少女と花嫁   作:吉月和玖

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76.全員家庭教師

結愛を空港に送った後、一人でお城見学をして時間を過ごしていたら、家に着いたのが夕方になってしまっていた。

 

「ただいまぁ…て、五月はうちでなにしてんの?」

 

家に帰るとリビングではノートと教科書を広げて勉強している五月の姿があった。

 

「兄さん、おかえりなさい」

「おかえりなさい、先生」

「ただいま」

 

ことりは夕飯の準備をしているようなので、キッチンの方から声をかけられた。

 

「で?なんでうちで勉強してるの?」

「……うちでは今、三玖と四葉がテレビを観ていまして、それでことりさんにお願いしてここをお借りしたんです」

「なるほどねぇ。五月も三玖や四葉とテレビ観てればよかったのに」

「キリのいいところまでやったおきたかったので、それで。ご迷惑でしたでしょうか…」

「いや。迷惑ってことはないさ。今やってるのは数学?」

 

五月の近くで座り込んだ僕は、教科書とノートを覗き込んで確認した。

 

「~~っ…!は、はい!その、よければ教えていただけますか?」

「いいよ。どの問題?」

「これなのですが…」

 

五月が解きかけの問題をペンで差した。

 

「えーっと……目の和が奇数になる場合は何通りか、か。サイコロは三つだから奇数になるのは二通りあるのは分かるよね?偶数偶数奇数。あとは、奇数奇数奇数……て、どうした?」

「え!?な、なにがですか?」

「いや、ボーッと僕の顔の方を見てたから。口元に何か付いてた?」

 

ハンカチをポケットから取り出して口元を拭いてみたが特になにも付いていないようだった。

 

「す、すみません。少しボーッとしていました。大丈夫です。続けてください」

「ならいいけど」

 

ノートに向かっている五月の顔は若干赤いように思えた。風邪でも引いたのだろうか。

 

「五月、ちょっとごめん」

「え?」

 

一言五月に謝った僕は、五月の頬に右手を添え、左手で五月の前髪を上げ、そのまま僕の額を五月の額に当てた。

 

「~~~~~~~~っ!!!!!」

 

ふーむ、熱はないか。

 

「顔が赤いから風邪かと思った……て、五月!?」

「ふにゃ~~……」

 

額を離して五月と少し距離を置くと、五月がさらに顔を赤くして後ろに倒れそうになったので、慌てて抱き抱えた。

 

「ちょっ、大丈夫?」

「何やってんの兄さんは」

 

そんな時、呆れ気味にことりが後ろまで来ていた。

 

「いやっ!五月が顔を赤くして倒れそうになったから」

「もう、あんなことするからだよ。おーい、五月ぃ。大丈夫?」

 

ことりは特に慌てることもなく五月の頬を軽く叩いて呼びかけた。

 

「う……うーん……」

「誰だっていきなり異性の人におでこ同士を当てられたら驚くに決まってるじゃん。ただでさえ、五月は異性との接し方に慣れてないんだから気をつけてよね」

「な、なるほど……」

 

最近は五月がお兄ちゃんと慕ってくれてることもあり、普段からことりに飛鳥、結愛に接するようにしてしまった。そうだよね。いきなりあんなことされたらビックリするよね。反省である。

その後、復帰した五月には、お詫びとしてうちでご飯を食べていくように伝えた。他の姉妹には僕から、うちで五月が夕飯を食べていくと伝えておいた。

 

「さっきはごめんね。たくさん食べてって」

「ありがとうございます。こちらこそ、急に倒れてしまい、すみません」

 

ご飯を大盛でよそったお茶碗を手に持ち、申し訳なさそうに五月は食べている。

 

「ふふっ…あ、そうだ。今日ね、風太郎君が面白いこと提案したんだよ。ね、五月」

「え、ええ」

「面白いこと?」

 

一日オフの第二弾的なことだろうか。

 

「それはねぇ、全員家庭教師案だよ」

「全員家庭教師…」

「これから先、私や風太郎君がいない時間帯は姉妹でお互いに教え合うの。例えば、五月は理科が得意だから、他の姉妹に教えるみたいな」

「なるほどな。一花が数学、二乃が英語、三玖が社会、四葉が国語を他の姉妹に教えていくのか」

「そうそう」

 

五人の得意科目がバラバラだったのは前から知っていた。だから、これをどうにか生かせないかとは思っていたけど、上杉は良いこと思いつくなぁ。

 

「人に教えることで、自分の知識向上にも繋がるだろうし一石二鳥かもしれないな」

「でしょでしょ。本当によく思いつくよねぇ」

 

ことりの方は賛成って感じか。しかし…

五月の方を見ると、話に参加していないようにもりもりとご飯を食べている。何か不安なことでもあるのだろうか。

夕飯が終わった後も五月はこちらに残り勉強をしていた。あまり根を詰めすぎるのも良くないと思うのだが…

ちなみに、今はことりはお風呂に行っている。

そこでおもむろに五月がペンを置いた。

 

「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「うん。ここに座ってほしいの」

 

トントンと五月が自分のすぐ横を叩きながらお願いしてきた。

 

「まあ、それくらいなら...」

 

ソファーから立ち上がった僕は、五月の指定された場所にあぐらをかいて座った。

 

「うん。ありがとう」

 

そう言うや否や、五月は僕の太ももあたりに頭を乗せて横向きに寝転がってしまった。

なるほど、これが狙いでしたか。

当の五月は満足そうに目を瞑っている。

 

「頭撫でて」

「……どうした?今日の五月はやけに甘えん坊だな」

 

五月に言われるがまま頭を優しく撫でてあげながらそんなことを伝えた。

 

「いいじゃん。甘えたくなったの」

「さいですか…どうですか?お嬢様」

「ふふふ…いい感じ」

 

ご機嫌なお嬢さんの頭をゆっくりと撫で続けていた。

 

「……お母さんも、こんな風に甘えられる人が近くにいれば、長生きしてくれてたのかなぁ…」

「どうだろうね」

「………お父さんのことなんだけど…」

 

お父さん?と言うと──

 

「中野さん?」

「ううん。本当のお父さんの方」

 

あ、ああ…なるほどね。そういえば、本当のお父さんの話は聞いてないな。下田さんと話した時も話題にあがらなかったし。

 

「本当のお父さんにはね、私たちは会ったことないの。当然だよね。お母さんのお腹の中に私たち五つ子がいると知るや姿を消したんだって」

「え…!?」

 

僕の中では、五つ子が生まれた後の離婚や不慮の事故などを思っていたが、そんなことが…

しかし、なんて男だ。夫婦であるならば、五つ子を育てていく大変さを共に乗りきっていこう、となるはずが、産まれる前に姿をくらますなんて。

五月の頭を撫でていない方の手にギュッと握る力が入り、その影響か撫でる手も止まってしまった。

 

「そんなことがあってね。私、男の人が苦手になっちゃったの。みんな本当のお父さんみたいな人なんだろうなって…」

「五月……」

「でもね、お兄ちゃんは違った。優しくて頼りになって、いつも私のことを想ってくれている」

「そうでもないだろ」

「そうなの!」

 

そこで横向きになっていた五月が仰向きになったのでこちらを見上げる形となった。

そして、先ほどまで撫でていた手を五月がおもむろに両手で握り、自分の胸の中心に持っていった。

 

「お、おい!」

「大丈夫だよ。これが私の信頼の証………お兄ちゃん…が……私…の……だ…ん……さ…なら………すぅー……」

 

目を瞑ったと思ったら、五月はそのまま眠ってしまった。また何か抱え込んでいて、安心して寝てしまったってとこか。

左手は五月に握られているので、逆の右手で寝てしまった五月の頭を撫でてあげる。すると、口角があがったように見えた。

結局、お風呂から上がってきたことりにお願いして、ことりの部屋に布団を敷いてもらった。その布団に五月をそのまま寝かせたのだ。

 

『あはは、勉強してたら寝落ちしたって五月ちゃんらしいなぁ~』

 

五月が寝てしまったので、このままうちで預かることを長女である一花に連絡をした。

 

「そんな訳だから、今日は五月をうちに泊めるから」

『りょーかい。ごめんね、迷惑かけて』

「いや、このくらいわけないさ。ただ、明日の朝には無理しないように注意はするけどね」

『ふふふ、先生の言葉だったらきっと五月ちゃんも言うことを聞くと思うよ。ま、ほどほどにね』

「ああ。ところで一花はどうなんだ?仕事は無理してないか?」

 

五月や他の姉妹も無理してないか気にはなるが、一番はやはり一花だと思っている。なにせ、一家の経済的な部分を担っているのだから。

 

『私?私は大丈夫。まあ、明日も仕事なんだけどね…あはは…』

「ったく…何かあれば言いなよ。僕は、五人全員の助けになりたいって思ってるんだから」

『うん…!頼りにしてる。その時が来ればお願いするよ。じゃあ、私もそろそろ寝るから』

「ああ、おやすみ」

『おやすみ、せんせっ』

 

一花との電話を終えて、ベッドに仰向けで寝転び、ぐーっと腕を伸ばした。

さてと、僕も明日は朝から四葉の買い物に付き合う訳だし、そろそろ寝るか。

 

ヴー…ヴー…

 

そこへ着信が入ったので、相手を確認した僕は仰向けのまま電話に出た。

 

『こんばんは和彦』

「ああ、こんばんは。今日は始めから呼び捨てなんやね」

『ふふふ…もう私の気持ちも知られてるし、この関係も続けていいって言われたわけだしね。そう言うあなたも話し方崩れてるわよ』

「あー…飛鳥と話しよるともういいかなって。で?どうした?」

『あら、嬉しいわね。私の時は気を許せるってことよね』

 

まあ、そうなるんだが、それを言うのもなんか嫌だなぁ。

 

「いいだろそこは。ほら用件」

『はいはい。結愛が無事に帰ったから連絡しておこうと思って』

「ん?結愛なら本人から無事に着いたって連絡あったけど」

『へぇ~…結愛、ねぇ~』

 

含みのあるような声で答えられた。少し怒ってる?

 

「本人からお願いされたんだ、仕方ないだろ」

『ええ、知ってるわよ。あの子から嬉しそうに報告受けたもの。後、告白もされたのよね?』

「うっ…よくご存知で」

『それはそうよ。前々から結愛に相談されてたんだから。和彦さんが好きだからってね。それで興奮気味に、告白しちゃった、て報告があったの』

「そ…そうなんだ…」

 

そうか。飛鳥の助けがあってこその今回の受験でもあるのか。結愛一人で考えて行動したのには、少し疑問でもあったのだ。

 

『まあ、恋愛相談をされる度に心苦しかったのはあったのだけどね。何せ私の気持ちは伏せたままだったのだから』

「それでも、ちゃんと相談を聞いてアドバイスも出してたんだろ。十分やないと?」

『うん……あの子のまっすぐな目を見てたら、とてもじゃないけど邪魔なんてできなかったわよ』

「そうか…」

『…うん……』

 

そこで二人の間に静寂が流れた。

 

『さて!結愛も想いを伝えちゃった訳だし、私もなりふりかまってられないわね』

「今までも十分だっただろ…」

『あら、私にはこうやって電話やメッセージしかできないっていうハンデがあるのよ。何か対策打たないとでしょ?』

「いや…まあ、そうやけど…」

『色々と考えてみるから、場合によっては協力してね』

「はぁぁ…分かったよ」

『うん♪じゃあ、もう切るわね。おやすみなさい和彦。大好きよ』

「おやすみ、飛鳥」

 

そこで電話が切れたので、電話を持っていた方の腕を下ろした。

 

ヴーヴヴー…

 

するとそこにメッセージが届いたので、また腕を上げてスマホを確認した。

画像添付?

飛鳥からのメッセージなのだが、画像が添付されているようなのでそれを確認する。

 

「なぁーーっ!?」

 

その画像は飛鳥が自撮りで首からかけているネックレスが見えるように撮ったものだった。それまでならまだいいのだが、如何せん、飛鳥の胸元まで見えてしまっているのだ。

 

「あいつぅ~…絶対わざとだな…」

 

そんなところにメッセージが届く。

 

『これを見て私のことを忘れないでいてね。あと、消すのは禁止だから』

 

このメッセージから飛鳥がウインクしているところが想像出来てしまう。

誰にも見られないようにしとかないと…

そんな思いの中、今度こそ眠りにつくのだった。

 


 

~飛鳥side~

 

先ほどの画像を送った飛鳥はニコニコしながらスマホを見ていた。

 

(ふふっ。和彦の慌てた様子が目に浮かぶわぁ。今度はもうちょっと攻めた画像を送ろうかしら)

 

コンコン…

 

今後のことを考えている飛鳥のところに来客が現れた。

 

「はい。どうぞ」

 

飛鳥が入室を促すと、ドアを開けた陰から結愛が顔を覗かせた。

 

「お姉ちゃん、お風呂空いたよ」

「そう。ありがとう。すぐに行くわね」

 

結愛からお風呂が空いたと言われた飛鳥は、先ほどのまで座っていた机の椅子から立ち上がると、お風呂に入る準備を始めた。

 

「お姉ちゃん何かあったの?機嫌良さそうだけど」

「何もないわよぉ。結愛程ではないでしょ?和彦さんからはメッセージの返信来たの?」

「うん!すぐに送ってくれたよ。これからもメッセージ増やしていいか聞いたら、問題ないんだって。でも、もう一つの高校受験もあるんだから、勉強を怠らないように、て言われちゃったんだけどね」

 

楽しそうに話す結愛を見ていたら、飛鳥の口角も自然と上がっていた。

それでも飛鳥の心はズキズキした痛みもあった。

 

(このまま黙ってていいのかしら。でも、本当のことを言って嫌われるのも怖い………っ!)

 

そこで飛鳥は、結愛と正面に向かい合うようにして、話し始めた。

 

「あ、あのね結愛。あなたに伝えなければいけないことがあるの」

「ん?なに?真剣な顔してるから大事なこと?」

「ええ。とても大事なことよ…………あのね、ずっと黙ってたけど……わ…私も、和彦さんのこと好きなの」

「え…!」

 

意を決して自分の気持ちを伝えた飛鳥は、ドキドキと緊張していた。

 

「……それだけ?」

「え?」

「それぐらい知ってるよぉ。もう、真剣な顔してたから、なんだと思ってたのにぃ」

 

しかし、伝えた相手の結愛はとくに気にしている様子もなかった。

 

「え?え?知ってたの?」

「そりゃあ近くにいればわかるよ。お姉ちゃん、和彦さんに話す時はすごいニコニコしてるんだもん。それに、和彦さんがこっちに帰ってくる時だってご機嫌そうだし」

「そ…そんなにわかりやすかったかしら」

 

顔を両手で隠しながら、飛鳥は恥ずかしそうにしている。

 

「わかりやすいよう。まあでも、気づいてるのは私くらいかな。和彦さんやことりさんは気づいてないと思うよ」

 

さすが姉妹。ほんのちょっとの変化にも気づいていたようだ。

 

「じゃ、じゃあなんで私に恋愛相談をしてくれたの?」

「うーん…おんなじ人を好きになったから、お姉ちゃんなら相談にのってくれるかなって。それに私が行動すれば、お姉ちゃんも行動起こしてくれると思ってたから」

「──っ!」

「あ、もちろん私は諦めてないよ。和彦さんのお嫁さんは私なんだから」

「お嫁さん!?」

「だって、和彦さんの年齢考えると結婚も考えた方がいいでしょ。なら、私は彼女もだけどお嫁さんも目指すよ」

 

飛鳥はただただ驚いていた。妹がここまで考えているということに。

 

「あっちに行ったら、ことりさんにお願いしてご飯の準備やお洗濯なんかもさせてもらってアピールしていくつもりなんだぁ。私はいいお嫁さんになるよって。だから、お姉ちゃんも頑張ってね。ちょっと遠くの場所ではあるけど、お姉ちゃんなら気にしないよね」

 

結愛はずっと笑顔で話しているが、これは言わば宣戦布告でもある。そんな結愛の態度に、先ほどまで嫌われるのではと怖がっていた自分が馬鹿馬鹿しく思えた飛鳥もニッコリと笑った。

 

「ふふっ、あまり調子にのって、また子供扱いされないようにするのね。その間に私は私のやり方であの人の心を落としてみせるから」

 

喧嘩…とまではいかないものの、二人の間でバチバチと火花が散っていた。しかし、同時に二人の絆も強固なものとなった時でもあった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話では、五月と飛鳥を焦点にして書かせていただきました。
数学の確率を教えるシーンですが、原作では風太郎が三玖に教えるところだったところを、この作品では和彦が五月に教えるシーンとして使わせていただきました。
さて、四葉の買い物に付き合うことから分かるように、次回からはバレンタインに向けたお話を予定しております。

次回の投稿は、7月1日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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