少女と花嫁   作:吉月和玖

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75.妹

「へぇ~、水炊きかぁ…」

 

今日の夕食は、二乃とことりによって作られたのだが、コンロの上に置かれた鍋の中を覗くと、そこには見慣れた光景が広がっていた。

 

「ことりと話したら最近食べてないって聞いたから。この間話した水炊き作ってみようと思ったのよ」

 

今日は僕の隣に座っている二乃が取り皿に具材を移しながら説明してくれた。

 

「?水炊きですか?なんでそんな名前なんでしょう」

 

鍋を覗き込みながら四葉がそんな質問を投げかけた。

 

「水炊きは、文字通り水もしくは湯で食材を炊くというところに由来してるそうですよ。はい、えっと……四葉さん」

 

四葉の質問に、結愛ちゃんが答えながら具材がよそられたお皿を四葉に渡した。

 

「ありがとうございます!私だってよくわかりましたね」

「リボンが特徴的でしたので。水炊きは、特に味付けがされていない水やお湯に鶏肉や野菜などの具材を入れて、 煮立たせる過程で具材から出汁をとり旨味を引き出すという鍋料理のことだそうですよ。ちなみに、関西でも水炊きが作られてますが、そちらは水を張った鍋に昆布を敷いて煮ているそうですよ」

「へぇ~、よく知ってるねぇ」

 

結愛ちゃんの知識に一花が感心の声をあげた。たしかによく調べられている。

 

「お姉ちゃんの受け売りなんです。はい、どうぞ」

 

一花に褒められた結愛ちゃんは照れたように、具材をよそった別の取り皿を一花に渡した。

 

「それでも大したものだと思うわよ。私とことりの手伝いも率先してたし、テキパキと動けてたしね。どこかの不器用とは大違いだわ」

「うるさい…」

「まあまあ」

 

ニヤリと笑いながら二乃が三玖を見るもんだから、三玖がジト目で返してきた。

そして、全員に取り皿が渡りきったので夕食を食べ始めることにした。

ちなみに、今日はダイニングテーブルに僕と二乃。僕の向かいに五月、そしてその横に三玖が座っている。

リビングテーブルには、ことりと一花が並び。ことりの向かいに結愛ちゃんが座り、その横に四葉が座っている。

鍋に具材を追加で入れたりするので、二乃とことりが分かれた配置となったのだ。

結愛ちゃんの近くにことりはもちろんだが、姉妹の中で比較的にコミュニケーション力が高い一花と四葉がいてくれて少しは助かっている。

 

「う~ん、美味しいぃですぅ~」

「うん…さっぱりして美味しい…」

「気に入ってもらえてよかったわ。先生はどう?」

「うん、旨いよ。よく出来てるんじゃないかな」

「ふふっ、よかったわ。ちなみにこっちが私が作った鍋だから。向こうのがことりね」

 

なるほど、並行して作ってたのか。

リビングテーブルからも『美味しい』という言葉が聞こえてきたので、今回は好評だったようだ。

 

「おかわりお願いします」

「はいはい」

 

さっそくご飯を食べ終わった五月が空のお茶碗を二乃に差し出した。

早いな…

そんな光景を見ながら、僕もお猪口に入ったお酒をくいっと飲んだ。

うん。やっぱり鍋にお酒は合うな。この間の二乃との食事の時は運転があったから飲まなかったけど、今日は家ってこともあるから気にしなくていい。

お猪口に次のお酒を注ごうと徳利に手を伸ばしたのだが、ひょいとその徳利が取られた。

 

「お注ぎしますよ」

 

ニッコリと笑って五月が言ってきた。

断る理由もないので、そのままお猪口を五月の方に差し出した。

 

「悪いね」

「いえ。そういえば、先ほど結愛さんは姉の受け売りだと言っていましたが、結愛さんのお姉さんは知識が豊富なのですか?」

 

徳利に入ったお酒をお猪口に注ぎながら、五月はそんな質問をしてきた。

 

「そうだなぁ……勉強の成績で言えば上杉と変わらないんじゃないか」

「え…フータローと?」

「ああ。それで運動神経はことりくらいだな」

「はい、五月。ことりの運動神経がどれくらいかわかんないんだけど」

 

お茶碗にご飯をよそってきた二乃が五月にお茶碗を渡しながら聞いてきた。

 

「三玖は知ってるんじゃない?」

 

僕が説明するよりも目の前で見たきたであろう三玖に説明を促してみた。

 

「うん。ことりの運動神経はいい。多分クラスの女子で一番だと思う」

「へぇ~、そんなことりと同じくらいね」

「勉強は上杉君くらいで、運動神経もいい。正に文武両道ですね」

「んで、生徒会長もしてる」

「すごい…」

「なんなのそれ」

 

飛鳥がどういう人物か説明するとテーブルを囲む三人からは驚きの声があがった。

 

「でも二乃とは話が合うんじゃないかな」

「なんでよ」

「いや、飛鳥は料理も得意だから、今までどんな料理作ってきたのか、とかで話が盛り上がるんじゃない?」

「ふ~ん…あら、お皿空じゃない。具材取ってあげるわよ」

「ああ、ありがとう」

 

僕の皿に何も入っていないことに気づいた二乃は手際よく取り皿に具材をよそってくれた。そんな二乃はどこかご機嫌のように見える。

 

「二乃、何かあった?」

「なんでよ?」

「いえ、機嫌がよさそうに見えますので…」

「そう?はい先生♪たくさん食べてよね」

「ああ」

「……」

「?」

 

たくさんの具材は入った取り皿を、二乃はニッコリと笑顔で渡してきた。そんな二乃に対して僕も笑顔で受け取った。

二乃の気持ちを知らなかったら、僕もなぜ機嫌がいいかが分からず、逆に恐怖を感じていたのかもしれない。

なにより、三玖は訝しげな顔で二乃を見ているし、五月はよく分からないといった顔でもくもくと水炊きを食べている。

でもそっか。二乃って好きな人にはこんな感じで接してくるのか。普段とギャップがあって、こんな二乃の一面が見れて良かったと思うのだった。

 

・・・・・

 

「ふぅ~…美味しかったぁ。まさかこっちに来て水炊き食べれるなんて思わなかったよ」

「そうだね。私たちも結構久しぶりだもんね」

「ああ、そうだね。また作ろうか」

「うん」

 

夕食が終わると、五つ子達は隣の部屋に帰っていった。

片付けまでしていったので、今は三人でダイニングテーブルに座り、のんびりとお茶を飲みながら雑談をしている。

 

「明日は昼過ぎの便だったよね?」

「はい。そうですよ」

「明日は土曜日だし、送っていくよ。ことりは勉強会?」

「そうだね。多分、今日の分を取り返すぞ、て風太郎君張り切ってるだろうし」

「勉強熱心な人なんだね」

「ははは…勉強熱心と言うか…勉強しかしないって言うか…

「え?」

「ううん。なんでもないの、あははは」

 

結愛ちゃんの言葉にどこか乾いた笑みを浮かべながらことりは答えた。

最後は声小さくなってるし。誤魔化してるし。

 

「じゃあ、ことりさんは見送り大丈夫だよ」

「え、いいの?」

「うん。みなさんにとっても大事な時期なんでしょ?」

「そうだね……ごめんね、今度は迎えも見送りもするから」

「うん。ありがとう」

 

顔の前で手をあわせて謝ることり。それを笑顔で結愛ちゃんは答えた。

 

「そんじゃ、お風呂入って寝ますか。結愛ちゃん先いいよ」

「え、いいの?」

「ああ。今日一番の功労者だからね」

 

僕の言葉にことりも頷いたのでお風呂の順番もそのまま決まった。

今日も特にすることもないため、お風呂からあがった僕は眠りにつくのだった。

 


 

次の日。結愛ちゃんを空港まで送るため車を走らせていた。

 

「あーあ、帰りたくないなぁ」

 

助手席に座っている結愛ちゃんからそんな言葉が漏れた。

 

「何言ってんの。なんだかんだで実家が一番なんだよ。自分の部屋があってゆっくりも出来るでしょ?」

「それは……そうなんですけど…」

「それに、もしこっちに来ることになったら、しばらく飛鳥や友達と会えないんだ。今のうちに、たくさん話して、たくさん遊んどきな」

「そうですね」

 

僕の言葉に少しは納得してくれたようだ。

 

「あ、そういえば聞き忘れてたことがあったんだ」

「なんですか?」

「いや、結愛ちゃんが旭高校を受験した理由だよ。わざわざこんな遠くの高校を受験するなんて、よっぽどの理由があるのかなって」

「それは……」

 

そこで結愛ちゃんの言葉が詰まった。こちらは運転をしているので、今結愛ちゃんがどんな表情をしているかが見れないのが痛い。

しばらく沈黙が続いたが、結愛ちゃんがその沈黙を破った。

 

「………和彦さんの傍にいたかったから…」

「え?僕?」

 

意外な答えが出てきた。ことりやもうすぐこっちに来るであろう飛鳥だとばかり思っていた。

なんだろう。兄離れが出来ない妹みたいな感じだろうか。

 

「私にとって和彦さんは特別な人ですから。この三年間、このカチューシャがなかったら沈んでいたと思います」

 

チラッと結愛ちゃんを見ると、カチューシャに手を添えていた。

特別か……

 

「会えなかった日が長ければ長いほど、私の和彦さんへの想いはどんどん大きくなりました。そんな時、ことりさんが和彦さんのいる高校に進学して…それで私もってその時考えたんです」

 

てことは、中学二年生になる直前から考えてたのか。

 

「それからの私は頑張りました。両親に認めてもらうために、勉強も家の手伝いもいっぱい頑張りました。そしたら、両親が認めてくれて。それで昨日受験したんです」

「………僕の傍にいたいって言ってたけど、それは妹として?」

 

ある程度は結愛ちゃんの気持ちを確証していたのだが、まだ気持ちを聞いていなかったので確認をしてみた。

 

「ううん。妹は嫌。私は一人の女性として見てもらいたい。私は……和彦さんのことを一人の男性として…好き…だから…」

「……そっか…」

 

マジか!あの結愛ちゃんが僕のことを!?

頭の中では気が動転しそうなくらいパニックになっているが、今は運転中。平静を保ちながら運転を続けた。

 

「えっと……ごめんね。僕は飛鳥や結愛ちゃんのことをことりと同じように妹と思って接してきたから。まさかそんな風に想われてるなんて正直驚いてるよ」

「で、ですよね。あはは…すみません。ご迷惑でしたよね」

「め、迷惑だなんて思ってないよ。結愛ちゃんみたいな可愛い子に想いを寄せられるんだ。光栄だよ」

「本当ですか?」

「ああ。けど、さっきも話した通り、ずっと妹と思って接してきたからすぐには切り替えられないかな。それに……」

「?それに、なんですか?」

「……これは結愛ちゃんにだから話すけど、僕は今三人の女性に告白されていて、それを保留にしている状態なんだ」

「え?」

「つい最近のことではあるんだけどね」

 

結愛ちゃんの驚きの声に答えるように、告白されたのはつい最近であることを伝えた。

 

「最近……」

「情けない話、僕は好きな人っていうのが正直分かんないんだよ。好きなタイプっていうのは聞かれたら答えてはいるんだけどね。だから、こんな告白されても決められない男じゃなくて──」

「だったら、私にもまだチャンスありますよね!」

「へ?」

 

僕を諦めて他に好きな人を探した方が良いのではないか、と話を振ろうと思ったのだが、なぜか元気がいい言葉が返ってきた。

 

「えっと……」

「だって、和彦さんにはまだ好きな人がいないんですよね?」

「ま…まあ、そうだね…」

「じゃあ、私にだってチャンスがあります。これから一緒に住んでいくんです。勉強だって、家事でだって、たくさんいいところを見せていきます。そして、私のことを好きだって言ってもらいます」

 

赤信号で止まったので、結愛ちゃんの方を向くとニッコリと笑顔で返された。本気のようである。

 

「それにはまず、和彦さんが私のことを一人の女性と見てもらわないとですね。うーん……ちゃん付けやめますか?」

「え!?」

「だって、ちゃん付けも嬉しいですけど、子ども扱いされてるみたいですし、お付き合いするなら平等でないとなので。ですので、私のことは呼び捨てで。どうぞ」

 

どうぞと言われてもなぁ。まあ、それくらいなら良いのか?

 

「じゃあ……結愛。これでいいかな?」

「ひあぁーーー!」

「え!なに?どうしたの?」

 

急に結愛が叫びだしたので驚いてしまったが、運転中なので、チラチラしか見れない。チラッと見た時には顔を手で覆い隠していたように見えた。

 

「ヤバいです。破壊力ハンパありません」

「え?」

「前から結愛って呼び捨てで呼ばれることは想像してたんですけど」

 

想像してたんだ。

 

「実際に呼ばれるとでは全然違います。う~~…こんなことならもう少し早くお願いしとくんだったなぁ」

 

そんなに違うものなのか?

僕は職業柄、先生と呼ばれることが主となるが、先生以外に呼ばれるとしたら……

芹菜さんが『和彦さん』。二乃が『和にぃ』。飛鳥が『和彦』か。五月も『お兄ちゃん』と呼んでるが、これは違うか?

しかもどれも二人っきりの時だったりと特別感はある。うーん…まあたしかに距離が近づいている感じがするかな。

その後も興奮した結愛ちゃんを乗せ空港に向かった。

空港に着いた後も、さらに帰りたくないと駄々をこね始めたので、時間に余裕があることもあり、空港内を手を繋いで回ることにした。

それに功を成したのか、ご機嫌な状態で搭乗口をくぐって行った。

 

「また、連絡しますからねー!」

 

そんな言葉を残した結愛を乗せた飛行機が飛び立つところを、空港の屋上から見守るのだった。

 

「さて、ここまで来たんだし、どっか寄って帰るか」

 

ブー…ブー…

 

どこに寄ろうか考えているとポケットに入れていたスマホに着信が入った。

ん?四葉?

 

「はい。どうした?」

『あ、先生。今って電話出ても大丈夫でした?』

「ああ。何かあった?」

『えっと…明日のご予定を聞いておきたかったので。明日、私と買い物に付き合ってもらえないでしょうか?』

 

四葉からのまさかの買い物へのお誘いに驚きつつ、明日は何かあっただろうかと考えた。

 

「明日?まぁー…明日は朝から暇してるだろうし大丈夫だよ」

『本当ですか!?じゃあ、午後からは勉強会なので、午前中をお願いしたいです』

「分かった。で、何買いに行くの?普通の買い物なら姉妹やことりの方がいいでしょ」

 

わざわざ僕を指名してくるってことは重い物とか、遠くにしか売っていないとかだろうか。

 

『それは……上杉さんのバレンタインチョコを買いたくて……』

「ああ…もうすぐだもんね。なるほどね、そりゃあ姉妹やことりには言えないか。じゃあ、どうせならちょっと遠くに行ってみようか。その方が誰かに会うってことがないだろ?」

『いいんですか!?ありがとうございます!』

「じゃあ、詳しい集合時間とかは、また連絡するから」

『はい!よろしくお願いします!』

 

そこで通話が切れた。

それにしてもそっか……四葉もバレンタインを。ふふっ、上杉もビックリするだろうな。

そういえば、ことりは僕には作るみたいだけど、上杉にも作るのだろうか。一応、恋人役をやってるからその兼ね合いで作るんだろうな。

そんな風に考えながら、帰り道にあるお城に寄ってから帰ろうと、予定を決めて車を発進させるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話では、前回の話の続きにあたる、吉浦兄妹と五つ子と結愛の夕食から結愛が地元に帰るまでを書かせていただきました。
そして、結愛からも和彦に告白がありました。これで四人目です。
始動というサブタイトルになっているだけに色々と動き出しましたね。

次回の投稿は6月26日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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