達に心の中で謝りながら駐車場に向かうのだった。

 

駐車場に着いた僕は荷物を後ろの席に乗せ、結愛ちゃんを助手席に乗せた。運転席に乗った僕はエンジンをかけながらふとあることを思い出した。

 

「そういえば、こうやって結愛ちゃんと二人でドライブは初めてだよね。飛鳥は何回かあるけど」

「そうなんです!和彦さんの運転する車の助手席に座るのも初めてだからウキウキしてます♪」

 

上機嫌に答えている結愛ちゃん。

そんなにウキウキされても、多分おじさんの運転と変わらないと思うんだが…まあ、本人の機嫌も良いし余計な事を言うまい。

 

「じゃあ、出発しようか」

「しゅっぱーつ!」

 

結愛ちゃんの合図とともに車を出発させた。

この空港からうちまでは結構な道のりで、かなり時間がかかる。今日休みを取ったのもそういった理由からである。

 

「ここからうちまで結構時間かかるから、結愛ちゃんは疲れてるだろうし寝ててもいいよ」

「ううん。大丈夫ですよ。それに、和彦さんとお話しができるチャンスなんだもん、寝てるなんて勿体ないです」

「そう言ってもらえると嬉しいかな。じゃあ、うちに着くまでの間の話し相手に付き合ってもらおうか」

「うん!」

 

元気良く返事をしてくれた結愛ちゃん。本当に素直でいい子である。

 

「そういえば、結愛ちゃんの制服姿を見たの何気に初めてかもね」

「そうですね。私が中学に入学したのと入れ替わりに和彦さんはこちらに引っ越してしまいましたから」

「まあ、お互いに新生活ってことで。どう?中学は楽しめた?」

「はい!最初の一年はお姉ちゃんとことりさんもいましたし。色々と楽しめましたよ」

 

ニコニコと話しているので本当に楽しめたのだろう。

地元に帰省する都度、学校の様子は聞いていて特に何も言っていなかったので、本当に楽しめていたのだろう。

 

「そっか。結愛ちゃんが入学した時、ことりと飛鳥は三年なんだっけ」

「はい。私の入学式で、在校生の挨拶をお姉ちゃんがしてました」

「あー…確か、飛鳥が生徒会長で、ことりが副会長だったな」

 

飛鳥は昔から学級長とかに進んでなっていた。生徒会だって、確か一年の頃から入ってたし。ことりが副会長になったのも飛鳥の誘いがあったからだったよな。ことりは、性格的にああいうのには進んでならないから、飛鳥からの誘いがなかったら副会長にはならなかっただろう。

成績優秀で容姿端麗な会長と副会長。当時はそれだけで人気があったとか。

 

「やっぱり二人って凄いよねぇ。私には生徒会だって無理ですよ」

「僕だってそうさ。あの二人はよくやるよ」

 

そんな凄い二人を小学校低学年から面倒見てきていたなんて、当時を知る僕としては考えられないね。

 

「でも、ことりさんはいつも和彦さんは凄い人だって言ってたから、生徒会とかにも入ってるのかと思ってました」

「あはは…期待させちゃってたみたいでごめんね」

 

後でことりに、もう少し僕のことを話す時に拡張しないように言っておこう。

 

「……でも、和彦さんが優しくて頼りになるのは本当だから。それだけでも凄いんだって思えます」

「ありがとね」

 

妹のことり同然に面倒見てきたが、やはり誉められるのは素直に嬉しく思う。

 

「あの…和彦さんはどうですか?今の先生のお仕事はやっぱり大変だったりしますか?」

「もう大変ってレベルじゃないよ。覚えることが多いわ。生徒に教えるのは難しいわで、もう毎日目を回してるね。それに加えて、家に帰れば家の事もしなきゃだし…」

「うわ、大変だ」

「………まあでも、生徒達の笑顔を見てると大変さよりもやりがいを感じるかな」

「そっか…」

「それに、なんだかんだでことりが来てくれた事で家の事をある程度は任せられるようになったのは大きいかな。後は……家に誰か居るっていうのは、心を温かくしてくれるよ。あ、ここはことりに言わないでね。あいつはすぐに調子に乗るから」

「ふふふ…はーい」

「もし、結愛ちゃんが旭高校に受かったら、うちに住み込むことになる訳だけど…その時は、自分の家だと思って気楽にいこう」

「──っ!はい!」

 

その後も話題が途切れる事なく二人で話していた。最初は、結愛ちゃんと二人で長い時間一緒にいることがなかったから、大丈夫だろうかと心配していた。しかし、終始弾んだ声で話していた結愛ちゃんを見ていたら、それも杞憂に終わるのだった。

 


 

「ごちそうさまでした。美味しかったぁ~。ことりさんの料理ってあいかわらず美味しいね」

「お粗末さま。気に入ってもらえてなによりね」

 

結愛ちゃんを連れて帰ると、ことりが夕飯の準備をしていたので、そのまま三人で夕飯を食べることにした。

今日は結愛ちゃんの好物だったためか、夕飯時も終始ご機嫌だった。

三人が食べ終わった事もあり、ことりが食器などの片付けを始めた。

 

「手伝うよ」

「ありがとう」

 

それを見た結愛ちゃんも席を立ち、ことりに続いて片付けを始めた。

ここは二人に任せることにして、僕はそのまま椅子に座ったままお茶を飲んでいた。

 

「明日は道案内も兼ねて朝は一緒に行こうと思うけど、いいかな結愛ちゃん?」

「はい!よろしくお願いします」

 

食器洗いをしている二人に向かって尋ねると、結愛ちゃんから元気に返事が返ってきた。

 

「じゃあ、明日は朝も早いし、夜ふかししないようにね」

「はい。勉強はほとんど終わってるので、後は軽く見直しとかしておくくらいです」

 

頼もしい限りである。

 

「なら、ここはいいから勉強してなよ。私の机使っていいから」

「え…でも……」

「ここは甘えときな。こっちで住むようになったら、それこそ色々とお願いすることが出てくるかもしれない。その時にまた頑張ってくれればいいから。ね?」

 

どこか申し訳なさそうな顔で中々動こうとしない結愛ちゃんに、また今度頑張ればいいと伝えると、納得してくれたのか食器を拭いていたタオルを置いた。

 

「うん……そうだ。和彦さんに渡す物があったんだった」

 

そう言うと、結愛ちゃんは鞄の中を探し始めた。

 

「あった……はい!私とお姉ちゃんから。ちょっと早いけど、バレンタインのプレゼントです」

 

そして、目的の物を見つけた結愛ちゃんは僕にそれを差し出してきた。それはピンクの紙で包装がされた二つの箱だった。

 

「そっか。もうそんな時期か…」

「ふふっ、今年は直接渡せて良かったです。手作りなので味わって食べてくださいね」

「ああ。毎年美味しく食べさせてもらってるよ」

 

笑顔を浮かべながら結愛ちゃんから箱を二つ受け取った。飛鳥と結愛ちゃんからは毎年バレンタインのプレゼントを受け取っているのだ。二人が小さい頃からの恒例行事になっている。こちらに来てからも宅配で送ってくるくらいだ。

飛鳥が中学に上がる前くらいから手作りになったのだが、飛鳥のチョコは毎年レベルが上がっている。あの子のポテンシャルには舌を巻かれる。

 

「食べたらまた感想言うね」

「はい!お姉ちゃんも喜ぶと思います。じゃあ、ことりさん。机借りるね」

「は~い」

 

勉強道具を持った結愛ちゃんはことりに一言声をかけると、ことりの部屋まで行ってしまった。それを、食器を洗いながらことりは見送った。

僕は早速、結愛ちゃんから貰ったバレンタインプレゼントを開けることにした。どちらも箱の中に綺麗に並んでいる。箱を開ける前にカードがあったので、どちらが誰のかが分かりやすかった。

それじゃあ、折角だから結愛ちゃんのから。

結愛ちゃんの手作りチョコを一つ摘まんで口に入れた。

 

「………うん!美味しいね。結愛ちゃんの料理の腕も上がってんじゃないかな。ことりも食べる?」

 

洗い物が終わってダイニングに戻ってきたことりに、結愛ちゃんお手製のチョコを差し出した。

 

「いいの?じゃあ一つだけ………うん!ホントだ、美味しい!」

 

さてさて、では次は飛鳥のをと。

 

「………うまっ!飛鳥の料理の腕はあいかわらずだなぁ」

「う~ん、美味しいぃ♪……これは私も負けてられないな!」

 

飛鳥のチョコを絶賛したことりではあったが、どこか決心したような雰囲気で意気込んだ。

どうやら、ことりも今年のバレンタインチョコを作るようである。

 

「ことりも作るの?」

「うん!そりゃあ、お兄ちゃんのためだもん。今年も期待しててね」

 

ニコッと笑みを浮かべながら話すことり。

 

「今年は五つ子の勉強で忙しいだろうし、あんまり無理しなくていいからね」

「大丈夫だよ。チョコ作りもいい気分転換になるしね」

「そういえば、この間三玖と一緒に作ってたけど、もしかして練習してたとか?」

「うん。久しぶりだったから。ちょうどお菓子作りに興味を持ってた三玖に作るところを見てもらってたの」

 

へぇ~、三玖がお菓子作りにねぇ。

以前、勤労感謝の日の労いを込めてオムライスを作ってくれたけど、その時にもクッキー作ってたっけ。

 

「さてと。じゃあ、私お風呂入ってくるよ」

「ああ」

 

僕の返事を背に、ことりはお風呂に向かっていた。

さてと……さすがにまだ寝てないよね。

僕はリビングのソファーに座り直し、スマホである人物にメッセージを送った。

 

『平気なら電話で話さない?』

 

ブー…ブー…ブー…

 

「あいつは意外に暇なのか?」

 

メッセージを送った直後すぐに着信が入った。

 

『こんばんは和彦さん』

「こんばんは飛鳥。悪いね夜中に連絡して」

『いいえ。ちょうど部屋でゆっくりしていたので。なので、連絡が来た時はどこからか和彦さんに見られてるのではないか、と若干の恐怖はありましたけどね』

「なんでだよ!」

 

相変わらずの飛鳥で少し安心する自分もいた。

 

『それで?どういったご用件です?和彦さんから電話で話したいなんて珍しいじゃないですか。いつもは私からですのに』

「まあ、そうなんだけど…ほら、今日結愛ちゃんが無事に着いた連絡と結愛ちゃんから預かったチョコの感想だよ」

『ふふっ…本当に和彦さんってまめなお人ですよね。そのくらいメッセージでも問題ありませんのに』

「まあ、確かにメッセージでもいいかもしれないけど、こういうのはやっぱ直接伝えたいだろ。その……旨かった。去年より腕上げたんじゃない?」

『──っ!本当にあなたというお人は……そんな調子で周りに接していると、女性関係で困ってしまいますよ』

「ぐっ…」

 

まさに今、困った状況でもあるので、飛鳥の言葉に詰まってしまった。

 

『その反応は現在進行形で困っているようですねぇ』

 

しかも飛鳥にバレてしまうという結果に。電話の向こうではニヤリと笑っている飛鳥の顔が目に浮かぶようだ。

 

『いつものようにお断りをする、ではいけないのですか?』

「あー…ちょっと今回はそういう感じでもなくって…」

『そう……なんなら相談に乗るわよ()()

「!」

『私たちの仲じゃない。私もいつも相談に乗ってもらってるし、たまには私を頼ってくれてもいいのよ』

 

急に呼び捨てに加えて敬語でなくなった飛鳥の態度に驚いた後に頭を抱えてしまった。

 

「お前なぁ……今、その話を出すかなぁ…」

『あら。いいじゃない。私は()()()()を終わらせたつもりはないわよ』

「そりゃそうだけど…」

『それに知らないの?()()()()()って言葉がこの世にあるのよ』

「お前なぁ……」

『ふふふ…まあ、私は遠慮なく学校とかで使わせてもらってるけどね。私には彼氏がいるからって』

()()だろ」

『同じようなものよ。でも、遠くにいるとなお使いやすいわよね。近くだと紹介しろとうるさそうだし。あなたも私のこと使えばいいのに』

「そういうのが嫌だって知ってるだろ」

『ごめんなさい。今のは言い過ぎたわ』

 

珍しく飛鳥の方が申し訳なさを出してきた。

僕と飛鳥は別に付き合っていた訳ではない。いわゆる疑似恋愛。つまり、今ことりと上杉がやっている付き合っている振りというものをしてきたのだ。

あれはこっちに来る前の事だった──

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、結愛が和彦達のところに来たことと和彦と飛鳥の電話の内容のため、『立花姉妹』というサブタイトルとさせていただきました。
こうやって五つ子が出ないお話も今後あるかと思いますが、ご容赦願えればと思っています。
というよりも先に謝っておきます。ここからしばらく和彦の過去の話となるので五つ子が出てきません。本当にすみません。

次の投稿なのですが、早めに五つ子を出すために、過去編については早いペースでしようかと思ってます。なので、いつ投稿するかはこの場では控えさせていただきます。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

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