春休みに入って最初の土曜日。
今日は飛鳥と結愛がこっちに来るので、空港までことりと一緒に迎えに来ている。ここで二人と合流した後は、そのまま飛鳥の予約している旅館に行く予定である。
どうやら離島にある旅館のようで、港近くの駐車場を二泊で予約済みだ。
「あ、あれじゃない」
「みたいだね」
到着口でことりと待っているとキャリーケースを転がしながら出てくる二人の姿が確認できた。そんな二人も僕達のことを発見できたのか、早足でこちらに向かってきた。
「「和彦さん!」」
ガシッ
近づいてきたかと思ったら、二人は僕の右と左の腕にそれぞれ自身の腕を絡ませてきたのだ。
「お久しぶりですね。お会いしたかったですよ」
「久しぶりです!この日を心待ちしていました」
「う…うん。二人とも久しぶり。疲れてない?」
「ええ。心遣いありがとうございます」
「私も。前回も乗ってきたので慣れたものですよ」
「そ…そう。それならよかった」
二人とも話すたびに距離を縮めてくるので、どうすればいいのか分からなくなってくる。後、当たっているのが分かっているのか、胸を腕に当てるのは止めてほしい。両側から近づかれるので、片方に逃れる事が出来ないのだ。
「ちょっとぉー。私もいるんだけどぉ?」
そんな僕達の様子をジト目で見ていたことりが話しかけてきた。
「知ってるわよ。ことりも久しぶりね」
「久しぶりことりさん!今日からお世話になるね」
ことりに挨拶をしながらも僕からは離れようとしない二人。その様子にぷくっと頬を膨らませながらことりは抗議してきた。
「二人ともお兄ちゃんにくっつきすぎだってぇ。お兄ちゃんも困ってるじゃん」
「あら、そうなのですか?」
「迷惑でした…?」
そんなうるうるした目でこっち見ないで。
「す…少しだけくっつきすぎかな…ちょっと離れてもらうと助かるよ。ほら人目もあるし」
「……仕方ありませんね。和彦さんを困らせることはしたくありませんから」
「はい…」
飛鳥が腕から離れると、それに続いて結愛も離れてくれた。
「じゃ、距離もあるわけだし、さっさと出発しようか」
「そうですね。一応、夕方くらいになることはお伝えしてますが」
「早く着いたら、少し観光するのもいいかもだしね」
「楽しみだなぁ♪この四人での旅行は初めてだから、ウキウキしてくるよ」
いつもの雰囲気で四人並んで駐車場に向かう。だが、そこでまたもや問題が起きたのだ。
「じゃあ、二人は後ろに座ってね」
「ちょっと待ちなさいことり。なぜ、あなたが助手席に当たり前のように座ろうとしてるのよ」
「そうだよ。私だって助手席に座りたいのに」
荷物をいちばん後ろの席に載せたまではよかったのだが、今度は誰が助手席に座るかで揉めているようだ。
正直、誰でもいいんだよなぁ。けど、この光景は昔を思い出してしまう。誰が僕と手を繋ぐかを決める時の光景を。
飛鳥がすぐに身を引くようになる前までは、こうやって三人で取り合いをしていたものだ。
じゃんけんを始めた三人の姿を、昔の光景と被せながら微笑み見守るのだった。
結局じゃんけんの結果、飛鳥が助手席に座ることになり出発する。
途中で昼食をとりながら港に向かって車を走らせた。
「そうだ。結愛の荷物届いてるよ。そのままリビングに置いてるから帰ったら整理してもらってもいいかな?」
「はい」
「私の部屋も片付けたからクロゼットとかも使っていいよ。ただ、ある程度はリビングに収納ボックスを用意したからそっちになるかもだけど。私も少しだけ移動したから」
「ごめんねことりさん。もちろん、ことりさんの荷物が部屋優先でいいから」
「まあ、そこら辺はまた帰って話し合う、だね」
「そうね。整理だったら私も手伝うわよ」
「ん?」
なんか聞き逃したらいけないものがあったような…
「お前、旅行終わったらすぐに帰るんじゃなかったのか?」
「あら、そんなこと言ってませんよ。旅行が終わってもしばらくは泊めさせてもらいますよ」
「先に言え…いつまで?」
「来週の日曜日に帰ろうと思ってますよ」
一週間かよ!
「そんなにいるんだ。私としては全然問題ないよ」
「旅行から帰ってすぐに福岡はさすがに疲れるしね。後、土日でないと和彦さんは車出せないでしょ?」
初めから計画してたってことか。本当に抜け目がない。
「でも、そうなると寝る場所ないんじゃない?」
もっともな意見を結愛が言うが多分そこも揉めるんだろうなぁ。
「大丈夫だよ。私が兄さんの部屋で寝るから。二人で私の部屋使って」
「あら。別に私が和彦さんの部屋で寝てもいいのよ。ことりは自分のベッドで寝たいでしょ?」
「そ、それなら、私が和彦さんの部屋で寝るよ!」
ほらね。
リビングという選択肢がまずないところがおかしな話である。
そして、この後はどうせ──
「兄さんは──」「「和彦さんは──」」
「誰がいいの?」「誰がいいのです?」「誰がいいんですか?」
予想通りの言葉が三人同時に投げかけられた。
そしていつも通りの答えを僕は出す。
「誰でもいいよ。それは帰って決めればいいだろ」
この話はここまで。まあ、ただ先延ばししただけなんだが、今は旅行を楽しむことにしよう。
僕の思いが届いたのか、誰が僕の部屋で寝るかは帰って決めることとなるのだった。
「到着」
「けっこう観光客の人いるんだねぇ」
港に着いた僕達は船に乗り換え、一路飛鳥が予約した旅館のある島に向かった。少しの船旅を楽しんだ僕達は目的の島に到着したのである。
「海水浴場もあるみたいだし、夏に来るのもよさそうね」
「いいね、海水浴」
僕とことりの後ろに続く飛鳥と結愛もテンション高めに話してるようだ。
「さて。このまま観光といきたいところだけど、荷物もあるし時間も時間だから、今日はこのまま旅館に向かおう」
「いいんじゃないかな。二人も何だかんだで疲れてるだろうし」
「私はまだ疲れてないけど、和彦さんの提案で問題ないです」
「じゃあ。ここからは私が案内するわね」
「頼むよ」
島に着いたばかりではあったが、今日のところは旅館に直行することで意見がまとまった。飛鳥の先導の元僕達は旅館に向かうのだった。
「おぉーー」
「これぞ老舗旅館って感じだな」
旅館に着いたことりは感嘆の声が漏れていた。たしかに古い旅館でもあるから、そんな声が漏れてもおかしくないか。
「なかなか古い旅館ではありますが、露天風呂もあってで、掲載サイトはいい感じでしたよ」
「へぇー…」
「露天風呂!さっそく三人で行こうよ」
「さんせーい」
「なんにせよ、まずはチェックインだね。受付はあそこかな。飛鳥も来てくれ」
「はい」
玄関口をくぐって靴を脱いで上がった先に受付のような場所があったので、ここを予約したであろう飛鳥を連れて向かった。
「すいません、今日予約した立花ですけど」
「……」
ん?聞こえてないのか?
受付に座っていたおじいさんに声をかけたのだが、まったく反応がない。なので、次は少しだけ大きめの声で話しかけた。
「すいません!今日予約した者ですが!」
スー…
先ほどと同じように反応がないのかと思いきや、紙とペンが無言で差し出された。
ここに名前や電話番号とかを書けってことね。
「飛鳥、悪いんだけどここ書いてくれる?」
「え……ええ…」
さすがの飛鳥もおじいさんの反応に困惑しているようである。
紙に必要事項を書き終わったので提出すると、今度は鍵が無言で差し出された。
あくまでも喋らないのかこの人は。いや、口は動いているようだから、何かは喋っているのか。
て、ん?
「あの…鍵一つですか?」
「……」
無反応かよ!
「一つで問題ないですよ。部屋は一つしか予約してないですから」
「…………は?」
今なんて言った?部屋は一つしか予約してない?
「いやいや。僕はどこに寝泊まりするんだよ」
「え、私たちと一緒ってことじゃないの?私はその気でいたけど」
僕と飛鳥のところに来たことりがそんな言葉を口にした。
何でだよ!
「わ、私も。和彦さんが同じ部屋でも気にしないです!」
「そこは気にしてくれ…」
結愛のアピールに頭を抱えながら答えた。
「ふふっ…これで三対一。もう諦めたらどうですか?」
「はぁぁ……どうせ僕に選択肢はないんだ。一緒の部屋でいいよ」
肩を落としながら話す僕に対して、にっこりと笑う飛鳥。それに、ハイタッチをすることりと結愛の姿がそこにはあった。
~ことり・飛鳥・結愛side~
ことりと飛鳥、結愛の三人が意気揚々と部屋に向かうのを、後ろから黙ってついていく和彦。そんな和彦に不意に声をかける人物がいた。
「え?和彦さん?」
その声に和彦はもちろん、三人も振り向いた。
「あれ、芹菜さんじゃないですか」
「偶然ですね。和彦さんもここに旅行を?」
「ええ。地元の友人がこっちに遊びに来たので、ついでにと。そちらもご友人と?」
和彦は自分の後ろにいる三人に目線を向けながら答えると、逆に芹菜の後ろにいる二人に気づいて質問をした。
「ええ。休みを合わせて来てたんです──」
「誰?」
芹菜が和彦との話を続けている頃、飛鳥はことりと結愛にだけ聞こえるように質問した。
「ああ、立川先生って言って、お兄ちゃんの同期の先生だよ」
「へぇー、ずいぶんと仲いいみたいね。お互いに名前で呼んでるし」
じっと和彦にと芹菜が話しているところを見ながら飛鳥は確認した。
「そこは私も驚いてるよ。前までは、お互いに名字と先生呼びだったのに、いつからなんだろ」
「ふーん…ことりも知らなかったか…」
「お…お姉ちゃん…」
顎に手を持っていき考え込む飛鳥に、心配そうに結愛が話しかけた。
「ああ、後。立川先生はお兄ちゃんのこと好きで告白済みだよ」
「「!」」
「一応、まだお兄ちゃんから返事してないみたいだけど、バレンタインのチョコは貰ってたね。結構美味しかったなぁ」
飛鳥と結愛の気持ちを知らないことりは淡々と芹菜の情報を話し始めた。
それを聞いた飛鳥と結愛はばっと芹菜の方を見た。
(じゃ、じゃあ、あの人が和彦さんに告白した……)
(三人のうちの一人ってことね。ふーん…)
そこで、飛鳥と結愛は改めて芹菜の容姿などを確認した。
今の芹菜はお風呂から上がってきたのか、浴衣姿で髪などが少し濡れていて、それが艶っぽさを出していて大人の女性感をさらに醸し出していた。
その芹菜と話している和彦もドキッとしているくらいだ。
(美人だし、スタイルもよさそう…それになんといっても……)
結愛が感想を心の中で呟いていると、ある場所に視線が集中してしまった。
(………大きいわね…)
結愛の目線がいったのは芹菜の胸。今の芹菜はゆったりとしているので、いつものように着痩せしていない状態のため、その胸は強調されているのだ。
そこに視線を向けたのはもちろん飛鳥もだ。飛鳥と結愛は、芹菜の胸を見た後に自身の胸を見た。
飛鳥の胸も決して小さい訳ではなく、平均よりも大きい。ことりも同じくらいなのだが、如何せん比べる相手が間違っているのだ。
ちなみに結愛は少し小さめの部類に入る。本人曰く、これから成長するとのことだ。
((和彦さんって、大きい方が──))
(いいのかしら)(いいのかな…)
そんな二人の心の中の心配を知らず、芹菜と一緒にいた静の言葉で、ことり達三人の思いもよらない方向に話が進もうとしていた。
「ねえ、旅館の人に頼んで私たちと一緒に夕食食べませんか?もっとお話したいですし」
「「「──っ!」」」
「ちょっと静!」
「いいじゃない。芹菜だって和彦にさんと一緒にいたいでしょ?」
「まったく、あなたという人は…」
静の突然の申し出にことりと飛鳥と結愛の三人は驚きの表情となってしまった。
静の提案に芹菜は止めようとしており、小百合も頭を抱えている。
「えっと…………!」
静の申し出に困り顔の和彦であったが、そこに服を引っ張られる感覚があった。
チラッと和彦が後ろを見ると、服を引っ張る飛鳥と心配そうに見ていることりと結愛の姿があった。
その光景を見た和彦は、フッと笑みをこぼし静の申し出の答えを伝えた。
「折角の申し出なのですが、すみません。連れと会うのは久しぶりなので、積もる話もあるんですよ。ですので、今回のお話はなしということで」
「で、ですよね!こちらこそ、私の友達が突然すみませんでした。ほら、静もっ」
「あはは…ごめんなさい。また機会があればぜひ」
「ええ。その時はよろしくお願いします。では、僕達はこの辺りで。失礼しますね。行こうか三人とも」
和彦は挨拶をそこそこに一番近くにいた飛鳥の肩に手を添えながら、ことり達三人を引き連れてその場を後にした。
「……その…ごめんなさい。つい服を引っ張ってしまって…」
割り当てられた部屋に向かう途中、飛鳥が和彦に頭を下げた。
「別に気にすることでもないだろ。お前が行動に出なくても断ってたよ」
「でも、職場の人なのでしょう?これからの付き合いとかあるんじゃ…」
「それこそ気にすることじゃないさ。あの人ならこのくらいで何か変わるってことはないから。まあ、後でフォローは入れとくけどね。ほら、今は旅行を楽しむことを考えよう。部屋はどんな感じだろうな」
飛鳥の謝罪に対しても気にすることはないと言いながら、もう別のことを考えている和彦。そんな和彦に、飛鳥はまた心を奪われていた。
そんな飛鳥は、前を歩くことりと結愛がこちらを向いていない事を確認するや、和彦の腕を取って頬にキスをした。
「好きよ和彦……ちゅっ…」
「おまっ…!」
そんな飛鳥の行動に和彦はただただ驚くのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回のお話からいよいよ春休みが本格的にスタートです。
春休みは、吉浦兄妹と立花姉妹の四人での旅行からのスタートです。行き先は離島の旅館。五等分の花嫁を読んでいる人にとってはお馴染みの場所ですね。
次回は、もう少し初日の様子を書かせていただきます。
次回の投稿は8月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。