少女と花嫁   作:吉月和玖

85 / 172
第八章 春休み
85.春休みに向けて


「えっ!あの日はお父さんに会ってたの!?」

 

じゅー……

 

今日は、以前に五月と約束をしていた二人での食事に来ていた。どんなものがいいか分からなかったので、とりあえずいっぱい食べれる焼肉食べ放題に来ている。

昼間から、それも女子高生を連れてくるのはどうかと思ったが、五月は続々と美味しそうに食べているので問題なかったのだろう。

ある程度話しながら食べていたところで、試験結果が返却された日の放課後に、中野さんに会っていたことを五月に教えた。

 

「ああ。ちょっと話したいこともあったからね。ほら、この肉も焼けたよ」

 

トングを使い焼けた肉を網から取ると、そのままタレの入った五月の皿に置いた。

 

「わぁ~、ありがとう……あむっ……う~ん、美味しいぃ」

 

肉を食べた五月は頬に左手を添えながら、本当に美味しそうにしている。

 

「食べ放題の肉でそこまで美味しそうに食べてもらうと、連れてきた甲斐があるってものだよ」

 

じゅー……

 

五月の美味しそうに食べている姿を見ながら次の肉を焼き始めた。もちろん肉だけではなく野菜も焼いている。

 

「ふふっ、お兄ちゃんと一緒に食べるお肉だもん。美味しいに決まってるよ」

 

そう言った五月はご機嫌そうに注文していた石焼ビビンバを食べている。

本当に、どこにあれだけの量が入っていくのだろうか…

 

「……て、そうだ。お兄ちゃんはお父さんと何を話してたの?」

「別に。ただ、娘さん達の赤点回避おめでとうございますって伝えただけだよ」

「それだけぇ~?」

 

じゅー……

 

網の上の肉や野菜をひっくり返しながら、当たり障りのない話をしたのだが、見事に怪しまれてしまった。

 

「後は……娘さん達をどうやって家に帰しましょうかって相談だね」

「え……」

「ほら、こっちも焼けたよ」

 

焼けた肉をタレの入った五月の皿に置くも反応がないようだ。

 

「……お兄ちゃん……私たちを家に帰したいの?」

「ん?当たり前だろ。親の許可をもらってるならいざ知らず」

「で、でも!私たちの家出を賛成してくれた!」

「賛成はしたさ。だけど、いつまでもあの場所にいるべきではないとも思っている。ほら、これも焼けたよ」

 

興奮気味に話す五月に対して、僕は冷静に焼けた肉から五月の皿に置いていった。

 

「むー…あむっ…………私は…もっとお兄ちゃんの傍にいたいよ……」

「………そう思ってくれてるのは嬉しいよ。けど、別に二度とうちに来るなって言ってる訳じゃないんだ。家に帰っても遊びに来ればいい」

「そうだけど……」

 

優しく話しかけるも五月の中では納得がいっていないようである。

 

「それに、今すぐ帰れって事でもないよ。君たちが家出をした原因はなんだい?」

「え?それは…上杉君の家庭教師継続のため…」

「そう。その事で掛け合ってみたんだけどね。うまくいかなかったよ」

 

あの時の中野さんの態度からして、多少なりとも上杉への当たりは和らいでいるように見える。だけど、あの言い方からすると、上杉の成績を元に戻しつつ、かつ五つ子の成績も落とさないようにしない限り上杉の家庭教師は認めないのだろう。

本当に頑固なところは父娘で似ているのだから困ったものだ。

心の中でため息をつきつつ、焼いたホルモンを食べながらそんな風に考えていた。

 

「じゃ、じゃあ、まだ帰らなくていいんだね」

「笑顔で言ってるけど、帰ってほしい僕の気持ちに変わりはないんだからね」

「うん。わかってるよ」

 

安心したのか、また食のスピードが上がったようだ。追加の注文をパネルからもしている。

 

「あ、そうだ。バレンタインのお返しありがとう。みんな喜んでたよ」

「そりゃよかった。五人の好みは分からなかったから、妥当なクッキーを選んでよかったよ」

「とても美味しかったよ。あれ、高かったんじゃない?」

「いや、そうでもないよ。そんな高いものを高校生に贈りません」

「ふ~ん……じゃあ、立川先生には別のを贈ったの?」

 

網の上の肉や野菜をひっくり返していると、ジト目で五月がこちらを見てきた。

 

「君たちと同じのを渡してるよ。もちろん、地元の立花姉妹にもね」

「そう。ならいいんだ」

 

立川先生は大人なので別のを渡してもよかったのだが、二乃や三玖に知られたら何言われるか分かったもんじゃないからな。現に、五月から怪しまれるように見られてたし。本当に、第二のことりだよ。

 

「そういえば、その立花さんだけど、結愛さんの受験はどうなったの?」

 

焼けた肉を五月の皿に置いてあげると、思い出したように結愛の話題が出てきた。

 

「ああ。無事うちの高校に通うことになったよ」

「本当に!よかったぁ。あれ?でも、どうやって通うの?一人暮らしをさせるとか?」

「いや、うちで預かることになってるから。いわゆる下宿だね。向こうの親御さんから頼まれたんだよ」

「じゃあ、ことりさんの部屋に二人で?」

「そうなるね。ただ、寝るのはいいんだけど荷物をどうしようか悩んでるとこ。最悪、三年だけだからリビングに収納ボックスを置いてそこに服をなおしておくとか考えてるんだよね」

「なおす?」

 

やべ。こっちでは使わない言葉だったな。

 

「悪い。地元だと、しまうことをなおすって言うんだよ。たまについ出ちゃうんだよねぇ」

「へぇー、面白いね。他に何かないの?」

「他?そうだなぁ……このお肉うまいけんもっと食べりぃよ、とか?」

 

焼き終わったお肉を五月のお皿に置きながら話してみた。

 

「えっと……」

「ふふっ、このお肉は美味しいからもっと食べなよってこと」

「な、なるほど…他は?」

「他!?」

 

結局その後は何故か博多弁講座になってしまったが、楽しいひとときを送ることが出来たのだった。

 


 

『いよいよ今週末ね』

 

今日も今日とて飛鳥からの電話の相手をしていたのだが、話題が今週末のことに切り替わった。

 

「そうだね。飛鳥がこっちに来るだけでも驚きだったのに、さらには旅館の予約をして旅行になるとは思わなかったよ」

『だって、あなたに会いたかったのだもの』

 

切実な願いのように飛鳥が答えた。

今週末から高校では春休みがスタートする。とはいえ、僕たち教師陣には春休みというものはない。普通に平日出勤の土日休みだ。

そんなこともあり、毎年この時期には実家には帰っていない。つまり、飛鳥は僕に会えないということになるのだ。

 

『あんなこと言われたら、いつも以上に会いたい気持ちが高まってきたのよ』

「あんなことって?」

『お前の気持ちを聞けて嬉しい、て言ってくれたじゃない』

「あ…ああ、そんなこと言ったね」

『むー…嘘だったの…?』

 

僕の言葉を聞いた後、飛鳥からはどこか悲し気な声が聞こえてきた。

 

「いやいや、嘘じゃないって。お前の気持ちを聞けたのは本当に嬉しかったさ」

『ならいいわ。そういう訳で、あなたに会いたい気持ちを抑えることができなかったのよ』

「そうか…でもなんで旅行?」

『私たちだけで旅行ってしたことなかったでしょ?今回、結愛が高校受験に合格したから、そのお祝いでって親に提案したの。すると、和彦がいることが条件でOKが出たのよ』

 

相変わらずの僕への信頼感。この信頼感は裏切らないでおこう。

 

『結愛にはすべての受験が終わるまでは言ってなかったけれど、教えた時はとても喜んでたわ』

「だろうね。僕にも喜びのメッセージがきたよ。一緒に楽しみましょうねって。その結愛は今日も友達と?」

『ええ。遊びに行っていたわね。今日は友達の家に泊まるそうよ』

「そっか。友達とも遊べてるようでよかったよ。暫く会えなくなるわけだからね」

『あいかわらず結愛に対しては心配性ね』

「結愛だけじゃないさ。ことりや飛鳥のことも今でも心配しとうとよ。この間はとりあえず付き合ってみる男はいないか聞いたけど、心の中では変な男と付き合っていないかはらはらしたもんさ」

『ふふっ…姉妹ともどもあなたを好きになっているのだもの。そんな心配は無用よ』

 

面白そうに話す飛鳥ではあるが、それはそれで心配はしている。

 

『後そう。旅行を計画した理由なのだけれど』

「ん?皆で楽しむ以外にあると?」

『旅行だったら、どこかであなたと二人っきりになれるかもでしょ?せっかく会うのだから、二人っきりになりたいのよ。ダメ?』

「──っ!」

 

こいつ!日に日に電話での甘え方が上手くなってるな。声に妖艶さが含まれてきている気がする。

何をやらせてもそつなくこなす飛鳥だが、こういうところまでもこなしてくるか。なんか飛鳥本人に会うとどうなるか分かんなくなってきたなぁ。

 

『和彦……』

「あーっ!分かったよ。けど、ことりと結愛がいるんだ。そう簡単に二人っきりになれると思うなよ」

『ふふふ…そこは私でどうにかするわよ。楽しみにしててね』

「はいはい…」

 

飛鳥がどうにかすると言ったら、本当にどうにかして二人っきりの時間を作ってしまうのでは、と考えてしまう。

果たして、その時に色々と保てるのか…

なんと言っても飛鳥の三年分の想いが爆発する訳であって、三年前の暴走の比ではないような気がしてきたのだ。

その後も旅行の話に花を咲かせながら電話を続けるのだった。

 


 

「はぁぁ……」

 

会議が終わり職員室に戻っているのだが、会議の内容が内容なだけあってもうため息しか出なかった。

 

「大丈夫ですか?和彦さん」

 

隣を歩いていた芹菜さんから心配そうに声をかけられた。今は二人しかいないので和彦さん呼びのようだ。

 

「すいません、ご心配をおかけして。なんと言いますか、今回の会議の内容がとても憂鬱な内容でしたので…」

「たしかに。少々偏りがありましたからね」

 

今日の会議は来年度に向けたクラス編成と担任、副担任の振り分けであった。僕は三年のクラスの担任を任されたのだが、そのクラスがとんでもなかったのだ。

 

「でも、ある意味和彦さんが期待されていることも示唆されてますよね。すごいことだと思います」

「そうですかねぇ…」

「きっとそうですよ。私も和彦さんのクラスの副担任として支えていきますので、一緒に頑張っていきましょう」

 

芹菜さんが話している通り、彼女は担任のクラスを持たなかった。僕のクラスの副担任を任せられたのだ。

もしかしたら、初めての三年のクラスを二人で乗りきってもらうための処置なのかもしれない。

なんと言っても、三年生には受験に就職などクラス全員の卒業後のフォローをしていかなければならない。

それをまだまだ新人と言ってもいい僕と芹菜さん二人に経験させたかったのかもしれない。

ま、ここであれこれ考えてもしょうがない。与えられた仕事をこなしていくだけだ。

よし!切り替えていくか!

 

「ありがとうございます、芹菜さん。時に芹菜さんは今日はもうあがられますか?」

「え?そうですね。急ぎの仕事もありませんし…」

「でしたら、少しだけ飲みに行きませんか?こういう時は飲むに限ります」

 

くいっと飲む素振りを見せながら、この後飲みに行こうと誘った。すると、芹菜さんはすごい笑顔で承諾してくれたのだ。

 

「はい!もちろんです」

「決まりですね。とは言え、居酒屋とかでもいいですかね?」

「全然構いませんよ。なんでしたら、私のよくお店に行きましょう」

 

ご機嫌な芹菜さんと共に帰り支度を整えた僕は、芹菜さんお勧めの居酒屋に向かうのだった。

 


 

~中野家~

 

帰りが遅くなる連絡を受けたことりは、夕食を一緒に食べるために隣の中野家に来ていた。

 

「帰りが遅いなんて、先生も忙しいのね」

「うーん、今回は同僚の人と飲みに行くって言ってたから、そういうのではないかな」

 

夕食を食べながら、二乃は仕事が忙しいようだと心配そうに話していたが、ことりの同僚と飲みに行っているという発言にどこかほっとしていた。

 

「なんだ。心配して損したわ」

「こういうことってよくあるの?」

「うん。前からね。まあ、兄さんにも付き合いがあるだろうしね」

 

ちなみに、今回の和彦が飲みに行っている相手は芹菜なのだが、和彦は敢えてその部分を伏せていた。なので、ここにいるメンバーは誰と行っているのかは知らない。

 

「それより、もうすぐ春休みだよねぇ」

「ですね。それが終われば最上級生です。気を引き締めないと」

「もう~、五月ちゃんは真面目だなぁ」

 

話題をもうすぐ控えた春休みの話に切り替えた一花であったが、五月からは予想していたものとは違った意見が出て笑いながら答えた。

 

「そういえば、みんなは今週末に家族旅行に行くんだよね?」

「はい!三玖が当ててくれた懸賞の旅行券を使ってです!」

「ま、三玖が家の住所を間違えて応募しちゃったから、パパも一緒になったんだけどね」

「そこは仕方がない。普段書き慣れた住所を書いちゃうもの」

「たまにはいいのではないですか?珍しくお父さんも仕事の都合を合わせてくれたようですし」

「そうだよね。久しぶりの旅行だし、楽しまなきゃ損だよ」

 

最後の一花の言葉に五つ子はコクンと頷いているので、それぞれが楽しみにしているのは嘘ではないようである。

 

「ことりと先生も旅行に行くんだよね?」

「うん。地元の友達の飛鳥が遊びに来るんだけど、ついでに旅行することになったからね。この間来た結愛ちゃんも一緒だから四人で行ってくるよ」

 

三玖の質問に、ことりも楽しみにしているのか笑顔で答えた。

 

「にしても、男一人に女三人ねぇ。その飛鳥って子は先生のことなんとも想ってないのよね?」

「え?う、うん。年末に実家に帰った時にそれとなく聞いたけど好きじゃないって言ってたよ」

「じゃあ、この間来てた結愛って子は?」

 

二乃の質問にたじろぎながらもことりは答えたのだが、次いで、三玖が確認してきたので、ことりは更にたじろいでしまった。

 

「だ、大丈夫なんじゃないかな……結愛ちゃんも兄さんをお兄ちゃんとして慕ってたし…」

「「そう」」

 

ことりの言葉に二乃と三玖はとりあえず納得をした。

とは言え、ことりは二人の気持ちに気づいていない。なので、間違った情報が五つ子に共有されることになるのだが、それは致し方ない事だろう。

 

「あ!ことりさんは上杉さんのこと何か聞いてませんか?」

「え?風太郎君?」

「はい。その、上杉さん試験が終わってからうちに来てくれないので…」

 

四葉が言うように、風太郎は試験の結果発表が終わってから中野家に来ていない。学校でも話すわけではないので、四葉は寂しく感じていたのだ。

 

「うーん…特にこれといって。勉強会はいいの?って聞いたけど、バイトと自分の勉強があるからって」

 

(ま。私の告白を受けてどこかよそよそしい感じではあるんだけどね。それでも私の恋人役をちゃんと受けてくれるところがまたいいんだけど)

 

「……」

 

風太郎を想う気持ちが少しだけ出てしまったことりは、誰にもばれないように少しだけニヤついていた。

しかし、それは一花によって見られていたようで──

 

(ことりとフータロー君が二人でどこかデートしてるとか…でも、それならそうとことりは言うだろうし…う~…)

 

一花は一人モヤモヤした気持ちでいることになってしまった。

こうして、中野家での六人の夕食は賑やかに過ぎていった。

そして、いよいよ春休みの始まりである。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

定期試験も終わり、いよいよ春休みに突入です。
といっても、今回は前にもお伝えした通り、春休みに入る前の話を少しだけ書かせていただきました。
五月との食事会、飛鳥との電話、職員会議、五つ子とことりの夕食の団欒。
今回は色々と場面の変わる話になってしまいました。

さて、次回からはいよいよ春休みに突入です。
週末に控えた旅行のお話から書かせていただきます。

次回の投稿は8月15日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。