少女と花嫁   作:吉月和玖

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72.疑似恋愛②

飛鳥との疑似恋愛を始めて二ヶ月ほど経過した。

この日、飛鳥がうちに来ており、今は僕の部屋にいる。勿論、ことりは出掛けている。

 

「お前はくつろぎ過ぎやろ」

「いいじゃない。和彦が言ったのよ。甘えたい時は甘えろって」

「そうやけど…」

 

飛鳥は今、僕の太ももを枕に寝転がり雑誌を読んでいる。いわゆる膝枕の状態である。

普通は逆やろ。

とは言え、中学生の女の子に膝枕をさせるのも気が引けるので頼まないが…

 

「まあいいや。それで、どうなの?少しは学校の男子とも交流出来とうと?」

「うーん…前よりかは、て感じかな」

 

読んでいた雑誌を開いたままお腹の上に置いた飛鳥は、じっとこちらを見上げながら答えた。

 

「へぇ~、そいつは良かった。どう?いい感じの男の子はいないの?」

「交流が増えるのと好きな人ができるのは別よ。そんな人はいないわね」

 

そう言いながら、飛鳥はまた雑誌を読み始めた。

はぁぁ…まだまだ先は長そうだ。

この話題は発展しそうになかったので、諦めて僕も本を読むことにした。

 

「……和彦はまた歴史の本なの?」

「まあね」

 

読んでいた雑誌から目線だけをこっちに向けた飛鳥が、僕の読んでいる本を確認して聞いてきた。

 

「そんなに歴史が好きなら社会の先生になればよかったのに。たしか、和彦って数学の先生よね?」

「ああ。合格通知が来たからね。それに、僕が好きなのは日本の戦国時代であって、日本史全体はそうでもないんだよ。これは趣味だから」

「ふーん…ちなみに和彦の中学の頃の数学と社会の成績はどうだったの?」

「いきなりだね…えーっと…たしか数学は良くて90点前後で社会が70点台くらいかな」

「なんか普通ね」

「うるさいな。お前とことりに比べたらそうなるわ!」

 

飛鳥とことりで学年一位と二位の成績である。しかも、全教科90点台は当たり前。調子良い時は100点だって取っている。

なんなのだろうこの違いは、とも思ってしまうくらいである。

 

「そういじけないの……あら、これって…」

「ん?なんか面白い特集でもあった?」

「ええ」

 

そう返事した飛鳥は雑誌を閉じると起き上がり、僕と向かい合った。

 

「ねえ和彦。私とキスしましょ」

「…………は?」

 

いきなり訳も分からないことを言い始めた飛鳥に持っていた本を落としそうになった。

 

「何馬鹿な事言ってんの」

「ここに書いてあったのよ。恋人とのキスについて。私たちまだしてないじゃない?」

「そりゃしないでしょ。恋人じゃないんだから」

 

何を当たり前の事を。

 

「えーー…でも、恋人ってどんな感じなのか教えてくれるのでしょ?」

「それはっ……そうかもしれないけど…お前にとっては初めてなんだろ?なら、本当に好きな人のために残しとくべきだろ」

「あら、意外に和彦って乙女チックね。けど、私そういうの気にしないの。今はキスがどんな感じなのかの方が気になるわ」

 

興味津々といった顔でこちらにズイッと来る飛鳥。

そうなってくると、僕としても飛鳥の唇に意識してしまう訳であって…

こいつ、今日も何気にリップ付けてきやがって…男の本能には抗えないな。はぁぁ…

 

「分かったよ。けど、やっぱり嫌なら言えよ」

「言わないわよ。じゃあ……ん…」

 

僕の言葉に笑いながら答えた飛鳥は、目をつむりさらに僕の方に顔をつきだした。

僕はそんな飛鳥の顔に手を添えて自分の唇を飛鳥の唇に重ねた。

 

「ん……」

 

本当に軽く触れる程度にキスをしたのですぐに顔を離した。

飛鳥の方はまだ目をつむったままである。

 

「ほら。これでいいだろ」

「んーー…もう一回お願い」

「はー!?」

「だって一瞬だったんだもの。もう少し長めで」

「注文が多いお嬢さんだなぁ」

 

一回も二回も同じと思った僕はそのまま飛鳥の唇を奪った。

 

「んっ!?」

 

先程の軽いキスを何度も繰り返して飛鳥の唇をついばんだ。

 

「んん……ちゅ……んン……はぁ、んんン……かずひこ……んは……ちゅっ、はぁ…」

 

途中から飛鳥に火がついたのか、僕の首に腕を回して自らキスをしてきたのだ。

 

「んぅ、ん……んッ、んッ……ッ。はぁ、ん、んン……ちゅ……ちゅぅ……」

 

ようやく満足したのか飛鳥から顔を離した。

 

「かずひこぉ……」

 

ヤバい目がいってる。

飛鳥はじっと蕩けきった顔でこちらを見ているのだ。

なので、落ち着かせるために飛鳥の顔が僕の胸に収まるように抱きしめた。

 

「え……」

「落ち着け飛鳥。さすがにこれ以上はまずい」

「あっ……ご…ごめんなさい。なんだか、頭がボーッとしちゃって……もう少しこのままでもいいかしら」

「ああ」

 

そのまま暫く抱きしめあった僕達は、抱きしめるのを解いた後にまた軽くキスをしてからこの日は解散となった。

それからは、飛鳥がキスにはまってしまったのか、会うたびキスをせがんできたので大変だった。この間の事が起きないように、軽めのキスで誤魔化しながら月日は流れていった。

 


 

~飛鳥side~

 

クリスマスイブを控えたある休日。飛鳥は、ことりと結愛の三人でショッピングモールに来ていた。和彦へのクリスマスプレゼントを三人で買うためである。

最初はそれぞれが用意するという案も上がったのだが、もうすぐ引っ越してしまう和彦にあまり荷物を持たせるのも、ということで三人で一つのプレゼントを選ぶことにしたのだ。予算も三人分なので、普段手が届かない物も選べるという飛鳥の考えも採用された。

 

「うーん…なかなかいいのないわねぇ」

 

今は三人で紳士服売場に来ており、それぞれで候補を選んでいるところだ。

 

「ねえ~飛鳥ぁ~」

「なに?何かいいの見つかったの?」

「なんか私に隠してることなーい?」

 

品物を物色していた飛鳥の横で、同じように物色していたことりが世間話をするように飛鳥に質問した。

恐らく和彦と飛鳥が疑似恋愛をしていることを言っているのだろうが、別にことりがそれに気付いたという訳ではない。

 

「なーに、藪から棒に」

「えぇ~、だって最近付き合い悪いんだもん」

「それだけぇ!?そりゃあ、私にだってやりたいことだってあるわよ」

「やりたいことって?」

「そうねぇ…例えば勉強とか。ことりに負けたくないしね」

「むー…陰で努力するタイプじゃなかったと思うんだけどなぁ」

「それだけあなたの最近の成績が良いのよ」

 

勉強をしているのは間違っていない。和彦と二人で会う時にも勉強を教えてもらっているからだ。

 

「はぁ~あ…最近お兄ちゃんが構ってくれる時間も減ってきてるし…」

「たとえば?」

「うーん…夜の添い寝が減った」

「添い寝って……あなたまだ和彦さんと寝てるの?」

「うん」

 

飛鳥の質問にさも当然といった表情でことりが返すので、飛鳥は頭を抱えてしまった。

 

(駄目だわ。私まだこの子の常識に付いていけてないのかも。でも、添い寝ねぇ…)

 

「先月あたりからかなぁ。週に五回してた添い寝が四回に減ったんだよ?ひどいと思わない?」

「……変わらないじゃない」

「変わるよぉ~」

 

呆れたように返事をした飛鳥に、ぶぅーと膨れっ面な顔でことりは答えながら物色を続けた。

 

「もうすぐ家を出ていっちゃうんだもん、もう少し構ってほしいよ」

 

寂しそうに話すことり。それには、飛鳥も同じ思いでいた。

 

(私だって同じ。あの人のいない日常なんて考えられない。でも、あの人が考えた就職先だもの。誰よりも尊重してあげたい)

 

「お姉ちゃーん、ことりさーん」

「!」

 

結愛の呼ぶ声で現実に戻った飛鳥は、ずっと持っていたマフラーを棚に戻した。

 

「どうしたの、結愛ちゃん」

「あっちによさそうなのがあったから、一緒に見てほしくて」

「じゃあ、そちらを見に行きましょうか」

 

その後も三人で色々と和彦のプレゼントを見て回るのだった。

 


 

「「「「メリークリスマス!」」」」

 

クリスマスイブの夜。吉浦家と立花家の両家の両親が仕事で遅くなることもあり、この日はうちでクリスマスパーティーをすることになった。

と言っても、夕飯とケーキを食べるといった簡単なものである。

ちなみに、今日は飛鳥と結愛ちゃんは泊まっていくそうだ。

 

「へぇ~、今日は張り切って作ったみたいやね。どれも美味しそうやん」

「ふふん。三人で頑張って作ったんだから。ちゃんと味わって食べてね」

「はいはい」

「ふふふ…あら?和彦さんはお酒飲まれないのですか?」

 

僕のコップにはお茶が注がれている。それを見て、飛鳥が疑問に思ったようだ。

 

「ああ。今日はいいかなって」

「私たちのことは気にしなくてもよかったんですよ?」

「ありがとう結愛ちゃん。でも、そんなにお酒が好きって訳じゃないからね。お茶でも問題ないさ」

 

そんなこんなで夕飯は進み、食後のケーキを食べている時にことりが『プレゼントタイム!』と場を盛り上げた。

 

「私たちからはこれだよ」

「三人で選んだんです」

「気に入っていただければいいのですが…」

 

ことりから渡された箱を開けて中身を確認する。

 

「これって万年筆?」

「うん!しかも赤インクなんだよ」

「和彦さん、先生になるのでこういうのよく使うかなって」

「私たちでも使ってみましたが、とても書きやすかったので、きっと長く使えると思いますよ」

「そうか。ありがとう。大切に使わせてもらうよ」

 

僕がお礼を伝えると三人が笑顔を見せてくれた。

まったく…中学生や小学生にはお高いだろうに。

 

「じゃあ、次は僕だね。まずは結愛ちゃんから…」

 

受け取った万年筆の箱は閉じて置き、用意していたプレゼント袋を一つ結愛ちゃんに渡した。

 

「わぁー♪開けていいですか?」

「ああ、もちろん」

 

結愛ちゃんはウキウキしながら袋から取り出した。

 

「わぁー、カチューシャだ♪」

「へぇ~、お花があしらってて可愛いね」

「結愛、さっそく着けてみたら?」

「うん!」

 

僕のプレゼントは結愛ちゃんが言った通りカチューシャで、普通のカチューシャより細く、ワンポイントで花柄の絵があしらっており、白が基調である。

そのカチューシャをさっそく結愛ちゃんが着けてみせた。

 

「どう…ですか…?」

「可愛い~~ぃ」

「うん。とても似合ってるよ。折角だから写真撮っておこうか」

 

そう言ってスマホを取り出して写真を撮った。

 

「こんな感じかな。ちょっと斜めから撮った方がよく見えるかと思って」

「わぁー♪」

「あら、いい感じに撮れましたね。後で私に送ってください」

「ふふふ、さっそく明日から使わせてもらいますね♪」

 

結愛ちゃんと飛鳥の二人も気に入ってくれたようで良かった。じゃあ次はっと…

 

「で、こっちがことりと飛鳥のね」

 

そう言って二つの細長い箱をことりと飛鳥の二人に渡した。

 

「やったー♪なんだろな♪」

「……ネックレスですか」

「ああ。二人のはデザインだけが違ってて。ことりの方が太陽で、飛鳥が月をイメージしたデザインなんだよ」

「へぇ~♪」

「月と太陽ですか…面白いチョイスですね」

 

二人は仲が良いが性格はまったく逆のように思える。今の反応だってそうだ。だからこのデザインにしたのだが…

 

「いいね!いいね!飛鳥とお揃いだ♪」

「ふふふ…そうねぇ。時に和彦さん」

「ん?」

「月と太陽。どちらが好みなのですか?」

 

ぶーーっ!

危ねぇ…ジュース飲んでなくて正解だったわ。

この子は本当に何を言いますかねぇ。ほらぁ、ことりが期待したようにこっち見てるじゃないか。はぁぁ…

 

「どちらも魅力的で僕には選べないよ」

「ぶぅーっ!お兄ちゃんの優柔不断!」

「ふふっ、予想通りの答えでしたね」

 

こうしてお互いが気に入ったプレゼントを貰えたりして、パーティーは十分な盛り上りをみせていた。

 

後片付けも終わり、飛鳥と結愛ちゃん用の布団を客間に用意した後は寝るだけとなったので、それぞれの部屋に向かった。

僕は暫く歴史の本を読んでいたのだが、もう日付も変わろうしていたのでそろそろ寝ようと本を棚に戻した。

するとスマホにメッセージが届いた。

 

『まだ起きてる?そっちに行っていいかしら?』

 

飛鳥である。こんな時間に何の用だと思ったのでそのまま返事をした。

 

『起きてるけど何の用?』

『直接二人で話したくて。駄目?』

『分かった』

 

返事をして暫くするとドアをノックされた。

 

「どうぞ」

「お邪魔します」

 

部屋に入ってきた飛鳥は、シンプルな襟付きの前でボタンを止める服にズボンといった、ネイビーのパジャマを着ていた。

 

「それで?話って何さ」

「もう終わるけれど今日はイブじゃない?普通は恋人同士で過ごす日でもあるじゃない」

 

ベッドに腰かけていた僕の横に、飛鳥も腰かけながらそんな話をした。

 

「本当の恋人だったらね」

「まあいいじゃない。イブを過ごす恋人同士っていうのも体験してみたかったのよ」

 

そう言った飛鳥は頭を僕の肩に乗せるように寄りかかってきた。

 

「……肩に手を添えて抱き寄せてくれないの?」

「ったく…」

 

飛鳥の注文を受けて左手を飛鳥の左肩に持っていき、そしてそのまま飛鳥を抱き寄せた。

 

「これでいいですか、お嬢様?」

「ええ。言われずにすればなおよかったわね」

「はいはい」

 

ふふふ、と笑った飛鳥はおもむろに服に手を入れ先程あげたネックレスを取り出した。

 

「プレゼントありがとう。嬉しかったわ」

「着けてきたのか」

「ええ。気に入っちゃったから。あなたがあっちに行っても、これをあなただと思って毎日着けるわね」

「大袈裟やろ」

「そうでもないわよ。あなたのいない生活なんて想像ができないもの。それだけあなたがいる日々が日常になってるの。きっと、ことりや結愛も同じ考えだと思うわ」

「……そうか」

 

そこで会話が途切れ、暫くの間お互いに黙ったままの時間を過ごした。不謹慎にもこんな時間も悪くないと思ってしまった。

 

「ねえ?今日は一緒に寝ちゃ駄目?」

「え…?」

「ことりとは寝てるんでしょ?なら、私もいいじゃない」

 

なるほど。それが目的だったか。

ことりは今日結愛ちゃんも泊まっていることで、僕の部屋に来ることはない。しかし──

 

「結愛ちゃんが起きたらどうするのさ」

「大丈夫よ。あの子寝つきが良くて、寝たら朝まで起きることはないわ」

 

うーん、と考えていると飛鳥が左手で僕の服を掴んできた。その手はどこか懇願しているように震えているように見える。

 

「……はぁ…分かった。もう僕も眠いし、さっさと布団に入りな」

「ありがとう」

 

ネックレスを外して机の上に置いた飛鳥は、先に布団に入っていた僕の横に入ってきた。

 

「ふふふ…こうして一緒に寝るのなんて初めてよね」

「そうだね。飛鳥が泊まってもことりと一緒には寝てたけど、僕とはなかったね」

 

お互いに天井を見上げて寝ていたのだが、そこに飛鳥が僕の手を握ってきた。

 

「きっと恋人同士だとこんな感じで寝るのよねぇ」

「さてね。流石に今までの彼女とここまでしたことはなかったからね」

「そっか……ねえ、こっち向いてくれない?」

 

飛鳥に促されるように飛鳥の方に顔を向けた。すると──

 

「ん……」

 

飛鳥から軽くキスをされた。

 

「お前なぁ…」

「ふふふ…ねえ、もっとしてもいい?」

「あんまりやりすぎるなよ?」

「……善処するわ」

「おい、その間はな……んむっ」

 

僕の言葉を待たずに飛鳥からキスをされた。

 

「ん……んン……ちゅっ……はぁ、かずひこ……ちゅぅ、んんン……ちゅっ……」

 

飛鳥は僕の唇をついばむように軽いキスを続けていた。しかし次の瞬間──

 

「ちゅっ……れろ……」

「んむっ……」

 

飛鳥が自身の舌で僕の口に侵入しようとしてきたのだ。

ヤバい!体勢がキツくてうまく飛鳥を剥がせない!

抵抗しようにも飛鳥側にある手は飛鳥にしっかりと握られたおり、もう片方の手で飛鳥を押しても下手すれば飛鳥をベッドから落としてしまいかねない。

そんな風に考えている僕を露しらずなのか、飛鳥の舌は尚も僕の口への侵入を試みようとしていた。

 

「んン……ちゅっ……れろ……んんン……おねがい……ん……」

「……っ」

 

か細いながらも必死なお願いを聞いた瞬間、僕の閉じていた歯の力が緩み隙間が出来てしまった。

それを待っていたかのように飛鳥は自らの舌で僕の舌を絡ませてきた。

 

「ちゅるっ……んンッ……ちゅっ……ちゅぶ……っ、んちゅっ、ちゅぱ……はぁぁ……」

 

呼吸が続かなかったのだろう、舌を絡めてから暫くすると、飛鳥の方から唇を離した。

 

「お前……自分が何してるのか分かってんのか?」

「はぁ…はぁ…ええ、ディープキスと言うのでしょ?雑誌で読んだわ」

「そうじゃないだろ…」

「いいじゃない。キスはキスでしょ」

 

それでもまだ僕にキスしてこようとする飛鳥。

僕は繋いでいる手を無理やり払い、そんな飛鳥に覆い被さるように起き上がった。

そんな行動に飛鳥は驚きの表情でこちらを見ている。

そんな飛鳥のことを気にせず、今度は僕から飛鳥の唇を奪った。

 

「んむっ!……ちゅ……はぁ…ちゅるっ……んンッ……ちゅっ……はぁ、ちゅっ……」

 

先ほどよりも激しく舌を絡ませるようにキスをした僕は、そのまま唇から離し、そして自身の口を飛鳥の首に持っていき何度もキスをした。

 

「え…っ!和彦、待って!ひあっ……!」

 

その瞬間、飛鳥の体は緊張したようにビクンと跳ねた。

それを確認した僕は首から顔を離し、また飛鳥を上から見下ろすようにじっと見た。

飛鳥の目からは涙が出ているようにも見えた。

 

「……夜に男女が一つの布団で寝ている時にあんなことをすればこういうことだって起きる。もし僕が歯止めのきかない男だったら、この後どうなっていたかお前なら分かるよな?」

 

目をしっかりと見て確認すると、飛鳥はコクンと頷いた。

そして、僕は飛鳥の頭を撫でながら話を続けた。

 

「お前は僕にとって大事な人なんだ。もう少し自分を大事にしてくれ」

「……っ、ご…めん…なさい……」

 

分かってくれたようなので、これ以上は何も言うまいと思った僕はそのまままた飛鳥の横に寝転んだ。

そんな僕の右手を、飛鳥は両手でギュッと握りながらこちらを向いている。

 

「ごめんなさい…!本当に興味本位だったの。そういう行為に行われるものだってこともわかってた。でもね、これだけはわかってほしいの。もし、そういう行為に発展してたとしても、私は和彦だったらいいって思ってた。ううん。和彦以外の人なんてあり得ないって思ってる。それだけはわかってほしい……ぐすっ……おねがい……っ」

 

必死に弁明する飛鳥であるが、多分当の本人は混乱してるのかとんでもないことを言っているのに気付いていないようだ。

好きでもない男なのに、その男以外には考えられないってもう無茶苦茶だよ。

そして僕は体ごと飛鳥の方に向け、左手で飛鳥の頭を撫でた。

 

「あ……」

 

そこでようやく落ち着いたのか、僕の方をじっと見つめてきた。

 

「もう怒ってないから安心しな。それよりももう寝よう。流石に眠くなってきたからね」

「ええ……」

 

怒っていないことをアピールするために、飛鳥の唇に軽くキスをした。

 

「ちゅっ……あ……」

 

そして左手をそのまま飛鳥の背中に持っていき、こちらに抱き寄せるようにした。

 

「おやすみ飛鳥」

「……おやすみなさい和彦」

 

お互いの顔は額がぶつかりそうなくらい近くにあったが、そんなことを気にしないくらいその日は穏やかに眠ることが出来た。

 

その日を境に飛鳥も多少は自重してくれるようになった。まあ、相変わらずキスをせがんでくることはあったのだが…

そしてそんな中、僕は福岡の地を発つのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、疑似恋愛を始めた和彦と飛鳥のお話です。
若干やりすぎたかもしれませんがご容赦いただければと思います。

さて、最後には和彦も福岡を発ちましたので、過去編はここまでとなります。
次回からは、飛鳥との電話の続きですね。ただ、もう少しだけ五つ子が出てきません。申し訳ありません。

そういう訳ですので、次回の投稿もなるべく早く出来ればなと思っております。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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