「好きなのを頼んでいいからね」
「本当にいいですか!?」
「ああ」
僕は今、上杉の妹のらいはさんと一緒に駅近くのファミレスに来ている。
本来であれば、ことりや中野姉妹と合流が出来たのでそのまま花火大会の会場に行くはずではあったのだがそれが出来ないでいる。なぜかと言うと、中野姉妹の誰もが週末の宿題を終わらせていなかったからだ。
それを知った上杉は問答無用といった形で全員を連れて中野家に行ってしまった。ことりも家庭教師の立場から六人に付いて行っている。
「うーん、どれにしようかなぁ。迷っちゃうなぁ」
「ふふっ、この後屋台もあるしほどほどにね」
「そっか。あまり食べ過ぎても駄目だよね。気を付けないと」
そんな彼女が頼んだのは小さめのパフェだ。季節限定のフルーツがあしらっている。
そんなパフェを美味しそうにらいはさんは食べている。
「先生はそれだけでよかったの?」
らいはさんが僕の飲んでいる紅茶を見て聞いてきた。
「うん。そこまでお腹は空いてないからね。そうだ、この機会に上杉のこと聞いていいかな?」
「お兄ちゃんのこと?いいよ!」
その後は上杉の話をしながら六人が来るのを待つのだった。
~中野家~
和彦とらいはがファミレスで時間を潰している頃。中野家では、五つ子達が宿題に勤しんでいた。
「もう花火大会始まっちゃうわよ…なんで、私たち家で宿題してんのよ!」
「週末なのに宿題終わらせてないからだ!片付けるまで絶対祭りには行かせねー!!」
「あはは…私も手伝うからみんな頑張ろ」
風太郎の意気込みに乾いた笑いを出しながら、五つ子達に丁寧に教えていることり。
「ごめん、ことり…」
「う~~、申し訳ないです」
「いやー、さすがに先生にもやってないことばれたのはまずかったね」
「はわわわ……上杉さん、ここを教えてください!」
それぞれが口にしながらも自身の宿題を終わらせようとペンを走らせる。どうやら全員いつも以上にやる気に満ちているようだ。この分であれば花火大会には間に合いそうである。
花火開始まで後二時間をちょうどすぎたところである。
花火開始まで一時間ちょっと。全員の宿題を終わらせたとことりから連絡があったので、らいはさんを連れて集合場所まで行き合流することが出来た。
「やっと終わったー!!」
「みんなお疲れさまー」
四葉さんの言葉にらいはさんが宿題を終わらせてきた五つ子全員に労いの言葉をかけている。
「花火って何時から?」
「19時から20時」
「じゃあ、まだ一時間あるし屋台行こー!!」
二乃さんの疑問に三玖が答え、それを聞いた一花さんがテンション高めで三玖に寄りかかりながら屋台に行くことを提案している。
「ことりもお疲れ様」
「まさかこの格好で勉強を見ることになるなんて思いもしなかったよ」
両手を広げて自分が浴衣姿であることをアピールしながら、疲れた表情で伝えてくることり。本当にお疲れ様である。
もう一人の家庭教師である上杉の方を見るが、どこからどう見てもテンションが低いように見受けられる。
「上杉さん、早く早くー」
「はぁ…」
そんな上杉を四葉が呼んでいるが、やはりテンションが低く木の近くのフェンスによりかかり佇んでいる。
「なんですか、その祭りにふさわしくない顔は」
「俺はなんて回り道をしてるんだと思って…」
五月に声をかけられた風太郎は、その五月の言葉に返事をしながらなぜか途中で話を止めた。
なんだ?五月を見て固まってるが。見とれてるのか?
今の五月は後ろ髪を上げてまとめている。
「あ…あんまり見ないでください」
「誰だ?顔が同じでややこしいんだから、髪型を変えるんじゃない」
「いや、五月でしょ!」
上杉の言葉についツッコミをいれてしまった。
「あはは…さすが風太郎君…」
「それにしても、髪型がいつもと雰囲気が違って良い感じだね。今日の浴衣と合っててとても似合ってるよ」
「む…」
「あ…ありがとうございます……」
五月の髪型を褒めてあげると、恥ずかしかったのか下を向いて先程まで食べていたアメリカンドッグを食べ始めた。
「兄さん」
そんな五月を眺めていると横にいたことりに服の袖を引っ張られながら声をかけられた。
「どうしたことり?」
「私まだ褒められてません」
「え?」
「私まだ褒められてません」
いや二回言わなくても聞こえてるよ。
「………」
「こ、ことりも浴衣姿似合ってるよ。うん、髪型も五月みたいにまとめあげてて、普段見ない分新鮮だなぁ。簪も僕があげたやつだよね。つけてくれてありがとね」
「もー、そこまで褒めなくてもいいんですよぉ~」
無言のプレッシャーを感じつつことりを褒めてあげると、両手を自分の顔に持ってきて恥ずかしそうにそう言ってくる。どうやらこれで良かったようである。
「フータロー君はもっと女子に興味持ちなよ~~。女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ、先生みたいにね」
「そう…みたいだな…」
「てわけで、ほら浴衣は本当に下着を着ないのか興味ない?」
「それは昔の話な。知ってる」
「本当にそうかな~~?」
「……」
「なーんて、冗談でーす。どう?少しはドキドキした?」
あっちはあっちで上杉が一花さんにからかわれていて大変そうだ。上杉、頭抱えてるし。
というか、妙にテンション高くないか?そんなに花火を見たかったのだろうか?
「一花、いつまでそこにいんの?はぐれちゃうわよ」
「ごめーん、ちょっと電話」
二乃さんが先に進もうとするも一花さんの携帯に電話がかかってきたようで、その場で電話をしている。
「なんだ?どこかに向かってるのか?」
二乃さんがどこかに向かっているように感じたのか、上杉が確認をする。
「別にいいでしょ。ったく...なんであんたもいるのよ」
「俺は妹と来てるだけだ」
「あはは...私たちもお邪魔だったかな?」
「そんなことはない。ことりと先生は私が誘ったんだから問題ない」
ことりのそんな疑問に三玖が答えてくれた。
「!らいはあんまり離れると迷子になるぞ。ここ掴んでろ」
「はーい。あのねお兄ちゃん見て見て、四葉さんが取ってくれたの」
らいはさんは上杉の服の袖を掴みながら手に持っている金魚すくいの成果を見せている。
しかしもの凄い量だな。袋が四つあるだけでも凄いが、いったい一つの袋に何匹入ってるんだ。恐るべし四葉さん。
「もう少し加減はできなかったのか...」
「あはは...らいはちゃんを見てると、不思議とプレゼントしたくなっちゃいます」
まあ四葉さんの気持ちは分からんでもないけどね。純粋で何かをしてあげたくなってくる子だよらいはさんは。
「これも買ってもらったんだ」
そう言いながららいはさんは花火セットを掲げた。
「それ、今日一番いらないやつ!」
「だって待ちきれなかったんだもーん」
「いつやるんだよ...四葉のお姉さんにちゃんとお礼言ったか?」
「四葉さんありがと。大好きっ」
上杉に聞かれたらいはさんはお礼を言いながら四葉さんに抱きついた。
「~~~~~~っ。あーん、らいはちゃん可愛すぎます。私の妹にしたいです」
そう言いながららいはさんに頬擦りをする四葉さん。愛情表現が凄いな。
「待ってくださいよ。私が上杉さんと結婚すれば、合法的に義妹にできるのでは…」
しかも考え方も突拍子がない子である。自分で何言ってるか分かっているのだろうか。
「自分で何言ってるかわかってる…?」
二乃さんも僕と同じ気持ちのようである。
「四葉に変な気起こさないでよ!」
「ねぇよ!」
二乃さんは上杉にくぎを刺すように指をさしながらそんな言葉を投げかけている。その勢いがよいせいか上杉は少しずつ後ずさっている。
やばっ、このままだと。
ドンッ
上杉の後ろには三玖がいたので、後ずさった上杉はそのままぶつかってしまった。
「おっと...大丈夫三玖?」
「~~~っ...あ...ありがとう先生...」
上杉とぶつかった三玖はバランスを崩しそうになっていたけど、あらかじめ彼女の近くに寄っていたことで受け止めることができた。
「す、すまん三玖」
「気をつけてね。この人の量なんだから。二乃さんも」
「ですね」
「ごめんなさい」
うん、二人ともちゃんと悪いと思ってるようだからこれ以上は何も言うまい。
「しかし、これじゃあ落ち着いて花火も見られんぞ」
「たしかにそうだね。どこか落ち着ける場所があればいいんだけど...」
上杉の言葉にことりが同意した。たしかに、小さならいはさんがいるしでこれじゃあ落ち着いて見れないな。
「二乃がお店の屋上を貸し切ってるから、付いていけば大丈夫」
「ブ...ブルジョワ...」
「ふへぇ~...」
三玖の発言に上杉とことりは驚きを隠せないようだ。かく言う僕も驚いている。
個人で、しかも女子高生が店の屋上を貸切るってヤバいだろ。普通は大勢の人達が集まって貸切るものじゃないのか。
「それならさっさとここ抜けて行こうぜ」
「待ちなさい」
向かう場所が決まっているのであればとこの場所から移動しようと提案する上杉だが、二乃さんに止められた。
「どうしたの二乃さん?」
「行く場所が決まってるなら早く行こうよ」
僕達兄妹も先を促す。
「せっかくお祭りに来たのにアレも買わずに行くわけ?」
「アレ?」
二乃さんの言葉に疑問に思った上杉が言葉を漏らす。
「そういえばアレ買ってない...」
「あ、もしかしてアレの話してる?」
「アレやってる屋台ありましたっけ...」
「早くアレ食べたいな!」
他の姉妹もテンション高く答えているから姉妹にとって祭りに欠かせないものなのだろう。
「なんだよ...」
「そのアレってのは何なの?」
「「「「「せーの」」」」」
「かき氷」「リンゴ飴」「人形焼き」「チョコバナナ」「焼きそば」
「「「......」」」
「「「「「全部買いに行こーっ!」」」」」
「お前らが本当に五つ子か疑わしくなってきたぞ」
「あはは...」
上杉に同意である。
そんなこんなで五つ子達は屋台に食べ物を買いに行ったのだが、なぜかご機嫌斜めで五月が戻ってきた。
「機嫌直しなよー」
「どうしたの?えらく五月はご機嫌斜めだけど」
「ああ、先生...」
「思い出しても納得がいきません。あの店主、一花には可愛いからオマケと言って、私には何もなしだなんて!同じ顔なのに!」
「なるほど...」
二人の手元には人形焼きの入った袋があるから、一花さんにはオマケで入れてもらって五月にはオマケがなかったと。食べることが好きな五月にとっては許されることではないんだろうな。まあ、その店主がショートカットの女の子が好みだったのか、一花さんのコミュニケーションの高さで話が盛り上がったからなのか理由は分からないが。
「複雑な五つ子心...」
三玖が僕の思ったことを代弁してくれた。
「ほら、これ食べて元気出して。そういえば、先生って三玖と五月ちゃんだけには呼び捨てだね?」
「ん?まあ、本人から許可もらったからね」
「なら私たち他の姉妹も呼び捨てでいいよ」
「そう?でも、他の二人は…」
「大丈夫だって。二人とも気にしないよ。なんだったら二人には伝えとくし」
「そこまで言うなら分かったよ一花」
「うん」
「あんたたち遅い!!」
あまりにゆっくり歩いていたからか前を歩いている二乃が叫んでいる。えらく張り切ってるな。
「二乃の奴気合入ってんな。お前らもずっとテンション高いし。花火なんて毎年やってるだろ」
「あ、私もちょっと思っちゃった。みんないつも以上にテンション高いよね」
「花火に何か思い入れでもあるのかな?」
「花火はお母さんとの思い出なんだ」
五つ子みんなのテンションの高さに疑問に思った僕とことりと上杉の言葉に三玖が答えてくれた。
「お母さんが花火好きだったから、毎年揃って見に行ってた。お母さんがいなくなってからも、毎年揃って.........私たちにとって花火ってそういうもの」
笑みを零しながら三玖が説明してくれる。
お母さんとの思い出の花火か...なるほど、みんなのテンションが高いのはそれでか。
そして二乃がやたら張り切ってるのは、家族を姉妹の中で一番に想っているであろう二乃だからか。
『二乃が風太郎君を家に入れたくないのって、姉妹のみんなが大好きだからこそみたいなんだ』
昨日の夕飯時にことりが教えてくれた。姉妹...家族を想えばこその家庭教師の拒否。ままならないね。
そんな考えをしてふと周りを見ると姉妹の人数が減っている?
あれ、四葉とらいはさんは?
そういえばさっきまで輪投げがどうのって言ってたな。はぐれたか。
『大変長らくお待たせいたしました。まもなく開始いたします』
近くにいないか周辺を見回しているとそんなアナウンスが流れる。それと同時に周りの人達も続々と動き出した。
「やばっ、ことり...ってあれ?」
これ以上はぐれるとまずいと思って、隣にいるであろうことりに声をかけるも姿がない。他のメンバーともはぐれたようだ。
「おいおい...まじかよ」
誰か一人でもいないか辺りを探してみる。すると、五つ子の一人を見つけることが出来た。
「五月っ」
「…っ、先生!」
不安そうな顔から一変、安心した顔になった五月。こっちも一安心だ。
「良かった。全員とはぐれた時はどうしようかと思ったけど、すぐに合流出来たのは幸いだよ」
「私も一人心細かったのですが、先生に見つけてもらえてほっとしました」
「このまま他の人も探したいところだけど、とりあえず元々行く予定だったお店の屋上を目指そうか。案内してくれる?」
「そのことなのですが......」
一方その頃。別の集団が目的地であるお店の屋上を目指していた。
「やっと抜けたわ!あんたが道を間違えるから遅くなったじゃない」
「お前が歩くの遅かったせいだ」
「まあまあ...無事に集団を抜けれたんだし、とりあえず屋上を目指そうよ」
二乃と風太郎、ことりの三人である。
「ここの屋上よ。きっともうみんな集まってるわ」
二乃を先頭に階段を駆け上がる三人。そして三人が屋上に着いた瞬間。
ヒュウウウ......ドォォン!
大会の最初の花火が夜空に上がった。
その花火を皮切りに次々と花火が上がるのを屋上で見上げているのは三人だけである。
「あっ......どうしよう...よく考えたら、今年のお店の場所私しか知らない...!」
「えぇぇ~~~!?」
「......」
ことりの驚きの声と一緒に花火の音が木霊した...
花火大会終了まで一時間を切ったところである。
いよいよ始まった花火大会。
はぐれるシーンですが、オリジナルキャラは一人にしないでそれぞれ二乃・風太郎組と五月に合流させてみました。
本編ほど花火大会の話は長く書けないかもしれませんが、次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。