少女と花嫁   作:吉月和玖

87 / 172
87.家庭教師存続の危機?

「結構中庭も広いんだな」

 

中庭の見える廊下から中庭を眺めながらそんな感想がポツリと出てしまった。

今はことりと飛鳥と結愛が三人揃って露天風呂に行っているので、それを待っているところである。この後は夕食なのだが、僕は後で入ろうと思っていたので、暫く部屋でゆっくりした後にこうやって迎えに来たところである。

 

「しっかし、相変わらず長いお風呂だこと」

 

暫く立って中庭を眺めていたが、まだかかりそうなので廊下にあったソファーに座り込んだ。

もう少し部屋でゆっくりしとけばよかったかなぁ。

 

「せ…先生…?」

「ん?」

 

ソファーに座った僕はスマホでネットを見ながら時間を潰そうと下を向いていたのだが、先生という言葉で顔を上げて、声の方向に目線を向けた。

 

「おー、いつ…き……て、え?」

 

そこにはロングヘアのアホ毛と星のヘアピンが特徴的な中野五月の姿があったのだが、その後ろからも同じ人物が現れたのだ。

 

「どうしたのよ。そんなとこで立ち止まって、て。あら、先生じゃない♪」

「え?え?」

 

片方は僕がいたことに驚きの表情をしている五月。もう片方は、僕がいたことが嬉しかったのかニコニコしている五月。

何?どういう事?ドッペルガー現象なのか?

 

「何よ固まっちゃって。何か言うことないの?」

「いや、えーと……五月が二人いるんだが…」

「え…?ああ…」

「そういえば、今はそうだったわね」

 

僕が何も喋らない事に不服そうにした五月?の言葉に、今の率直な疑問を投げかけた。

すると、二人の五月は理解したように髪をいじり始めた。

 

「混乱させて申し訳ないわね。ちょっと訳ありでこの格好してるのよ。私は二乃よ」

「三玖…」

 

僕から見て右から二乃と三玖であると言われた。言われたんだが、どう見ても五月である。さすが五つ子。髪型が同じだと見分けがつかない。

 

「それで?ことりとの旅行先は私たちと同じたったのね」

「偶然…」

「本当に偶然だよ。ここの予約したのは僕とことりじゃないからね」

「へぇー。じゃあ、運命を感じるわね」

 

右側の五月がニヤリと笑いながら答えた。えっと、こっちは二乃か。前にチャレンジした話し方で見分けるしかないな…

 

「な、なら。私だって先生と運命的な出会いだよ…!」

 

すると、反対側の五月、もとい三玖が自分も運命的な遭遇であると強調してきた。

 

「へぇ~…あんたも言うようになったじゃない」

「二乃も隠さないようになったね」

 

バチバチとにらみ合いが始まってしまった。こんなところまで来て何やってんだお前たちは…

まあ、お互いが笑いながらいるので、本気の喧嘩という訳ではないようではあるが。

 

「おーい!二乃ぉー、三玖ぅー」

 

そんなところにもう一人の五月が手を挙げながらこちらに小走りに向かってきた。

 

「探したよぉ。もう夕食の準備はできてるよ。五月がお腹すかせてる……て、先生!?なんでここにいるんですか?」

 

近づいてきた五月はどうやら夕食の準備ができたために二乃と三玖を探しに来たようだ。

んーと、この子は……

 

「四葉かな…?」

「「──っ!!」」

「そうですけど…?て、そうでした!今は五月の格好をしていたんでした」

 

自分の名前を聞かれたことに疑問に思っていた四葉は、自分のいまの格好に気づき、あははと右手を頭に持っていきながら笑っていた。

そんな時にぐいっと二乃と三玖が頬を膨らませながら迫ってきた。

 

「ちょとぉー!なんで四葉はわかって私たちはわからなかったのよ!」

「そう…!納得いかない」

 

なるほど。自分達は見分けられなかったのに、四葉は見分けられたことに怒っているのか。

 

「それは、まあ先に二人に会ってたからね。二人に会ってなかったら分からなかったよ。四葉だと判断したのは敬語かな。僕に敬語を使うのは、四葉と五月だけだろ?そして、さっき五月がお腹すかせてるって言ったから、消去法で四葉って訳」

「むー…それなら…」

「仕方ないわね」

 

僕の説明に納得したのか、二人は離れてくれた。

お風呂上がりだったのか、ほのかに石鹸の匂いがしてドキッとしたのは言わない方がいいな。

 

「ほら、二人とも五月がお腹すかせてるんだろ?早く行ってあげなよ」

「仕方ないわね。同じ旅館なんだからまた会えるわよね?」

「うん。私も会いたいな」

「ああ。ことりや飛鳥達に相談してみるよ」

 

僕の言葉に満足した二乃と三玖は、四葉に連れられて大広間がある方向に行ってしまった。

それにしても、芹菜さんに続いて五つ子もここに来ていたのか。後は上杉がいたら凄いことだな。て、そんな都合よくいかないか。

そんな風に考えながら、またソファーに座り、スマホをいじりながら三人がお風呂から上がってくるのを待つのだった。

 

・・・・・

 

「へぇー、三玖たちもここに来てたんだ」

 

お風呂から上がってきた三人と合流した後、その足で大広間まで来て夕食を食べることにした。

そこで、先程あった出来事を三人に共有したのだ。

 

「まさか立川先生だけじゃなく、三玖たちも来てたなんてね。すごい偶然だよぉ」

「でもちょうどよかったですね。後で私にも紹介してほしいです」

「う~ん…今の五つ子を紹介してもよいものか疑問ではあるんやけどね」

「?どういうことですか?」

 

飛鳥が自分に五つ子を紹介してほしいという提案をしたのだが、それを渋ったために結愛が疑問を投げかけてきた。

 

「いや、僕が会ったのは二乃に三玖に四葉だったんだけど…三人とも同じ髪型しててさぁ…」

「え、でも、私が会った時はみなさん違った髪型してましたよ」

「もしかしてウィッグを使って全員同じ髪型にしている、ということでしょうか」

「えぇ!?それこそなんで?」

「さあ?何か事情があるみたいだけどね」

 

そっちも気になる訳なのだが、あっちも少し気になっている。

チラッと見た方向では、女性が三人で夕食を食べながらお酒を飲んでいる。

芹菜さんピッチが早いような…

 

「あちらが気になりますか?」

 

そんな僕に飛鳥が声をかけてきた。

 

「まあ、あんなこと言っておきながらなんだけど、気にはなるよ」

 

申し訳ないと思いながら答えて夕食に並んでいるお刺身を食べた。

 

「はぁぁ……明日の昼食くらいならいいですよ」

「え?」

「ですから。明日の昼食にご一緒してきたらいいのではないですか?そこまで気になるのであれば」

 

そう答えながら、飛鳥は味噌汁を飲み始めた。

 

「いいの、飛鳥?」

「そうだよお姉ちゃん。折角の旅行なのに和彦さんが抜けちゃうんだよ」

 

飛鳥の答えにはことりと結愛が本当にいいのかと確認を取っている。

 

「こんな状態の和彦さんと一緒にいても楽しめないでしょ?なら、二、三時間抜けてもらってスッキリしてもらった方がいいわよ」

「まあ、たしかに…」

「うーん…」

「それに。たまには私たち三人で遊ぶのもいいと思うわよ」

 

にっこりと笑いながら話した飛鳥の言葉が決め手となり、明日は昼の間だけ僕は抜けることになった。

 

「ありがとな、飛鳥」

「ふふっ、これは貸しですからね?」

 

大きな借りを作ってしまったのかもしれないな。

後でどんな事を要求されるのかと思いながらも、スマホでメッセージを送った。

 


 

~芹菜side~

 

「ん……ん……はぁぁ…」

「ちょっと、芹菜。ペース早すぎじゃないの?」

「そんなことないわよ。いつも通りだって」

「私が言うのもなんだけど、それをいつもされるととんでもないわよ」

 

和彦達とは別の場所で夕食を食べている芹菜と静と小百合。そこで芹菜は、ビンビールのビールをコップに注いでは次々と飲み干していた。

そんな様子に、小百合は心配そうに声をかけ、静もまたいつもとペースが違うことに心配していた。

 

「はぁぁ……どうせさっきの和彦さんとのやり取りを引きずってるのでしょ?」

「うっ……」

 

ちょうどお刺身に箸を伸ばしていた芹菜であったが、小百合の言葉に一瞬固まってしまったが、気にせずお刺身を口に持っていった。

 

「別に夕食誘って断られただけじゃない」

「だって…和彦さんに迷惑かけたかもしれないし…それで嫌われちゃったらって思うと……ぐすっ……」

 

小百合の言葉に自分の行動で和彦に嫌われたのかもしれないと思った芹菜は、箸を咥えたまま、とうとう涙が出てきてしまった。

お酒の力もあり情緒不安定のようである。

 

「まったく…静、あんたのせいでもあるんだからね」

「わ、私だって芹菜を思っての行動だったんだよ!」

 

ピロン♪

 

小百合と静の二人が話しているところに、テーブルの上に置いていた芹菜のスマホに着信が入った。

 

(誰だろ…………和彦さん!?)

 

着信相手が和彦だと分かるや否や、芹菜は慌ててメッセージの内容を確認した。

 

『ことり達から許可もらったので、今日の夕食をご一緒できなかった代わりに、明日の昼食だけでもご一緒しませんか?』

 

その言葉を見た瞬間、芹菜の顔はパァーッと明るい表情になった。

そして、急いで返信をした。

 

『ぜひ!よろしくお願いします!』

『よかったです。では、詳しい時間などはまた連絡します。お互いよい旅行となるといいですね』

 

和彦からの返事を見た芹菜はうっとりとしたような顔でスマホをじっと見ていた。

 

「どうしたのよ、芹菜」

 

そんな様子に、小百合が心配そうに声をかけた。

 

「……和彦さんが、明日一緒にお昼食べましょうって連絡してくれたの」

「え!今?」

「うん♪」

 

静の驚いたような質問にも芹菜はご機嫌に答えながら、先ほどのやり取りのメッセージを二人に見せた。

 

「たしかに」

「ふーん…やっぱ芹菜が惚れるだけのことはあるわね。こんなに早くフォローしてくるなんてね」

「明日は二人に、和彦さんのことをちゃんと紹介するからね」

 

先程とは打って変わって、ご機嫌な様子でご飯を食べながら芹菜は話した。

それを見た小百合と静は、お互いの顔を見てふふっと笑ってしまった。

 

「何言ってるのよ芹菜」

「そうだよ。昼食は二人で行ってきなって」

「え?でも、二人のことも紹介したいし…」

 

小百合と静からの言葉に驚きで、芹菜は箸を止めてしまった。

 

「私たちのことはいつでもいいわよ。それよりも自分のことを考えなさい」

「そうそう。これを機に距離を縮めていかないと」

「……うん!ありがとう二人とも」

 

笑って答える小百合と静に対して、芹菜もよい友達を持ったと思いながら笑顔を返すのだった。

 


 

夜。三人が寝静まった後も僕は眠れず、旅館の中を歩き回っていた。

 

「たく……昔から知る仲とはいえ、さすがに三人と寝るとなると寝つきが悪いったらないよ」

 

ちなみにだが、寝る時にも場所で揉めていた。結局じゃんけんで順番を決めていたが、この旅行が二泊三日の事もあり、旅行中に僕の隣になれなかった者が、帰ってから僕の部屋で寝る初日の者で話がついたようだ。

緊張で眠れないことに愚痴を言いながら廊下の窓から空を見上げる。

ここは、都会と違い星々が輝いて見える。それに月も綺麗に見えていて、月見酒には持ってこいかもしれない。

 

──本当に、今日は綺麗な満月だね

 

以前うちのベランダで月を見ながら話していた五月の事を思い出していた。

 

「ふっ…あれから勉強頑張ったようだな。果たして、あの言葉の意味を知った時の五月の顔が目に浮かぶようだ」

 

ダダダ…

 

「ん?」

 

夜空を見ながら感傷に浸っていると、近くの階段から勢いよく登ってくる音が聞こえてきた。

そして、次の瞬間には見知った人物が現れたのだ。

 

「え?五月?」

「──っ!」

 

五月は僕の存在に気づいた後、驚きの表情になっていたが、何も声をかけずに僕の横を走り去っていった。

 

「何だったんだ?」

 

どこか様子のおかしい五月を見送っていると、またもや階段を駆け上がってくる者が現れたのだ。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

「あれ、上杉じゃないか」

「せ、先生…!な、なんで……ここに…」

 

疲れ果てている上杉が壁に手をつきながら僕の存在に気づいた。

 

「僕らも旅行だよ。まさか上杉までいるなんてね」

「偶然ってのは恐ろしいっすね……て、そうだった。五月見ませんでしたか?」

「五月ならあっちに走っていったけど。自分の部屋に戻ってるんじゃないか?」

「ありがとうございます」

 

五月の所在を伝えると、上杉はお礼を言ってさっさと五月の向かった方に行ってしまった。

こんな時間に女の子の部屋に行くのは止めるべきだとは思ったのだが、止める暇もなかったのだ。

 

「けど、確か五つ子は家族旅行だったよな。てことは、中野さんがいて止められるんじゃ」

 

そんな風に考えて暫くそこで待機していると、ほとんど時間が経たずして上杉が戻ってきた。

 

「よっ!中野さんにでも止められたかな?」

「よくわかりましたね。その通りです」

「まあ、父親であれば、こんな時間に娘の部屋に近づく男を許すはずもないよ」

「くっ…」

「とりあえず話聞こうか」

 

ここで話を聞くのもなんだったので、一階のロビーに向かい、ソファーに上杉を座らせた。

 

「ほい、お茶だよ」

「ありがとうございます」

 

そして、自販機で買ったお茶を上杉に渡して、僕も隣に座った。

 

「で?五月を追いかけるなんて、何があったのさ」

「いや、俺にもさっぱりで…五月にこの時間に呼び出されたと思ったら、いきなり家庭教師を辞めるように言われたんです」

「五月に?」

「ええ。自分たちの関係をどう思ってるのか、とか。パートナーだって伝えたら、もうパートナーではない、この関係を終わりにしよう、とか言われましたね」

 

うーん……最近の五月を見ていたら、そんなことを言うようには見えなかったが…この間の焼肉の時だって、上杉とことりにしっかりと勉強を見てもらって、先生を目指すって言ってたしなぁ。

 

「そして、なんでそんなことを言うのか問い詰めようとしたら、受付にいたじいさんに投げられて、儂の孫に手を出すな、殺すぞって言われる始末でして」

「え?あの受付のおじいさんって、五つ子のお祖父さんだったの?」

「みたいっすね」

 

驚きだ。ということは、この旅館に来るのは、いわゆる里帰りと言うことになるのか。

まあ、今はそこは置いておこう。まずは五月の事からだ。

て、ちょっと待てよ。確か、ここで二乃と三玖、それに四葉に会った時、三人の格好って……つまり、上杉に家庭教師を辞めるように言った五月は五月じゃない?

いや、五月本人の可能性だってある……

 

「今は考えても仕方ないか。明日の朝、ことりを交えて話そう」

「うっ……ことりですか…」

「ん?何?ことりと喧嘩でもした?」

「いえ、そう言うことではないですが…わかりました。今は家庭教師存続の危機ですからね。よろしくお願いします」

 

というわけで、今回はここまでとしてその場は解散とした。

ことりに聞けば、最近の五つ子の様子が分かるかもしれないから、話が進むかもしれない。

そんな淡い期待を胸に自分の部屋に戻るのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回の投稿でいよいよ五つ子と風太郎も合流です。と言っても、一花と五月はまだ出ていませんが…まあ、もしかしたら最後の五月がどちらかかもしれません。
さて、本来であれば次の話で次の日といきたいところなのですが、次回ももう少しだけ同じ日を書かせていただきます。

次回の投稿は8月25日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。