少女と花嫁   作:吉月和玖

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79.バレンタイン①

「はい!バレンタインのチョコだよ♪」

 

二月十四日。朝食を食べ終わり仕事のために出掛ける準備をしていた時にことりからラッピングされたものを渡された。

 

「毎年ありがとね。中身は帰ってから食べるよ」

「ふふん♪今年も自信作なんだから。飛鳥のチョコなんか目じゃないよ」

「そいつは楽しみだ。じゃあ、いってくるよ」

「いってらっしゃい。私もすぐに出るね」

 

ことりに見送られながら玄関を出たところでスマホに着信が入った。相手は二乃。

こんな朝から何の用だ?

 

「はい」

『おはよう和にぃ。家はもうすぐ出るとこ?』

「いや、今出たとこだけど。もうエレベーターに乗ろうとしてる」

『ちょっと待っててくれない?一緒に学校行きましょ。私もすぐに出れるから』

「まあ、まだ余裕もあるし構わないよ」

『ありがと。すぐに向かうわね』

 

電話が切れたところでエレベーターには乗らず、そのままそこで待機することにした。

そして、ほんの数分後には二乃と合流した。

 

「お待たせ和にぃ。じゃあ、行きましょうか」

「おはよう二乃。しかし、えらく早い登校なんだね。日直とか?」

「まあいいじゃない。話しながら行きましょ」

 

そう言いながら二乃はエレベーターに乗ってしまったので僕もそれに続いた。

マンションから出てしばらくすると二乃から話が振られた。

 

「和にぃ。今日が何の日か知ってるわよね?」

「まあ、朝からことりに貰ったからね。バレンタインだろ?」

「そうよ。で、私は和にぃが好き」

 

こんな真っ正面から好きと言われると、こちらも照れてしまいそうだ。

 

「そうなってくると、私のすることは一つしかないわ」

 

そして、二乃は鞄から綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

 

「はい。ハッピーバレンタイン♪愛情込めて作ったんだから、ちゃんと味わってよね」

「ああ…ありがとう」

「何よ。嬉しくないの?」

 

受け取った時の表情が固かったからか、不満気に二乃が聞いてきた。

 

「そんなことないさ。ただ、まっすぐに好きと言われたからちょっと照れてただけだよ」

「ふ~ん♪こういうのが和にぃには効果的みたいね。今後の参考にさせてもらうわ」

 

僕の照れた事が嬉しかったのか、上機嫌になった二乃は笑顔のまま僕の隣を歩いている。

まあ、二乃がご機嫌ならいいか。

 

「本当は和にぃに一番にチョコを渡したかったんだけど、さすがに同じ家に住んでる妹には勝てなかったわねぇ…」

「ははは…朝一に渡されたからね」

「でも、家族以外で言えば一番ってことよね?」

「うーん…今日でって言えばね」

「どういうこと?」

「実は先週なんだけど、早めに貰ってたんだよ。ちょっと訳ありでね」

「は?先週って。なんでそんなことになってるのよ」

「ほら、受験のためにこっちに来てた結愛って子いたでしょ。あの子とその姉の分を貰ったんだよ。場所が場所だからね。受験のために来るついでにって感じでさ」

「なるほどねぇ」

 

僕の説明に納得するように二乃は答えた。

 

「まあいいわ。私のチョコはなんと言っても特別なんだから」

「特別?」

「ええ。ネットで色々調べたんだけど、日本酒に合うチョコもあるみたいで、今回はそのチョコに挑戦してみたの」

「へぇ~」

 

お酒のおつまみにチョコか。考えたことなかったな。

 

「チョコレート自体にアルコールが入ってるわけじゃないからことりも食べることができるわよ」

「それは助かるかな。ことりにもしつまみ食いされたら危ないし」

「あの子そんなことするの?」

「ああ。他の人がどんなチョコを用意したのか気になるんだと」

 

まあ、本当は誰から貰ったのかとか、自分のとどっちが美味しいかが気になってるんだそうだが、そこまで言わなくてもいいだろ。下手したらことりの本性が分かっちゃうし。

 

「ふ~ん、料理についても勉強熱心なのね」

「そうみたいだね」

 

若干理由が不純ではあるが…

その後も機嫌が良かった二乃から色々と質問をされながら学校に向かった。

 


 

コンコン…

 

今日も数学準備室に昼食を食べに来た上杉と二人で昼食後の雑談をしていたのだが、そこに誰かが来たようである。

 

「失礼しまーす」

「失礼します!」

「ん?なんだ、一花と四葉じゃないか」

「ヤッホー。お、フータロー君いたいた」

「ここにいてよかったぁ」

 

一花と四葉の様子から上杉を探していたようだ。てことは、用事は一つか。

 

「なんだ?俺に何か用なのか?」

「今日が何の日かわかれば、用事もわかるでしょ?て、そもそも何の日かフータロー君にはわからないか」

「はぁ……バレンタインだろ?」

「えーー!?上杉さん知ってたんですか?」

 

一花が僕の横に、四葉が上杉の横に座りながら上杉に今日が何の日か確認をした。すると、上杉の口からバレンタインの言葉が出たことに四葉が真っ先に驚いている。一花も驚いてはいるようである。

 

「おまえはおれをなんだと思ってるんだ。と言っても、朝までは知らなかったんだがな。はぁぁ…」

 

両膝にひじをついて手を組み、その上に額を押し付けて、下を向きながら上杉は大きなため息をついた。

まあ、あんなことがあったら無理ないか。

 

「ねえ。フータロー君どうしたの?ずいぶん疲れてるみたいだけど」

「あーー……うちの妹がね、やらかしたんだよ」

「え?ことりさんですか?」

 

ことりが何かするだろうか、と疑問に思っているような四葉の声を聞いた上杉は、ギギギと聞こえてきそうなほどゆっくりと頭を上げて説明をした。

 

「先生の前で申し訳ないですが、あの馬鹿はやらかしやがったんだ!」

「んー…フータロー君がバレンタインを知っている。そこに疲れているフータロー君にことりとくれば……まさか…」

 

どうやら一花は気づいたようだが、四葉の方はまだ分かっていないようである。

 

「朝登校して教室で座ってたら、元気よくことりの奴が来やがった。そしてあろうことか、クラスメイトが見ている前で──」

 

─はい、風太郎君♪愛情込めて作ったんだよ。よかったら、らいはちゃんと食べてね♪

 

そこでまたガクッと上杉は頭を下げてしまった。

憐れ、上杉……

 

「それは……」

「あらら~。んー、なるほどねぇ。それで朝は妙にみんな騒いでたのか」

 

心配そうに上杉を見ている四葉と納得した一花である。

まあ、ことりは二人はまだまだ仲が良いところを見せたかったんだろうがね。

 

「まあ、らいはの分まで作ってくれてることは感謝してるがな。だが、渡すにしろ場所を選んでほしいぜ」

 

ムクッと顔を上げながら話す上杉ではあるが、どこかまんざらでもなかったような顔をしている。貰ったこと自体は嬉しかったのだろう。

 

「じゃあ、私たちは問題ないみたいだね」

「だね!」

「?」

 

まさか自分が今からバレンタインのプレゼントを貰うと思ってもいないようで、上杉は二人の言葉に不思議そうな顔をしている。

 

「はい──」

「「ハッピーバレンタイン!」」

「!」

 

一花と四葉が声を揃えてそれぞれのプレゼントを上杉に差し出した。それに対して上杉は驚いた顔をしている。

 

「ほらほら。固まってないで受け取ってよ」

「受け取ってくれないんですか?」

 

固まってしまった上杉に、一花が受け取るように急かしているが、四葉は悲しそうな声を出していた。

 

「お、おう。すまん。まさかお前らからあるとは思ってなかったからな」

「最初に言ったじゃん。フータロー君に用事があって、今日は何の日でしょうって」

「そしたら、バレンタインだって答えてくれましたよ」

「そ、そうだったか…」

 

緊張した(おもむき)で二つのプレゼントを受け取った上杉だが、まだ頭が追いついていないようである。それでも口角は上がっているので嬉しさはあるのだろう。

一花と四葉もそれに気づいているからか、二人も嬉しそうである。

 

「私はことりさんみたいに手作りではありませんが、勉強しながらも食べれるようにしました。勉強には甘いものがいいらしいですよ!」

「私はそもそもチョコじゃないから、使ってくれると嬉しいかな」

「そ…そうか。結構考えてくれてるんだな。ありがとな」

「「──っ!」」

 

今度はしっかりと笑顔で答えた上杉の反応にドキッとしたのか、二人は目を見開いていた。

四葉の気持ちは知っていたが、そうか、一花も上杉を。あのモールで話していたのは、ことりと上杉のことを言っていたのか。

しかし、上杉もやるなぁ。しっかりと心を掴んでるじゃないか。まあ、この後が大変かもしれないが。て、僕も人のこと言えないか。

そんな心の中で自分にツッコミをいれているとスーッとラッピングされた二つの箱が目の前に差し出された。

 

「え?」

「はい。これは先生の分ね」

「先生にもお世話になってますから」

「そ、そう?ありがとう」

 

お礼を言いながら二つの箱を受け取った。まさか僕にもあるとは思わなかったな。

 

「あれ?もしかして自分にもあるとは思わなかったとか?」

「ししし。サプライズ成功ですね」

 

こんなサプライズなら大歓迎だ。

そんな風に考えながら残りの昼休みを四人で過ごすのだった。

 

・・・・・

 

昼休みも終わり、次の授業が始まる前に三人は教室に帰っていった。

僕は次の時間は授業が入っていないので、そのままここで仕事をしていた。

 

「うーん……ちょっと一息入れるかぁ」

 

キリが良いところでペンを置き、腕を上に伸ばしながら、休憩を入れようかと考えていた。

 

コンコン…

 

「?はい!」

 

そこに人が訪ねてきたようだが誰だろうか?

そんな思いで返事をするとドアが開かれた。

 

「失礼します。よかった、いらっしゃったんですね」

 

ドアを開けて入ってきたのは芹菜さんであった。

そういえば、芹菜さんもこの時間は授業が入ってないんだっけ。

 

「どうされたんですか?とりあえず、ソファーにどうぞ」

「ありがとうございます。その、渡したいものがあったのですが、中々機会がなかったもので……」

 

芹菜さんはソファーに座りながら説明をすると、持ってきていた鞄の中を探し始めた。

そんな芹菜さんを見ながら僕は向かいに座った。

 

「あった……はい、バレンタインチョコです。その…手作りですのでお口に合えば良いのですが……」

 

少し恥ずかしそうに差し出してきたラッピングされた箱を僕は受け取った。

 

「ありがとうございます。早速食べてみてもいいですか?」

「は、はい!そうだ、ちょっとお隣に行ってもいいでしょうか?」

「え?それは構いませんが…」

 

僕の許可をもらった芹菜さんは僕の隣に座ると、先ほど自身で渡してきた箱のラッピングを解き始めた。

 

「芹菜さん?」

「ふふふ…どうせなら食べさせてあげようかと思いまして……はい、あーん♪」

「えっと………あーん…」

 

笑顔でつまんだチョコをこちらに差し出してくる芹菜さんに負けて、口を開いた。

 

「どうですか?」

「……うん。ちょうどいい甘さで食べやすくて美味しいですよ」

「本当ですか!?よかったぁ~」

 

僕の感想を聞いた芹菜さんはほっとしながら喜んでいた。

この間クリスマスに食べた料理も美味しかったし、かなり料理の腕はあるようだ。このチョコからそうな感じがしてくる。

そんな風に考え、もう一つと思って、チョコの入った箱に手を伸ばすが、それを芹菜さんに遮られた。

 

「えっと……芹菜さん?」

「ふふっ、もう一つ食べたいのなら、また私が食べさせてあげますよ。はい、あーん♪」

 

そう言って、先ほどよりも嬉しそうな笑顔でチョコを差し出してきた。

まあ、一回やったら二回も同じか…

諦めた僕は、芹菜さんによって差し出されたチョコをまた口に入れた。

うん。やっぱり旨い。たしかチョコの好みを聞いていたからその通りに作ったんだろうな。

そんな風にチョコの出来に感心していると、香水の良い香りがした。

 

「え──?」

 

そして、次の瞬間には僕の唇は芹菜さんの唇に奪われていた。

 

「ん……ちゅっ……ふふっ、やっぱりチョコを食べた後はキスも甘くなるんですね」

「え?いや……なんで…?」

 

軽く混乱をしている僕と打って変わって、芹菜さんは余裕そうな顔でキスの感想を伝えてきた。

 

「言ったじゃないですか。こういうことをこれからもしたくなるって」

 

なんか言っていたような気がせんでもないが……

 

「嫌でしたか?」

「嫌じゃないですよ。ただ、僕はまだ答えを出せていない。そんな男に愛想をつかないのかなって……」

「つくわけないじゃないですか。むしろ、好きになってもらうために私は頑張ってるんです。私はあなたが大好きですから」

「──っ!」

 

なんてまっすぐな人なんだろう。

こんなにもまっすぐに気持ちを伝えてくれているのに僕は……

情けない気持ちでいっぱいな僕の顔にスーッと芹菜さんが両手を添えてきた。

 

「あまり思い悩まないでくださいね。私はいつまでもあなたの答えを待っています。例えそれが私の望んだ答えではなかったとしても……悲しいですがそれも受け入れます。だから、あなたの答えが出るまでは、私のしたいようにさせてもらいますね。それが私の望んだ答えに繋がるかもしれませんから。ん……ちゅ……」

 

そう話した芹菜さんは本日二度目のキスした後にニッコリと笑みを浮かべた。そんな彼女に僕は頷き返し、しっかりと考えていこうと決心をするのだった。

 

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話からバレンタインの様子を書かせていただいております。人数も人数なので、バレンタインの話は分けて書いていきます。
今回は、ことりが少々に二乃と一花&四葉と芹菜のお話ですね。
次回で残りのメンバーを書けたらなと思っております。

次回の投稿は7月16日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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