少女と花嫁   作:吉月和玖

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82.夜の勉強会

「どうした──飛鳥?」

『いつものよ。それに、今日は直接聞きたかったこともあったから』

 

今日のバレンタインのプレゼントをしてくれた人へのお礼のメッセージを送ってしばらくすると、飛鳥から電話がかかってきた。

さっきの結愛とのメッセージのやり取りといい、よくやるものである。

 

「何?直接聞きたかったことって」

『今日はバレンタインでしょ?だから、和彦の成果を聞きたかったのよ』

「成果ねぇ……」

 

まあ、好きな相手がどのくらいのプレゼントを貰っているのかは気になるところか。現に、結愛もメッセージで聞いてきてる訳だし。

 

『で?何個貰ったの?』

「あー……チョコだったら、飛鳥と結愛とことりのを合わせたら……八個だな」

『はち……』

 

僕の伝えた数字を口にした飛鳥はそのまま黙ってしまった。その沈黙、微妙に怖いんだが。

 

「えっと…用件は終わりでいいのかな?」

『そんなわけないでしょ。ちょっと考えてたのよ。それにしても、よくもまぁ貰ったものね』

「まあ、中にはお世話になってますっていう義理チョコもあるんだけどね」

「へぇ~……じゃあ、その義理チョコは何個なの?」

 

先ほどの結愛とは逆バージョンで聞いてきたな。

 

「そ…それは、ことりを抜いてか?」

『そうね。あの子は本命て言い切るだろうしね。ことりの分は本命に入れていいわ』

「………二個だな」

『ふ~ん…じゃあ、残りの六個……ううん、ことり以外には五個の本命があるんだ』

「そ…そうなるな」

 

別に飛鳥と付き合ってる訳じゃないんだが、本当に付き合ってる時の詰めかたをしているようなので、こっちはたじたじである。結愛は、メッセージでのやり取りだったからそんなに感じなかったが、やはり声を聞きながらだと全然違う。

目の前にいなくて良かったわぁ…

 

『私と結愛のを抜くと、残りは三個か……ふ~ん…』

「……」

 

今は何も話さないことがいいと思った僕は、次の飛鳥の言葉を待つことにした。

 

『はぁぁ……まさか結愛以外に三人もいるとは思わなかったわ。この間、女性関係で困ってるって言ってたけど、このことだったのね。数人の女性に告白されれば和彦も困るか』

「ま…まあ、自分のことをそんな風に想ってくれてるのは光栄なんやけどね。ただ、起爆剤があったかのように、次々に告白をされるとこっちもどうすれば、てな感じやな」

『その全てを断っていないとなると……その三人の中には中野さんたちがいるのでしょうね』

「なんでだよ」

『あら、あなたが断らないってことは一緒にいても楽しく感じてるからでしょ?私や結愛みたいに。てことは、普通の生徒はまず除外。たしかにあなただったら、普通の生徒とも楽しそうに話すかもしれないけど、あくまでもそれは教師と生徒として。そうなってくると、最近では一緒にいることが増えた中野さんたちってことになるじゃない』

 

さすが飛鳥だ。頭が回る。

今までの電話やメッセージでのやり取りでも、生徒に告白されたが断ったことは言ってきたからその事も加味しての推理だろう。

 

『ふふっ…本当に中野さんたちに会うのが楽しみだわぁ』

 

笑いながら言ってるのだろうが、その笑い声が怖いぞ。

 

「まじで、会っても喧嘩はなしだからな」

『当たり前じゃない。私をなんだと思ってるのよ』

 

念のために待ったをかけたのだが怒られてしまった。

 

『和彦のことを好きになった同い年の子ってそうそういないじゃない?みんな年上だし。だから、同じ人を好きになった者として会ってみたいのよ』

「そうか…」

『……でもそうねぇ…牽制くらいはしなきゃよね』

 

ふふっと笑いながらまた心配になるようなことを飛鳥は言った。

本当に飛鳥と五つ子を会わせていいのだろうか…まだ会う日なんかは決まってはいないが、心配になってきた。

 

『あと、もう一つだけ気になったのだけれど』

「何?」

『さっき、チョコだったらって言ってたでしょ?チョコ以外にもプレゼントがあったの?』

 

本当に耳聡(みみざと)いな。よく気づいたものだ。

 

「あー……あったね。一つだけチョコじゃないのが」

『ふーん…ということは、合計六個のプレゼントがあったのね。私たちいつもの三人を除いて』

「そ…そうなるな。いやー、自分至上最高数だよ。あはは…」

 

もう笑うしかない。

 

『ふふふ…本当に驚きよね。しかも本命が私と結愛入れて五人もいるのだから。チョコ以外のプレゼントの人は本命じゃないわよね?』

「さ…さあ……告白されてないし。いつもありがとうって言われたから、お礼のプレゼントじゃない。プレゼントの内容だって、父親にプレゼントしそうなものだったし」

『ふーん…ちなみにどんなものか聞いてもいいの?』

「別に構わないよ。プレゼントされたのはネクタイピンだったね。デザインもいいから明日から付けようかって思ってるよ」

『へぇ~…ネクタイピンねぇ…』

 

何やら考えているが、そこまで考え込むほどではないと思うんだが…

 

『まあいいわ。今はあなたの勘を頼りましょ。そうだ、今日私の学校でね──』

 

その後は、いつものように飛鳥の学校でどんなことがあったのかなどの世間話をした。その時には、飛鳥もいつもの調子に戻っていて、楽しそうに話していたので、僕も笑いながら答えていった。

 


 

~飛鳥side~

 

「ふぅー…」

 

和彦との電話も終わった飛鳥は、スマホを机の上に置き、机の上に広がっているページの開かれたノートや参考書をじっと見ていた。

飛鳥は勉強に一区切りがついたので和彦に電話をしていたのだ。

 

「うーん…もう少し勉強してもいいのだけれど、なんだか集中力もなくなったしここまでにしようかしら。はぁー、和彦との電話は楽しいのだけれど、こうやって現実に戻りたくなくなっちゃうのよねぇ」

 

飛鳥は、腕を上にぐーっと伸ばした後勉強道具を片付け始めた。

 

「また学年トップを取って和彦に褒めてもらわないと♪」

 

褒めてくれた時のことを思い浮かべながら鼻歌交じりに飛鳥は片付けている。

 

「そうねぇ…今度は何かお願いを聞いてもらうのもいいかもしれないわね」

 

ふふふ、と笑みを浮かべながら片付けを終えた飛鳥は、スマホに手を伸ばしたところであることが頭を(よぎ)った。

 

(ネクタイピン…)

 

和彦がチョコ以外に貰ったものである。和彦が言うように、たしかに父親にプレゼントを贈るもののように思える。だから、そこまで想いがないのでは、あっても家族のように親しみを込めてではないかと飛鳥は考えていた。

 

(和彦はなんとも思ってないみたいだし、ちょっと興味本位で……)

 

そんな風に考えながら飛鳥はスマホを使って検索をかけた。

 

『ネクタイピン プレゼント 意味』

 

(ただどんな意味があるのか気になっただけだしね)

 

誰に聞かれたわけもなく飛鳥は言い訳を心の中で言いながら検索を続ける。すると──

 

『大好きで、尊敬していて、あなたに辛いことがあっても、支えられる存在になりたい』

 

「………」

 

検索結果を見た飛鳥は暫くじっとスマホを見ていた。

 

「……ま…まあ、あくまでもこの意味を知ってたら、という話だし。それに恩師への感謝の気持ち、というのもあるわけだし…」

 

結局その後も、飛鳥は頭の中を色々な考えがぐるぐると渦巻いている状態で夜を過ごすのだった。

 


 

夕食も終わりリビングでゆっくりとテレビを見ているある日。ことりは今自分の部屋で勉強をしている。

そんなところに一つの着信が入った。

 

「一花?………どうした?」

『あ、先生。ちょっとお願いがあるんだけど…』

「お願い?」

『えっと………今仕事終わってマンションまで送ってもらってるんだけど、今から先生の家に行っていいかな?できれば、そのまま泊めてほしいかなって…』

「は?」

 

あまりにも突然の申し出だったために驚きの声が漏れてしまった。

今からうちに来るだけでもおかしな行動なのに、更に泊めてほしいって…

 

「何?また姉妹喧嘩?」

『ち、違うよぉ。姉妹の関係はおかげさまで良好です。これにはちょっとした理由があるんだよ』

「理由って?」

『その…先生にお願いがあって……勉強を見てほしいの』

「勉強って…」

 

たしか上杉やことりがいない時は他の姉妹と教え合うじゃなかったっけ。て、ああ…

 

「もしかして、今から勉強するけど姉妹には迷惑かけたくないとか?」

『ま…まあ、そんな感じ』

「?」

 

ちょっと理由が違うのか?まあなんにせよ、本人が勉強したいと言ってる訳だし協力してあげるか。

 

「いいよ。今から来ても。そういえば夕食は?」

『それは大丈夫だよ。夕方くらいに食べたから。じゃあ、よろしくね先生。玄関前に着いたらまた連絡するから』

 

そこで電話が切れた。

さて、ことりにも共有しときますか。姉妹には一花自身で連絡してるだろうから、そっちは任せておこう。しかし、夕食は夕方くらいに食べたか…

そして、ことりへの共有の後、リビングに敷く布団の用意などを行って一花の到着を待つのだった。

 

・・・・・

 

「お邪魔しまーす」

 

その後暫くしたら一花からの連絡があったので玄関から家の中に招いた。

 

「そういえば、泊まるのはいいけど着替えあるの?」

「うん。下着とかはね。さすがに寝間着はないから貸してくれると助かるかな。ことりは?」

「今日はもう寝てるよ。仕方ないから今日は僕の服を着な」

「おー、彼シャツというやつですな」

 

顎に親指と人差し指で挟むように右手を持っていきながら一花がアホなことを言っている。

テンション高いな…

 

「普通の服だよ。馬鹿言ってないで、先に風呂入ってきな。服は今から用意するから」

「はーい」

 

僕から服を受け取った一花はそのままお風呂に向かった。

さて、その間にこっちも用意するか。

布団が敷けるようにスペースは作っているのだが、もう一つ準備しているものがある。

 

「わぁー、うどんだぁ」

 

お風呂から上がった一花はさっそくテーブルの上に勉強道具を用意しているのだが、そこにうどんの入ったどんぶりとおにぎりが二個乗ったお皿を置いた。

 

「夕食食べたのが夕方だったらお腹空いてるだろ?お夜食で軽く食べときな」

「ありがとう先生!いただきます………う~ん、美味しいぃ。これ先生が作ってくれたの?」

「ああ。一人暮らしではよく作ってたからね。ただ、一花の嫌いなものは知らないから、あったら避けてもらっていいから。ちなみに、おにぎりは梅干しとこんぶね」

「大丈夫。私の嫌いなものはしいたけだから。ここにはないよ。う~ん、おにぎりも絶妙な塩加減ですな」

 

うどんをすすり、そしておにぎりを美味しそうに食べている。簡単なものとは言え、こうやってことりや飛鳥、結愛以外の子にご飯を振る舞ったのは初めてかもしれない。いや、そういえばカレーを五月に振る舞ったっけ。

いずれにしろ、美味しく食べている姿を見ていると、ちょっと嬉しい気持ちが沸き上がってきた。

 

「しかし、やっぱり服はぶかぶかみたいだね」

「仕方ないよ。男の人のだもん。上の服だけでギリワンピースとしていけるかもね。なんだったらズボンは脱いであげようか?」

「脱がんでいい。ったく、そういうのは簡単にするんじゃないよ?」

「はーい…あむっ」

 

分かっているのか、一花は軽い返事をしながら残りのおにぎりを口に含んだ。

夜食を食べ終わった後は真剣に勉強に取りかかった。

さすがに全教科は無理だろうと思っていたが、所々では分かる範囲もあったので、そこは教えていった。

一花の集中力は高く、あっという間に時間は過ぎていき、もう深夜の一時に差し掛かろうとしていた。

 

「よし!今日はここまでにしとこうか」

「え?あー…もうこんな時間かぁ」

「片付けたらそのまま布団に入りな。明日も学校があるんだから、授業中に居眠りは許さないからね」

「は~い……ねえ先生?」

「んー?」

 

お互いに道具を片付けているところに一花から声がかかった。

 

「この夜の勉強会をまたしてほしいんだけどいいかな?」

「別に構わないよ。早めに連絡してくれたら、こんな風に用意しておくから」

「ありがとう。じゃあ、今日の着替えこっちで洗濯してくれる?また来たときに使うからさ」

「それはいいが、仮にも男の家だってこと考えてね」

「ふふふ…どうせことりが洗濯してるんでしょ。なら問題ないよ。それに、先生だったら見られてもどうってことないしね」

 

本当にそう思っているのだろう。恥ずかしさというものを一花からは感じられなかった。

本人が何も思わないのであればこれ以上言うまい。

自分の道具を持って立ち上がると同時に、一花は布団に入り寝る態勢に入った。

僕は電気のスイッチに手を添えながら一花に声をかけた。

 

「じゃあ、消すよ」

「うん。おやすみ、先生」

「ああ。おやすみ、一花」

 

リビングの電気を消した僕は、部屋に戻ると道具を机の上に置き、そのまま布団に入って眠るのだった。

 


 

~一花・ことりside~

 

「ふわぁあ~ぁ~」

 

前の日に吉浦家に泊まった一花はことりと一緒に登校していた。

 

「大きなあくび。何時まで勉強してたの?」

「ん~……一時前くらいかなぁ……」

「へぇー、結構してたんだね」

「はぁーーぁ、先生も同じくらいまで起きてたのに、すごいね。私より早く起きて、さっさと行っちゃうんだもん」

「兄さんはたまに徹夜で仕事してる時があるからね」

 

和彦は一花に付き合って深夜まで起きていたが、次の日はちゃんといつも通りの時間に起きて仕事に向かったのだ。

 

「やっぱ大人だなぁ…」

「本人曰く、慣れ、らしいよ」

「うーん……そこは真似たくないかな」

 

睡眠時間を削ることをあまり考えたくない一花としては、苦笑いで答えるしかなかった。

そんな一花が夜の勉強会を進んでしているのだから、今回の試験に強い思いがあるのかもしれない。

二人で登校しているところに、参考書を読みながら登校するという見慣れた人物が偶然にも通りかかった。

 

「ん?お前らか」

「おっはー、フータロー君」

「おはよう。風太郎君」

 

合流した三人は風太郎を中心に並ぶように登校することとなった。

 

「今日は二人だけか?一花がいるから他の姉妹もいると思ったが」

「たまにはね。それより風太郎君のマフラー姿、やっと見慣れてきたよ」

「そ、そうか……まあ、俺としては助かってるがな」

「──っ!」

 

チラッと風太郎は一花の方を見たが、目が合った一花は照れくさそうに目線を逸らしてしまった。

 

「まあ、普段の風太郎君って寒そうな格好だからね。こっちまで寒くなってくるんだもん」

 

寒そうにジェスチャーをしながらことりは風太郎に伝えた。

 

「そうかよ……まあいい。一花。お前は今日は仕事ないんだよな?」

「え?うん、今日はお休みだよ」

「よし!今日も放課後は勉強会だからな!参加していない分覚悟しておけ」

「うへぇ~、ほどほどにお願いします」

 

そして今日も放課後にいつもの勉強会がある日常が始まり、そんな日常が流れていく。

そして、ついに定期試験当日を七人は迎えるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回の投稿では、和彦と飛鳥の電話と一花の夜の勉強会を書かせていただきました。
前回のお話で出てきた、和彦への着信は飛鳥とさせてもらいました。バレンタイン①~③では、飛鳥は一度も出てきていなかったので、今回の電話での登場です。
そして、原作では一人で頑張っていた一花の夜の勉強。これを、ちょっと無理矢理ではありますが、和彦の家での勉強会にしてみました。

いよいよ次回は定期試験開始です。それぞれの点数がどうなるのか。試験結果まで書かせていただきます。

次回の投稿は7月31日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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