少女と花嫁   作:吉月和玖

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77.それぞれの準備①

五月がうちに泊まった次の日。

今日は、約束をしていた四葉との買い物に出かけていた。

 

「今日はありがとうございます、先生。車まで出してもらって」

「いや、いいって。僕も気分転換のドライブになってるしね」

「そう言ってもらえると助かります」

 

本当のことなんだが、これ以上言っても四葉は折れないだろうからここまでにしとくか。

 

「それで?あれから上杉とは進展とかなかったの?」

「ふぇっ!?そそそ、そんなっ!何もないですよー!」

「そうか。遊園地にも行ったんだし、何かあったと思ったんだけど」

「今は赤点回避に集中したいので。遊園地にも勉強道具を持って行き観覧車の中で勉強をしていました」

 

それは息抜きになったのだろうか。

 

「結局、上杉さんに見つかってしまったんですけどね......そこで私は上杉さんに転校の顛末をお話ししました」

「ああ、四葉だけが落第したっていうあれか」

「はい。私にみんながついてきたことをお話ししたら、さすがの上杉さんも信じられないといった顔をしてました」

「まあ、そりゃそうだろうね」

「そして、もうみんなの足を引っ張りたくない、勉強をさせてほしい、とお願いをしたら少しの時間でもと勉強をみてくれたんです。その時に私が、みんなは解けなかった国語の問題を解けていたのに上杉さんは気づきました。そして、全員家庭教師案が生まれたんです」

 

なるほど。そういった経緯があってあの全員家庭教師案が提案されたのか。

 

「上杉さんは言ってくれました。お前にしかできない仕事だと。今度はお前がみんなの手を引いていくんだ、て言ってくれたんです」

 

チラッと見た四葉の顔は晴れやかな顔をしていた。

 

「ふふっ…上杉に惚れ直したかい?」

「ふぇっ!?ほ、ほれ、惚れ直したとか、そんなんじゃないですよー!」

「あははは」

 

そんな感じで時々は四葉をからかいつつ車を走らせるのだった。

そして到着した商業施設。どこもかしこもバレンタイン一色である。そんな中を四葉と並んで歩きながら色々と見て回った。そこに、バレンタインの催事コーナーが開かれている広場に行き着いた。

 

「ここなら色んなのが見れるんじゃない?」

「そうですね。うーん…どれがいいかなぁ。予算もそんなにないしなぁ」

 

今は家出中のため、五つ子は一人一人お金をそこまで持っていない。一応、一花からお小遣いはもらっているようだが、それもたかが知れているだろう。

 

「まあ、あんまり高くなくても良いんじゃない?僕だったら、高すぎると申し訳なさが出ちゃうかもだし」

「ですかね」

「後はそうだなぁ…一口サイズのものとかいいかもだね。勉強しながら食べてもらうとか」

「あ、それいいですね!じゃあ、この辺りがよさそうです」

 

四葉はお手頃な値段のチョコが並んでいるコーナーで一口サイズのチョコを選び始めた。

 

「あ、そうだ。ちなみに先生はどんなチョコが好きなんですか?」

 

不意に四葉が、チョコを見ていた目線をこちらに持ってきながら質問を投げかけてきた。

 

「僕の?なんでまた」

「えっと…上杉さんってなんでも美味しいって言うので、男の人の意見として聞いとこうかなって」

「ふーん…まあいいけど。僕は甘すぎずビターすぎずがいいかな。後はナッツやアーモンドが入ってるのが好きだね」

「ふむふむ。なるほど。ありがとうございます!」

 

僕の答えに納得したのか、四葉また目線をチョコに戻して選び始めた。

 

「………四葉。僕はあそこのベンチに座ってるから、買い終わったら来てくれる?」

「え?……わかりました!」

「別にゆっくり考えていいからね」

「はーい!」

 

ちょっと周りの視線も気になってきたので、僕はひとまずこの場から離れることにした。四葉もちょっとは気づいてくれたようだ。

しばらくベンチに座って四葉の買い物を待っていたが、納得したような顔で四葉はこちらに向かってきた。

そのまま帰っても良かったが、時間も時間だったので、お昼を食べてから帰ることにした。

 


 

~五月side~

 

(とうとう来てしまいました…)

 

五月が来ているのはショッピングモール。

そこで行われているバレンタインコーナーが今、五月の目の前で広がっている。

 

(あ、あくまでも普段お世話になってるお礼であって、別に他意はなく……)

 

誰に言われたでもないのに、五月は心の中で一人弁解をしていた。

 

「それにしても、こんなに種類があるのですね…」

 

五月が見ている場所にはたくさんの種類のチョコレートが売られていて、五月は目移りをしていた。

 

(どうしよう……どれも美味しそう…)

 

見た目が美味しそうというのもあるのだが、この空間にはチョコレートの甘い匂いもしていて、五月は自分の目的を忘れそうになっていた。

 

(はっ…!いけないいけない!ここにはプレゼント用を買いに来たのであって、自分用を買いに来たわけではありません!……でも…)

 

その後も誘惑との闘いの末、何も買わず近くのベンチに座ってしまった。

 

(う~…誘惑が多すぎますぅ~。これでは何をしにここまで来たのかわかりません)

 

途方に暮れた五月は、スマホで他にないか探し始めた。

 

(………バレンタインのプレゼントにはチョコレートでなくてもよいのですね。これは……『バレンタインにチョコ以外のものを欲しいと思っている男性は意外と多い!?』、ですか…)

 

スマホで検索をしているとある記事が目に入った。

そこには、バレンタインプレゼントの候補も色々と書かれていた。

 

(マフラーにお財布、カードケースにお酒なんかもあるんですね。しかし、私ではお酒は買えませんし………っ!?し、下着!?そんなものまで男性の方は喜ばれるのですか!?)

 

特集を見ながら一人盛り上がっている時にあるものが目に留まった。

 

(これは……)

 

そして五月は、それが置いてあるであろう紳士服売場に向かった。

 

「種類もたくさんあるのですね…」

 

売場に並んでいるものを見ながらどれがいいだろうと五月は悩んでいた。

 

「どなたかへの贈り物ですか?」

「え?」

 

じっと見ていた五月の近くに女性店員が来て声をかけてきた。

 

「すみません。あまりにも真剣に見られていたので」

「えっと…はい……その…大切な人に……」

「そうですか。では、お選びするお手伝いを致しましょうか」

「いいのですか?」

「はいっ」

 

その後は女性店員の助言を受けながら五月はプレゼントを選ぶことが出来た。

 

「では、プレゼント用に包装しますね。お父様のお誕生日でしょうか?」

「いえ……えっと…バレンタインプレゼントでお願いします」

「あら。そうだったのですね。では、バレンタイン仕様で包みますね。喜んでくれるといいですね」

「はい!」

 

女性店員がニッコリと笑顔で話した言葉に笑顔で五月は答えた。女性店員が包装を開始したのだが、手慣れているからかすぐにそれは終わった。

 

「お待たせしました。そうだ。最後にこのプレゼントには意味が込められていると言われているんですよ」

「プレゼントに意味ですか?」

「ええ。その内容と言うのが──」

 

女性店員の言葉を聞いた瞬間、五月の口角が上がった。

 

(いいな、それ。お兄ちゃんにも届いてくれるといいなぁ)

 

紳士服売場を出た五月は次の行動に移った。

 

(さて、先生のプレゼントも買えましたし、次は上杉君ですね。とは言え、彼へのプレゼントは先ほどネットで調べたときに決まっているのですが…)

 

風太郎のことを考えて先ほどの特集を見た五月がすぐにピンときたもの。それは筆記用具であった。

 

(彼と言えば勉強ですからね。なにか勉強の役に立つものを買っていきましょう)

 

そう考えた五月は筆記用具店に向かい、風太郎へのプレゼントを買った後はそのまま帰路に着くのだった。

 


 

~二乃side~

 

「さてと…誰もいないことだし、ちゃっちゃと作りますか」

 

現在の中野家には二乃しかいない。

一花は朝から仕事に出ており、三玖と四葉と五月も朝から出掛けているのだ。

 

(ま、三玖の行き先はだいたいわかってるんだけどね)

 

エプロンを着けながらキッチンで料理を始める二乃。もちろん作るのはバレンタインチョコである。

二乃は前々からどういうのを作るか考えていた。

 

(和にぃの好みで作るのが一番だけど、多分それは三玖とことりが作ってる。なら、私は別の角度から作らせてもらうわ)

 

そこで二乃は先日ことりと話した内容を思い出していた。

 

・・・・・

 

勉強会も終わり、各々が片付けをしているなか、二乃は自然な流れでことりに質問をした。

 

「ねえ、ことり。先生ってお酒好きなの?私たちと食事する時も飲んでたけど」

「うーん…そうでもないんだけどね。お酒に合う食事が出たりしたら飲むかな。後は気分がいい時とか」

「それはちょっと嬉しいですね。私たちとの食事で気分いいのではと思ってしまいます」

 

ことりの隣にいた五月がふふふと笑いながら答えた。

 

「ふーん。じゃあ好きなお酒とかあるのかしら」

「そうだなぁ……やっぱり日本酒かな。この時期なんかは熱燗作ってるしね」

「渋いなぁ~先生は」

 

日本酒が好きなのと熱燗を作っていることを聞いた一花は、あははと笑いながら答えた。

 

「でも、先生に似合ってる」

「だね。何度かお猪口で飲んでるところを見たけど、おとなぁって感じがしたよ」

 

三玖と四葉もそれぞれが意見を伝えた。

 

「フータロー君はやっぱりビール飲んでそうだよねぇ。日本酒とか似合わなそう」

「勝手に人の想像をするな」

「あははは。ワイングラスを傾けている風太郎君も想像できないね」

「たしかに!」

「お前らなぁ~」

 

風太郎の将来像を勝手に想像をした一花とことりは、二人で爆笑してしまい、それに釣られて三玖と四葉も笑い始めた。その光景に風太郎はイライラが溜まっていた。

そんな中、一人冷静な二乃がことりに質問をした。

 

「じゃあ、そのビールやワインは先生飲まないの?」

「ははは……はぁっ……そうだね。家で飲んでるところは見ないかな。兄さん、ビール好きじゃないって言ってたし」

「なるほどね…」

 

一人納得をした二乃はスマホで何かを調べ始めた。

 

「それにしても、ずいぶん兄さんのことを聞いてくるね。何かあるの?」

「ほら今後も一緒にご飯を食べることもあるでしょ?その時の料理をどうしようかと思っただけよ」

「ふーん…」

 

ことりは一理あるかと思いその場は納得するのだった。

 

・・・・・

 

その後、色々と調べた二乃はあるレシピを見つけた。

 

「それにしても、日本酒に合うチョコもあるのね。さすがに私でもわかんなかったわ」

 

五つ子が未成年であること。それと、マルオが家に帰ってこないこともあり、お酒に合う料理などを二乃が今まで考えてこなかったのは至極当然である。

 

「♪~」

 

湯煎にかけたチョコレートの入ったボウルにやわらかくなったバターを加え、グラニュー糖も加えて泡立て器で全体がなめらかになるまで混ぜる。そんな工程を二乃は鼻歌交じりに進めていった。

 

「そういえば、姉妹のためにお菓子はよく作ってたけど、男の人を想って作るのは初めてよね」

 

初めて作る男性へ贈るバレンタイン。その事を考えた二乃は、恥ずかしさも垣間見える笑みを溢した。

 

「なんだかいいわね、こういうのも」

 

その後もスムーズに進み、オーブンレンジで生地を焼き、冷蔵庫で冷やすところまできたので、二乃はリビングのテーブルに座ったまま突っ伏した。

 

「はぁぁ…和にぃに会いたいなぁ…」

 

窓から見える空を見ながら、二乃は想い人のことを考えていた。

 

「今って家にいるのかしら?だったら今頃……」

 

ばっと起き上がった二乃はスマホを使って和彦にメッセージを送った。

 

『和にぃって今家?』

 

そんな一言のメッセージを送った後、しばらくすると返事が返ってきた。

 

『いや、外だけど何かあった?』

 

(なんだ、外出してたのね。心配して損したわ)

 

『今どうしてるのか気になっただけよ』

『そうか。僕は買い物してるだけだから、昼過ぎには家に帰るよ』

 

二乃から和彦へ告白があってからは特に変わったことはなかった。恋にかまけて赤点なんて取ったら元も子もなかったし、それで和彦に失望してほしくない。そんな考えがあり、二乃からアプローチをするといったことがなかったのだ。

それもあってか、和彦の二乃に対する態度は告白前と変わっていない。そんな態度に、安心している気持ちと少し焦りを二乃は感じていた。

 

(私のことを少しは意識してくれてるのよね…?うーん…メッセージだとわかんないわね)

 

『ねえ、今日会いたいって言ったら迷惑?』

 

会いたい一心で二乃はメッセージを送った。

 

『午後から勉強会だろ?』

『その後でもいいわ。夕食の買い物に付き合ってよ』

『それくらいだったら構わないよ』

『ありがと♪勉強会終わったら連絡するわ。言っておくけど二人っきりなんだからね?』

『わかったよ』

 

そこでメッセージを終え、二乃はスマホをテーブルに置いた。そのまま床に仰向けで寝転がり天井を見上げながらニコッと笑みを浮かべた。

 

(内容が夕食の買い物ってちょっと地味だけど、二人で会えるなら何てことないわ)

 

そんな二乃は出来上がったテリーヌを味見をした。その出来も良かったからか、終始ご機嫌な状態でそのままラッピング作業に取りかかるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、それぞれのバレンタインに向けた準備の話を書かせていただきました。
今回のお話では、四葉・五月・二乃の三人でしたので、次回のお話では残りのメンバーを書こうと思っております。

では、次回の投稿は7月6日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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