ことりがお風呂に入ることになったので、団欒時間を終えた僕は、部屋に入り鞄の中から一つの箱を取り出した。
「チョコじゃないって言ってたけどなんだろうな」
五月から貰ったバレンタインプレゼントである。
その小さな箱のラッピングを解いていくと、黒いケースが出てきた。
「なんだか、指輪を入れるケースみたいだな。てことは、アクセサリー系か」
中身を予想しながらそのケースをパカッと開けた。するとそこには──
「これって……ネクタイピン?」
ケースの中身はネクタイピン。シルバーが基調ではあるが、ネイビーの色も交えている。
「へぇ~、五月はセンスいいなぁ。せっかくだから明日から付けさせてもらうか」
ネクタイピンの入ったケースを机の上に置いた僕はスマホを取り出して五月にメッセージを送った。
と。後は、二乃と一花と四葉にもチョコレートのお礼をと。
三人にもチョコは美味しかったとお礼のメッセージを送った。
ま、どうせだから直接感想を伝えた三玖と芹菜さんにも送っとくか。
簡単ではあるが一人一人にメッセージを送る。
「これでよし…!」
すべてのメッセージを送り終えたところでベッドに仰向けで寝転び天井をじっと見ていた。
まさかこんな数のプレゼントを貰う日が来るとはねぇ。
その後もスマホを見ながら時間を過ごしていると着信が入った。画面上の名前を見て、呆れながらも笑みを浮かべながら電話に出るのだった。
~中野家~
「お風呂上がったよぉ」
五つ子の家では、夕食も終えたので現在では順番にお風呂に入っていた。
五月、二乃と終わり、今は四葉が上がってきたところである。
「じゃあ、三玖が先に入りなよ」
「…………一花。たまには一緒に入らない?」
お風呂に入っていない残りのメンバーでもある一花は、三玖が先に入るように促すも、三玖からは一緒に入ることを提案された。
「珍しいね。三玖からそんな提案してくるなんて。まあ、ここのお風呂でも二人くらいいけるかな。行こっか」
「うん」
一花にとっては一緒にお風呂に入ることには抵抗がなかったのですぐに承諾した。
そんな二人がお風呂に向かった時、五月のスマホにメッセージが届いた。
(…っ!お兄ちゃんからだ♪)
『ネクタイピンありがとね。デザインも気に入ったよ。明日からさっそく付けさせてもらうね』
(よかったぁ~。お兄ちゃん気に入ってくれたんだ。明日の数学の授業が楽しみだなぁ)
和彦からのメッセージに笑顔を隠せないでいる五月。そんな五月の様子に二乃は不思議に思っていた。
(何かあったのかしら。スマホを見たら急にあんな笑顔になっちゃって)
そんな二乃の元にもメッセージが届いた。
(和にぃだわ♪)
『チョコレート美味しかったよ。本当にお酒に合ってビックリしたよ。ありがとね』
(さっそく試してくれたのね!それにすぐに連絡してくれるなんて、さすが和にぃね)
和彦からの連絡が嬉しかったのか、先ほどまでの五月の変化を二乃は気にしなくなった。
そんなご機嫌な二人と一緒にいた四葉のスマホにもメッセージが来たようである。
「あ、先生からだ!わざわざチョコのお礼を言ってくるなんて、やっぱり先生は優しいね」
((うっ…!やっぱり私だけじゃなかったか))
四葉が和彦からのメッセージに声を出して喜んだ姿を見て、二乃と五月は和彦からのメッセージが自分だけではないと感じてしまった。
「て…四葉。あんたも先生にチョコ渡したの?」
「うん!お世話になってるんだもん。あと、上杉さんにも渡したよ」
悪びれる訳でもなく、四葉はいつもの調子で話していた。
「みな考えることは同じのようですね。私もお二人に贈り物をしましたので。私が上杉君に渡した時には、他の姉妹から貰っていたようでしたよ」
「ああ。私と三玖は一緒に渡したのよ。めっちゃ驚いてたけどね。いい顔だったわ」
その時の風太郎の顔を思い出したのか、ふふふっと二乃は笑ってしまった。
「この分ですと、先生はプレゼントされた人全員に個人でメッセージを送ってるようですね」
「ま、そこも先生のいいところなんでしょうけどね」
「後で一花と三玖にも聞いてみようよ」
一花と三玖がいないところで、三人は今日の話題で盛り上がっていた。
~一花・三玖side~
「さすがに二人だと狭かったかもね」
「うん…でも、窮屈ってほどじゃないよ」
一花と三玖はお互いの体を洗った後、浴槽の中では向き合って湯船に浸かっていた。
さすがに足は伸ばせなかったので、体育座りを少し緩めた状態である。
「それで?何か話があったから私を誘ったんでしょ?」
「うん…一花に話しておこうと思ったんだけど、みんなの前だと話しにくかったから」
お風呂という狭い空間。二人っきりになるには絶好の場所でもあるので、話すならここでと三玖は考えていたようだ。
「あのね……私…今日、先生に告白したの…」
「…………え…?えーーー!?」
「声大きい…」
突然の三玖からの告白に、一花はその場に立ち上がり驚きの声をあげた。もちろんここはお風呂場、声は反響してすごいことになっていたために、三玖は耳を押さえて抗議した。
「ご…ごめんごめん。あまりにも衝撃的な内容だったから……」
あはは、と笑いながら一花はまた湯船に浸かった。
「て!そうじゃないでしょ。嘘!?三玖、本当に先生に告白したの?」
湯船に浸かった一花は、いつも通りの態度の三玖だったために平常心に戻りかけたが、ノリツッコミの如く、三玖に聞き返した。
それに三玖はあくまでも冷静に頷くのであった。
「はぁ~ぁ、まさか三玖がそこまでの行動に出るなんてね。ホントビックリだよ」
「ふふふ…私も驚いてるよ。ずっと前から応援してくれてた一花には話しておきたかったんだ…」
「そっかぁー…でも、そんなに冷静でいるってことは、もしかしてOK貰ったとか?」
一花の言葉にぶんぶんと首を横に振った三玖は、膝を抱えるように腕を組んで、膝の上に頭を置いた。
「先生には今、好きな人はいないんだって…だから付き合えないって…」
「そっか…」
少し悲しみを帯びた三玖の表情に、一花も少しだけ悲しみを受けた。
「でもね…!」
「え?」
「待っててほしいって。きっと答えは出すから、それまでは好きでいていいって言ってくれたの」
その言葉が嬉しかったのか、三玖の口角が上がっていた。
「それにね…!私のこと…その……可愛くて…素敵な女性だって…言ってくれたの…」
恥ずかしいのか、三玖は両手で顔を覆いながらその言葉を伝えていた時の和彦の顔を思い出していた。
(相変わらず、恥ずかしいことを平気で言うなぁ、先生は……)
そんな三玖の様子に、一花は笑顔を作りながら和彦の言動に少しだけ呆れていた。
「そっかそっか。でも、よかったね。告白してなかったら、その言葉だって言ってもらえなかったわけだし。今後も頑張っていこ」
「うん。本当はね……今度の定期試験で赤点回避して姉妹の中で一番の成績を取ったら告白しようって思ってたの。でも、勇気を出せてよかったって今では思ってるよ」
「そっかぁ…」
(定期試験で赤点回避して姉妹の中で一番の成績を取ったら告白か……)
「でも、まだ付き合えた訳じゃないんだし、これからも頑張っていこう!私は応援してるから」
「ありがとう一花…!私も、一花のこと応援してるからね」
「え?私!?あはは…そうだね、ありがと」
応援するという一花の言葉に三玖はとびっきりの笑顔で答えた。そんな三玖も一花を応援すると伝えるのだった。
まさかそんな風にまっすぐ言われるとは思わず、一花は恥ずかしそうに右手で頭をかきながらお礼を伝えた。
「そういえば、一花はちゃんとフータローにチョコ渡せたの?」
「えっと……チョコじゃなくて、マフラー渡したんだ」
「え?マフラー?」
バレンタインはチョコレートという概念があった三玖としては考えられなかったチョイスで驚いてしまった。
「うん。三玖にことりにと、フータロー君にチョコをあげてる人が多かったから。だから私は変化球で勝負しようかなって。マフラーだったら、冬の間だけでも着けてくれるかもでしょ?」
「そういう発想はなかった…」
「だよね。私もなかったよ。チョコを買いに行った時に偶然先生に会ってね。そこでアドバイスしてくれたんだ。ホント、頼りになるお兄ちゃんだよ」
あはは、と笑いながらバレンタインのプレゼントをマフラーにした経緯を一花は三玖に説明した。
「そんなことが……きっとフータローも使ってくれるよ、一花のマフラー」
「ふふっ、だといいなぁ……一応、マフラーのプレゼントには、すっかり惚れ込んでいるっていう意味もあるらしいんだけど、まあフータロー君にはわかるわけないか」
「フータローだしね」
「「ぷっ……あはははは…」」
そこでお互いに笑い合ってから二人はお風呂を上がった。
お風呂から上がった二人がリビングに向かうと、興奮したように四葉から自分のスマホを見るように言われた。
「二人もスマホ見てみて!先生からバレンタインのお礼のメッセージが来てるから!」
「え…」
それを聞いた三玖は急いで自分のスマホを見てみる。一花もそれに続いた。
『改めてチョコありがとう。料理の腕はきっと上がってるだろうから、今後も頑張ってね』
(先生……うん…!私、頑張るね)
自分へのメッセージを見た一花は、隣の満足そうな顔をしている三玖を見て、またそれに満足するのだった。
~芹菜side~
「ん……ん……はぁぁ……」
先ほど仕事から帰った芹菜はお風呂上がりのビールを楽しんでいた。
和彦と違い、芹菜は会議が長引いてしまったために今日は帰りが遅くなったのだ。
「はぁぁ…今日は和彦さんと一緒に帰りたかったのにな…」
そんな言葉を溢しながら、とりあえず夕食作りますか、と缶ビールを置いて夕食作りに取りかかった。
といっても、今日は買ってきたお惣菜が中心となっているので準備も簡単なものだ。
「一人暮らしだとこういうところで手を抜いちゃうのよねぇ」
温めた惣菜をお皿に移しながら芹菜はついぼやいてしまった。
夕食の配膳を終えた芹菜はテレビをつけて夕食を食べ始めた。
テレビではバラエティー番組が流れており、それを観ながら食べる食事も芹菜は割りと好きだった。
「この人ってたしか静が好きだって言ってたアイドルだったわよね。うーん…やっぱり私にはこういうアイドルしている人は好きになれないわね。カッコいいのはわかるんだけど…」
そんな感想を溢しながら芹菜は夕食を続けていた。
ピロン♪
そんなところに通知音が鳴った。
「静からかしら。今観てる番組を勧めてくるとか…」
そんな予想をしながら通知画面を見てみると──
「……え?和彦さん!?」
和彦からのメッセージに驚きながらも確認をした。
『改めて、今日はチョコレートありがとうございました。それに芹菜さんの思い悩まないでほしいという言葉は心に響きました。これからもよろしくお願いしますね』
メッセージの内容を見た芹菜はニッコリと笑みを浮かべた。
(チョコの感想は直接聞いたというのに、あなたという人は……ますます好きになってしまうじゃないですか)
そんな風に想いを寄せていると、今度は電話がかかってきた。この電話は和彦ではなく、芹菜の友達でもある小百合であった。
「もしもし?」
『芹菜。今って大丈夫だった?』
「うん。ちょうど夕食も終わったところ。で、静オススメのアイドルが出てる番組観てたよ」
『あー、私も今観てたわ。珍しく静から連絡なかったけどね』
「だよね。静もしかしてまだ仕事なのかな?」
『あり得るわね。ま、あの子のことだから録画してるでしょ』
「だね」
小百合の言葉に芹菜笑いながら答えた。そして、電話をしながら食べ終わった後の食器を片付けることにした。
「それで?どうしたの?」
『うん。ほら、今日ってバレンタインだったじゃない?この間飲みに集まった時には、例の和彦さんにチョコをプレゼントするって言ってたし、どうだったかなって思ったのよ。ほら、芹菜ってバレンタインでプレゼントするの初めてでしょ?』
「もう心配性なんだから……大丈夫よ。チョコもうまくできたし、和彦さんにもちゃんと渡せたわ」
食器を水に浸けながら心配ないと芹菜は答えた。
『あらそう?』
「なんだったら、あーんって食べさせてあげたし、キ…キスだってしたし…」
水に食器を浸け終わった芹菜は、キッチンのシンクに座るように寄りかかって今日の出来事を小百合に話した。
『あなたって本当に付き合ってないのよね?』
「付き合ってないよ」
『まったく…やることがほとんど付き合ってる男女がするものじゃない。あんまりやりすぎて嫌われないようにしなさいよ』
「だ、大丈夫よ。さっきだって和彦さんから改めてチョコのお礼とこれからもよろしくってメッセージくれたんだから」
『そう?ならいいんだけど。そうだわ、来月の話なんだけどね──』
とりあえず大丈夫そうだと判断した小百合は別の話題に切り替えた。話題も切り替わったことで、芹菜も炬燵に入り電話での話を続けるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回のお話では、バレンタインでのプレゼントが終わった女性達をメインに書かせていただきました。
ただお礼のメッセージをもらえただけでも、告白した女性達は嬉しかったようですね。
和彦のスマホにかかってきた電話の相手については次回書かせていただきます。
そんな次回は、和彦の電話のお話と、試験が迫っているのでそれに関するお話を書かせていただこうかと思います。
次回の投稿は7月26日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。