少女と花嫁   作:吉月和玖

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90.五つ子ゲーム

「正直言って勘ではあるんだけど…」

「いいんじゃない?兄さんの勘教えてよ」

 

勘にはなるが、と伝えるとことりが問題ないと話した。

なら──

 

「真ん中は五月だな。他の四人に比べていつも接してる五月感があった」

「せ、正解です。五月感という言葉が気にはなりますが…」

 

それはここでは言えないんだよ。五月が僕と二人っきりになった時の甘えてくる表情。それが、今の間で醸し出されてたんだよね。

 

「そんで次が、五月の隣の二人……僕から見て左が二乃で、右が三玖かな…」

「正解よ!さすが先生ね。きっと見分けられると思ってたわ」

「うん…!私も信じてた」

 

当てられた二人はというと、見分けられたのが嬉しかったのか僕の両腕に飛びついてきた。

 

「と……」

「ちょっ…!」

「ふぇー!?」

 

その時に、ちょうど僕の両隣にいた飛鳥と結愛が驚きの表情で見ていた。

 

「もう、二人とも大胆だなぁ。みんなの前でなんて」

「お前が言うことじゃないからな」

 

二乃と三玖の行動に呆れ気味に言うことりに対して、上杉は即ツッコミを入れた。

 

「それで?この二人はどうしてわかったの?」

「あー…答えを聞く時の二人の表情かな。当てられるのを楽しみにしてるって感じなのが二乃で。不安そうにしていたのが三玖かなって」

 

ことりの質問に僕は見分けたポイントを答えた

二人は僕のことを好きだと言ってくれた。そんな二人は性格も正反対。だから、そこで分かったという感じだ。

 

「さっすがよねぇ。先生なら当てられると思ってたわ。さすが私の先生よね」

「二乃が妄言を言っている。先生は私の先生」

「はぁっ…?」

 

人を挟んで、しかも五月の格好で睨み合うのは止めてほしいんだが…

後、そろそろ離れてくれないと、別のところからの殺気が……

 

「「…………」」

 

もちろんその殺気を放っているのは立花姉妹である。

 

「それで?まだ二人残っていますが?」

 

そこに左端の五月から続きを促された。

 

「ああ。今喋ったのが一花だろ?消去法にはなるんだが、右端は四葉だって分かってたから」

「えー!?なんでですか!?」

 

僕の指摘に四葉は立ち上がり、どこがダメだったんだろう、と呟きながら僕を見ている。

 

「それだよ。その演じきろうとしているところがもろに出てたから。嘘の下手な四葉かなって」

「はうっ…!」

「で、最後まで分からなかったのが一花だよ。マジで名演技でした」

「ふふふ…まあ女優だしね。これくらいなんてことないよ」

 

そうは言ったが実は一花かどうかは分からなかったが、最初に五月じゃないと分かったのも一花ではある。

何か思い悩んでいるような、三玖や四葉とは違った不安そうな気持ちが醸し出されていた。仕事関係のことか?

 

「じゃ、このゲームは僕の勝ちってことで。ほら、二人も離れて」

「ちぇー…」

「むー…」

 

二人に離れるように促すと、二乃と三玖は文句がありそうな顔をしながらもきちんと離れてくれ、元の位置に戻っていった。その瞬間、飛鳥と結愛が僕に近づき僕の浴衣を皆からは見えないように掴んでいたのはまた別の話だ。

 

「という訳だから。飛鳥、左から一花、二乃、五月、三玖、四葉だよ。覚えた?」

「覚えられると思いますか?ま、どの人が和彦に告白したかは今のでわかったけれど

 

僕の質問に文句を言いながらも口角を上げながら、飛鳥は五つ子の方を見た。

あ、こいつ今ろくでもないこと考えてるな。

 

「だよなぁ。まあ、名前だけでも覚えて、特徴とかは帰ってことりに聞いてくれ」

「はい、そうさせてもらいますね」

 

さて、結局上杉に家庭教師を辞めるように言ったのが誰かという目的は果たせなかった訳か。

さすがに僕も、あの時すれ違った五月がどの五月なのかは分かんないしなぁ。

今回僕が見分けられたのは、それぞれが違う表情をしていたりしたから。なので、本気で変装されたり、一瞬での判断は出来ない。

はぁぁ……五つ子の母親やお祖父さんは一瞬でも見分けられるってことだよな。本当に尊敬に価する。

その後は、一花から朝食はテーブルを隣同士で用意してもらっていることを聞いたので一緒に大広間に向かうことにした。

部屋から出ると、皆とは反対方向に歩いていく上杉と五月の姿をした姉妹を目撃した。

さすがに後ろ姿じゃ分からんな。

 

「先生」

 

部屋の扉に鍵を閉めていると、こちらも五月の姿をした姉妹から声をかけられた。

 

「んーーー…………五月?」

「正解です。先ほどは自信もって当てていたではないですか」

「いや。さっきのは表情が違ってたからであって、こんな一瞬じゃ分からんて」

 

五月だと分かったことで大広間に向かって歩を進めた。

 

「じゃあ、今のはなぜわかったのですか?」

「んーーー……やっぱ五月感かなぁ……」

「その五月感とはなんですか。先ほどからすごく気になっていたんです」

 

文句がありそうな顔で五月はこちらを見てきた。

 

「前にも話したけど。五月って甘えん坊なところがあるでしょ?それが滲み出てるかなぁって」

「ちょっ…!」

 

僕の言葉に慌てて前を歩く他のメンバーに聞こえていないか五月は確認をした。

 

そういうのは人がいないところで話してよねお兄ちゃん

「だからさっきは話さなかったんじゃない。それで五月感だよ」

「なるほど。納得しました」

 

僕の説明にため息をつきながら五月は納得してくれた。

その後は昨日何をしたのかなどを話しながら大広間に向かうのだった。

 

・・・・・

 

「お待たせ~」

「遅いわよ。何してたのよ?」

「あはは…ちょっとね」

 

朝食を食べるために大広間まで来たのだが、一花と上杉の姿が見えなかったので暫く待つことになったのだ。

すると、さほど時間が経たないくらいに一花が大広間に入ってきた。

 

「あれ?風太郎君も一緒だと思ったけど違った?」

「う…うん…フータロー君ならおじいちゃんに付いて行っちゃったよ。なんか慌てた感じだったけどね」

「上杉さん、おじいちゃんになんの用だろうね」

「良からぬことにおじいちゃんを巻き込まないでほしいものです」

「五月…辛辣…」

 

二乃の隣に座りながら、一花は上杉の動向を話した。

そっか。あの時上杉と一緒に歩いてたのは一花だったのか。

 

「うーん…このまま上杉待ってたらいつになるか分からないし、先に食べてようか。上杉はお祖父さんと一緒にいるんだろ?」

「先生に賛成。上杉なんてほっといて食べましょ。五月じゃないけど、さすがにお腹空いたわ」

「どういう意味ですか!」

 

五月のツッコミに皆が笑いながら先に食べる案には賛同してくれた。

 

「では──」

『いただきます』

 

僕の音頭のもと、全員がいただきますの挨拶をした後に各々が朝食を食べ始めた。

しかし、この朝食は……

チラッと向かいに座っている飛鳥に目を向けると、微妙な表情であるものを見ていた。

あいつまだ苦手だったのか。

そう思い、自分の食卓に並んでいるおひたしを手に取ると、飛鳥に差し出した。

 

「ほら。このおひたし食べな。替わりに納豆食べてやるから」

「…っ!あ、ありがとうございます」

 

飛鳥が僕のおひたしを受け取ったので、飛鳥の食卓に並んでいる納豆を取り、そのままパッケージを開けた。

 

「飛鳥、まだ苦手だったの?」

「どうも食べれるとは思えないのよ。味もそうだけど、見た目から苦手なのよ。あのネバネバ感…無理!」

「あはは…家でもお姉ちゃんの食卓にだけ並んでないんだ。もし並んでたら、すごい怒るんだもん」

 

僕が納豆を混ぜている横で笑いながら結愛が家での飛鳥の様子を話した。

 

「あら。私が怒ったことあったかしら?」

 

ニッコリと笑って話す飛鳥。

その顔が怖いんだって…

 

「その顔が怖いんだよ。お父さんもお母さんも怖がってるんだから」

 

さすが姉妹。ずばっと思ったこと言うなぁ。

苦笑いを浮かべながら納豆をご飯に乗せて食べ始めた。

そして暫くお互いの近況を話しながら朝食を続けていた。

えっと…醤油、醤油…

 

「はい、これですよね?」

 

醤油を探していた時、僕の目の前に醤油を差し出してきた飛鳥。その顔もニッコリと笑顔ではあるが、今度は優しさを含んでいる笑顔である。

 

「よく分かったね」

「ふふっ…あなたのことならわかりますよ」

「そだね。兄さんってばわかりやすいし」

「そこまで分かりやすいかなぁ…」

「うーん…私たちはいつも和彦さんと一緒にいたからわかるんだと思います」

 

そっか。僕が三人のことを分かってるつもりなのと同じ感覚か。

そう一人納得しながら朝食を続けるのだった。

 


 

~五つ子side~

 

和彦達四人がテーブルを囲んで朝食を食べている横では、五つ子もまたテーブルを囲んで朝食を食べていた。

そんな五つ子の中で、和彦に比較的近くに座った二乃は朝食を食べながら四人の様子を伺っていた。

 

「どうしたの二乃?ボーッとして」

 

そんな二乃を隣に座っている一花が見て声をかけた。

 

「べっつにぃ。私もあっちがよかったなって思っただけよ。この際だからバラバラでもよかったんじゃない?」

「でも、飛鳥さんや結愛ちゃんはさすがに先生とことりさんと一緒がいいと思うよ」

「だねぇ。今日会ったばかりの私たちよりかは長年一緒にいた二人との方がいいよ。きっと」

「わかってるわよ。ただ思ったことを口にしただけよ」

 

そんなことを話しながら二乃は食事を続けた。

 

「でも二乃の気持ちもわかる。隣のテーブルと私たちのテーブル。この隙間があの三人と私たちの先生との距離の差のような感じがする」

 

ご飯の茶碗を持ったまま、三玖はじっとテーブルとテーブルとの隙間を見た後、楽しそうに話している四人を見て自分の気持ちを伝えた。

 

「そこは致したかないかと。私たちと先生はまだ数ヵ月の付き合いですから。それ比べて、ことりさんはともかく、飛鳥さんと結愛さんについては数年のお付き合いですし」

 

少しうつむき加減でご飯を食べながら三玖の隣に座っている五月が答えた。

 

「はい、これですよね?」

 

するとちょうどそこで飛鳥が和彦に醤油を差し出しているところを二乃と三玖が目撃した。

どうやら何も言っていない和彦に飛鳥が察して醤油を渡したようである。

 

(私じゃまだ先生にあんな風にできない…)

(だけどこれから和にぃと接していけば私だって…!)

 

そんな二人の気持ちを知ってか知らずか、飛鳥は二人の視線に気づくと、二人に対してニッコリと微笑んだ。

 

「「──っ!」」

 

(あれって!)

(ことりは飛鳥が先生を好きってことはないって言ってた。けど、あれは…!)

 

こちらに向けてきた飛鳥の表情で、二乃と三玖は確信した。彼女もまた和彦を好きなのだと。

 

「ねえねえ、この後は海に行こうよ」

「まだ寒くないですか?」

「波打ち際だからきっと大丈夫だって」

「まあ、特に予定もなかったからいいんじゃない?」

 

朝食が終わった後の予定を四葉が海に行こうと提案した。

今は三月下旬。暖かくなってきたとはいえ、五月が言うようにまだ海は寒いかもしれない。

そんな中、一花は四葉の提案に賛同した。

 

「ねえ一花」

「んー?どうしたの?」

 

そんな一花に二乃が話しかけてきた。

 

「この後、朝風呂に行かない?」

「え!?海に行くんじゃないの?」

「いいじゃない。海に行く前にでも」

「まあ…いいけど…」

「決まりね」

 

自分の提案に乗ってくれた一花に満足した二乃は、そのまま自身の朝食を続けるのだった。

 


 

~大広間~

 

「ん?」

 

五つ子のお祖父さんとの話が終わった風太郎は、朝食を食べるために大広間に来ていた。

 

「なんだ。お前らまだいたのか」

「ヤッホー、風太郎君」

「遅かったですね」

 

風太郎の朝食が用意されたテーブルでは、声をかけたことりと四葉の他に、五月と結愛が座っていた。

 

「別に待ってなくてよかったんだぞ……いただきます」

 

自分を待っていたことにやや呆れながら座ると、食べ始める挨拶をして、風太郎はさっそく味噌汁から口にした。

 

「せっかく待っていたのですからそういう態度はないのではないですか。すみません結愛さん。この人はこんな人なんです」

「いいえ。ことりさんからある程度は聞いていたので」

「というかだな……」

 

風太郎はご飯のお茶碗を持ったところで手を止めて、四葉と五月をじっと見た。

 

「?どうかしましたか?」

「なんです。そんなじっと見て」

 

(この二人は誰だ?くっ……諦めんな俺!先生にもできたんだ。きっとどこかに見分けるポイントがあるはずなんだ)

 

そして風太郎は更に凝視するように二人のことを見ることとなった。

 

「はは~ん。さては風太郎君、二人が誰かわかってないね?」

「うぐっ…」

「え、そうだったんですね。そういえば、私たちはさっきから一緒にいるので、座っている場所でわかるけど。そうですよね。上杉先輩は今来たばかりでわからないですよね」

 

にんまりと笑いながらことりが風太郎に確認すると、図星をつかれた風太郎は何も言えなかった。

 

「そうは言うが、ことりは見分けられてるのかよ」

「うっ……私も実際座ってる位置で見分けられてるからなぁ…本当に兄さん凄いよ」

 

実際にはことりも完全に見分けられていないので、先ほど見分けられた和彦を称賛した。

 

「なるほど。自分が誰と話しているかわからないとおかしくなりますよね。私が五月です」

「私が四葉です!」

 

風太郎から見て奥に座っている五月の格好をした人物が、自分が五月であると風太郎に伝えた。そして、手前の五月が四葉であると手を挙げながらアピールした。

 

(…………まじで先生はどこを見て判断したんだ?たしか、五月が五月感があったからで、四葉は演じようとするところで判断したって言ってたな。五月感……てなんだよ!)

 

和彦と同じように見分けようとしたのだが、和彦の言う五月感が分からなかったので、心の中でツッコミを入れてしまった。

そこが分からないのは仕方のないことである。なんせ、本当の五月を見せているのは和彦の前だけなのだから。

 

「はぁぁ……今は四葉も私を演じようとはしていないので、話し方などで見分ければいいのではないですか?」

「つっても、お前ら二人とも敬語だろ」

「「あ……」」

 

なんとか見分けようと意気込みを見せている風太郎に、五月は話し方で見分ければいいのではないかと提案するも、風太郎の言葉に四葉と五月はそうだったと、声が漏れてしまった。

 

「そういえば、四葉さんと五月さんはどんな人でも敬語で話すんですね」

「私たちは癖と言いますか性格と言いますか。昔からそうなんです。ちなみに、私は姉妹にも敬語ですが、四葉は姉妹には敬語を使っていないのですよ」

「へぇー」

 

ちょっとした豆知識を聞けた結愛は面白そうに聞いている。

 

(そういえば、昨日の夜の五月は敬語だったな。てことは、四葉か五月ってことか?いやいや、五月を演じてなら、他の姉妹だってあり得るだろ。さっきだって全員が同じ話し方だったんだ)

 

朝食を続けている風太郎は、昨日の五月の正体を見分けるために、今は一生懸命違いがないか、見分けるポイントがないかを模索していた。

先ほど五つ子のお祖父さんに話しかけたのもそれが目的だ。

さっきは一花と話しながら歩いていたのだが、そこに居合わせたお祖父さんがなんの躊躇もなく一花の名前を呼んでいたからだ。

 

(この後も爺さんのところに行って見分けるコツを聞かなければ)

 

そう意気込んだ風太郎は、朝食を食べるスビードを上げた。

そんな風太郎を、両肘をテーブルに立てて手のひらの上で顔を収めたことりはニコニコしながら見ていた。

 

(……そういえば、三玖はうまくやったかなぁ。ちょっとハードルが高いことを伝えたけど、なんか三玖はやたらお兄ちゃんとの距離を気にしてたし。はぁーあ、風太郎君がいなかったら、私もあっちに行ってたのになぁ…)

 

「風太郎君、ご飯ほっぺについてるよ」

「え…?」

「「「──っ!」」」

 

風太郎の頬についていたご飯粒を取って自分で食べながら、ことりはここにいない三玖の心配をしていた。

そんな何気なくしたことりの行動には、ことり以外のメンバーはただただ驚いていた。

当のことり本人といえば、特に気にした様子もなくその後も過ごすのだった。

 

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話では見事に和彦が五つ子ゲームを制しました。ちょっと無理矢理感なところはありましたが、今の和彦であれば見分けられるかなと思い書かせていただきました。実際にはまだすぐに見分けることも出来ずなので、今回は本当に条件が一致したからこそ見分けられたと言って良いです。

次回は、最後に二乃が一花を誘っていたように露天風呂の出来事を書かせていただきます。

次回の投稿は9月10日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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