少女と花嫁   作:吉月和玖

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84.お返し

~一花side~

 

定期試験の祝賀会ももう終わろうとしていた。

そんな中、一花は一人トイレに行き、今は手洗い場で手を洗っていた。

 

(結局、先生は来なかったか。三玖は残念そうだったなぁ………先生のおかげで今回の試験は姉妹で一番を取れた。三玖は元々試験で一番を取ったら告白するって言ってたけど、三玖はもう告白してるし、今回は私が一番だった…なら…)

 

「しても…いいのかな…」

 

顔を赤くし、前々から考えていたことを行動に移そうと思っていた。

 

「よ…よしっ…フータロー君が一人でいたら伝えてみよっ」

 

そう決心した一花は、フータローがいるであろう厨房の方に向かうことにした。

 


 

~風太郎side~

 

カチャカチャ...…

 

「こんなことまでしなくていいんだぞ。これは俺の仕事なんだから」

「いいじゃない。どうせ誰もいないんだし」

「まあ、お前がいいならいいんだが…」

 

風太郎は今、ことりと厨房の洗い場で二人並んで先ほどまで六人が使っていた食器を洗っていた。

風太郎が洗ったのをことりが拭くといった作業だ。

 

「ふふっ。こうやってると、イブに風太郎君がうちに泊まった時のこと思い出すね。あの時も二人で食器洗ってたよね」

「ああ。洗うのと拭くのは逆だったけどな」

「意外だなぁ。風太郎君のことだから覚えてないのかと思ってた」

 

些細な事であっても覚えていてくれたことが嬉しかったことりは、とびっきりの笑顔を風太郎に向けた。

 

「…っ!ま、まあ、あの日は色々あったからな。さすがに覚えてるさ」

 

ことりに向けられた笑顔に、風太郎はドキッとしてしまい、それを紛らわすため目線を落とし食器洗いに集中することにした。

 

「どんな理由であっても覚えてくれてたのは嬉しかったよ」

「そ…そうか……うし!終わりだな。そうだ、戻ったらあいつらに少し待ってるように伝えてくれないか?」

「ん?別にいいけど、何かあるの?」

「いや……まあ……」

 

ことりの疑問に恥ずかしそうに目線を反らしながら、風太郎は言葉を続けた。

 

「その……バレンタインのお返しで、ここのプリンをプレゼントしようと思ってな」

「…………」

 

バレンタインのお返しにプリンをプレゼントする。その風太郎の考えを聞いたことりは固まってしまった。

ことりの反応がないので、心配になった風太郎は慌ててことりに目線を戻した。

 

「や、やっぱプリンじゃまずいか?」

 

慌てている風太郎を見たことりは、フッと笑みを作り話し始めた。

 

「ねえ風太郎君?」

「ん?」

「私たちってさ、嘘のお付き合いしてるじゃない?」

「な、なんだ急に?ま、まあそうだな。そのおかげで苦労しているんだがな」

「あはは…それはごめんね」

 

一歩。風太郎の言葉に謝りながらことりは風太郎に近づく。

 

「でも私はとても楽しいって思えてるよ。風太郎君のためにお弁当を作ったり、帰りは一緒に話しながら帰ったり…」

 

そして、また一歩と近づく。

 

「ことり?」

 

さすがの風太郎もことりの様子がどこかおかしいことに気づくも、その時にはことりはすでに至近距離にいた。

ことりは風太郎の胸辺りに右手を当てた。

トクン…トクン…と風太郎の胸の鼓動を感じることができ、またそこでことりは笑った。

そして、風太郎の顔を見るために顔を見上げながらことりは言葉を続けた。

 

「だから、この嘘の関係を本当にしませんか?」

「……え…?」

 

風太郎はことりが何を言っているのかが分からずに、軽く混乱をしていた。そして後ずさるも、ことりはそれに続いて前進する。なので、二人の距離は変わることがない。

 

「ことり、お前何言って──」

 

状況の理解をしようとした風太郎の言葉に、被るようにことりは続けた。

 

「好きです……私と付き合ってください……」

「──っ!」

 

ことりの告白を受け、風太郎は沸騰したように顔を赤くした。そんな風太郎の様子を見たことりであったが、ただじっと風太郎の目を見て反らすことはなかった。

いつものふざけた様子がないことりの態度に風太郎もまた、ことりが真剣であることを悟った。

 

「…………すまん…俺はすぐに答えを出せそうにない…」

 

真剣なことりの言葉に応えることができないもどかしさから、風太郎はことりから目を反らして今の自分の気持ちを伝えた。

 

「俺はお前のことをそんな風に見ていなかった。だから、お前と付き合うことはできない…」

「そっか…」

 

風太郎の答えを聞いたことりは、風太郎の胸に当てていた手をさげて、また頭も下げてしまった。

そして、暫く沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのはことりであった。

 

「ねぇ風太郎君。すぐに答えが出ないなら、まだ私にはチャンスあるかな?」

「そっ…それは…」

「さっき風太郎君の胸に手をついていた時、風太郎君すごいドキドキしてた。なら、私にもまだチャンスあるよね?」

 

顔を上げたことりは泣いている訳ではなく、笑顔を見せていた。そして、おもむろにことりは風太郎の腕に自身の腕を絡ませて距離を縮めた。

 

「お、おい!」

「これから、もっと風太郎君をドキドキさせて、私のことを好きって言わせるんだから」

「だからってくっつかなくてもいいだろ!」

「いや…?」

「ぐっ…………好きにしてくれ…」

 

目を潤ませて見てくることりに何も言えなくなった風太郎は、ガックリと頭を下げて諦めてしまった。

そんな風太郎の態度とは反対に、ことりはご機嫌な様子でさらに風太郎にくっつくように近づいた。もう、胸など腕に当たっていることも気にしないほどに。

 

「はぁぁ…今更だが、お前は先生が好きだったんじゃないのか?」

「え?もちろんお兄ちゃんも好きだよ」

「……?すまん、俺の頭が付いていけていないようだ。つまり、お前は先生と俺の両方が好きだと?」

「うん!どっちもだーい好きだよ♪だから、こうやって腕組んでるんだよ」

 

何を当たり前のことをと言わんとしていることりだが、風太郎は更に頭を悩ませていた。

 

(いや、でも先生はことりの兄なんだから、その兄を好きな状態で他の男を好きになるのも全然おかしくないのか…?)

 

「そだ。私の気持ちはさっき伝えた通り風太郎君が好きなわけだけど…」

「……っ!」

 

恥ずかしがることもなく自分のことを好きだと言ってくることに、風太郎は反応にせずにはいられなかった。しかも、ことりの胸が自分の腕に当たったまま話すものだからドキドキしっぱなしである。

 

「今の嘘の恋人関係は継続してくれない?」

「……それは、お前の周りの奴らのことを考えて、ということか?」

「そういうこと。風太郎君に別の好きな人が出来たら諦めるけど、それまではこの関係に付き合ってほしいの」

「構わん。果たして、俺に好きなやつが出来るかは不明だがな」

「大丈夫だよ。きっと私を好きになってくれるから。ふふん♪」

 

(どこから出てくるんだその自信は……て、そうか。先生も普段からこんな感じでからまれているのか……)

 

上機嫌に腕を組んで自分の顔を風太郎の肩に乗せていることりを見ながら、風太郎は心の中でため息をつきながら、和彦も大変なんだなと憐れんでしまうのだった。

 


 

~一花side~

 

「好きです……私と付き合ってください……」

「──っ!」

 

ことりの風太郎への告白に、風太郎は息を飲んだのだが、その一方でもう一人息を飲んで佇んでいた人物がいた。一花である。

トイレで告白する決心をした一花が厨房に向かうと、ことりと風太郎が向かい合うように立っていたので、厨房の入口付近から覗いていたのだ。

 

(うそ!?ことりが…!)

 

ことりの告白を聞いた一花は、両手で口を覆い目を見開いたまま立っていた。だが──

 

「くっ……!」

 

その場に長居が出来ないと考えた一花はすぐに皆のいるテーブルに向かってしまった。

 

(どうしよう……もしフータロー君がことりの返事をOKしたら…)

 

そんなところは絶対に見たくないという気持ちもあり、その場を離れたのだ。

 

「…一花、遅かったね」

「う…うん。ちょっと手を洗いながら考えごとしてたよ」

 

テーブルに戻った一花を三玖が迎えた。

すると三玖は一花の耳元に小さな声で話しかけた。

 

フータローのとこに行ってるのかと思った

あはは…そう考えたんだけど、ことりが一緒にいたから

「ことりが?そういえば、ことりまだ戻ってない…」

「ことりさんなら食器を持って行かれましたよ。食器洗いを手伝っているのかもしれませんね」

 

三玖の疑問に五月が答えた。

 

て、一花…顔色悪そうだけど大丈夫?

「大丈夫大丈夫」

「それならいいんだけど…」

 

戻ってきた一花の顔色が若干悪いように思えた三玖は、心配して一花に確認するも大丈夫だと返事をされてしまった。

 

「あーあ、結局先生は来なかったわね。誰と会ってるのかしら」

「うーん、やっぱりお仕事関係なんじゃないかな」

「きっとそうですよ。うーん…やはり教師という仕事は大変なのですね」

「お待たせー」

 

和彦がいないことに寂しい気持ちでいた二乃であったが、ちょうどそこにことりが戻ってきた。後ろからは風太郎も来ている。

 

「──っ!」

 

そんな二人の姿を見て一花はドキッとした。

 

(なんで二人一緒に?まさか、ここで付き合うことになったのを発表するんじゃ…)

 

「?」

 

そんな一花の様子に三玖は不思議に思っていた。

 

「実はここで風太郎君から発表があります。では、どうぞ」

 

そんな言葉でことりは風太郎に皆を集中させた。

 

「そんな大々的にすることじゃないだろ…たく…」

 

五つ子の視線が集中したことに恥ずかしがりながら、風太郎はテーブルの上にケーキを入れる箱を置いた。

 

「何これ?」

「ケーキを食った後になんだが…お前らにはバレンタインでプレゼントを貰ったからな。そのお礼ってやつだ」

「えぇ!?上杉さんがお礼なんてびっくりです」

「開けてもいいですか?」

「ああ」

 

風太郎の許可を得た五月は早速箱を開けた。

 

「プリン…?」

「あ…ああ。本当に大したものじゃないんだが、ここのプリンだから味は保証する」

「ま、あんたにしてはよくやった方じゃない」

「ふふふ…そうだね。あれ?フータロー君。六個あるけど…」

 

箱の中身を見た一花が不思議そうに風太郎に聞いた。

 

「ん?ここにいる六人に貰ったんだから数はあってるだろ。どうせ帰りは方向同じなんだから、ことりの分も一緒に入れて問題ないだろ」

「あー…そっかそっか」

 

(ことりは別に用意してると思ったから勘違いしちゃったよ)

 

ほっと胸を撫で下ろしながら一花はまたプリンに目を向けた。

 

(みんな同じお返しってことは、フータロー君にとってはまだ特別な人はいないってことだよね。じゃあ、まだ私にだってチャンスはあるかも…うん!)

 

ことりと風太郎が付き合っているかは分からない。だが、お返しのプレゼントが自分と同じであればまだチャンスがあるはず。そう考えた一花は自分に鼓舞するのだった。

 


 

試験の結果を配られた放課後。僕はある人物との待ち合わせのために、仕事を終えた後喫茶店に来ていた。

今頃は七人でREVIVALに集まって結果報告。そして、祝賀会をやってるんだろうな。

五つ子の赤点回避がどうなったのかは、予め確認をしていたので分かっている。見事に全員赤点回避。本当に皆よくやったと思う。

一応、REVIVALの店長さんには、後で支払うので好きなものを注文するように伝えてもらうようには言っている。

さてと。

目的の喫茶店に着いたのでまずは注文。ここは、先払いのお店なので先に注文をしなければならない。

それにしても良かった。紅茶も置いてあるみたいで助かったぁ。

レジでミルクティーを頼んで受け取った僕は、会う予定の人物が来ていないか店内を見回した。すると目当ての人がコーヒーを飲んでいる姿を見つけた。

しかし、なんでカウンター席なんだ?会う約束するんだったら、普通テーブル席だろ。

心の中で疑問をこぼしながら、その人物の隣の席に座った。

 

「お待たせしました。隣、失礼しますね中野さん」

「……」

 

僕が座った後も特に気にしない様子で中野さんはコーヒーを飲んでいる。

 

「本日はお時間を作っていただきありがとうございました」

「……僕も忙しい身でね。用件を聞こうか」

 

中野さんの言葉からは、本当に早くこの場から離れたいという気持ちが伝わってきた。

 

「ははは…まあ保護者面談みたいなものですよ。まずは、娘さん達の赤点回避おめでとうございます」

 

僕は中野さんの方向に体を向けて頭を下げた。

 

「……ここは素直に賞賛を受け入れよう。彼女たちの努力は本物なのだろうからね」

 

顔を上げて中野さんの顔を見ると口角が上がっている…………ような気がした。

いや、だって全然表情が変わらないんだもん。

 

「そして彼……上杉君のことも多少は認めざるを得ないのかもしれないね」

 

上杉のことを多少なりとも認めた中野さんはそのままコーヒーに口をつけた。

そこで、僕はもう一つの話に移すことにした。

 

「もう一つのお話の内容というのが、娘さん達の現状についてです。今の五人は家出という名目でうちの隣に住んでいます。しかし、この状況はそろそろ打開しなければならないと考えています」

「ふむ……僕もそう考えているのだけれどね。娘たちの説得に赴いたのだが、見事に空振りに終わった…」

「その話は聞いております。それを踏まえて、やはり五人が家に帰るのには上杉の存在が大きく係わってくると思っております。彼の家庭教師復活。それを認めていただけないでしょうか。そうすれば、私からも説得がしやすいと考えています」

「上杉君か…………失礼」

 

上杉のことをどうするかを話している時に、中野さんは不意にポケットからスマホを取り出して電話に出た。もしかしたら、職場からかもしれない。

 

「僕だ…………そうか。わかった。すぐに戻ろう」

 

簡潔に話した中野さんはスマホをしまうと席を立った。

 

「すまないね。職場からの呼び出しだ。この話はまた……そうだ。上杉君のことは多少なりとも認めてはいる。しかし、彼もまた新たな問題が出来たのではないかね?そこをどうにかしない限り彼の家庭教師復活は白紙となるだろう」

 

そんな言葉を残して中野さんは職場に戻っていった。

上杉の新たな問題……

一応と思い、五つ子の成績表を持ってきていたのだが、それと一緒に上杉の成績表も持ってきていた。

 

上杉 風太郎

国語 89点、数学 97点、社会 91点、理科 94点、英語 88点、合計 459点

 

100点が一つもないその成績表。主任なんか、とうとう上杉が満点を取らなかったぞ、て喜んでたものだ。

他の生徒からすれば文句の言いようがない成績だ。

だが、上杉本人と中野さんにとっては譲れないところがあるのだろう。

はぁぁ……まだまだ前途多難そうである。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回の投稿では、とうとうことりが風太郎に告白しました。風太郎は断ったので、まだ付き合い始めた訳ではないのですが、一花はそこまで聞いていませんので、心の中は穏やかではないでしょう。

長かった今回の章「始動」。これについては、ひとまずここまでとさせていただきます。
和彦に想いを伝えた子達によって、和彦の周りも慌ただしくなってきましたが、ことりの告白によって風太郎争奪戦も始まろうとしています。

次回からはいよいよ春休み。といきたいところではありますが、春休み前の小休憩として、少し書かせていただきます。

次回の投稿は8月10日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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