「紹介するよ。こっちが姉の飛鳥」
「飛鳥です。よろしくお願いしますね」
「で、こっちが妹の結愛ね」
「結愛です。よろしくお願いします」
翌朝になり、上杉が僕達の部屋に来たので、まずは飛鳥と結愛を紹介することにした。
飛鳥と結愛は僕の両隣にいるので、それぞれに手で示しながら紹介をする。
「よ、よろしくな……う、上杉、ふ、風太郎だ…」
一方の上杉は僕達三人の前に座っており、僕の紹介を受けていた。
しかし、その上杉はというとどもり気味である。その原因というのが……
「何どもってるの風太郎君?」
スーー
「ど、どもってなんかねえよ。何言ってんだ」
スーー
ことりが上杉に近づこうとすれば、その分上杉がことりから離れるといった動作をしていることが原因のように思える。
「何やってんの、君らは?」
「別にわたしは風太郎君の横に座りたいだけであって」
スーー
「なら、そんなに近づく必要がないだろ!」
スーー
まったく話が進まない。
「まったく…夫婦漫才を見せられても困るのだけど?」
「そんな…夫婦だなんて…」
飛鳥の呆れるような声に何故かことりは両頬に手を持っていきながらうっとりした顔でいる。
「初対面で言うのもなんだが、そういうの言わないでもらえるか」
「はぁ…私は褒めたように言ったのではないのだけど…」
「ふふふ…お二人は仲がいいんですね」
二人の動作が面白かったのか、口元を押さえながら笑って結愛は答えた。
「そうなの!私たち仲良しなんだから」
「だから、いちいち腕にしがみついてくるんじゃねぇ!」
結愛の言葉に隙をついたことりが上杉の右腕に自分の腕を絡めるように引っ付いた。そしてそのまま、ことりは上杉の肩に頭を乗せて上機嫌である。
そんなことりをなんとか引き離そうとしていた上杉だったが、最後は諦めてため息混じりに下を向いてしまった。
なんだろう。親近感を得られるんだが。
「上杉には悪いが、これじゃあ話が進まないからこのままいくな」
「はい……」
ということで、ことりの行動は放っておいて、昨日あった出来事を三人に共有した。
「ふーん、そんなことが...五月が風太郎君に家庭教師を辞めてほしいなんてねぇ…」
昨日の出来事を聞いたことりは真剣な顔で顎に手を持っていきながら呟いた──上杉に腕を絡ませた状態で。
「それで、どうかな?ことりから見て五月にそんな素振り見られなかったかな?」
「うーん……そんなことないんじゃないかなぁ…どちらかと言えば、家庭教師として続けてほしい的な方だと思うよ」
「てことは、僕の考えが現実味を帯びてきたかな」
「和彦さんの考えとは?」
ことりから見たら、五月には上杉に家庭教師を辞めてほしいという気持ちが見られなかった。だとすれば、とある考えがあることを口にすると、飛鳥が確認してきた。
「ほら、三人には伝えただろ?僕が五つ子の誰に会ってどんな格好をしていたかを」
「「あ……」」
「なるほど、たしかに言っていましたね。会った中野さんは全員同じ髪型だ、と」
僕が昨日の夕食に話したことを思い出してもらうように促してみると、思い出してくれたようで、飛鳥が僕が話したことを代弁してくれた。
「どういうことです?」
「うん。上杉にも伝えると、昨日僕は二乃と三玖と四葉に会ってるんだよ。だけど、驚いたことに三人とも同じ髪型でいたんだ。ロングヘアに特徴的なアホ毛。そして、星形のヘアピンを付けてた」
「それって…」
「ああ。五月さ」
僕の説明に、上杉は目を見開いて驚いている。
「つまり、昨晩風太郎君がお会いした五月さんは五月さんではない、と」
「もちろん五月本人の可能性だってあるよ。けど、これで容疑者は五人になった」
「……五人の中で誰かが俺を拒絶している。いったいなぜ……」
最初は五月だと思っていたが、上杉に家庭教師を辞めるように促したのが五人のうちの誰かと増えたことで、上杉は神妙な顔となっていた。
「そういえば、上杉先輩って呼び出された後にいきなり家庭教師を辞めるように言われたんですか?」
そこで結愛が一つの疑問を上杉に投げかけた。
「ん?そうだなぁ……何の用なんだって聞いたら、私たちの関係をどう思ってるのかって聞いてきたな」
「関係?」
上杉の言葉に、いまだに上杉に腕を組んでいることりが疑問を口にした。
「ああ。いきなりなんだとも思ったが、花火大会の時に一花の事務所のおっさんに言った時と同じで、パートナーだって伝えたんだよ」
「パートナー……つまり、家庭教師と生徒としての、ということですか?」
「あ…ああ」
飛鳥は上杉に確認した後も考え込むように話を聞いていた。
「で。五月が……て、五月じゃないのかもしれんが、もうパートナーじゃないって言い出したんだ。たしかに、最近は家庭教師として授業をしていなかったから、そう言われてもおかしくはなかったが…俺が引き受けたのは卒業までだ。だから、家庭教師としてこれからも授業をしていくと伝えたら、これからは自分たちでやっていく。この関係を終わりにしよう、て言ってきたんだ」
そこで上杉の説明が終わった。先程まで上杉の腕を組んでいたことりはそれを解き、何やら考え込んでいる。
しかし昨日も聞いたが、あの五人の中の一人が何故こんなことを言い出したのか検討もつかない。昔の二乃や五月だったら、家庭教師を辞めさせようと躍起になっていたが、今では二人とも上杉のことを認めている。認めているということであれば、他の三人だって同じだ。すると、ふりだしに戻り、今回のようなことを言う人間が分からなくなってくる。
「風太郎君の話からすると自分との関係性を気にしているように見える。関係性……つまり家庭教師と生徒。この関係を終わりにしたい。ということは……!」
僕の右側で考え込んでいた飛鳥が自分の考えを小さな声で口に出していた。ほとんど聞こえなかったが…
そんな飛鳥は、はっとした顔で目の前にいる上杉とことりの方に目を向けた。
「何か分かった?」
「……いえ。あくまでも予想しかできませんね。何せ、私は風太郎君に今日初めてお会いしたので」
「ま、そりゃそうか」
何か分かったような様子だったが、気のせいだったか。
「それじゃあ、この部屋に五人を呼ぼうよ。昨日お兄ちゃんに会ったんだよね、だったら飛鳥を紹介するよ、て」
「そうね。本人に直接会った方がわかるかもしれないわね」
「さんせーい!もう私にはさっぱりだもん」
スマホを見せながら五人をここに呼ぶことを提案したことり。飛鳥と結愛も概ね賛成のようである。
「そうだな。後はここに来た五人の中から、どの子と会ったかを上杉に判断してもらおう」
「う…うっす…」
という訳で、急遽この部屋に五つ子の五人を呼ぶことになった。
とはいえ…果たして上杉に見破れるのか。昨日の三人を見る限りだと、見た目だけじゃ見分けられなかったからなぁ。
期待と不安を胸に五人が来るのを待つのだった。
「おっはよー。いやー、まさかここで集合できるとは思わなかったよぉ」
「ホントよね。目的地が一緒だってわかってたら、昨日のうちから集合してたのに」
「だね。でも、久しぶりに家族で過ごせたのもよかった」
「うん!おじいちゃんにも久しぶりに会えたしね」
「ふふっ。この旅行ももっと楽しくなりそうです」
あれから、ことりに五人を呼んでもらったのだが、相変わらずの賑やかさであった。
そこはまだいいのだが、問題はやはり──
「こ…これはこれは…」
「壮観だなぁ…」
「ほわぁー…」
「こんな光景初めて見ました…」
「五月の森…」
全員が五月の姿のために誰が誰だか分からない状況である。そんな光景に、ことりと結愛と飛鳥がそれぞれため息混じりに感想が漏れていた。最後の上杉の感想だけはうまいと思ってしまった。
「ことりの地元の友達を紹介してくれるってことで来たのはいいんだけど……」
「私たちはまあ確認することができるわね」
「けど…」
「あはは…」
「私たちから紹介してもわかるかどうか…」
「本当だよ!本気で私はわかんないよぉ…とりあえず、飛鳥の紹介はするね」
ことりの言葉に飛鳥が一歩前に出た。
「立花飛鳥です。この間、受験のためにこちらに来た結愛の姉で、ことりとは幼なじみです。よろしくお願いしますね」
「よろしくね」
「よろしく」
「よろしく…」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
飛鳥の自己紹介に対しての返事に、さすがの飛鳥もどうすればいいか分からないといった感じではある。
しかし、こうやって聞くと『よろしく』という言葉に対しても声のトーンだったり、違うところがあるんだな。
「じゃあ、一応私たちも紹介を──」
「ちょっと待って」
一人の五月が自分たちの紹介をしようかと話そうとしたところで、もう一人の五月が待ったをかけた。
「丁度いいわ。先生たちにはもう一度試してみたかったのよ。上杉が退院した後にやった五つ子ゲーム覚えてるかしら?私たちが誰が誰だか当ててみなさいよ」
「──っ!」
「え~…それって私も?」
「当たり前でしょ。参加するのは、先生とことりと上杉よ」
そして、急遽五つ子ゲームが開始される運びとなるのだった。
ー一人目ー
「自己紹介ですね。中野五月。5月5日生まれ。17歳のA型です」
ー二人目ー
「好きなことですか…やはりおいしいものを食べている時は幸せですね」
ー三人目ー
「なっ、そんなこと答えられません。上杉君!女の子にそのような質問をするのはいけませんよ!先生もことりさんも止めてください!」
ー四人目ー
「日課ですか?そうですね…腹筋とヨガを行っています。先生と上杉君もやってみたらどうですか?」
ー五人目ー
「……」
「くそぉ、全然違いがわからねぇ!」
「全員同じ話し方なんだもん。無理だよぉ~」
今まで五人と話してきたが全員同じ話し方で同じ回答である。上杉やことりでなくても叫びたいよ。
「声のトーンや高さまで同じとは…本当に同じ方と五回話したのではないかと思ってしまいますね」
「違いなんてわかんないよぉー」
今日初めて会った飛鳥や以前一度だけ会った結愛にも参加してもらったが、二人も降参のようである。
「もう質問もないのなら…」
「ん…そうだ、これだけは今までの奴には聞いてないんだが…何で全員五月の変装をしてんだ?」
「そういえば、昨日会った二乃が何か理由があるみたいなこと言ってたなぁ」
上杉と僕の質問に答えるかどうするか悩んでいるようで、五人目の五月は下を向いたまま浴衣をきゅっと握っている。
「……話すと長いのですが...私たちは昔からそっくり五つ子で自他ともに認める仲良しだったのです。おじいちゃんもそれを見て喜んでくれていました。しかしある日、姉妹の一人がみんなと違う恰好を始めたのです」
──実はそのことがあってからなんです。このリボンをつけるようになったのは。
確か、四葉の恋愛相談を受けた時にそんな話をしていたな。
「ふーん、どんな格好なんだ?」
「それは……」
上杉の質問に五人目の五月が言い淀んでいるところに僕が予想を伝えた。
「もしかして、四葉のあのリボンかい?」
「──っ!よくご存じですね。驚きです」
「なんで兄さん知ってたの?」
「まあ、他の姉妹に聞いたんだよ」
僕が知っていることに驚いているところを見て、この子は四葉じゃないな。
「今先生が仰った通り、四葉が急にあのリボンをつけるようになったので、五人同じじゃない私たちを見ておじいちゃんはものすごく心配してしまい、仲が悪くなったのではないかと...しまいには倒れてしまったのです」
「まあ…」
五人目の五月の説明を聞き、飛鳥が心配するように声を漏らした。
五人のお祖父さんっていうとあれだよね。昨日受付に座ってたっていう。
そういえば、以前に五月が昔の自分たちを見分けられるのは母親とお祖父さんだけだって言ってたな。それくらい、五つ子を愛してるってことか。
「それ以来おじいちゃんの前ではそっくりな姿でいると決めました。話し合いの結果、私……五月ということになったのです」
「なるほどね。それがみんな五月の恰好をしている理由か」
「はい」
「あんな怖い爺さんのためにお前ら偉いな」
「いいえ。とっても優しい人ですよ。私大好きです」
屈託のない笑顔でそう言ってくる五月。本当にお祖父さんの事が好きなのだろう。
でもこの笑顔……
さて、全員との話が終わったわけなんだが...
「さて、一通り話して見分けられましたか?」
五人それぞれとの話が終わったので、五人がまた並んで座っている。
「どう?上杉は……」
「……」
「駄目そうだね」
「ぐっ……」
まずは上杉に発表してもらおうと思っていたけど、悔しそうな顔をしているので無理と判断した。
「じゃあ、ことりは?」
「ダメぇ~。せめて話し方は元のままだったらまだいけたかな」
「そうか…」
ことりの言う通りだ。話し方まで五月に寄せていることから見分ける判断材料がほぼない。あるとすれば、表情であったり、ちょっとした仕草だろうか。
「そういう和彦さんはどうなのですか?」
「僕は……」
飛鳥に促されるままに五人を見渡した。そして、僕の答えを伝えた。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回の話から旅行二日目に入っております。
いよいよ五つ子と地元組との邂逅が始まります。
そして、旅行二日目と言えば五つ子ゲームですね。原作では、風太郎が五つ子の部屋の扉を開けた瞬間に四人の五月を見て『五月の森』と言ったところが結構好きだったのですが、その部分を今回オリジナル展開で入れさせていただきました。
今回は、残念ながら風太郎とことりは見分けられておりません。果たして和彦の答えは…
ということで、次回は五つ子ゲームの結果を書かせていただきます。
次回の投稿なのですが、本来的であれば5日後の9月4日のつもりだったのですが、分かりやすくしたいので、5と0の付く日に更新していこうと思います。
なので、次回の投稿は9月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。